ベッドに横になって、テレビを見ている。端から見たらそうとしか思えないだろう。しかし、ベッドの主の耳に入っているのは、シャーというシャワーから水の流れる音のみ。スモークがかかっただけのガラス張りのバスルームに、防音機能など望むべくもなく、薄い壁一枚隔てた向こうで、八木雪花が産まれたままの姿でいると思うと、どうも落ち着かない様子の爆豪勝己である。
気を抜くと、目には体育祭控え室で見た彼女の一糸纏わぬ上半身が思い浮かび、両手は彼女の張りがあって柔らかい膨らんだ胸部の感触を、鼻は彼女の髪や着ている服から立ち上る甘い香りを、耳は自身を呼ぶ彼女の色んな声音を、口は障害物競走で触れた腹の味を、
「覚えてねぇわ!!クソッタレ!!!」
「うわっ!ビックリしたぁ。何かあったの?かっくん」
「何もねぇわ!!大人しくシャワー浴びてろや!!」
「先に大声出したのそっちでしょうに、ああもう、シャワー落としちゃったじゃん。目に泡入って開けらんないし···ええっとここら辺?もうちょっとこっちか、あったあった」
落ちたシャワーのノズルを探しているであろう八木雪花を、意識しないよう意識しないようと意識して、全然頭に入ってこないテレビのニュースを注視する。
しかし、目の片隅でフッと何かが色を失った。反射でそちらに顔を向けると、
「んなっ!!!!!!」
先程まで、スモークで真っ白だったガラスが、文字通りただの透明なガラスになっていたのだ。当然、爆豪勝己の視界には、何度も何度も振り払っては浮かび上がっていた八木雪花の裸体が飛び込んできた。
あの時見た桃色の突起だったり、お腹の窪みだったりに加えて、プリッとした臀部だったり、鼠径部辺りの体毛だったりと余すこと無く全てが、彼の脳にダイレクトである。
「ん?プッ、何変な顔してるの、かっく···ん······」
「············」
「···············(チラッ)·········」
シャンプーを洗い流し、目を開けた雪花と目が合う勝己。その顔に吹き出す彼女だが、そもそも何故彼の顔が見えているのか疑問に思い、漸く状況を理解し、自身の体に視線を落として再び勝己と目を合わせる。そして、みるみる間に足先から頭のてっぺんまで茹でダコの様に赤くなっていく。
「あの、かっくん?」
「···下は、オールマイトの色なんだな」
「(スゥゥゥウウウウウ)」
次の瞬間、ガラスをビリビリと振動させる程の悲鳴が部屋に響き渡った。幸か不幸か、防音性のとても優れた部屋だった為に、彼女の悲鳴がこの部屋から外に出る事はなかった。
「······(ブオオオ~)」
「······」
互いに背を向けてベッドに座る、重苦しく気まずい雰囲気に支配された部屋には、私が髪を乾かす為に使っているドライヤーの音だけが鳴っている。
「······(カチッ)」
「···(ビクッ)」
髪を乾かし終わり、ドライヤーをベッドサイドの机に置く。私の一挙一投足にビクッとするかっくんが正直鬱陶しい。でも、私もどうすりゃいいか分かんないのよさ。
この部屋で一緒にいるのはかっくんの所為だし、かっくんが大声出さなきゃシャワー落とさなかったし、スイッチ間違って押す事もなかった。これで裸見られるの二回目だけど、前と違って余すところ無くだからもうねぇ。せめて、こやつが「悪い」とか「すまん」とか言ってくれりゃ何とかなったかもだけど、何も言わねぇんだもん。
「······」
「······」
「ああもう!!!」
「(ビクッ!!)」
「爆豪勝己、脱げ」
「···はっ?」
ハッキリ言おう、私も大分テンパっていた。第三者の私が居たら、お前は何を言っているんだと盛大にツッコミを居れてくれた事だろう。そもそも、振り向いたかっくんの顔がそう言ってるもん。
「別に全裸になれとは言わない、上だけでいい。まぁ、かっくんの粗末なかっくん見て嗤ってやるのも一興だけど。明日の朝まで上半身裸で過ごす、それを取り敢えずの罰とする」
「······これでいいんかよ」
「っ!!う、うん······触っていい?」
「···好きにしろや」
正直、この辺りから妙な雰囲気になってたとは思う。別に、男性の上半身なんて見慣れてるから何とも思わんと思ってたんだけど、ズボンだけのかっくんを見て、胸のドキドキが収まんない。こんなの初めてで、何か自分のコントロールが効いてないみたい。
私は、恐る恐るかっくんの鍛えられた背中に手を伸ばした。
爆豪勝己という少年は、オールマイトを越えるヒーローになる、その夢の為に今まで努力してきた。故に、自身の男としての性に余り関心を抱いた事はなかった。そんなものに現を抜かしては、トップにはなれないと。自身で処理する事はあっても、それは単なる作業でしかなかった。
しかし、雄英に入ってから、厳密には八木雪花と出会ってから、己の中にあった男としての欲を自覚させられた。
自身の背中を這う細く冷たい指の感触が、男の部分を痛い位に刺激してくる。それを悟られないよう、彼は彼女に背を向ける。「コイツはオールマイトの娘、コイツはオールマイトの娘、コイツはオールマイトの娘」と心の中で唱えながら。
『HAHAHA!!何を言っているんだい、爆豪少年。男なら、据え膳食らわないでどうするって言うんだい?』
『やめたまえ!まだ君は16歳の子供だ。もしもの事があったら、君も娘も大変な事になるんだぞ!』
『そんなもん、なった時に考えれば良いだけさ、HAHAHA。やっちまえよ、爆豪少年!!』
『耐えろ!耐えるんだ!爆豪少年!!君は、ヒーローになるんだろ!!』
頭の中では、襲撃訓練の時の格好をしたオールマイトといつものヒーローコス姿のオールマイトが戦っている。
「凄い、固いね」
「っ!!」
いつの間にか、八木雪花の手が前に伸びていて、胸筋や腹筋を触っていた。耳元で彼女の息遣いを、背中に彼女の服越しだが立派に主張する二つの物を、お風呂上がりの石鹸の匂いを、文字通り体全体が彼女を感じている。
『HAHAHA!さっさと素直になっちまえよ!!』
『負けるな!負けたら駄目だ!!』
「あっ」
彼女の手が唐突に止まった。横目でチラッと彼女を見た爆豪は、彼女の視線の先に何があるのかを瞬時に理解した。そこにあるのは、ズボンをはち切れんばかりに押し上げ、俺はここだと見事に主張する、男の象徴である。
「···ねぇかっくん」
今まで聞いた事のない、まさしく女を感じさせる声音に、彼のモノはより一層逞しくなる。
「私が、シてあげよっか?」
たった今、ヒーローコスオールマイトが、ヴィランオールマイトにSMASHされた。
この夜、爆豪勝己は、八木雪花の手に、胸に、口に、己の分身を解き放ったのだった。
▼▼▼
「今日はお疲れ様、お茶子さん。あの、良かったら明日、二人でアミューズメントゾーン回りませんか?」
『お疲れ、デク君。うん、ええよ!ホテルのロビーで待ち合わせやね』
「うん、詳しい時間はまたメールするね。じゃあ、おやすみなさい、お茶子さん」
『うん、待っとるからね。おやすみ、デク君』
「······初めて、女の子をデートに誘ってしまった」
なぜこうなった(真顔)。自分でも分からん。朝起きたら抱き合って寝てました位にする予定だったのに。
オールマイト捕まえた女の娘と、襲われて旦那になった男の息子だからか?
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