八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

229 / 244
「老兵はいずれ去る、薪をくべれば火は燃える」

 

 

 

 

「荼毘、所長から伝言。仕事が終わったら所長室に来てってさ」

「は?何でわざわざ」

「さぁ?じゃあ、私は緋衣連れて先にあがるから」

「ああ、お疲れ、萌」

 

 後数ヵ月で年度が変わり、緋衣も雄英を卒業して正式にうちの事務所でプロヒーローとしてデビューする。それに関する書類を作成していると、前線から離して親父の秘書とか新人育成とかを担当させる様になった萌がやってきて、そう伝えてきた。

 呼ばれる心当たりが無いか記憶を探りながら、教育係と話をしている娘を迎えに行く妻の後ろ姿を見送り、再び書類作成に戻る。そして、勤務時間が過ぎたのを確認して、俺は親父のいる所長室に向かった。

 

 

 

「来たか、燈矢」

「何の用事だ?親父。ヒーロー名で呼ばねぇって事は、プライベートな内容なんだろ?家帰ってからじゃダメだったのか?」

「駄目と言う訳ではないが、ここの方が落ち着いて話が出来ると思ってな。まぁ、座れ」

「ああ」

 

 白髪も大分増え、筋力も落ちて少々細くなった親父。オールマイトの後を受けて、長年No.1に君臨し、平和の維持に尽力してきた体は衰えを見せ、もう前線に出る事は殆どなくなった。

 そんな親父が、コップ二つと、ホークスが還暦祝いに贈った日本酒を持って、俺の向かいに座った。

 

「お前には、物足りないかもしれんかもな」

「···旨けりゃ構わねぇよ」

「そうか、では、乾杯だ」

「何に対してだ?」

「···そうだな、今日の平和を祝して、だな」

「大仰過ぎる乾杯だな」

 

 まぁ、なんでも良いけどよ、と内心で肩を竦めながら、コップを受け取って軽く合わせ、コップに口を付ける。流石、啓悟チョイスだ、旨い。

 

「で、話って何だ?」

「せっかちだな」

「面倒臭い話はさっさと済ませるに限るだろ。そうすりゃ、後は他愛もなく飲める」

「そうだな······燈矢、事務所をお前に託す」

「···それって、つまり」

「ああ、今年度を持って、俺はヒーローを引退する」

「······急だな」

「そうでもないだろ。確かに、俺がまだ所長の席に座っているが、実際事務所を動かしているのはお前だ。ヒーロー事務所に、お飾りはいらん」

「母さんには、伝えてあるのか?」

「ああ。ヒーロー協会や公安委員会にも、俺の意向は伝えてある」

「用意周到なこって」

「息子や孫に迷惑は掛けられんからな」

「引退したら、どうするんだ?オールマイトみたいに、悠々自適な年金隠居生活でもすんのか?」

「雄英から、非常勤講師を打診されたからな。少々平和ボケで腑抜けてきている若僧共を、厳しく鍛えてやるとする」

「スパルタ過ぎて、生徒の親から訴えられても擁護しねぇからな」

「ふん、そんなのは端から除籍だ」

「おいおい、イレイザーヘッドの累計除籍生徒数を越すなんて真似すんなよ?」

「知らん、それは奴ら次第だ」

「···プッ、アッハッハッハッ」

「フフッ」

 

 互いに笑みがこぼれる。

 

「···安心しろよ、エンデヴァー。あんたの紡いできた火は、俺がちゃんと受け継いで、ちゃんと後ろに引き継がせるから」

「元より、心配なぞしておらん。それに、荼毘。貴様が情けなくとも、ショートやダイナマイト、デクやルミリオンといった、お前より年下だが順位が上のヒーローが沢山いるからな」

「あ、それは言わねぇ約束だろうが!!」

「フンッ、そんな約束は知らん!!」

「燃やし尽くしたろか糞親父ぃぃいいい!!!!」

「やってみろ、万年十位!!!!」

「エンデヴァーさ~ん、話終わりました~?そろそろ出ないと、予約した時間過ぎるんすけど···って、なんばしよっとですか!!!」

「「うるさい!!先に焼き鳥にするぞ!!!」」

「ええ~~」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「ZZZZZ~~」

「年を取ったから、引退をするって言ったのに、お酒で燈矢と張り合うなんて、仕方のない人ですね」

 

 義息子に肩を借りて帰ってきて、酔っ払った赤ら顔のまま、私の膝に頭を置いてイビキをかいて寝ている夫。

 貴方と出会ってから、もうすぐ半世紀が見えてくる位、共に生きてきました。あの家に産まれ、ただ無為に血を繋ぐだけの胎として生きていくのだと、悲嘆に暮れていた未来から、貴方が救いだしてくれた。

 

「本当に、お疲れ様でした、あなた」

 

 私にとって、貴方はオールマイトと比べ物にならないくらい、不動のNo.1ヒーローですよ。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「それでは、新所長から新年度の挨拶です。所長、お願いします」

 

 司会を担当している妻の声に従い、サイドキックや事務職員を含めた全所員の前に立つ。今まで、俺を後ろから見守ってくれていたものが無くなって、一瞬、重圧に膝が折れそうになる。

 へっ、あんだけ親父に啖呵切っといて、情けねぇな。目をつむり、軽く深呼吸をする。思い出すのは、親父がNo.1のなったあの日の姿。

 目を開き、一人一人の顔をしっかりと見渡す。そして、腹に力を込めて、声を発した。

 

「皆、おはよう。俺が、このエンデヴァー事務所の新所長となった荼毘だ。正直、トップが俺で不安に思ってる奴もいるだろう。毎回毎回、ギリギリランキング入りにしがみついてるだけの奴がってな。

 だから、あぁだこうだとゴチャゴチャ言うつもりはない、

 

 俺を、見ていてくれ

 

 以上だ」

 

 

 

 




単行本最終巻、待ち遠しいですなぁ。

評価と感想をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。