いつの頃からだろう、あの人の事を目で追う様になったのは。
初めて会ったのは、姉上がまだ高校生の時。友人らしき眼鏡の女性と家に遊びに来ていて、軽く挨拶を交わしただけ。
ちゃんと会話をしたのは、姉上があの人を晩御飯に誘った時。姉上が調理をしている間、宿題を見てもらった。難しい問題が解けた時、"良く出来ました"と頭を撫でてくれた。
クリスマス、色違いの手編みマフラーを貰った。姉上もさつきも貰っていた。破れたりほつれたりしないよう、丁寧に大事に使っている。
バレンタインで、あの人がチョコをくれた。姉上へのついでだけど、初めて家族じゃない人から貰ったチョコは、食べるのが勿体なかった。
夏休み、海に行った。姉上と兄上の邪魔をしないよう、あの人が僕とさつきの面倒を見てくれた。水着姿に、とってもドキドキしてしまった。
僕から頼んで、勉強を教えもらった。忙しいのに、快く了承してくれた。時折、ひんやりとした素肌が当たったり、クラクラする様な甘い香りが漂ってきて、勉強は捗った様で捗らなかった。(テストの点数は上がった)
あの人が泊まりに来ていた時、たまたま恐い映画を見てしまい、さつきと僕は一人で寝れなくなってしまった。さつきは姉上と一緒に寝た。僕は、あの人が一緒に寝てくれた。
学校から帰ってきて、シャワーを浴びようとお風呂場に行ったら、脱衣場で服を脱いでいるあの人と遭遇してしまった。不覚にも、その光景に目を奪われ、許容範囲を超えて気絶してしまった。目が覚めた時には、僕はあの人に膝枕をしてもらっていた。
「そして、気付いたんです。僕は、あの人が、萬遇数羽生子さんが好きなんだと」
「そ、そうか」
「しかし、羽生子さんは僕の事を、姉上の弟としか見ていません。どうすれば、羽生子さんに意識してもらえる様になりますか?」
「···ふむ、自分なりに何かした事はあるのか?」
「中学からバイトが出来る様になったので、誕生日やクリスマス等で、プレゼントを買って贈ったりはしています。何回か、一緒に買い物に行ったりしました。まぁ、姉上への贈り物を選ぶのに協力をして欲しいといった、誰かを出汁にしての形なので、デートという雰囲気にはなっていません」
「···なるほど。うぅむ、この事は梅雨には」
「···まだです、その、姉上に知られるのは、少々恥ずかしくて。恐らく姉上の事ですから、何かしら勘づいてるとは思いますが」
「例えば?」
「この前、僕の前で羽生子さんに、お付き合いしている人は居ないのか、どういった男性が好みなのか等、恋愛関係の話を振っていましたので」
「それは、確実にバレているだろうな。なら、この事は梅雨も交えて話し合おう。不甲斐ないが、俺もそんなに恋愛経験が多いという訳ではないからな」
「はい、ありがとうございます、兄上」
「しかし、お前もそういう年頃になったんだな、五月雨」
「僕ももう、兄上の後輩ですから」
▼▼▼
「ねぇ、梅雨ちゃん」
「何?可視子ちゃん」
「最近、羽生子に何かありました?」
可視子ちゃんから連絡があり、二人でカフェに来た私。
「羽生子、どこかソワソワしてたり、ボーッと惚けてる時があったりして、仕事中以外は上の空な感じなんです」
「ウフフ。なら、脈はあるみたいね」
「脈?」
可視子ちゃんの、知ってる事があるなら教えて下さいという視線を、ストローに口を着けながら受け止める。
「別に大した事じゃないのよ。ただ、私の弟が羽生子ちゃんに告白しただけよ」
「···へっ?!?」
「と言っても、自分を私の弟としてじゃなく、一人の男として見てほしいって、宣言した感じなのだけど」
「···は、はぁ······」
「高校を卒業して、就職出来たら、改めて交際を申し込むつもりらしいわ」
「弟君って、今幾つなんでしたっけ」
「六つ下よ。雄英高校サポート科の一年生になったわ」
「···」
「まさか、弟が年上趣味とは思わなかったわ」
隠してるつもりだったのだろうけど、あからさまに羽生子ちゃんについて聞いてこられれば、丸分かりというものよ。
「じゃあ、梅雨ちゃんと羽生子は姉妹になるのね」
「気が早いわ、可視子ちゃん。弟の卒業までに、羽生子ちゃんに好い人が現れない保証はないもの。それに、弟が羽生子ちゃんに相応しい男になれるかも、まだ分からないわ」
「手厳しいのですね」
「私は羽生子ちゃんの親友だもの。例え身内と言えど、甘くするつもりはないわ。まぁ、最後に決めるのは羽生子ちゃんだけど」
「その頃には、私も梅雨ちゃんも、結婚して子供が産まれているかしら」
「さあ?そこはお互い、パートナーの甲斐性次第かしら」
「フフ、そうですね」
▼▼▼
「萬遇数羽生子さん!!!
僕と、結婚を前提にお付き合いして下さい!!!」
なんか、フッと降りてきた。
悪い円場、君のお相手候補がまた一人減ってしまった。
評価と感想をよろしくお願いします。