「ようこそ、いらっしゃい雪花ちゃん。さぁ、遠慮せず上がって上がって」
「お邪魔します」
満面の笑みを浮かべたかっくんのお母さん、光己さんにお出迎えされて、初めて爆豪家の敷居を跨いだ八木雪花こと私。何で、私がかっくんの家にお邪魔しているのかというと、それは一昨日まで遡る。
「おい、雪花。明後日夕方は暇か?」
「ん?まぁ、別に予定はないけど」
合宿後、炎司おじさん、No.2ヒーロー"エンデヴァー"に弟子入りしたかっくん。最初は渋ってたおじさんだけど、かっくんの熱意に負けて許可したんだって。まぁ、焦凍は赫灼熱拳·燐と名付けた奥義の習熟を燈矢さんに見て貰ってるし、私は、後は実戦で経験値増やせな感じでわざわざ見てもらう必要がない、と。要するに、丁度手が空いていた訳だ。
それと、おじさんの弟子という肩書き持たせて、私との関係が世間にバレた時に、少しでも悪い騒ぎにならないようにっていうおじさんの配慮もあるけど。
というわけで、おじさんが仕事休みの日は轟邸に通って鍛えて貰ってるかっくんが、帰り際の玄関先で唐突に問いかけてきた。
「···行くか?」
「え?何に?よく聞こえなかったんだけど」
「明後日······近所で縁日あんだが···行くか?」
「······えと、二人で···だよね?」
「当たり前だろうが!」
「行く行く!!絶対行く!!!」
「だぁああ!抱きついてくんじゃねぇ!!」
てな事がありましてな、勿論浴衣を準備したけど、着ていって道中で汚れたりメイクや髪が乱れたらという光己さん、かっくんのお母さんからの提案で、かっくんの家で着替えやメイクをして向かうという運びになったのです。
いやぁ、結構傍若無人な私でも、流石に彼氏のお家初訪問は緊張しますよ。
「よし、出来たわ!とっても素敵よ、雪花ちゃん」
「ありがとうございます、光己さん」
遠慮して大丈夫だとは言ったんだけど、「お願い、手伝わせて!女の子にこういう事するの夢だったの!!」と光己さんの勢いに押されて、着付けやヘアメイクを手伝って貰いました。
水色を基調とした百合咲き乱れる浴衣。ウェーブかけてハーフアップにした髪に、私のトレードマークでもある雪の結晶をイメージした花のコサージュ。最後に、光己さんに軽くお化粧して貰い完成。縁日雪花ちゃんの誕生である。
「お待たせ~、どや!!」
「···まぁ、悪くはねぇよ」
リビングで、甚平姿のかっくんに向かってポーズを取る。相変わらず、ひねた言い方をするけど、かっくんの悪くないは最上級の褒め言葉だからね~。まぁ、それを許さない人が隣に居るけど、
「勝己!!こんな可愛いのに、悪くないとかどういう了見だい!!アンタは、自分の為に着飾ってくれた女の子一人満足に褒められないのかい?!」
「うるせぇ、クソババア!!」
「まぁまぁ、流石に僕らの前だと勝己も恥ずかしいだろうからね。でも、あっちでは素直にね、勝己」
「···分かってるよ、クソオヤジ。行くぞ、雪花」
「エスコートよろしく。では、いってきます」
「うん、いってらっしゃい、二人とも」
「くれぐれも、雪花ちゃんに怪我なんかさせるんじゃないよ、勝己」
「分かっとるわ!クソババア!!」
光己さんと勝さんに一礼して、かっくんと手を繋いで縁日の会場へと向かう。提灯の明かり、屋台から漂う美味しそうな匂い、小学生位の子達が金魚すくいや射的で競い合う声、物陰に消えて行こうとするカップル。この空気感、やっぱ好きだなぁ。
「あっ、ちょっと待ってて」
とある屋台を見つけたので、目当ての物を買ってかっくんの所に戻る。
「はい、どっちがいい?」
「何でそのチョイスなんだよ」
右にエンデヴァー、左にベストジーニストのお面。オールマイトは無かったのかと目で訴えてくるけど、残念ながらお父さんのは売り切れてたんだなぁ。
右のエンデヴァーを取って、後頭部に着けるかっくん。私は、残ったジーニストを側頭部に着ける。昔、エンデヴァーじゃなくオールマイトのが欲しいって駄々こねた焦凍に、おじさんがめっちゃ落ち込む何て事あったなぁ。
「あれ?かっちゃんに八木さん?」
「うわぁ、雪花ちゃん凄いキレイや」
「あ、お茶子に緑谷君!そっか、緑谷君も地元だもんね。お茶子もすっごい似合ってるよ」
「出久、その服はねぇだろ」
「そ、そうかなぁ···」
白Tに"まつり"とプリントされた微妙な格好の緑谷君と、向日葵柄の浴衣を着たお茶子が、手を繋いで立っていた。お互い、オールマイトのお面を着けて。こやつら、これでもまだ付き合ってないとかほざくんだもんなぁ。
「立ち話もなんだし、焼そばでも買って食べよ。私お腹空いた。んで、その後は一緒に回ってダブルデートと洒落こみましょう」
「あぁ?何でコイツらと一緒に···」
「まぁまぁ、別れた所でまた出会すんだから、一緒に回っても変わんない変わんない」
「アハハ、うん、分かったよ。お茶子さんも、それでいい?」
「うん、大丈夫」
というわけで、お茶子達と一緒に、近くの焼そば売ってる屋台に並ぶ。
「おお、勝己に出久じゃねぇか。二人ともべっぴんさん連れちゃってまぁ。この前まで、こんなちんちくりんだったのに、流石は天下の雄英生だ。コイツはおまけしてやる」
「あ、ありがとうございます、おじさん」
「ちんちくりんだったのは、出久だけだろうが」
やっぱり地元だからか、顔見知りの人達に声かけられたり、頭ガシガシ撫でられたりしてるかっくんと緑谷君。そんな様子を、お茶子と一緒に微笑ましく見守る。
ベンチに座る頃には、サービスだって言って、フランクフルトやアメリカンドック、唐揚げ、たこ焼き、わたあめ、りんご飴、ジュース等の大荷物になっていた。
「人気者やね、二人とも」
「緑谷君は想定内だったけど、かっくんも意外と可愛いがられてだんだね」
「どういう意味だ、ゴラァ!」
「いや、ヤンキーっぽい人達に、"押忍、お疲れ様っす、爆豪の兄貴!!"的なのを想像してた」
「うん、私もそっちの方が想像つく」
「いや、うん、否定出来ないかも」
「テメェら、爆殺したろうか」
「どうどう、ほら、冷めちゃう前に食べちゃお」
「ちっ、溢して汚すんじゃねぇぞ」
そう言って、唐揚げを口の中に放り込むかっくんに苦笑しつつ、私達も食事に手をつける。うん、屋台の味だねぇ。
四人で粗方食いつくし、カップル同士でわたあめ分けあいながら、屋台を練り歩く。射的とか輪投げ入れとかで、かっくんが毎回緑谷君に張り合う所為で、両手で抱えきれない位景品ゲットするから、見物してた小さい子達に配ったりする一幕も。
「あ、そろそろ花火の場所取りした方がいい時間かな」
「そうなの?んじゃまぁ、ここでお別れですな」
「一緒に見やんの?」
「お邪魔虫はいない方がいいでしょ、お互い。それとも、お茶子の横で肉体的イチャイチャをしても良いと?」
「んなっ!!もう、雪花ちゃん!!!」
「あっはっはっはっ!それじゃ、またね~」
「出久、腑抜けて二学期迎えやがったら承知しねぇからな」
「うん、次はかっちゃんに勝つから、覚悟しといてよ」
「へっ、返り討ちにしてやるわ、オールマイトもどき」
男の顔になった緑谷君と、嬉しそうに凶悪な笑みを浮かべるかっくん。男の子同士のライバルっていいねぇ。
二人に手を振って別れ、かっくんに導かれるまま会場からどんどん離れて、人気のない山道を登っていく。穴場って言ってたけど、もしかして、あっちの意味での穴場?手提げ巾着の中にある、念の為にと渡されたゴム製品をチラッと確認する私。
「ここだ」
「おお、絶景だねぇ」
そこは、開けた断崖絶壁で、街を一望出来る所だった。
「花火見るなら微妙なんだが、おかけで人は殆ど来ねぇ。大体はあっちの山に行くからな」
「ほう···要するにそういう事?」
「···悪いかよ」
「いんや、あ、でも、今日は服にかけたりしないでね」
「分かっとるわ」
繋いでない方の手で顎をくいっと持たれ、唇を奪われる。今日のキスの味は、甘いわたあめの味でした。
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「貴方からの呼び出しなんて珍しいと思ったら、もっと珍しい事が起こっていますね。お久しぶりです、治崎」
「案件が案件だからな、アイスメイカー」
「先生も一緒が、話が早いと思ってな」
「それで、話とは?」
「最近起きている、個性暴走による変死。その原因が分かった。この前、トムラが持ってきた物を、壊理の個性で巻き戻して、中身を調べてみた」
「んで、出てきたのがこれ。成分的には、個性誘発剤に近いが、コイツはそれをもっと強力にした奴だ。自分の身を滅ぼす位のな」
「それで?」
「氷室氷河。コイツを使って、自分の個性で凍り付けになった奴なんだが、なんとか蘇生に成功してな。記憶を読む個性持ちに読ませた所、やはりヒューマライズが関わっていた」
「オールマイトを倒す力を得られる薬、そういう謳い文句で渡されたんだとさ。奴らにとっちゃ、藁をも縋る思いだったんだろうぜ」
「ヒューマライズ。こちらは、トリガーの原材料を集めている奴が分かりました。実行部隊の隊長らしき人物を追い詰めたのですが、後一歩の所で、自身の個性で大きくした鉄球の下敷きになって自害されてしまいました。ソイツが最後に、フレクト·ターンという名前を呼んだそうです。ヒューマライズのトップと同じ名前を」
「一応は、繋がったって事か」
「ええ、ですが物的証拠がありません。公的に、宗教団体として登録してある方に内偵しても、何も知らない一般信者だけだったそうですし」
「···奴らが本格的に動かない限り、此方は警戒しているしかない、という事か」
「そのフレクト·ターンの身柄を押さえる事は出来ないのか?」
「そもそも、居場所が分からないそうです。本部と言われている場所でも、映像だけで本人は居ないと」
「面倒だな。親父には、より一層警戒を強めるよう言っておく」
「ええ、お願いします」
「たく、何を目的にしてやがんだ」
「フレクト·ターンに会えたら、真っ先に質問してみましょうか」
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