水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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12. 秋月螢視は悪夢を見る(♡)

 

 

 

 ――『グレート♪ マジカルプリティ~♪』

 

 

 その日、市立真序中学の校舎中に、魔女っ子モノの女児向けアニメの主題歌が響き渡った。

 

 

 

「うおあ゛ァァァァァ――――――ッ!?!?!?!?」

 

 

 

 おれ――秋月螢視(あきづきけいじ)は、当時放送部に所属しており、その日の担当だった。

 中学の放送部なんて無法地帯も同然だ。リクエストがあればボカロ曲だろうがVtuberの曲だろうが平気で入れる。

 ――だがそれでも、その日の曲のチョイスには学校中が驚愕しただろう。毎週日曜日朝放送の女児向けアニメ、いわゆるニチアサ作品の主題歌が流れたのだ。

 

 しかしそれは、誰かがおふざけで入れた曲ではなかった。原因はほかでもない、このおれである。

 おれは男子でありながらニチアサアニメが大好きで、特に『マジカルプリティ』シリーズは、歴代のOP曲をスマホに入れてヘビロテするほどの大ファンだった。機材にスマホを接続した際、それが誤爆で流れてしまったのだ。

 みんなの空気も凍り付いただろうが、一番深刻だったのはおれ自身だった。誰にも知られたくなかった恥ずかしい趣味が、学校中にバレてしまう――その恐怖でパニックに陥ってしまった。

 

 

 

 

「ちょっと失礼っ!」

 

 

「!?」

 

 

『――ごめんなさい、ミスっちゃいました。CDを変えますので少々お待ちください』

 

 

 

 その時、一緒に放送室にいた後輩が操作盤に手を伸ばし、迷いなく音量のツマミを0にした。

 マイクに向かってそう言った時、校舎じゅうから爆笑が起こったのを覚えている。

 

 ……実際にはサブスクサービス全盛の今日日、放送で使う媒体はスマホかUSBメモリがほとんどだ。だがそんな細かい事情まで生徒は知らないので、なんとかそれでごまかせた。オレンジ色の髪をした(・・・・・・・・・・)二つ下の後輩は、苦笑いしてこちらを向く。

 

「あの、切って正解でした? めっちゃ慌ててましたね」

 

「……あ、ああ……。ありがとう水鏡。マジで助かった」

 

「はい。……でも、そんな真っ青になるほどのことなんですか?」

 

「真っ青になるほどのことだろ。終わったって思ったわ」

 

 一年生の水鏡(みかがみ)律季(りつき)

 彼のおかげで、おれの秘密がバレずに済んだのである。炎夏(ホノー)以外には絶対に知られたくないことだったので、本当に救われた。

 ただ……現場にいたこいつにだけは、ごまかしがきかない。

 

「お前も引くだろ? 中学三年になってニチアサ見てるなんて。男が見てるってだけでもアレなのに」

 

「そんなことないですよ!?」

 

「いや……そんなのいいって。気遣われると逆にヘコむわ。素直にキモイと言ってくれ」

 

「人の趣味をとやかく言う人の方が気持ち悪いじゃないですか。……それに、秋月先輩ぐらい頭のいい人が好きになるなら、面白いアニメってことでしょ?」

 

「……え」

 

「今度俺も観てみますよ。先輩と仲良くなりたいし」

 

 ――おれが律季と友達になったのは、これがきっかけだった。

 『今度俺も観てみますよ』というのも社交辞令ではなかった。なんと全シリーズ履修してまで話を合わせてくれたのだ。『秋月先輩を気持ち悪くないと思ってないのを、絶対に分かって欲しかった』と律季は言っていた。

 

「剣聖一心ムリ過ぎないですか?」

 

「見切りだけミスらないようにしとけ。第二を突破すりゃ八割勝てる」

 

「あー……一回だけ行ったんですけど、雷返し苦手なんですよねー。めっちゃビビっちゃって」

 

「霧がらす使えばノーダメで返せるだろ?」

 

「え、マジっすか」

 

 律季が転校するまでわずか二か月ほどの間だったが、いろいろな事を話した。

 昔から炎夏(ホノー)以外に友達がいなかったおれは、今思えば律季に若干依存していた。相当に重かったはずだが、あいつは嫌な顔ひとつしなかった。本当に根っこから性格が良い奴だった。

 

 だからこそ突然行方知れずになった時は心配だったし、高校の入学式で元気な顔を見た時は本当に安心したのだ。

 なぜ転校したのか――両親が事故に遭ったというのは、おれの憶測なのか事実なのか――が気になって、今までなんとなく声をかけづらかったが、そろそろいい頃だと思う。

 あいつにとっておれがどういう存在かは分からない。だがおれにとって、あいつは今も大切な親友だ。前のように話がしたい。

 

 

 

「――ん?」

 

 

 

 懐かしい過去の回想から、真っ暗な空間に出た。中学三年生だったころから、高校三年生の現在の自分へ「意識が戻った」のだ。

 あるいはこれが明晰夢というものか――そんなことを考えながら、俺はあてもなく歩き出した。

 

 

 

「――っ♡ ……やめ……♡ み……くん♡♡ 

 もう舐めないでっ♡♡ ペロペロされるのいやなのっ♡♡」

 

「!?」

 

「また心にもないことを言って。お体のほうは正直ですよ……?」

 

「いやぁっ♡ そんなことないぃ~~~っ♡♡」

 

 

 

 甘い声に驚いて振り向く。

 真っ暗闇の中に、ベッドがポツンと置かれていた。その上で二人の男女が絡み合っている。

 

「くくく……武器を奪われ、腕をつながれてちゃ、正義の魔女もかたなしですね。悔しいでしょう? 立派なお婿さんのためにとっておいた清らかなお体が、大嫌いな悪者にむさぼられていますよ……?」

 

「ゆ、許さないわっ! 絶対こらしめてあげる……!! 最後に勝つのは正義なんだからっ!!」

 

「最後に勝つ……では、困るんじゃないですか? 今抵抗できなきゃ、取り返しのつかないことになっちゃいますよー……♪」

 

「――り、律季? お前なにして……! というかどういう立場なんだそれは!?」

 

 赤い魔法少女衣装に身を包み、手錠で腕を上げさせられた炎夏(ホノー)

 悪役然とした黒いマントで全身を覆った律季が、彼女の腋をペロペロとなめていた。

 

「さあて、そろそろメインディッシュと行きますよ……覚悟はいいですか、先輩?」

 

「やだっ♡ 君におっぱい揉ませるなんて絶対いやだもんっ♡」

 

「大丈夫、今は嫌でも、すぐに気持ちよくなりますからね……」

 

「いやっ! いやあああああああっ! 水鏡くんの変態! けだものぉぉぉっ!♡♡」

 

 

 

 

 

 

「――や、やめろぉっ!!」

 

 

 

 ……伸ばした手は、白い天井を向いていた。

 自分の部屋のベッド。時計は六時。どうやら、ずいぶんと頭の悪い夢を見たらしい。

 

「……くそっ、なんて寝覚めの悪い……二度寝する気にもなれねえな」

 

 中途半端な時間に起きてしまったこともそうだが、なによりもこんな夢を見てしまった自分自身に苛立つ。

 いやらしい事が嫌いな炎夏(ホノー)の、あられもない姿を想像してしまうなんて。あの優しい律季を悪者に据えてしまうなんて。

 

 自分の頭がどんな風に働いて、親友二人であんな場面を想像してしまったのかわからなかった。

 興奮などするわけがない。己の脳みそに対して困惑するなんて初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 ――だがおれは、その次の夜もまた奇妙な夢を見ることになった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、水鏡くん♡ おっぱい触って♡ 君に触られまくったせいで、ずっとキュンキュンってして……もう、たまらないの♡」

 

「はいはい……まったく、しょうがない淫乱魔女さんですね」

 

「君のせいでしょー♡ 私の彼氏なんだから、責任取ってよー♡」

 

「もちろんです。ほら、来てください」

 

「あぁんっ♡」

 

 巫女衣装の炎夏が、己よりずっと背丈の低い律季に絡みつき、胸をこすりつけて媚びている――その光景を、二人の後ろからおれは見ていた。真っ暗な空から伸びた鎖に両手をつながれ、身動きできない。

 

「前回から何があったんだよ!? 待てよ、二人で何する気だ!?」

 

「……なによ? けーちゃんには関係ないでしょー……?」

 

「!!」

 

 振り向いた炎夏の一言に、おれは自分自身でも信じられないほど深刻に傷ついた。鎖がなければ胸の辺りをかきむしっていただろう。

 『けーちゃん』とは幼いころ、炎夏がおれを呼ぶときに使っていたあだ名だ。おれにとって人生で一番大事な思い出を象徴する言葉なのだ。それに炎夏が、おれのことを拒絶するなんて――事情を聞くことさえ許してくれないなんて。

 

 律季が炎夏を引っ張っていき、天蓋付きのベッドに二人で上がる。

 やがてカーテンを透かして、律季にまたがった炎夏が、胸を触られてよがるシルエットが見えた。夢の中にいるせいか、目を閉じられない。

 

 

 

(やめてくれ、こんなの見たくない……!! 早く起きてくれおれの体……!!)

 

 

 

 ――なぜおれは、こんな夢を二回も続けて見たのだろう?

 夢だと頭では分かっているのに、どうしてこんなに目の前の光景に焦るのだ?

 

 ……いやそもそも、こんな苦しい気持ちになるのはなぜだ?

 おれにとって炎夏は、ただのトモダチのはずなのに――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――思えば、今までにもちょっとした違和感はあった。炎夏と律季の関係性について。

 あの『おっぱい揉みたい』事件で、炎夏はわりと思い詰めた声色でおれに相談してきた。だがなぜか翌日にはすっかり機嫌を取り戻して、律季と話しているところを見かけた。

 仲直りできたのはいい事だと思う。しかし問題は、いつ仲直りしたのか――そしてあれ以降、炎夏が律季のことを一言も話題にしないのはなぜか……だ。

 

『結局お前らって仲直りできたの?』

 

『あー……ちょっとね……』

 

 と、直接訊いてもなぜか口をにごしていた。

 いつもめんどくさいぐらいお喋りな炎夏がだ。こんなことは初めてである。

 

 告白されまくることへのグチや、進路選びの不安といった、他人には決して言わないことを、炎夏はいつもおれに相談してきた。

 それがいまさら隠しごとをするのは少し不自然だ。まあ言うも言わないも本来は炎夏の勝手なのだが、おれは妙に寂しかった。

 

 今までは、なんでも話してくれたのに……そう思ってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――学校、朝。

 おれは炎夏の隣の机で、ぐったりと突っ伏していた。両手には、某国立大の医学部の赤本。今はまだ三年の五月の暮れだが、医学部志望の受験生にとってはそれなりに切羽詰まって来る時期である。にもかかわらず、昨晩から勉強がまったく手についていなかった。

 

「どしたの螢視(ケージ)。元気ないね」

 

「寝不足だ」

 

「それはいつもの事じゃん。ほかになんかあったでしょ」

 

 なにかあったのか、と聞きたいのはこちらの方なのだ。あの満月の夜になにがあったのか、炎夏が話してくれればそれで済む。

 いや、どんな事が起こったかは正直どうでもいい。内容が問題なのではなく、話してくれない(・・・・・・・)ことがひっかかっているのだから。

 

「てか、一日ぐらい休んで寝たらいいじゃない。そのうちぶっ倒れちゃうわよ」

 

「ぶっ倒れた時にまとめて休む。それが一番効率が良いだろ」

 

「もう……」

 

 ただ、それでも炎夏と一緒にいることに居心地の悪さを覚えたりはしない。

 逆に一人になるといろいろ考えてしまうので、こっちのほうが圧倒的に落ち着く。こいつの顔を見ると無条件に安心する体質なのだ。

 炎夏と会わずに家で寝ていたりしたら、その方が体調を崩すだろう。一日こいつに会わずに過ごすのは、一日酸素を吸えないのと同じだ。確実に窒息死する。

 

「――えー、今日は転校生を紹介する」

 

「!?」

 

「……はっ?」

 

 教室に入って来た担任の言葉が、二秒ぐらい理解できなかった。

 転校生……? 三年のこんな時期に? しかも今まで何の予告もなかったのに。不可解な事態に教室中がざわめき――

 

 

 

 

「――『ピカッとするやつ』ッ」

 

 

 

 前の扉から、『転校生』二人が教室に足を踏み入れた時、全員が静かになった。

 笑みを張り付けた表情で拍手をして、彼等を歓迎する。だが俺と炎夏は、他の生徒とは異なる心境で二人を迎えた。

 

 ――コーヒー色の髪をボブカットにした小柄な少女と、ガタイのいい銀髪赤目の少年。間違えようのない容貌をした、その二人組を。

 

 

 

「神瀬勇真。趣味でマンガ描きをやってます」

 

「朝霧漣。……同じく、マンガを描く事が趣味だ」

 

 

 

「……あなたたちは……!!」

 

「ホントかよお前ら! 今日からここに来たのか!?」

 

「――っ!?」

 

 

 

 眠気が吹っ飛ぶ驚きだった。中学時代の友人二人(・・・・・・・・・)との、突然の再会だったのだ。

 喜ぶおれを見てなにやら戸惑う炎夏に、ユウマがニヤリと笑いかける。

 

「……ヘタな動きはするな。前と同じく、キミのお友達を人質に取った。前回と違うのは、彼にボクを昔からの友達だと思い込ませたことだ。ここにいる四人とも、昔から面識があることにしてある。

 話がかみ合わない場合、秋月螢視はボクではなくキミの方を不審がるぞ……せいぜいうまく合わせることだ」

 

「――く……! ひ、久しぶりね……ユウマさん」

 

「え、なんでさん付け?」

 

「……ははは、いい気味だ」

 

 口だけは笑っているが、目と眉は苦虫かみつぶしたような感じ。そんな妙な表情で、炎夏はユウマの握手に応じた。

 せっかく友達と会えたのに素直に喜ばないなんて――本当に、炎夏はどうしたのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――乳、よせまっせ~♡」

 

「……?」

 

(………………古い。というかマニアックすぎる)

 

 開口一番レイン先生が奇行に走る。律季くんが完全にポカーンとなっていた。アホ毛が「?」になっている。

 ――多分それ、実際におっぱいがある人のやるギャグじゃない。

 

「……乳、よせまっせ~♡」

 

「……???」

 

「むう、ウケぬか」

 

「……それを見せるために俺を呼んだんですか?」

 

「んなわけないでしょ」

 

「神瀬ユウマと朝霧レンが、炎夏のクラスに転入してきたのじゃ。お得意の暗示魔法を使い、自分たちが秋月螢視の旧友だと思い込ませた上でな」

 

「はぁぁっ!?」

 

「わしも少し調べてみたが、周到にも偽の書類まで用意してあった。どうも隣町の高校から編入したことになっておるようじゃ。――その目的は、おそらく偵察と推測される」

 

 なぜそんな重要なことを先に言わない――という、レイン先生への困惑が勝っているようだが、律季くんは深呼吸して気を取り直した。

 

「……だとしたら、なんでわざわざ顔なんか出すんでしょう? 隠れながら探ったほうがよさそうなもんですが」

 

「おぬしらを見ているぞ、という威嚇。そして曲がりなりにも同じ高校の生徒としての立場を用意することで、自分たちを容易に排除できないようにするためじゃろう。律季の勘の良さなら、コソコソ隠れても見破るじゃろうからな。

 ――しかしきなくさいのは、ユウマとレンほどの魔法使いが偵察役どまりという点じゃ。これは、ほぼ確実に別の魔法使いが裏で指示を出しておる。ユウマより強さも階級も上の者がな。しかも原則から考えると、そいつらも二人組(バディ)じゃろう」

 

「じゃあ三対四ですか……?」

 

「わしは頭数に入れられん。おぬしと炎夏で、二対四じゃ。……それで済めばまだ良い方じゃぞ。敵はもっと多い可能性もある。

 一度敗れたユウマたちが罰されていないあたり、教国は最初からこうするつもりだったのかもしれぬな。一回目の襲撃はあくまで『試し』……相手の能力を裸にしてから、本命の攻撃をかける手筈。まんまとしてやられたわけじゃ」

 

「――すみません。そこまでは考えが及びませんでした」

 

「いや当たり前でしょ。そこまでわかったら人間じゃないわ」

 

「どっちみち、あの時点では全力を出す以外の選択肢はなかった。あそこで負けておればそのまま連行されておったに違いないのじゃ。おぬしらは最善を尽くしたよ。

 ――しかし、神瀬ユウマは気の毒じゃのう。やられるだけならまだしも、『おっぱい揉んだら掌が燃えて強くなった』などと、大まじめに報告書に書かねばならなかったとは……さぞ恥ずかしかったじゃろうな」

 

「……ええ。さっき本人に恨み節を言われました」

 

 冗談めかしてはいたが、目が一切笑ってなかった。ユウマという女の子は、見た目こそちっちゃくてかわいい系だが、めちゃくちゃプライドが高い。敵味方以上に、根っこの部分で剣呑な性格をしている。

 まあ恨まれるのも無理はないが――ぶっちゃけ理不尽だ。文句を言うなら律季くんに言ってほしい。誰よりも恥ずかしかったのは人前でおっぱいを揉まれた私なのに。

 

「わざわざ秋月螢視の友人役におさまった点は、炎夏への個人的な嫌がらせに過ぎないと思うが……こうなると、おちおち特訓もしておれんな。たとえば新技を開発してるところを見られたら、戦う前から対策を立てられてしまう」

 

「派手な技の練習は控えるべきですね。今は地味な基礎鍛錬に徹するしかありません。いまの律季くんには、そっちの方が大切だと思います」

 

「確かにな。『生本能の拳(リビドーナックル)』は、本人のフィジカルが大切な能力じゃ。筋トレをしたり体をやわらかくするだけでも、十分効果はあるはずじゃ。

 ――ただ……やれることはそれだけではなかろう? わしはなにも、報告のためだけにおぬしらを保健室に呼んだわけではないのじゃからな。

 

 

 

 ――ほれ、念力(サイコキネシス)っ!!」

 

 

 

 ぶちっ――どゆんっっっ♡♡!!

 

 

 

「なぁッ!?」

 

「ひゃぁぁぁぁっ!?」

 

 レイン先生が杖を振って、私の背中にあるブラのホックを外した。

 締め付けから解放されたおっぱいが、制服の中で小さく爆発する。ひとまわりほど膨らんだ胸囲を慌てて抑えた。

 

「もぉぉぉ! またこの展開だわ……!!」

 

「ほれっ、わしも~♡」(ぶちっ♡ どゆんっっっ♡♡!!)

 

 レイン先生は自分の胸に向けて、こともなげに同じことを行う。そして白衣のボタンを二つほど開けて、巨大なブラジャーを服の中からしゅるしゅると抜きだした。

 布越しでも明らかに質感が生々しいノーブラ爆乳を、律季くんは鼻の下を伸ばして見比べている。

 

「ふおおおお……! す、すげー……」

 

「『今日はどっちにしようかなぁ~?』みたいな目をするな! もうすっかりその気!?」

 

「えいやー♡ 喰らえ律季っ♡」

 

「うぐぉっ!?♥♥」

 

 律季くんの頭をすっぽりと包み込むほどの、巨大なブラジャーカップ。わずかに汗のたまったそれを顔面に叩きつけられ、律季くんはベッドに倒れ込んだ。

 

「これがホントの顔面パイ(・・)……なんちって♡ 

 そのまま動かず、わしのデカチチスメルだけで呼吸せよ♡ ニ分経たないうちに離したら、もう片方を押し付けてやるからのう……♡」

 

「う、うれしいですけど……死ぬほどうれしいですけど! 今はこんなことしてる場合じゃ……!」

 

「何を言うか。むしろ危機が差し迫っているこの時こそ、おぬしは女とイチャコラするべきであろうが……♡ 

 いいからわしのブラを満喫せんか♡ さっきまでナマ肌に密着してた脱ぎたて下着に、たんまり染みついた下乳エキス……ペロペロしたいじゃろ?♡ でっかいおっぱいを支えるために、分厚い布地をしてるから……中でなにしてもバレないぞ♡

 あ、でもあんまりよだれだらけにしてくれるなよ? ……それが使えないと、わし昼からノーブラになってしまうから……♡♡」

 

「……あ。ひょっとして、またアレですか? 『性的興奮による魔力回路の拡張』ってやつ……」

 

「その通りじゃ。敵に監視されていても、これなら訓練であることがバレぬ。あくまで健全な異性交遊のふりをして、魔力を高めることができるのじゃ。完璧な作戦じゃろ♡」

 

「いやまあ、健全かどうかは知りませんけど」

 

「これからはわずかな時をも無駄にできぬ。朝晩はトレーニングをするとして、監視される学校でのスキマ時間は、ここでおっぱい奉仕を受けてもらうとしよう……♡」

 

 おっぱいフェロモンで痙攣する律季くんの体が、ひと際ビクリとする。

 それはつまり――律季くんはこれから暇さえあれば、レイン先生と私に大義名分ありの公認セクハラができるということだ。

 四六時中おっぱい触り放題のハーレム学校生活――それは男子にとって究極の夢だろう。(そんなことが分かってしまう自分が悲しい。確実に毒されてきている……)

 

「わしら二人、谷間を広げて待っとるぞ……♡ サボったらおっぱいでおしおきじゃからな~♡

 律季のエッチは勝利のため♡ 律季のエッチは正義のため♡ エッチしないのは悪じゃ♡」

 

「……し、仕方ないわよね♡ 勝つためだもん……♡ 

 ――ねっ、律季くん♡ せっかくだし、今日はこのままおっぱい触ってみよっか♡ 服の中に直接手を突っ込んで、ノーブラ生乳まさぐり放題♡ 律季くん、絶対そういうのも好きでしょ~……♡」

 

「……おい炎夏? おぬし今、別に発情しておらんはずでは……。

 まぁよい♡ 今日はそういう趣向でいくとしよう……♡」

 

「……よろしく、お願いしますぅ……♥」

 

「「は~い♡♡」」

 

 

 

 

 ――『むぎゅ~~っ♡♡ ぎゅむ~~っ♡♡ ぱふぱふぱふぱふ……♡♡』

 

 

 

 

 この町を守るフリーメイガスの魔法使いたちにとって、保健室のベッドの上が秘密基地である。

 ――律季くんに私たちのおっぱいを押し付けて喜ばせてあげるのも、みんなを守るために必要なことなのだろう。……たぶん。

 

 

 

 

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