「うがーーー!!私も混ぜろーー!!!」
「うにゅぅぅ···」
「うわっ!バーニンさん!!?」
轟邸の道場でお母さんと訓練してると、お腹を締め付けない服装をしたバーニンさんが、先週ホークスさんに真っ赤な薔薇の花束のプレゼントと共に、轟家の面々の前で告白をされた冬姉を引き摺りながらやってきた。
バーニンさんの妊娠と、燈矢さんとの結婚発表から一週間。元々、余りじっとしている事が苦手なバーニンさんが、遂に痺れを切らしてしまったみたい。
「バーニン、訓練等の激しい運動は禁止と言った筈よ。貴女のお腹には、新しい命が宿っているのよ」
「うう~」
「これからお腹も大きくなってきますし、つわり等といった症状も出てきます。今まで以上に、思うように動けなくなります。今からそれでは、これからもっと大変ですよ」
「ですけど、アレも駄目コレも駄目で息が詰まります」
「それが、命を宿すという事よ」
叔父さんからヒーロー活動の自粛を言い渡され、書類仕事の残りをやったり、結婚式のあれやこれやを決めたり、冷さんから出産までの事をレクチャー受けたりと、座って何かしてばかり。冷さんと行く、午前午後一回ずつのお散歩が唯一の運動。
ウズウズするのも分かるし、将来私もああなりそう。椅子に座らされて、お母さんからコンコンと説教されるバーニンさんを横目に、冬姉の介抱しながらそう思った。
▼▼▼
「ホークス」
「筒美先輩、お久しぶりですね。先輩がヒーロースーツ着てるなんて珍しいっすね」
「一時的に前線復帰よ。それよりも、エンデヴァーの所のお嬢さんに、遂に告白したんですってね」
「なっ!!···どっから仕入れたんすか、その情報」
「会長が嬉しそうに話してくれたわ」
「あの人は···」
「会長にとって貴方は息子の様なものだから。まぁ、その後私に飛び火したのは面倒だったけど。今更結婚なんて」
「娘みたいなもんなんでしょう、あの人にとっては。アラフォー目前でしたっけ」
「撃つぞ、貴様」
「冗談ですってば(prrr)···ちょっとすみません、はいもしもし······分かりました、すぐ向かいます」
「事件か?」
「○○市のデパートに、ヴィランが人質とって立て籠っているそうです」
「お前が出る程のヴィランなのか?」
「···人質の中にいるんすよ」
「いるって···まさか」
▼▼▼
「来たぞ、エンデヴァー」
「エンデヴァー、俺達はどうすれば」
「遅いぞ、ショート、ダイナマイト。荼毘、メンバーの選別は済んだか?」
「ああ、後は配置につくだけだ」
指示を受けやってきた、立て籠り事件対策本部が設置されたテントには、エンデヴァー事務所の面々が警察と協議しながら作戦を立てていた。
「よし、では配置につけ。ショート、ダイナマイト、お前達は俺についてこい。俺が、正面で奴らの目を引き付けている間に、荼毘達別動隊が東西から突入する。荼毘達が、人質の安全を確保したら、俺達が突入しヴィラン共を完全制圧する。建物や店舗に被害を出さぬよう、ヴィランを制圧してみせろ、いいな」
「···親父、何か焦ってるか?作戦が悪いって訳じゃねぇけど、急いでる様な···」
「あ?あんな雑魚ヴィラン共、さっさとブッ飛ばせばいいだけじゃねぇか。長々話す必要ねぇだろうが」
「それはそうなんだが···親父」
「···人質の中に、冷·冬美·萌君が居る。急がねば、萌君が暴れ出す前に」
「萌義姉が···そりゃ、急がねぇとな」
萌義姉のお腹の中に、燈矢兄の子供が居る。モタモタしてたら、そんなの関係無しに「私が全員ぶっ倒す!」って言って、ヴィランに挑むだろうからな。
「さぁ、行くぞ」
▼▼▼
「絶対に義姉さんは動かないでね!!」
「冬美ちゃん!!」
「駄目よ!貴女は今ヒーローじゃなく、轟萌という一般人の妊婦なの。すぐに、助けが来るわ。だから、今は大人しくしているの、いいわね」
「···冷さん、はい」
義姉さんの気晴らしにと、お母さんと三人でお買い物に来たんだけど、運の悪い事に、ヴィラン事件に巻き込まれてしまいました。
最初は全員一ヶ所に集められて、抵抗されたら面倒という判断なのか、成人男性と中高生の男女は開放。残ったのは、小学生以下の児童と女性のみ。それを、腕を後ろで縛って、二組に分けて一階と二階に軟禁した。お母さんと義姉さんは二階に連れてかれてしまった。お母さんがついてるから大丈夫だと思うけど、我慢してて下さいね、義姉さん。
そう心の中で祈ってると、一人雰囲気の違うヴィランが近付いてきた。
「コイツが、クライアントが消して欲しいって言ってた女か」
「ええボス。最低でも女として終わらせろとか、女って怖えっすね」
「まぁ、それで貰える金が増えるんだからな、こっちとしてはいい商売だ。おい、連れてけ」
「キャッ!!」
腕を掴まれ無理矢理立たせられた。ヴィランの話からすると、目的に私も含まれてる?!
「丁度、エンデヴァーにテレビ中継のカメラも来てるみたいだからな。そこでひん剥いてやれば、エンデヴァーにも隙が出来るだろ」
「ついでに、新入り共に遊ばせてやりましょうか」
「コイツを撃ち込める時間が増えりゃ、何でもいいさ」
いや、本命はお父さん。あの弾丸が何なのか分からないけど、お父さんを狙ってこんな事を起こしたって事!?
「貴方達、何をするつもりなの!!」
「日本のNo.2に、この世から退場して貰うだけだ」
「そんな···」
いえ、これまでだって、そんな事を言ってたヴィランは居たけど、それを蹴散らしてきたのがお父さんだもの。今回だって、きっと大丈夫よ。
「父親の心配よりも自分の心配をしてな、轟冬美」
「いやっ!離して!!」
「大人しくしてろ!」
「フグッ!!」
少しでも時間稼ぎをと抵抗したら、銃床がお腹に突き刺さった。これが、義姉さん相手にじゃなくて良かった。
「イッ!!」
女性の髪を乱暴に引っ張るなんて、そんなだから、ヴィランになるのかな。啓吾さんが、綺麗で見つけやすいって褒めてくれたのに。
『冬美ぃいいいーー!!!』
「見えるか、エンデヴァー!!動くなよ!!貴様の娘が無惨な姿が、全国放送されるのをそこで見ていろ。おい!カメラ下げるんじゃねぇ!人質が死ぬ事になるぞ!!」
押し付けられたガラス戸の向こうに、お父さんと焦凍、それに雪花の彼氏の爆豪君がいる。そう言えば、インターンで来てるって言ってたっけ。テレビカメラ、乱暴にされちゃう所を放送されちゃったら、流石に学校クビになっちゃうかなぁ。
「さぁ、これがNo.2の娘の体だ!!」
ヴィランが後ろから私の服に手を掛け、ボタンを引きちぎる様に左右に引っ張ろうと力を込めた。
「そん人になんばしよっとね」
視界を過ったのは、とても綺麗な赤い羽でした。
▼▼▼
「それで、犯人達は何て?火伊那さん」
「今回のヴィランは、大陸からやってきた傭兵崩れのヴィランでした。狙いは、エンデヴァーと日本ヒーロー界。ただ、リーダーとその腹心以外は、エンデヴァーを無力化し金銭を要求して逃げる手筈だったと供述しているのですが···」
「その、リーダーと腹心は別の思惑があったと?」
「というよりも、死ぬつもりだったようです。これが、対エンデヴァー用に準備していた物なのですが、この弾丸を撃ち込まれた者は、個性を命尽きるまで際限なく暴走させる薬が仕込まれていました」
「もし、それが炎熱系最強の義兄さんに撃ち込まれていたら、どんな被害が出ていたか想像したくないですね」
「···確実に、あの場にいた全員が炭になっていたことでしょう。彼らが言うには、個性は人類を滅ぼす害悪であり、自身を含む個性持ちは全てこの世から消え去らなければならないそうですよ」
「···冬美さんが狙われたのは?」
「クライアントの一人が、熱心なホークスファンだそうで、轟冬美を社会的に抹殺すれば、追加で報償金を貰えたと。何でも、その人はホークスを愛玩として手元に置くのが夢なんだそうです」
「その事は···」
「ホークスとエンデヴァーには伝えています。轟冬美には、ホークスが自分で話すと」
「そう、なら心配はないわね。その弾丸の出所については?」
「調査中です。少なくとも、国内で生産はされていないと。弾丸も、彼らが直接持ち込んだ様です。取り敢えず、海岸警備を厳とするよう、各ヒーローに通達済みです」
「分かったわ、引き続き調査をお願い。私は、各国のヒーロー協会に注意勧告と調査依頼を打診しておくわ」
「お願いします。では、また何か分かりましたら報告します、アイスメイカー」
「ええ、気をつけてね、レディナガン」
「スマン、冬美。俺が軽率に、啓吾を焚き付けちまったから···」
「お兄ちゃんの所為じゃないから気にしないで。私も、こういう目にあうかもって覚悟してたし。この程度で、啓吾さんと別れるつもりないから安心して」
「···冬美さん」
「そんな顔しないで、啓吾さん。言ったでしょ、どんな事があっても、一緒に乗り越えていきましょうって。私だって、長年No.2の奥さんやってるお母さんの娘なんだから」
「そうだったっすね、冬美さん」
「惚れ直しちゃった?啓吾さん」
「今なら、宇宙まで翔んでいけそうばい」
「たく、さっきまで死にそうな顔してた癖に現金な奴だ」
「ほら、私達は大丈夫たから、お兄ちゃんは萌義姉さんの所に行ってあげて」
「そうそう、お義兄さんはお義姉さんの所へ」
「けっ、俺はお邪魔虫って事かよ。ここが病院だって事を忘れて盛んじゃねぇぞ」
「お兄ちゃん!!」
翌日、緊急記者会見でエンデヴァーの付き添いの下、ホークスが正式に轟冬美との交際宣言をした。
多くのホークスファンが涙したが、事件後に、冬美を両手に抱えて翔んでいく姿が生中継で全国放送されていたお陰か、思ったよりも騒ぎにならずに済んだ様だ。
その裏でひっそりと、とある社長令嬢が逮捕された事を気にする人は、誰も居なかった。
色々悩んだんですが、原作のインターン編は飛ばします。
評価と感想をよろしくお願いします。