八木雪花とほのぼの轟一家ヒーロー録   作:あならなあ

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第七十一話「八木雪花とダンスパートナーと腕相撲」

 

 

 

 

「会議の結果、今年の文化祭後、学校側でプロムナードを開催する事が決定しました。参加は自由ですが、将来任務でそういう場に出る事もあると考えた上で、参加の有無を決めて下さい。尚、ダンスに参加する者は、今日から文化祭の一週間前までの間に、パートナーと共に申込用紙に必要事項を書いて提出するように。衣装の貸し出しも行いますので、自分で用意出来なくとも安心して下さい。私からは以上です。相澤先生、後はよろしくお願いします」

「という訳だ。それに伴って、週一でダンスレッスンがヒーロー基礎学に入ってくる。これも授業の一環だ、手を抜かないように」

 

 

 文化祭まで一月とちょっとに迫った頃。このプロム開催の報から、浮き足だった雰囲気と殺気だった雰囲気が混じりあったカオスな空気が、雄英高校全体に漂っている。

 その要因の一つが、

 

「「「小大さん!是非、俺·僕·私のパートナーになって下さい!!」」」

 

 我ら雄英高校一年ヒーロー科が誇る美少女、小大唯。彼女のパートナーを巡って、同科や他科、同期や先輩の垣根なく、飢えた狼共が争っているからである。中には、彼女がいるにも関わらず、隠してアタックする輩もいる始末。

 何故、こんなにもヒートアップしてしまったのかと言うと、こう言うのは可哀想だけど、砂藤君が原因である。

 決して二人っきりではないけども、昼食の席を共にしたり、図書室で料理本を見たり、下校時に隣り合っていたりと、親しげな様子を皆に見られ、正直イケメンという訳ではない砂藤君でアレなら、俺にもワンチャンと夢想する愚か者共がわんさか出てきたのだ。貴様ら有象無象が、砂藤君に敵う訳ないだろうに。

 それを理解せず、文字通り玉砕していった男子からの嫉妬。女子からの、意中の男子からのお誘いを受け、あまつさえ断った事への逆恨み。それが、唯一人に向けられているのである。

 え?肝心の砂藤君はって?勿論、初日で疲弊しきった唯の姿を見せて、パートナーになるよう説得したに決まってるでしょうが。もう、書類も提出させてあんのよ。それでも、俺ならって馬鹿がGの如く湧いて出てきてんのよ!!かっくんにも、焦凍にも、天喰先輩にも、ミリオ先輩にも挑めん雑魚共め。砂藤君のメンタルケアが無きゃ、唯はとっくのとうに不登校にでもなっとるわ、クソが!!

 

 

 

「という訳で、これを承認してください。相澤先生、ブラド先生、八木学年主任」

「小大唯争奪腕相撲大会···何だこれは」

「見ての通りです。二人の学校生活に支障が出ている現状を、一刻も早くどうにかしなければと、二人と相談の上、皆で考えました」

「スマナイ、おいそれと教師が口を出せる案件では無くてな、俺達も手を小招いていたんだ」

「いえ、で、どうでしょうか?」

「許可します。それと」

「何でしょう?」

「私達も噛ませなさい」

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

『レディースエーンドジェントルメーン!!これより、小大唯争奪腕相撲大会を開催するぜぇええ!!実況は俺、プレゼントマイクだ!!』

「審判は私、ミッドナイトが担当するわ。ルールは簡単、トーナメントを勝ち抜いた最後の一人が、小大唯ちゃんのパートナーとなる権利を与えられるわ。個性の使用は自由だけど、相手に危害を加える素振りを発見したら、即座に敗北よ」

「HA~HAHAHA!!私が、見届け人として呼ばれてきた!!この大会以降、いかな理由があろうとも、小大少女のパートナーは変更不可とする。もし、小大少女やそのパートナーに何かしたら、文化祭への参加自体不可、自宅謹慎となると覚えておくように」

「これは、校長のサインも貰った正式な物よ。抗議は受け付けないわ。そもそも、参加を表明する事自体、既に多大なマナー違反をしているのだから、そこを罰さないだけでも恩情と思いなさいな」

 

 二日後の放課後、スタジアムのど真ん中にセットされた腕相撲台。興味本位の観客に見下ろされ、威圧感を放つ教師陣を前に、自身が勝って唯とダンスを等と甘い妄想を抱いていた参加希望者の逆上せた頭を冷やしていく。

 その後ろ、ヒーロースーツ姿の砂藤君を始め、ヒーロー科一年の筋肉自慢+ミリオ先輩の威容もまた、参加希望者の心を後退りさせた。

 

「じゃあ、参加希望の方は前に出て、あの箱から番号の書かれたボールを一つ取り出して下さい」

 

 私が、オールマイトの持つ箱を指し示す。誰も来ない。皆、周りを見るばかり。後ろ側に居た者の数名は、旗色が悪いと思ってスタジアムから去る者も。

 そっちはそっちで、相澤先生とブラド先生を中心とした教師陣に学年と名前を控えられ、後日公開補習を言い渡されるのだけどね。

 

「ちくしょ~!!今更引き下がれるかよ!!」

 

 紫髪に見た事ある布を首に巻いた男子が、箱に向かって進み、やけくそ気味にボールを取り出して私に渡してくる。その人を皮切りに、もう後に引けないと勝手に思い込んで、続々と前に出てくるふにゃちん共。最初の一人が、こちらの仕込んだサクラだとも気付かずに。

 

「んで、俺は一回戦で砂藤に負けりゃいいんだよな?」

「うん、巻き込んじゃってごめんね、心操君」

「気にすんな、いずれ同科生になるんだからな」

 

 大分がっしりした体つきになった心操君。相澤先生への弟子入りを勝ち取って、時折訓練の相手に呼ばれたりしてたけど、洸汰君のお手紙でより一層気合いが入ったみたい。遅くとも三学期には、ヒーロー科に編入してくるかもって、相澤先生が溢してた。

 

「そういえば、心操君はパートナー探ししないの?」

「誘いたい子がいる訳じゃないからな。ダチと一緒に、飯でも食いに行く予定さ」

「···誰か紹介しようか?」

「魅力的な提案だけど、遠慮しとく。今は男の友情を優先するよ」

「ん、まぁ気が向いたら声かけてよ。今日は、協力してくれてありがとね」

「おう。お、そろそろ始まるな、行ってくるわ」

 

 そう言って、悲壮感漂う集団に戻っていく心操君。最早、彼らには勝つしか道が残されていない。負ければ、この先灰色の青春が待ってるのだから。

 そして、大虐殺が始まる。

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

「はぁ~、いったい何だったんだろうね」

「さぁね~、唯が魅力的なのは間違いない事実だけど、今回のアレは異常だったね」

「まぁ皆のお陰で、早期解決出来て良かったよ」

「だね~、唯と砂藤君も、これで少しは進展してくれると面白いんだけど」

「そこは、心配しなくてもいいんじゃない?」

 

 一佳の視線の先には、砂藤君の左腕をがっちり抱き締めて、楽しそうにレンタルドレスのカタログを見ている唯の姿がある。

 うん、眼福眼福。

 

「そういえば、一佳は誰とパーティーに行くの?」

「え?ああ、物間と行く予定」

「···お目付け役ですか」

「···普通に踊って終わればいいなぁ、と願ってる」

「···なるたけ、近付かないようにする」

「あの過剰な対抗心さえなければ、良い奴なんだけどなぁ」

「一佳、愚痴ならいつでも聞くから」

 

 遠い目をする一佳の肩に、優しく手を添える。

 彼女の恋は、まだ遠そうである。

 

 

 

 

 

 

 




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