八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第六十九話「轟もゆ」

 

 

 

 

「ああ、俺だ。···落ち着け冬美、何を言っているのか聞き取れん」

 

 パトロールを終え、部下の鍛練をしていたエンデヴァー。そこに、娘である冬美から電話が掛かってきていると、携帯を持たせていた事務員が来た。受け取って耳に当てると、とても慌てている様で、内容が全く分からなかった。

 

『変わって、冬美。貴方、燈矢は今何処に?』

「冷か。荼毘なら、今はパトロール中だ。何事もなければ、後30分したら帰ってくると思うが」

『そう、燈矢が帰ってきたら、中央病院にすぐ来るよう伝えて頂戴。出来れば、貴方も一緒に来て欲しいの』

「病院?何故だ?何かあったのか?」

『···萌さんがね』

「バーニンがどうした」

『まだ、二、三週辺りの初期段階だけど、妊娠、してるわ』

バーニンが妊娠だとぉおおおお!!!

「「「「妊娠ーーー!!!!」」」」

 

 

 

    ▼▼▼

 

 

 

 轟冷が、それに気付いたのは偶然だった。

 買い物に行ってくると言ったら、娘に生理用品を頼まれたので、護衛も兼ねて家で生活しているバーニンこと上路萌の分もと思い、彼女の在庫を確認した所、減りが遅いと思ったのが始まり。

 そして、最近よく欠伸をしていたり、夜更かししていないのに眠そうだったりしていた事が脳裏をよぎった。時折、食欲が無い事もあった。

 四人の子供を持つ母親としての勘が、もしかしたらと警報を鳴らした。道場で、八木冬花と組手をやっている筈の萌の所に全力疾走で向かう。

 ズバンと引戸を開けると、冬花が萌の腹部に膝蹴りを叩き込もうと構えている所だった。

 

「冷さん?」

「あら姉さん、血相を変えてどうしたの?買い物に行くんじゃなかったかしら?」

「冬花、それ所じゃないかもしれないわ」

 

 ズンズンと、ちょっとポカンとする二人に近寄り、ガッと萌の両肩を掴む。

 

「ねぇ萌さん、ちゃんと答えて欲しいのだけど···月の物、最後に来たのはいつ?次はいつかしら?」

「えっ、何ですか?唐突に。ちょっと待ってくださいね。ええっと···あれ、一週間ちょっと遅れてますね。最近寝不足っぽかったから、その影響ですかね」

 

 端っこに置いていた携帯で確認し、呑気に笑う萌を尻目に、どこかへ電話を掛ける冷。そして、姉の雰囲気と萌への質問で察した冬花が、車庫がある方向にダッシュしていく。

 

「お母さん、今冬花さんが凄い形相で走ってたんだけど」

「ええ、無理を言ってごめんなさい。ええ、ありがとう。じゃあ萌さん、行きましょうか。丁度いいから、冬美も付き添って」

「い、行くって、何処へ?!」

「勿論、産婦人科よ」

「「えええーーーーー!!!!!」」

 

 

 

「診断結果は、100%妊娠しているそうよ」

 

 パトロールから事務所に戻ったら、入り口の所に仁王立ちしていた親父に首根っこ掴まれ、訳も分からず車に乗っけられて、病院へと連れてこられ、待ち構えていた母親から告げられた言葉に、頭が真っ白になった。

 

「···萌は」

「中よ。二人でしっかり話し合いなさい」

「俺達は、萌君の両親と話をしてこよう。燈矢、男として覚悟を決めろ」

「お兄ちゃん、頑張って!」

 

 家族に見送られて足を踏み入れた病室には、ボーッと窓の外を眺める萌が居た。ゆっくり近付いて、ベッドサイドにある椅子に腰を下ろす。

 

「よう、調子はどうだ?」

「···燈矢」

 

 返事はするものの、上の空としか言いようがない様子だ。溜め息混じりに苦笑しつつ、萌の頭を撫でる。そして、萌のまだ膨らんでいないお腹に手を当てる。

 

「ここにいるんだよな、俺達の子供が」

「···まだ、全然実感無いけどね」

「萌」

 

 俺は鞄から、ちょっと年期の入った小さなケースを取り出して、萌の眼前に差し出す。

 

「準備が良くない?」

「いつでも渡せる様に持ち歩いてたに決まってんだろ。指の大きさが変わってないのも、いつも確認してたからな」

「何それ」

「上路萌、俺、轟燈矢と一生を共にしてくれるか?」

「···もう、あの時みたいに待ってなんて言えないね。不束者ですが、末長くよろしくお願いします」

「やっと、コイツをお前の指に嵌められる」

「何年物?錆びてないだろうね?」

「銀は錆びねぇし、いつも綺麗にしてたよ、馬鹿」

「結婚式には、新品でよろしく」

「とびっきりの用意してやるよ」

 

 萌の左手を取り、ゆっくりと、その薬指に指輪を通した。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「聞いたっすよ、燈矢君。とうとう、萌さんとゴールインするって」

「冬美の奴か」

「ご明察。というか、ビックリしたんすよ、冬美さんが開口一番ハイテンションで「子供が出来たの!」って言うもんだから。落ち着かせて、燈矢君と萌さんの間に子供が出来たって分かるまで結構掛かったんすから」

 

 苦笑しながら、白雲のbarに入ってきたホークスこと鷹見啓吾。いきなり、トゥワイスこと分倍河原仁から、「今晩、付き合え」とメールがあった時は何かと思ったが、その直後に、轟冬美からの電話で事態を察し、パパッと仕事を終わらせて九州から飛んできたのである。

 

「よう、ホークス。急で悪かったな、元気してたか?」

「ホークスちゃん、相変わらずいい男ね」

「顔を合わせるのは、久しぶりだね、ホークス君」

「いらっしゃい、ホークス。何にする?」

「ビールでお願いします。お久しぶりっす、マグネさん、コンプレスさん。今度からは、内容も教えてくれると助かるよ、トゥワイス」

「悪い、ここは俺が持つから許してくれよ」

「じゃあ、ありがたく」

「うっし、じゃあ全員揃った事だし、荼毘が五年ぶり二度目にして、漸く婚約指輪を渡せた事を祝して乾杯!!」

「「「「乾杯」」」」

 

 店内に、グラスの当たる音が響く。

 

 

「でも、五年前にプロポーズして、ヒーロー活動に集中したいからって断られて、ここで落ち込んでた荼毘ちゃんが懐かしいわ~」

「そうだね、荼毘君が酔っぱらう所なんて、初めて見たしね」

「あん時は、最終的に全員酔い潰れて大変だったよな」

「え?て事は、燈矢君も潰れたんすか!!」

「そうだよ、余すことなく全員」

「思い出さすな。あの後、親父に死ぬ程しごかれたんだからな」

「俺らも、二日酔いで最悪だったわ」

「別に、俺が飲ませた訳じゃねぇだろうが。で、啓吾はいつ妹を嫁に貰うつもりなんだ?」

「ブッ!いきなり何すか!!」

「いつまで妹を待たせんだって聞いてんだよ、羽燃やすぞ」

「待たせるも何も、俺に冬美さんは勿体ないって言ってるじゃないっすか」

「おいおい、あんだけ構っといてそれはねぇんじゃねぇか?」

「そうよね、女の子なら誰だって、好意を持たれてるって勘違いしちゃう距離感なのにね」

「まさしく、女泣かせ」

「妹とは遊びだったてぇのか、駄鳥」

「ちょっ、助けてくださいよマスター」

「期待させるだけさせといて後は知らんぷりって、男として最低だと、俺は思うんだよ」

「マスターまで···」

「啓吾、本音聞かせろ。お前、冬美が他の男と結婚して、他の男に抱かれて、他の男のガキ抱いててもいいんだな。何も思わず日々を過ごせるんだな」

「···その質問はズルいっすよ」

「こちとら、一大決心から五年待たされたんだ。待つってのは、覚悟がいるんだよ」

「アンタが言うと、説得力あるわね~」

「荼毘の粘り勝ちってより、出来ちゃったから、相手が諦めただけって見方も出来るけどね」

「だよな、全然我慢してねぇ」

「テメェらは黙ってろ。で、どうなんだ」

「······良い訳ないじゃないっすか。でも、薄汚れた俺には、冬美さんは眩しすぎるんすよ」

「はっ!諦める理由を妹に押し付けてんじゃねぇよ、クソ鳥」

「···自分が上手く行ったからって、容赦無さすぎじゃないですか?」

「知るかよ。只、俺はお前以外に弟を増やすつもりはねぇとだけは言っておく」

「何すかそれ」

「後、妹舐めんなよ。アレでも、エンデヴァーの娘何だからよ」

「···冬美さん、何の花が好きっすかね」

「赤い薔薇にしとけ。んで、好きな花は二人で買いに行け」

「···参考にさせて貰いますよ」

 

 

 翌日、荼毘とバーニンの結婚報告を隠す勢いで、ホークスが花屋で真っ赤な薔薇の花束を購入したというニュースが、世間を騒がしたのであった。

 

 

 




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