水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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14. ヒロインの親友は物語に入れない

 

 

 物心ついたときには魔法が使えた。

 声を出したり息をしたりするために、具体的な方法を人は意識しない。己の意思で生み出して操る炎は、私にとって自分の体の一部であり、それを生得していることに違和感を覚えたことはなかった。

 しかし私は自分が他の人たちと違うことを自覚し、賢明にもこの『力』をまわりに言いふらすことはしなかった。たとえそれが両親であっても。

 ただ一人螢視(ケージ)だけがこの秘密を知っていた。もはやいつそれを教えたのかも記憶にない。記憶にあるのは――私が魔法を使う時には、いつも彼が傍らにいたという事実だけ。

 

「――ぎゃああッ! あちちちっ!?」

 

 当時の私は愚かで、ところかまわず魔法を濫用した。

 いじめの現場や度を越したいたずらを見ると、必ず火を使ってその犯人を自ら制裁した。と言っても、七歳やそこらの子供の行動範囲なんて知れたものだったから、見かけるのは小学生か幼稚園児だけだったが。

 車道を挟んだ歩道の向こう側、うなじに小さな火がついて慌てふためくいじめっ子を、私たちは二人で見ていた。走行する車の音とセミの音が私たちを二人きりにしていた。

 

「ありがと、炎夏(ホノー)。おれ一人じゃなんにもできなかったからさ」

 

「けーちゃんが教えてくれたからよ。ま、今回はこのぐらいで許すけど……次キョーコちゃんをいじめたら、あいつらをカチカチ山のタヌキさんにするわ」

 

「怖いよ」

 

 私は思いあがっていた。神社の跡継ぎに生まれた魔法使いだから、自分を神様の使いだとでも思っていたのか――でなければ、『アレ』にでもなりたかったのか。

 

 

 

「――変身っ! マジカルクリムゾン!!」

 

「わああああ……!!」

 

「ふふーん」

 

 

 

 他の人の前では慎んだが、螢視と二人だけの時は惜しみなく魔法を使った。

 その極めつけが『魔法少女ごっこ』だ。当時私たちがハマっていたニチアサアニメの主人公『マジカルクリムゾン』は、炎属性の魔法少女。

 その変身バンクを再現するのがマイブームだった。炎で飾った子供向けのコスプレ衣装は、私たちの目にはテレビの中と同じ輝きを放っているように見えた。本気でキャラクターになりきって、怪人役の螢視と戦闘ごっこをする……そんなことを毎日のように続けていた。

 

 今考えてみれば火遊び以外の何物でもなかったが、それでも楽しかった。

 私たちは純粋でいられた。それがどれほど危険なものか知ることもなく、この『力』を、幼い日の思い出にできるはずだった。

 

 

 

「――ちょっと! なにしてるんですか! やめてください……!」

 

「$%&#?」

 

 

 

 転機になったのは、八歳の夏。

 いつものように螢視と神社で遊んでいたら、観光客らしい三人の屈強な外国人男性が、ゲラゲラ笑いながら境内に入って来たのだ。まだ昼間なのに全員顔が真っ赤になるまで飲んでおり、酒瓶片手にご神木を囲む柵の中まで侵入していく有様だった。

 

「おい! 立ち入り禁止だってわからないのか! 英語で書いてあるだろ!」

 

「……+¥#>!」

 

 ご神木によりかかって、三人で写真を撮ろうとする外国人たちに、螢視はいきりたって向かっていった。

 止める間もなかった。観光客の一人が空瓶をつかんで、螢視が言い終わるよりも早く投げつけたのだ。

 

「――うあっ!?」

 

「な……!」

 

「う……う」

 

 瓶が額に直撃し、螢視が真っ赤な血を流す。

 その様を見た外国人たちの笑い声を聞いた瞬間――私の中で何かが切れた。

 

 

 

 

 気づいた時には、人型の燃えカスが三つ、足元に転がっていた。

 うめき声すら挙げず失神した三人と、遠くから聞こえる救急車のサイレン――そして私を見上げる螢視の、これ以上ないというほど恐怖に見開かれた、三白眼ぎみの両目。

 

 幸い死者も出なければ火事にもならなかったので、怪現象として話題になる程度でおさまった。場所が神社の境内ということで、「不届き者を神が裁いた」と解釈されたのも幸運だった。大事にはならずにすんだのだ。

 ――だが私にとってこれは、怒りに身を任せた結果、親友を怖がらせてしまった忌まわしい記憶に他ならない。

 

 

 

 あの顔がいまだに焼き付いている。私が思うままに炎を振るえなくなったのは、あの時からだ。

 そして今――再び私の『魔法』が、螢視の安全を脅かしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――秋月先輩と、しばらく距離を置く……?」

 

「ええ」

 

 目を離した間に、いつのまにか神瀬さんたちは居なくなっていた。

 そのあとも夜明けまで訓練は続ける。教国の魔法使いが明日にも戦いを仕掛けて来るかもしれず、一秒が惜しい状況だ。

 

 二時間ほどで力を使い果たし、くたくたになって倒れた律季くんに、私はぽつりとそう言った。

 ――お疲れの彼にひざまくらをしながら。いやまあ、決して自分から望んだわけではないのだけど……ここにレイン先生がいたら、そうしろと言うに違いないので。

 

「なんでですか」

 

 おっぱいに遮られて律季くんの顔が見えない。

 なんというか、胸の谷間から声だけ出てきているような感じだ。

 

「魔法使いは生きているだけでも周囲を巻き込み、災いをもたらす……認めたくないけれど、神瀬さんの言った通りかもしれないわ。

 螢視(ケージ)が今人質にされているのは、あいつが私の友達で、人質にする価値があるから……。絶交したってことにして、彼を危険にさらさないようにしたいの」

 

「……お気持ちはわかりますが、今更そんなことしてもダメだと思いますよ。もうとっくに敵は……」

 

「今回だけの話をしてるんじゃないわ。仮にこの襲撃をかわせたとしても、きっと敵は私たちを狙い続ける……。安全になるのがいつかなんてわからない。それに勝てば勝つほど私たちの重要度は上がる。だったら螢視(ケージ)を遠ざけるのはできるだけ早いほうが良いわ。

 本来魔法使いである事は誰にも教えちゃいけないことなの。それを、幼馴染の友達だからというだけで、今まで螢視(ケージ)に甘えてしまった。その結果、今こんなことになっている。すべて私の責任だわ」

 

「……じゃあ、事情も説明できないじゃないですか。明日会っていきなり『もう口きかないで』って言うんですか?」

 

「もちろん、やむをえない事情があって……という説明はするわ。ただ――次いつ話せるかはわからない。ちょっとでも危険を遠ざけるためには、私が口をきかないようにするしかないからね。

 螢視(ケージ)はお医者さんになる夢がある。医大に行くために、受験勉強もバイトもしなくちゃいけない。今の時期に迷惑はかけられないの。一時的に傷つけることになっても、それよりはまだマシだと思う」

 

 考えてみれば、私はこれまで螢視に依存しすぎていた節がある。困った事や相談したいことは親よりまずあいつに話していたぐらいだ。

 多忙な毎日を送る螢視は、表面には出さなかったけど、うっとうしく思っていたのかもしれない。私の甘えを断ち切るにはいい機会だ。どうせ高校を卒業したら毎日は会わなくなるんだし、いつまでもべったりしているわけにいかないのだから。

 

「……俺は、反対です」

 

「え……?」

 

「そんな露骨なマネしたら逆効果になると思いますよ。昨日まで仲良かったのに急に絶交するなんて不自然だし、すぐに意図が知れちゃいます。そうまでして守りたい存在なんだって、俺が敵なら解釈しますよ。そうなったらただただ先輩を傷つけるだけです。

 仮に秋月先輩が除外されたって、炎夏さんの友達はいっぱいいるんですから、そこから新しく人質を見つけられると思いますし」

 

「――う」

 

 こうも強硬な態度を律季くんが見せるのは初めてだが――ぐうの音も出ない正論だ。

 私の友達というより、究極的には学校の全員が人質のようなものなのだ。誰が害されても見捨てるわけにいかない。

 目を回すほどぐったりしていても、言葉は冷静そのもの……正直、頭のつくりが違うと痛感させられてしまう。

 

「あと……教国側の意図とかは別として、炎夏さんが秋月先輩と切れるのは、単純にやばい気がします」

 

「……何がよ?」

 

「わかりません。でも……なんか、ものすごく嫌な感じがするんです。

 炎夏さんだってやりたくてやるわけじゃないでしょう? だったらいっそ……」

 

「――うん。私も律季くんの言う事が正しいと思う……。でも、私の気持ちは変わらない。

 一緒にいたら立場を危なくすると分かっていて、のうのうと友達面するなんて耐えられない。とにかく次の戦いを乗り切るまでは、螢視(ケージ)とは話さないつもり」

 

「……」

 

「……ごめん。自分のことばかり言ってるわね」

 

 大好きな爆乳が目の前にあるのに、律季くんは微動だにしない。

 あくまでも納得いかないといった風に、ずっと考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――翌日――

 

 

 

 

 精神がぶっ壊れている奴は、外見ではそうとわからない。いつも以上に普通通りふるまう(・・・・・・・・・・・・・・)

 この日、秋月螢視と炎夏は互いに口をきかなかった。近すぎる関係性だから話すこともないのかな、とも思ったが、参考書を読む螢視の目の焦点が合っていなかったことで、ボクらは異変に気づいた。

 ページを半分めくったまま手を止めたり、口を小さく開けて1点を見つめたり、完全に上の空である。今日一日螢視はそんな調子だった。注視しなければわからない、しかし明らかな変調だった。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ――ズーン。

 

 そして炎夏が昼休みに教室から出ていった瞬間、ノータイムで机に突っ伏すのだ。落ち込んでいるというよりも、人形の繰り糸が切れたような印象がある。炎夏の存在によって意識を保っているとでもいうのか……。

 しかし、受験勉強とバイトの二足のわらじでも一切動じていなかった螢視がこのザマとは、よほどの事が起こったらしい。

 

「どうしたの?」

 

「……炎夏(ホノー)に、しばらく距離を置こうって言われた。詳しくは話せないけど、今は自分に近づくだけでも危険な状況なんだって……」

 

 ……あー、やっぱりそうきたか。ボクもレンも、すぐピーンときた。

 炎夏は根明の陽キャに見えて、かなり自罰的というか、自分一人で抱え込みがちなところがある。すでに一度は螢視を巻き込んでいる以上、いつかそうすると思った。螢視を遠ざけることに危険を回避する効果が実際あるかは置いといて、単純に螢視を巻き込む罪悪感に耐えられなかったのだろう。

 螢視からその事情を聞きだせたのは、事前にボクらを「炎夏と同じ魔法使いの友達」と思わせておいた賜物だ。ニヤリとした笑みがボクの頬に上る。

 

「炎夏もひどいなあ。事情も知らせず一方的に絶交なんて」

 

「意地悪な言い方すんなよ。あいつは悪くねえ」

 

「だが、実際のとこ辛いんだろ? 誰に非があるとかは置いても」

 

「……まあな。本音を言うなら、苦しいよ。あいつにとって一番辛い時に、なんにも力になってやれないことが悔しい。この肝心な時に蚊帳の外なのかっていう思いもある。

 危機が迫っているってこと自体は正直怖くない。炎夏(ホノー)に罪悪感を抱えさせるのが嫌なだけで、おれ自身は危険に巻き込まれても構わないと思ってるよ。あいつに比べりゃおれの命なんてどうでもいい」

 

「「――!?」」

 

 おいおい……という空気がボクとレンの間に流れる。

 普通の優等生だと思っていたのに、こんなくっそ重い感情を隠し持っていたのか。軽い気持ちで言っていないことは見ればわかる。完全に本気で言っていた。自分が異常なことを言っているということすら、自覚できていない表情だ。

 

「だが、おれが首を突っ込んだって足手まといになるだけだ。……文句を言う権利もねえよ」

 

「……だったら役に立てるようになればいいだろう? 炎夏の」

 

「――え?」

 

「螢視が苦しんでいる原因はひとつ。単に魔法が使えないということだけだ。キミに行動する意志があるのなら、ボクはそれを叶えてあげられる。無力を嘆く必要はない」

 

 だがどうあれ、事はおおむねボクらの思惑通りにいっている。

 ボクは螢視の机に腰を上げて、杖で彼の手をつついた。

 

 

 

「キミも魔法使いになれよ。ボクが機会をくれてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――次の戦いは、悪の爪(マーレブランケ)が同行する。

 勝って当然の戦であり、たとえそれで律季たちを捕えてもボクらの功績にはつながらない。ボクらが一度敗れた分の失点を取り返すためには、自分たちだけでなにか手柄を立てる必要があるのだ。

 

 だから螢視を引き入れる。言葉巧みに誘惑して、こちらの陣営の魔法使いにする。

 律季たちを捕えるのは簡単だ。だがそれでも、捕えた後(・・・・)抵抗される恐れはある。だから螢視を洗脳してこちらの味方にし、律季たちを大人しくつないでおく首環の役割を担ってもらう。――これが、ボクらの考えた策だった。

 

 ……正直ボク自身、螢視のことはいいやつだと思っている。

 任務が終わったら別れてしまうのが惜しいから、連れて帰ってしまいたい――そんな個人的な思いもなくはなかった。

 

 

 

「……おれを魔法使いにするって、具体的にどうするんだ? おれはお前らと違って才能がない。炎夏(ホノー)と一緒に育ったのに、うんともすんとも言わないんだぞ」

 

「焦らないで。部屋に行ったらゆっくり話すよ――さ、開けて」

 

「あ、あぁ……わかった」

 

 

 

 今、ボクとレンは螢視の家の前に来ている。

 天道神社を見下ろす位置にあるこぎれいな住宅だ。すでに友達として何度も来ているという設定なので遠慮はしない。第一、他人の家に忍び入るなんてなれっこだ。

 

「あれ……誰もいねぇのか?」

 

「父さんたちは仕事に出てる。何日かに一回しか帰らない。……言わなかったっけ?」

 

「あ、あぁ……忘れてた」

 

「――? おい、なんで突っ立ってんだ。ジュース取って来るから、部屋入ってていいよ」

 

「えっ……えーと」

 

「そう? 悪いね」

 

 ボロ出しまくりなレンに、ボクは業を煮やした。

 部屋が分からないぐらいで動揺するやつがあるか。螢視が冷蔵庫を開けてる間に片っ端からのぞいていけば、目星ぐらいはつくだろう。

 

「――なるほど、ここか」

 

「遠慮なく人を入れるだけあるね。めっちゃ片付いてる……男子高校生の部屋とは思えない」

 

 両親と一人っ子の家庭である。間取りはなんとなく見当がつくし、外から見た時に炎夏と話すための糸電話が二階から伸びていたので、螢視の部屋はすぐに見つかった。

 

 ……しかし内装は、どことなく異様さが漂っている。

 なんというか、真っさらなのだ。勉強机と、テレビと、ベッドと、本棚と、カーペット。インテリアらしいインテリアはそれぐらいしかない。どれもこれも単色で、飾りっけが皆無だ。

 受験生らしく、机には参考書やノートがうずたかく積み上がっているが――異彩を放っているのは本棚だ。参考書や漫画がギッシリ詰まっているのはともかく、上の方の段にはなぜかニチアサの魔法少女のフィギュアがポーズを決めて並んでおり、一番上には年季の入ったファイルがひとつだけ立てかけられていた。「2011/1」「2011/2」とフセンがびっしり並び、表紙には買った当時のものらしい「スクラップブック」というラベルが、はがさずにそのままになっている。

 

「……武装錬金に、月光条例に、沈黙の艦隊に……うお、ハーメルンのバイオリン弾きまで!? ――ウーム、実にいい趣味をしている……」

 

「物色すんな。ストレートに行儀が悪い」

 

 超メジャーどころではないが推しの漫画がいくつも並んでいるのを見て、レンは若干感激すらしている。

 だが、なぜだろう……。ボクにはこの本棚がやけに不気味だ。一見すると普通のオタク学生の本棚でしかないのに、部屋の中でこれにだけ妙な存在感がある。どことなく「祭壇」に近い印象さえ受けるのだ。

 

「オレンジジュースでいいか?」

 

「ありがとう」

 

「……で、本題に入るが……どうするつもりだ? そもそもユウマはどうしてそんな力があるんだ。人を魔法使いに変えるなんて……」

 

「そうだねえ……。話の流れがあるから、まずボクの質問から答えてもらおうかな。

 ――螢視。なぜ炎夏はキミを遠ざけたと思う?」

 

「は? なぜも何も、話した通りだろ。狙われてる身だから関わったら危ないって、おれの安全に気を遣ってくれたんだ」

 

「違う。それは結果的にそうなったに過ぎない。いいか……炎夏がキミに頼らなくなったのは、律季がいるからだ。あいつの存在があるせいで、炎夏はキミの力を必要としなくなったんだ」

 

「頼らないのと、俺を心配するのは別問題だろ。第一……あいつと違って、おれには何もできんし」

 

 誘導に全く乗らない。寝不足でメンタルボロボロのくせに冷静だ。暗示を使って思考能力を落としているのに、地頭のよさだけで抗っている。

 だが最初から理屈で説き伏せようなどとは思っていない――ちょっとでも心が揺らげばそれでいい。それが洗脳の糸口になる。

 

あいつと違って(・・・・・・・)? ――じゃあもう気づいてるんだね。律季が魔法使いだってことは」

 

「ああ。……あいつが、炎夏(ホノー)のバディってやつなんだろ? 前の満月の時から様子がおかしかったからな……なんとなく察しはついてたよ。

 それを知ってるならユウマにもわかるだろ。おれが何かする余地なんかもうないって」

 

「キミは先を越されたにすぎない。もし律季が魔法使いとして覚醒していなかったら……いや、そもそもこの学校にあいつが来なかったら、今頃バディとして炎夏の隣にいたのは螢視だったはずだ」

 

「……!?」

 

 よし――ようやく少し動揺が見えた。

 サバサバを気取っているが毎日毎日あれだけベッタリだったんだ。恋愛感情であれ友愛であれ、炎夏に対して独占欲を持っていないはずがない。彼女と同じ魔法使いになりたいと、思っていたに違いないのだ。

 螢視が冷静なのは、魔法使いになれる可能性をあきらめているからでもあるんだろう。胸にしまいこんだ希望をうまくくすぐって、再燃させることができれば、きっと――

 

「螢視はさっき、自分には魔法の才能がないと言ったね。だけどそんなことはない。才能自体はすべての人間に存在する……ただ、きっかけに出会えるか出会えないかの差があるにすぎない。

 螢視は今まで平和に過ごしていて、大きな問題がなかったから魔法使いにならなかった。なる必要がなかった(・・・・・・・・・)だけで、なれなかった(・・・・・・)わけじゃない。律季が現れないまま今日の危機を迎えていたら、必ずキミが魔法使いとして覚醒し、バディとして炎夏を助けていたよ。今こうなっているのは、単に巡り合わせが悪かっただけさ」

 

「……でも……そんなこと今更言われたって」

 

「遅くない。いや、むしろ今こそがチャンスだ。『炎夏が自分の親友じゃなくなる』『律季に炎夏をとられてしまう』……その焦りが、キミを魔法に至らせる。魂の力を溢れ出させる心のヒビになる。無理くり不満を押し込めてちゃ、手に入るものも手に入らないぜ?

 

 必要なことはただひとつだ――律季を憎め。それがキミの『きっかけ』になるだろう。

 方法は教えてあげられるが、結局はキミの気持ち次第だ」

 

 そう、それが絶対条件。

 螢視が魔法使いになった場合、順当に考えれば炎夏の味方になってしまう。そうしたら暗示も解けて一切の制御がきかなくなる。どこかで認識を歪ませる必要があるのだ。

 ――律季への対抗心をトリガーとして魔法の力が発現するなら、その感情が能力として昇華され、彼の心の中に定着することだろう。そしてこっちの味方につく。炎夏を律季から取り返すために。

 

「炎夏が律季のものになっちゃうのは、嫌じゃないのか? 想像すると苦しくならないのか?

 たとえそう思わなくても構わない。嘘でもいい。ただ一言、頭の中で呟けばいいんだ――炎夏は誰にも渡さない、とね」

 

「……」

 

 螢視が目を閉じ、眉間にしわを寄せて考え込む。

 ――勝ったと思った。

 

 

 

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