「あ、焦凍と一緒のクラスだ。また三年間よろしく!」
「ああ、よろしく」
四月某日。
糊の効いた真新しい制服に身を包んだ私と焦凍は、聳え立つ雄英高校の校門をくぐった。生徒玄関前に張り出されたクラス表で自分の名前を探すと、1年A組の欄に二人の名前があった。
「いい、こういうのは最初が肝心なんだからね!」
「やっぱりやるのか」
「ふっふっふっ、まだ見ぬクラスメートよ!刮目せよ!!」
「聞いちゃいねぇし」
無駄に縦に長い教室の扉の前で一回深呼吸。心を研ぎ澄ませて、大きく息を吸い込み、扉に手を掛ける。
「おはよー、級友諸君!!私は八木雪花!!いずれはNo.1ヒーローになる者だ!!三年間、共に切磋琢磨しようではないか!!!」
こちらを向いて、シーンと静まり返る教室。よし、掴みはバッチリ。私は、自分の席を確認して悠々と歩いていく。ノリのいい子達が道中でよろしく~とかお前熱い奴だなとか声をかけてくれる。
因みに、焦凍は皆が私に注目している間に、そそくさと自分の席に向かって着席していた。
「おはようございます、八木さん。私、八百万百と申します。三年間、よろしくお願いしますわ」
「はいはーい、あたし芦戸三奈。よろしくね~」
「初日から飛ばしてるね。ウチは耳朗響香」
「葉隠透だよ~。今の内に、未来のNo.1にサイン貰っとこうかな~」
「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで」
窓際一番後ろの席に着くと、教室内にいた女子陣が集まって自己紹介してくれた。皆、華やかだねぇ。一人、何も見えないけど恐らく華やかだ。うん、絶対。
お互いの個性だったり、出身中学だったり、趣味だったり、好きな食べ物だったり、好きなプロヒーローだったりと、他愛の無い話で盛り上がる。
「君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者に申し訳ないとは思わないのかい!?」
「思わねーよ!てめぇ、どこ中だよ端役が!」
そんな和気藹々とした雰囲気をぶち壊す様に、言い争いの声が届く。
「何あれ」
「あの態度は、ヒーローとして如何と思いますわ」
皆、顔をしかめて言い争う二人を見る。注意してるのは、見るからに几帳面そうな四角眼鏡の男子。注意されてるのは、見覚えのあるツンツンヘアー。実技試験で一緒だった爆発君だ。ちゃんと合格出来てたんだ、ちょっと挨拶してこよーっと。
トガさん直伝の忍び歩きで、スススーっと爆発君の後ろに近付いて、しなだれかかる様に抱きついて彼の頬を優しく撫でる。そして、耳元に口を寄せて、
「元気ねぇ、爆発君。何か良い事でもあったの?」
ビックーンと固くなる爆発君。流石、マグ姐。こうすれば、思春期の男子なんてイチコロよって言ってたのは本当だったよ。
「な、て、てめぇ、クソ泥棒雪女」
「そんな乱暴な言葉、メッて言ったでしょう。私の名前は八木雪花。君の名前、教えて♥️」
「あ、ぐ、ぎ、うがあああ!!離れやがれ、クソ女!!!」
腕を振り乱して拘束から脱する爆発君。向かい合って睨み付けてくるけど、顔を真っ赤にしてカアイイなぁ~。口を寄せた方の耳をスッゴいゴシゴシしてる。やべぇ、私の内なるどSが産声を上げそう。
「お前ら、乳繰り合うなら他所でやれ。ここは学校だ」
次はどうしてやろうかと思案していると、無精髭を生やした不健康そうな顔色の中年男性が、寝袋に包まったままの状態で入り口の所に立っていた。どこからどう見ても不審者だけど、流石にその格好はどうかと思いますよ、イレイザーヘッドこと相澤先生。
「はい、皆が席に着くまで10秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね。担任の相澤消太です。よろしく」
急いで席に戻る間に、相澤先生は教卓について、寝袋を脱いで、本人は満面なつもりの不気味な笑みを浮かべて自己紹介する。あの笑み、子供が見たら泣くよ。
「早速だが、体操服来てグラウンドに出ろ」
何をほざきなさるかこのアングラヒーロー。白雲さんにチクるぞ。山田さんのラジオに、高校時代の恥ずかしエピソード送って読ますぞ。
「先生、式はどうするんですか?私、一応新入生代表挨拶の一人に指名されてるんですけど」
「気にするな。B組の方に、一人でやる様に伝えてある」
おいたわしや一佳ちゃん。頑張れ一佳ちゃん。今度、何か美味しい物でも差し入れするから。お金は、白雲さん経由で相澤先生に請求してやる。
「八木、何かしたら親に報告が行くからな」
「ぐ、はい先生」
という訳で、私らは教室で説明を受けている他クラスを横目に、校内地図とにらめっこしながら更衣室に向かった。
「そういえば、貴女だけ名前聞いてないよね。私八木雪花、よろしくね」
「あ、えと、ウチは麗日お茶子」
名前を聞いただけなのに、狼狽えて何故か頬を赤くする麗日さん。
「どうしたの?」
「いや~、教室入ったら目の前で凄い光景が広がっとって、どんな顔をすればいいやら」
「だよねー!何するのかと思ったら、八木さんスッゴい大胆!!」
「ねぇねぇ、どういう関係?どういう関係?!」
「彼氏···じゃないよね」
葉隠さん、芦戸さん、耳朗さんが詰め寄ってくる。八百万さんと梅雨ちゃんも、話には入ってこないけど耳をダンボにしている。
「実技試験の会場が一緒だっただけだよ。ちょろっと共闘してお邪魔ヴィランぶっ倒した位?彼、すんごいおちょくりがいがありそうなんだもん。さっきも良い反応してくれたし」
「男子をあんな風にからかうのは感心しないわ」
「そうですわ。もし怒って個性を使われたら、大怪我したかもしれませんわよ」
「大丈夫、そこら辺の見極めは鍛えられてるし得意だから。それより、早く行かないと、また先生に小言言われるよ」
先生をダシに戦略的撤退。脱いだ制服をロッカーに収めて更衣室を出る。
さぁて、入学式をブッチしてまで、相澤先生は何をするつもりなのかねぇ。次回を乞うご期待!!
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