八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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「印照才子、一世一代の優雅なお見合い」

 

 

 

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 青山家が有する豪邸の庭で、テーブルを挟んで座る一組の男女。

 一人は、日本でも有数の大企業を経営する、青山財閥の御曹子"青山優雅"。

 一人は、青みがかった美しい銀髪と、左目のモノクルが特徴の優美な女性"印照才子"。

 

「どうかな?」

「まぁまぁ、ですわね」

「そう、良かった」

 

 自然体で、自身で入れた紅茶を口にする優雅と、少々強張った表情で、緊張気味に優雅の入れた紅茶を口にする才子。

 それを、少し離れた所から見守る両者の使用人達。そして、邸内にて和気藹々と談笑する両者の両親。

 そう、これは、青山優雅と印照才子のお見合いなのである。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 青山優雅。

 手広く事業を展開し、日本国内の産業で、青山が関わっていない物など無い、と噂される程大企業の唯一の正統後継者。国内国外問わず、多くの企業や実業家、果ては政治家達までもが、彼と縁を結びたいと争われていますわ。

 当然、私の印照家もその一つ。彼が二十歳を迎えてから始まった縁談の順番待ちで、漸く私の番が回ってくるのに五年も待たされましたわ。その間、瑕疵を作ってはならないと、仕事以外で殿方と交流するのを、一族総出で禁止され、監視まで付けられましたの。同僚や後輩達が、恋人が出来ただの、結婚しますだの、子供が産まれますだのと言った報告を、内心イラッとしながら微笑んで聞くのも今日まで。必ず、この男を落として、昨日結婚した八百万百の様に、女の幸せを手にして見せますわ!!!

 

「目を閉じなくて良いのかい?印照さん」

 

 世間話でもしている風で、目だけはしっかりと、私を吟味しているぞと鋭い。気を引き締めなさい、才子。口にしたばかりなのに、カラカラになりそうな喉を、平然としている風を装って再び紅茶を口にします。青山優雅から目を離さず。

 

「才子と呼んで下さいませ。名字では、私の事なのか、父や母なのか分かりませんわ」

「ああ、そうだね、才子さん。じゃあ、僕の事も優雅と」

「はい、優雅さん。それと、目は閉じませんわ」

「何故?」

「···言われましたの、信頼する友人方全員から」

「なんて?」

「···私は、録に殿方と交流をした事が無いのだから、頭でゴチャゴチャ考えた所で意味がない。心に従って直感を口にしろ、と」

 

 語り方は各々違いましたが、言っている事を要約すればそう言う事でしたわ。恥ずかしさを堪えてお聞きしたのに、恋人持ち旦那持ち子持ちの方々の、あの優越感に満ちた幸せそうな顔は、今思い出しても殴りたくなりますわ。

 

「そうなんだ、良い友人を持ったね」

「ええ、私の誇れる大切な方々ですわ」

「···うん、で、才子さんはどうして僕と結婚したいんだい?君なら、僕じゃなくても、引く手数多だと思うけど?」

「一族の総意ですわ。私は、ある日を境に、貴方に嫁ぐ為の存在となりましたの」

「へー、じゃあここで僕が破談にしたら、君はどうする?」

「どうもしませんわ。私は、既にプロヒーローとして一人立ちしております。この縁談が駄目だったら、縁が無かったと諦めて、ヒーローとして邁進するだけですわ。ですが、叶う事なら、優雅さんと結ばれたいと思っておりますわ」

「それはどうして?」

「······格好良かったんですの」

「え?」

「初めて、私が優雅さんを見た時、格好良かったと思ったんですの」

 

 

 アレは、私がまだプロヒーローとしてデビュー間もない時でしたわ。家の事業と提携している企業が開催したパーティーに、家族と招待されましたの。

 そこで、大手企業の息子を自称する殿方に、しつこく言い寄られましたわ。危害を加える訳にもいかず、適当にあしらっておりましたが、私の態度に怒りを覚えられ、暴力を受けそうになりました。まぁ、所詮は素人の動きなので、十分に対処は出来ましてよ?

 でも、そこに貴方が現れ、その男の腕を掴んで止めてしまわれましたわ。

 

『紳士なら、レディに暴力はいけないよ』

『っ!テメェ、離しやがれ!!』

『おっと、乱暴者だね。御両親は立派なのに、息子がこんなだとはねぇ。ああ、そう言えば、息子さんはもう一人居たね。御両親にそっくりな、出来損ないの兄とは違う立派な弟さんが』

『なっ!!!うるせぇんだよ!!テメェこそ、運良くあのアイスメイカーと付き合いが続いたからデカくなれただけだろうが!!!』

『ああ、否定しないよ。彼女のお陰で、家はここまで大きくなれた。それが何?君が家族から出来損ない扱いされてる事と、僕に何の関係があるんだい?』

『~っ!!!テメェなんて、青山の名前がなけりゃ、無個性の落ちこぼれな木偶の坊だろうが!!!!』

『······言いたい事はそれ?僕が無個性だから、僕は君より下だと言いたい訳?』

『ヒッ!!!』

『確かに、僕は無個性さ。小さい頃から、周囲に馬鹿にされてきたよ。馬鹿にされて悔しかったし、それでパパやママが悲しい顔をするのも悔しかった。どうして、無個性に産んだんだって、パパやママに八つ当たりした事もあるよ。でも、あの人が教えてくれたんだ。

 "生きるのに、個性なんか必要ない。個性が無ければ出来ない事なんて、実際余りない。あったら便利、個性なんてその程度の物。まぁ、その個性を使って周りに迷惑を掛ける馬鹿が多くて、私達みたいな、あの人みたいなヒーローが、個性が必要とされてるってだけ。報告書や稟議書を呼んで、判子押すのに個性って必要?だから、個性なんて、無くてもいいの。貴方が貴方で居る。それが、唯一無二の[個性]なんだよ"

 この個性社会。ハッキリ言って、無個性である事はデメリットだらけだ。子供を励ます方便だって分かる。でも、僕が僕を馬鹿にするのは止めた。個性が無くたっていいんだって、僕が僕を認めるんだって決めた。その為に、必死で努力した。歯を食い縛った。俯きそうになるのを堪えて上を向き続けた。全てを他人の責任にして、都合の良い時だけ御両親威を借りて、"個性"っていう無用の長物でしか人を比べられない、そんな君と一緒にしないでほしいな』

『っ!!!うわあああ!!!!!!』

『······言い過ぎちゃったかな?それと、余計なお世話でしたか?お嬢さん』

 

 

「そんな事もあったかな」

「正直、あの時まで私は、無個性の方々を可哀想な方々と思っておりました。私達が、守ってあげなければならない存在だと思っておりました。大人が子供を導いてあげる、そんな風に思っておりました。でも、あの時の優雅さんは、今までお会いした誰よりも大きく見え、輝きを放っておられました。その姿に、私は憧れを抱いたの······です」

 

 最後、羞恥心とは違う恥ずかしさで、顔がとても熱くなり、優雅さんの顔が見れなくて俯いてしまった。

 

「お坊っちゃま」

「おや、もうそんな時間かい。仕方ない、今日は良い話を聞かせてもらったよ、才子さん。僕は予定があって、ここで退席するけど、才子さんはゆっくりしていってね」

「あ、はい、今日はありがとうございました」

「うん、じゃあまたね、ma chérie」

「·········へ?」

 

 

 

 

 

『·········がありました。では、次のニュースです。青山優雅氏が婚約を発表されました。お相手は、一つ年上で現役のプロヒーローとして活躍しておられる印照さ·········』

 

 

 

 

 





 ma chérie
:フランス語で「私の愛しい人」又は「私の大切な人」という意味です。青山君に仏語を言わせられなかったので、最後に取って付けました。
 え?青山君がチョロ過ぎる?そこは大目に見てください。


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