仮免試験の帰り、デク君がちょっとキョドりながらも、何か覚悟を決めた顔で、寄り道を提案してきた。私も、覚悟を決めてそれに頷く。
着いた場所は、いつも組手とかしてる海浜公園。夕日に照らされる海はもう見慣れとる筈やのに、今日は特別キレイに見えた。
それを、横目で眺めながら、黙って前を歩くデク君の後ろを、三歩位離れて歩く。デク君の足が止まった。
「お茶子さん、お茶子さんはプロになるの?」
「え?うん。こうして、仮免も取れたんやし」
「···今日、僕は一瞬思った事があるんだ。お茶子さんに、ヒーローになって欲しくないって」
「···」
「ヴィラン役の人に掴まれて、気絶してるお茶子さんを見て、もしこれが本当の現場で、そこに僕が居なかったらって、助けられる所に居なかったらって」
「···」
「プロヒーローの殉職。原因は何であれ、ヒーロー活動中に亡くなってしまう人は居る。知ってた筈なのに、僕は理解してなかった。怖かった」
「···私は、ヒーローになるよ」
「うん、分かってる。試験前に、こけると縁起悪いって理由で助けてくれる位、優しい人だって知ってるから。だから、僕に、お茶子さんの隣に居る資格を下さい」
振り返ったデク君の顔は、今までで一番格好よかった。さぁ、いよいよと胸が高鳴る。
「···お茶子さん!僕はお茶子さんのこと」
「きゃーー!子供が溺れてるわーー!!」
「「っ!!」」
ふわふわしてた気持ちが一気に冷えた。女性の叫び声の方に目を向けると、不自然にバシャバシャしてる水面が映った。
「お茶子さん!通報を!僕は救助に」
「う、うん!」
そう言って、海に飛び込んでいくデク君。携帯を取り出して119番を掛けながら、今回はちょっとお預けやな~と思った。
「デク君、私、デク君のこ」
「火事だー!家にまだ人が!!」
「お茶子さ」
「キャー、引ったくりよー!!」
「デクく」
「うわー!強盗だー!!」
「お」
「うちのワンちゃんがーー!!」
▼▼▼
「告白したいし、告白されたいだけなのに」
「そこまでいったら、もう付き合ってる様なもんじゃん」
「でもさでもさ、やっぱちゃんと告白して欲しいし、したいよね」
「なぁなぁで終わらせるには、ちょっとタイミングを逸してしまったのかしらね」
「そうですわね。それに、ちゃんと思いを伝えるのは大事ですわ」
「てか、外じゃなくて家ですれば良いじゃん。一緒に暮らしてるんだし」
「···引子さん、デク君のお母さんが、ぎっくり腰になったんよ。流石に、ここまで来ると···」
「······一回、緑谷君とお祓い行ってみる?」
「···もう行っとる。その日に、引子さんが怪我したんよ」
「「「「「「······」」」」」」
仮免試験から二日、唐突にお茶子から1A女子に相談があるという連絡があった。場所として、八木家を提供。そして、憔悴した顔のお茶子に全員びっくりし、急いで話を聞いた。そして、絶句である。
簡単に言うなら、告白しようとする度に、事件や事故が起こってそれ所ではなくなるのだと。何処へ行こうと、どちらがしようと、何時にしようと、必ず。
「私もデク君も、ただ、好きって伝えたいだけなんやけどなぁ」
そう言って、隈の浮いた目で哀しく笑うお茶子。
「···皆」
私は、皆の顔をぐるっと見渡す。皆、力強く頷き、同時に携帯を取り出す。
「切島、力を貸して」
「尾白君、お願いがあるの」
「常闇ちゃん、貴方の力が必要だわ」
「上鳴、ちょっと付き合ってよ」
「焦凍さん、お力をお借りしたいのです。炎司お義父様のお力も」
「お父さん、いいえ、オールマイト。助けて」
▼▼▼
「出久、行ってらっしゃい。お茶子ちゃんに、今日はお餅だって伝えてあげて」
「···うん、いってきます」
「エンデヴァー、ポイントA2にて銀行強盗。ホークス、旅客機がバードストライク、ポイントC8に。オールマイト、アイスメイカー、ポイントJ5で高層ビル二棟から火災発生、中に人が取り残されている。トムラ達が先行しているから合流してくれ」
「塚内警部!C1にて誘拐事件!!」
「グラントリノに対処を頼んで、三茶」
「緑谷が自宅から学校に来るだけなのに、どんだけ事件·事故起きてんのさ!?」
「集中を切らすな、イヤホンジャック。現状報告」
「は、はい!イレイザーヘッド。デク、A6を通過。目の前でお婆さんが転倒、シュガーマンが対応する事でデクを先行させる事に成功。推定到着時間に三分上方修正!」
「今、デクの周りに待機しているのは何人だ」
「テンタコル、アニマ、グレープジュース、インビジブルガールの四人です。四分後にテンヤが合流予定です」
「アニマに前方索敵を、テンヤには先行させてA2付近で待機。他の者は、出来るだけ早く合流し、次に備えるように」
「麗日の元に、暴走した仮想ヴィラン用のロボが向かっているだとぉおお!!B組総員、麗日を守れ!!パワーローダー!!」
「ケケケ、もう絢爛崎達を向かわせてるよ、ブラド」
「いったい、何が起こったんでしょうか」
「オーバーホールが終わって収納予定だった奴だな、13号。後で原因究明しないとな、ケケケ」
「笑っている場合か!」
「やっと···着いた」
「まだ、学校に着いただけ。安心するのは、早いみたいだよ、緑谷君」
多くの人の協力を経て、漸くここまで辿り着いた。
私達の考えた作戦。何かが起こるなら、代わりに解決してあげれば良いじゃない作戦。犯罪や大きな事故を、お父さんを中心にしたプロヒーローに、迷子や落とし物といった小さいものを私達一年A組が担当して、緑谷君を、雄英高校で待つお茶子の下へと送り届ける。一佳達B組にもお願いして、念の為にお茶子の護衛を担当して貰ったんだけど、依頼して正解だったみたい。
正門通りを埋め尽くす、仮想ヴィランロボを見ながら、心底そう思った。
「こちら、ルミナイネン。正門前到着、目標の現在位置を」
『今、目標は第四演習場!さっさと行って、言う事言ってこい!緑谷!!』
「だってさ。道は作るから、一気に駆け抜けて」
「···うん、OFAフルカウル20%」
「"雪やこんこん、霰やこんこん"。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて三途の川だ!!ほら、お茶子が待ってるよ!!」
「お茶子さん、今行くよ!!」
▼▼▼
「ガンヘッド·マーシャルアーツ!」
もう、何体倒したのか分からない。B組の皆も頑張って、この演習場に侵入せん様にしてくれとるのに、それでもこの数。ホンマに、何が起こっとるんや。
「······ウソやろ」
自らの力でハッチをぶち破り、あの0ポイントの巨大ロボが這い出てきた。しかも、三体とか。
「流石に、それは聞いとらんよ···」
ご丁寧に、私を囲むように出てくるとか、ありえへんやろ。同時に振り下ろされる手を、個性を使って何とか避ける。一体なら何とかなったのに、コスチューム無しで三体は、
「あっ!!」
巨大ロボの動きを見るのに必死で、自分が壊したロボの残骸に足を引っ掻けてしまった。まずい、そんな距離稼げてへん。
私を暗い影が覆う。見上げれば、無機質な機械の足。こんな事なら、あん時しまっとくんやなかったかなぁ。
「うおおおおお!!!DETROIT SMAAAASH!!!」
ああ、あの日も、君はそうやって、私を助けてくれたよね。
「もう大丈夫。僕が、来たよ!!」
「デク君!!」
▼▼▼
バァーン!!
「あ、お父さん、お疲れ様~」
「雪花、二人は?!!?!」
指令室代わりの教室に、物凄い勢いで飛び込んできたお父さん。私は、チョイチョイと、A組B組教員警察全ての人が釘付けになっているモニターを指差す。
「······えっと、これ、彼らは知ってるの?」
「逆に、知ってると思う?」
「おおう······取り敢えず、一安心って事でいいのかい?」
「多分ね」
モニターの先、倒れ伏す巨大ロボの上で、互いにギュッと抱き締めあう二人。そして、お茶子の後頭部をガッシリ掴み、深く口付ける様がバッチリくっきり映っているのである。
「······ん?あれ?何か、麗日少女の様子がおかしくない?」
「え?······あ!緑谷君!個性発動してる!!お茶子が潰れちゃう!!!」
評価と感想をよろしくお願いします。