「ね、眠い~」
「頑張れ、三奈。今日の夜は肝試しだから、頑張らないと参加させて貰えないよ。訓練の進みが遅いから補習にするって言って」
「うう~、相澤先生なら言いそう。それは、絶対に嫌だ!」
「よし、最後までPlus Ultraだよ、三奈」
「Plus Ultraぁぁああ!!」
そんな感じで始まった三日目。夜中の二時まで補習を受けてた三奈達の動きが、目に見えて悪い。睡眠不足と疲労が重なれば、致し方ない部分もあるけど、皆で楽しく肝を試すには、五人には踏ん張って貰わなければ。
「さぁ、並べ!!我ーズブートキャンプを始めるぞ!!」
「「「サーイエッサー!!!」」」
さて、私も不参加を言い渡されない様に頑張りますかね。
「さて、腹も膨れた皿も洗った!お次は···」
「肝を試す時間だー!!」
補習組も、何とか参加を相澤先生から許され、めでたく全員参加の肝試しが開催される事と相成りました。
クラスで脅かす側と脅かされる側に別れて、脅かす側は決められたルート上のどこかで、直接接触する事なく"個性"を使って脅かす。脅かされる側は、二人一組になってルート真ん中の名前を書いたお札を持ち帰ればOK。B組が先に脅かす側で、もう準備は出来ているらしい。
「組み合わせはクジで決めるから、ちゃっちゃと引いちゃって」
「女子とペアに女子とペアに女子とペアに女子とペアに」
峰田君が、皆がドン引く位の禍々しいオーラで我先にと、ピクシーボブの用意した箱から番号の書かれたボールを取る。そっから、皆も順々に取っていく。
「よろしくお願いします、焦凍さん」
「デ、デク君、絶対離れんといてね!」
「常闇ちゃんは、怖いの大丈夫かしら?」
「お、切島だ!よろしくー!!」
「尾白君とだね。ふっふっふっー、楽しみだな~」
「げ、上鳴と?頼りになるかなぁ···」
よしよし順調順調。流子さんに、特定のペアになる様脅しゴホンゴホン頼んどいてよかったよ。折角二人っきりになれるのに、女子同士だったりしたら面白くないもんね。つか、百が焦凍と以外と組んだら後が怖い、ガチで。
だって、クジ引く前からガッチリしっかり百の腰をホールドしてんだもん、あ奴。
「うげ、峰田か爆豪確定かよ。俺も女子と回りたかったぜ。八木、悪いけど先引いてくれね?」
「おーけー、ガチで天国と地獄じゃん。かっくんと同じ番号かっくんと同じ番号かっくんと同じ番号」
いつの間にか、引いてないのは私と瀬呂君だけに。そして、ペアになってないのは、血走った目で私を見る1番の峰田君と、俺と同じ番号引けと言わんばかりの圧を発する3番のかっくんの二人。頼むよ、神様。
恐る恐る引いたクジに書かれた番号は···、
「···3番」
「くっそーーーー!!!!!」
良かった、かっくんと同じ番号を引けたみたい。
「よろしくね、かっくん」
「···あんま騒ぐんじゃねぇぞ」
相変わらず素直じゃないね~。よし、抱きついて押し付けて、悶々とさせてやろうじゃないか。
「ペアが決まったね!じゃあ、クジの番号順に出発!!前の組から三分後に次の組だからね、存分に肝を試してきな、キティ達!!」
「「「「おーーー!!!」」」」
▼▼▼
「三分経ったね、次はトコヤミキティとアスイキティの番だよ」
「共に闇の饗宴を、蛙吹」
「梅雨ちゃんと呼んで。怖い訳じゃないけど、はぐれても危ないから、良ければ手を繋いで行きましょ、常闇ちゃん」
「う、うむ」
未練がましく此方を、というか蛙吹を見ながら、瀬呂に引き摺られてスタートした峰田を見送る事三分。俺と蛙吹の番がやってきた。自然に差し出された、自身の手よりもふた回りかさん回り大きい手に、おずおずと手を重ね、暗闇へと身を投じる。
あそこまであからさまになりたくはないが、俺も峰田の様に、緑谷や轟達を羨ましく思う気持ちはある。顔の分からぬ女子と、こうやって歩くのを妄想しなかったと言えば嘘になる。
「そういえば、常闇ちゃんの選んでくれたプレゼント、弟がとても喜んでいたわ」
「そうか、それは良かった」
「今度、お礼をしたいの。リンゴのアップルパイとリンゴのジェラート、どっちがいいかしら」
「そんなつもりではなかったのだがな。どちらかと言うなら、パイの方が好みだ」
「分かったわ。今度、弟達と作って持ってくるわね」
「楽しみにしている」
職場体験の折り、リンゴが好きだと話した覚えはあるが覚えていたのか。蛙吹の作るアップルパイ、とても期待が出来そうだ。
肝試しの最中だというのを忘れる位、和やかな雰囲気が漂う。それを破壊する様に、草木が不自然に音を立て始めた。
「···何かくる」
「何かしら」
懐中電灯を向ける。草木を掻き分けて、何かが此方に向かってくる。
「た···たすけて······くれ」
「鉄哲か」
「塩崎ちゃんの蔓を巻き付けているのね」
「······もちっと何かリアクションしてくれや、常闇に蛙吹」
血糊でしっかりとメイクをした鉄哲が、溜め息をついてシッシッと手を振って先に行けと促してきた。正直、俺も蛙吹も余り顔に出る方ではなく、幽霊等も信じている訳でもない。現れるのはB組の誰かと分かっているのだから、期待するような反応を示すのは難しいというものだ。
「ごめんなさいね、鉄哲ちゃん。行きましょ、常闇ちゃん」
「ああ、挫けず頑張ってくれ」
「おう、他の奴の時はマシな反応してやってくれよ」
鉄哲と別れ、改めて先を進む。
「···私、次は悲鳴を上げて常闇ちゃんに抱きついた方がいいかしら」
「···わざとらしく見えないように出来るなら、だ」
「···やめときましょう」
「それが懸命だ」
蛙吹の提案を断念させた事に、内心残念に思っていたという事は、絶対に蛙吹に知られないようにしなければならないな。
▼▼▼
「···テメェ、苦手なら苦手って最初から言っとけ」
「あ、あははは、む、昔っから、スプラッター系はだ、大丈夫なんだけど、お、脅かし系はちょっとね」
「いつまでへたりこんでんだ、さっさと立てや」
「···ごめん、腰抜けた」
「はぁ······乗れ」
俺は円場。俺達B組男子の一部は、とある決意を抱いて肝試しに参加している。それは、爆豪勝己にぎゃふんと言わせて恥をかかせる事。それは、何故か。
我らが女神、八木雪花さんと仲良くしてるから、いや、明らかに好意を抱かれているからである。
俺達は男子高校生である。普通に彼女は欲しいし、手を繋いだりデートしたり果てはあーんな事やこーんな事もしてみたい普通の男子高校生である。クラスの女子を見て、あの子がタイプだとかそういう話をしなくもない。
B組男子の中で、八木さんに憧れてる奴は多い。一番人気は小大だけど、小大はどちらかというと高嶺の花で、八木さんは身近なアイドル的な感じだ。ちょくちょく、拳藤とかのB組女子と自主練してる繋がりで、俺らもその自主練に参加させて貰う事がそこそこあり、凄いフレンドリーに接してくれる。美人でスタイルもいいし、至近距離で笑顔を浮かべて褒められれば、俺らなんてチョロいもんだ。もしかしたら何て妄想を、一回か二回はするさ、普通に。
ああそうさ、俺達は爆豪に嫉妬してるさ。傍目から見ても、俺達と接する時より距離近いし、ボディタッチ多めだし。これが、轟とか相手だったら話は別だったんだけど、何でよりにもよって爆豪なんだよ。確かに強いし向上心もあるし顔も悪くないけど、あんなクソを下水で煮詰めた様な性格のどこを気に入ったんだよ八木さん!!
「重くない?かっくんも疲労溜まってるでしょ」
「舐めんな、テメェ位余裕だわ」
「···大食い大会の記念撮影以来だね、おんぶされるの」
「あん時ゃ、オメェが乗っかってきたんだろうが」
「そうだっけ?わ~すれちゃった」
泡瀬の個性で組み上げた特製案山子を、バンッと登場させて驚かせる作戦で、まさか八木さんがあそこまで驚くとは思わなかった。「お~すごーい」程度だと思ってたのに。
「中間地点位まで行けば治ると思うから、そこまでよろしく」
「んで、また腰抜かすんだろうが。大人しく最後まで背負われとけや」
「もしかして、背中に当たってる胸の感触を手放したくないだけじゃ」
「ふざけた事言ってっと落とすぞ!」
「冗談冗談」
思ったよりも八木さんがビックリして、「きゃあ!!」何て可愛い悲鳴を上げて尻餅ついたの見て飛び出そうしたけど、爆豪の「来んな」って視線に足が止まって、爆豪に背負われてる八木さんの顔が、見た事ない位幸せそうで、俺らはただただ心の中で悔し涙を流した。
爆豪テメェ、八木さん泣かせたら学園中の八木さんファンに声かけてボコしてやっからな!!ちくしょう!!···俺も彼女欲しいなぁ。
この後、変に気合い入りまくったお陰で、次に来た耳朗が、上鳴にしがみついて「もうやだーおうちかえるーー!!」って幼児退行しながらガチ泣きする位やっちまったのは、正直すまんかった。
「お礼に、またシテあげよっか?」ボソッ
「······いらんわ!」
「今、絶対悩んだでしょ」
「悩んどらんわ!!」
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