「よ~し、A組の準備も出来たみたいだから、一番のペア、ホネヌキキティとトカゲキティは位置について頂戴」
「ふっふっふっ!!さぁ、見せて貰おうか、A組の実力とやらを。その全てを一笑に付して、B組が上だと証明してあげようじゃないか!!」
「いや、行くの私らだから」
「一笑に付すのは、物間に任せるわ」
森に入っていくA組を見送って30分。ペアと順番はくじ引きで決まったんだけど、骨抜とペアで初っぱなとか、そんなサービス要らないって神様。
「じゃあ、楽しんでらっしゃい」
「行こうか、取陰」
「っ!···結構経験豊富な感じ?」
「イメトレはな。ま、暗いし舗装された道路って訳じゃないからね」
「じゃ、しっかりエスコートよろしく」
ナチュラルに差し出された骨抜の左手を、何でもない風を気取って右手で握る。熱くなった頬とか、内心のドキドキとか、手汗とか、お願いだから気付かないで。
ペン···ペンペン···ペン···
スタート地点の光が届かなくなった頃、道の先から三味線を弾いている様な音が聞こえてきた。
「おや、これは珍しい。お若いお二人、ここから先はお気を付けなされ。これより進むは怨霊の森。古の戦にて、主君の仇を取れず、無念にも討ち死にした亡者達が、今も尚復讐の為にさ迷っておる。奴らの仲間になりたくなければ、決して振り返ってはならぬよ」
こちらに背を向けて、地面に正座して三味線をペンペンと鳴らす、黒い着物に身を包んだ長い黒髪の女性。声からして蛙吹っぽいけど、幾ら八百万が何でも作れるって言っても懲りすぎだって。
「骨抜、私が腰抜かしたらお願いね」
「俺も、正直自信無い」
蛙吹の横を恐る恐る通り抜けて、さっきまで私らが居た場所とは思えない道を進む。握っている手が強ばる。
「うげ···ここまでやるかよ」
「本格的過ぎるって、後片付けとかどうする気よ」
私達を次に待ち構えていたのは、道の端にずらっと並べられた獄門台、それに乗せられたA組の面々の頭部。一目でマネキンだと分かる見た目だけど、それでも気持ちいい物じゃない。
寒気を感じて骨抜に体を寄せ、出来るだけそれらを見ないように、足元だけ見て前に進む。そういう意味じゃ無くても、ペアが落ち着きのある骨抜でマジで良かった。
「······け、···いて···」
「こ、今度は何!?」
「あっちだ」
木々が風に揺られる音に、何かが草木を掻き分けてくる音と、男性らしき人の声が微かに聞こえてきた。骨抜が、その方向に懐中電灯を向けると···、
「首を置いていけ、首を置いていけ」
「きやあああ!!!!」
「うおあっ!」
現れたのは、血に汚れた甲冑に身を包んで、見るからに刃溢れした刀を携えた鎧武者だった。
「首を!置いてけええええ!!!」
「ちょっ、襲ってくるのは無しじゃないっけ?!」
「うひゃあっ!!」
鈍重だけども、刀を振り上げて迫ってくる鎧武者。呆気に取られてた私を、骨抜が咄嗟に抱え上げて走り出す。多分、骨抜が個性でやってたんだろう、追ってくる鎧武者の右足が不自然に地面に沈んだ。
「ぬおあああ!!!く、首を置いてけーー!!」
「ナイス骨抜!ざまぁみろー」
「ちょ、あんまはしゃがないで」
「やっぱ八百万って卑怯だな」
「うん、何でも作り放題はズル過ぎる」
「味方だと、あれ程頼もしい個性はないんだけどさ」
あの後も、鎧武者に追いかけられたり、斬られた風な格好で倒れてたり、横から飛んできたり、上から降ってきたりと、もう体張ってて凄かった。何人分の具足を用意したのよ、八百万。
怖すぎて、骨抜の腕に抱きついてても恥ずかしさを感じる暇が無い。ちょっとは、骨抜に意識させてやろうかなとか思ってたのに、そんな余裕すら無いじゃないのよA組。
「距離的に、そろそろ終わりかな」
「だろうね···俺としてはちょっと残念」
「何で?そんなに気に入ったの?」
「美人な女子と、こんな密着する機会なんて早々無いからね。後で、男子から袋叩きに会うだろうし」
「なっ!!」
何でコイツは、そんな事をさらっと言えるかなぁ!最初の手を差し出すとこもスマートだったし、女の子扱い上手すぎない!?
「···何人の女子と付き合ってきたの?」
「へっ?いやいや、告白もされた事ないよ、俺」
「絶対ウソだ、女の子の扱い慣れすぎだし、さらっと恥ずかしい事言うし。び、美人な女子って言っておきながら、顔色一つ変わってないじゃんか」
「···あんま顔に出るタイプじゃないだけなんだけど、これなら信じてくれる?」
「うあっ!ちょっ!!」
骨抜が、空いている方の手で私の頭を横に向けて、自身の胸に耳を押し付ける様に抱え込む。今の私と一緒で、鼓動が早く脈打っている。
「分かった?これでも、結構ドキドキなんだって」
「わ、わ、分かったから!もう十分分かったから!!」
「ん、じゃあ後ろに追い付かれる前に行きますか」
「くっ!もう少し態度に出しなさいよね!彼女出来た時に、絶対苦労するから!!」
「···以後、気を付ける」
頭から手が離れ、頬をポリポリ掻いている骨抜。くぅぅ、いつか絶対その涼しげにしてる顔を真っ赤にしてやるんだから!!
チャン、チャンチャチャチャン、チャチャン
ゴール手前、私達を出迎えたのは、地面に置いた琴を鳴らす、白い着物に身を包んだ白髪の女性。垂れた前髪で顔は見えないけど、多分雪花かな。
「あら、珍しい事もあるんやな。この森から、生きて出てくる人がおるやなんて。このまま、真っ直ぐ行くんやえ。決して振り向かず、決して手を離さず。そやないと、隣の愛しいお人と、一生離れ離れになってまうからな~。ほな、気ぃ付けてな」
「これで最後って訳か、怖かったし楽しかった」
「満足だったけど、二度目はごめんだわ」
役になりきってる雪花に、感想を言いながら横を通りすぎると、向こうに明かりが見えてきた。
「あ、そうだ、アンタら流石に八百万働かせ過ぎだ···から······」
「どうした?取陰······」
「だから言うたやろ?振り向かず真っ直ぐ行くんやえと」
ふと、文句を言おうと思って振り返ると、絶句しかなかった。骨抜も、私に釣られて振り返って同じ物を目にした。
雪花の背中は、大きく袈裟に斬られて赤黒くなって、ムカデやろなんやらの生理的嫌悪を感じさせる虫が集っていた。地面からも、うぞうぞと虫達が這い出て来て、そして、私達に向かってぞぞぞーーー!っと迫ってきた。
「「ぎやああああああ!!!!!!!」」
お願いだから、可愛くキャーって抱き付ける感じにしといてよ!!そう心の中で叫びながら、絶叫と共にゴールを駆け抜けた私と骨抜でした。
因みに勝負は、最後の虫に皆全滅して、A組の勝利だった。幽霊関係無いじゃん。
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