水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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 サービス回をご所望の型には申し訳ございませんが、ここからかなり長いシリアス・バトルパート(予定では10話分ぐらい?)になります。
 エロはエロとしてこだわりますが、バトルを描くならそっちも真剣に書きたいので妥協しません。
 テンポは出来る限りよくしていきますので、楽しんでいただけると幸いです。

 ちなみに、バトルが終了した後のご褒美パートも相応の文量を予定しています。
 おそらくR18での投稿になります。


16. 今始まる本当の戦争

 

 今朝は、起きた時から妙な胸騒ぎがしていた。

 熟睡からパッと目が覚めた時はまだ四時半だったけれど、どうも目が冴えて寝直す気になれない。ふと思い立ってキッチンへ向かった。

 

「あれ、炎夏?」

 

「かっちゃん。もう起きたの?」

 

「ううん。トイレ」

 

 うちの小学六年生の三男である和也が、目をこすって立っていた。

 エプロン姿でクッキーの下ごしらえをする私を不思議そうに眺めている。

 

「なにしてんのさ。こんな時間に」

 

「最近あんまり料理してなかったから、なんとなくね……」

 

「生地ちょっと食べて良い? 手伝うからさ」

 

「ダメ。ちゃんと焼いてからじゃないともったいないでしょ?」

 

「えー」

 

 と言いつつも、私も生のクッキー生地をつまみ食いしているのである(ちゃんと殺菌処理済みの小麦粉なので一応大丈夫)。

 そんな私の弟なので、やっぱり和也もこっそり型取りした後の残った生地を口に入れてしまった。

 

「あー、もう。やっぱりやった」

 

「ごめん。でもあれだよね。店だとこうやって生地のまま食えないし、手作りした時に一口もこれやらないのって逆にもったいない感じない?」

 

「一理あるわね。……ああでも、二度寝するならちゃんと歯磨きしなよ」

 

「はーい」

 

 生意気だけど賢い弟が二階の部屋へと戻っていく。私はココアパウダーとバターを出した。家族が起きる前に、チョコクッキーとプレーンクッキーの二種類を用意しておくことにする。

 

 ――こうして家族にお菓子を作ってあげるのも、もしかするとこれが最後だ。

 両親と兄弟三人で分けても、お腹いっぱいになる量を焼いてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――律季と炎夏は今日も朝早く起きて、バスケ部の朝練にいそしんでいた。

 あいつらはすでに連日の訓練で相当くたびれているはず。できれば学校だって行きたくないぐらいへとへとのはずだ。それでも何事もない風を装って部活動にまで顔を出すのは、ボクらに底を見せないため、足元を見られないようにするためだろう。

 

 だが――日を追うごとに顔色もだんだん曇って来ている。意地を張るのも限界が近い。

 いつ襲撃されるか分からないため、常に気を張っていなければいけないのも大きいだろう。まして人間にとって睡眠不足以上のデバフはない。

 対してボクらは、いつ決戦を仕掛けるかなど最初からわかっている。バッチリ八時間寝た万全の体調で、今日この日を迎えていた。

 

「しかし、本国は何を考えているんだろうな。俺たちが一度負けたぐらいで、いきなり最高戦力をよこすなんて――いくら律季が『特異体』でも、慌てすぎな気がするが」

 

「意外と炎夏のおっぱい狙いだったりしてね」

 

「……いくら第九席(ナインス)が女好きでも、それだけで日本まで来るかよ。あと、そういうことを口に出して言うなって」

 

 レンはピザトースト、ボクは山盛りご飯をゆっくり食べながら心を落ち着かせる。

 時刻はすでに午前十時。遅刻などはどうでもよかった。どうせ今日限りでいなくなる学校だし、そもそももとから生徒ではない。

 作戦時刻は三十分後。そろそろ行かなくては――ボクは食卓を立って、部屋の片隅で眠る『彼』に視線を向けた。

 

 

 

「じゃあね螢視。また後でね」

 

 

 

 今日、炎夏と律季に引導を渡す。

 ボクたち自身の手でそれは為されねばならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウマさんとレンさん、そして秋月先輩が学校に来ていない――

 朝、炎夏さんからそう連絡が入った時、俺とレイン先生は全てを察した。

 

「今日じゃな」

 

「来ましたね」

 

 『律季のおっぱいハーレム部屋♡』というふざけた名前のLINEグループに、その二つのメッセージが並んだ。

 秋月先輩までもが遅刻していることが気にかかるが、敵があの人を利用するつもりなら、今から探しても見つかるはずがない。

 今は落ち着いて待つしかない。いずれにせよ、今日中には決着がつくのだから――炎夏さんに送ったそのメッセージは、半分以上自分の焦りを食い止めるための言葉だった。

 

 そして――時計がきっかり11時を指した時。板書をする先生のチョークの音が途切れ、クラスメイト達が一斉に失神した。

 ユウマさんが術を使ったのだ。明確なる開戦の合図だった。

 

 

 

「……行くか」

 

 

 

 俺は『生本能の拳(リビドーナックル)』のグローブを展開し、天道神社製のキツネの面で顔を隠した。

 ぐったりした生徒がもたれかかる椅子を静かによけて、教室の出口へ向かう。

 

(ルームクリスタルは使わないみたいだな……。これから使う予定なら生徒を眠らせる理由もない。前と同じく学校中の生徒を人質にしながら、現世で戦う気だ。

 ともかくまずは上へ行って炎夏さんと合流を――ッ!!)

 

「……くッ!!」(止められた……!)

 

 教室を出た瞬間、横薙ぎの棍が後頭部めがけて飛んできた。それをキャッチしたのはほぼ無意識。相手の顔を視認した時、はじめて動悸が高まった。

 校舎内は完全に静まり返っている。足運びで上靴が床に擦れる音さえ、高く響いた。

 

「……どいてくれとは言いませんよ。しかし一つだけ答えてください。

 ――秋月先輩はどこですか、レンさん?」

 

「オレ達が身柄を預かっている。ここには連れてきてない」

 

「……?」

 

 レンさんの獲物を掴んで綱引きしながら、俺は困惑する。

 ほかに容疑者がいないのだから誘拐されていたことに驚きはないが――連れてきていないだと? 人質として利用するつもりがない、という事か? 

 じゃあそもそも、秋月先輩をさらった意味が……

 

「!」

 

「ハァッ!!」

 

 瞬時、俺の手の中から棍棒が消え去った。それを奪おうと踏ん張っていた俺は手を滑らせ、咄嗟に踏ん張ったがそれでもわずかに体勢を崩す。

 レンさんの片手に握られていた杖が白く光り、魔力の刃を帯びて振り抜かれた。

 

 制服の脇下の部位が薄く斬り裂かれる。

 ――そこは、人体の急所。太い動脈がある所だ。刃がちょっとでも体に触れていたら、ズボンまで血みどろになっていただろう。

 

「えぐいなあ。かわいい後輩に対して」

 

「情に訴えても無駄だ」

 

 えっ、今のもチクッとしたのか? ほんの軽い冗談のつもりだったのに、マジで返すってことは罪悪感を覚えたってことだ。

 もともと真面目な性格だが――今日は特に余裕がない感じである。一度失敗したせいで後がないというのは本当らしかった。

 

生本能の拳(リビドーナックル)!」

 

身体強化(スフォルツァート)!」

 

 思い切り突っ込んで、拳の四連撃を繰り出す。レンさんは俺に合わせるように退きながら、そのすべてを捌いた。靴底に仕込まれたブレーキの痕をフローリングの床に残して、何事もなかったかのように立ちはだかる。

 

「前よりうまくなったじゃないか。攻撃の鋭さが増している」

 

「そりゃどうも……寝る間を惜しんで訓練しましたからね」

 

 軽口を叩きながら、俺は焦っていた。

 魔法使いの戦闘はバディとのツーマンセルが基本。ゆえに単独行動はタブーであり、最も恐るべきは分断されることだ。そのことを熟知しているはずのレンさんが、敢えてそのタブーを犯して一人でここにいるということは――やはり敵は三人以上いる。この人が時間稼ぎをしている間に、他の誰かが多人数で炎夏さんを始末する作戦だ。

 

 レンさんは完全に防御に徹している。一切攻めてこない代わりにこちらからも攻められない。時間稼ぎしか考えていない動きだ。

 足の速さで勝てない以上振り切ることもできないし、できてもすぐに追いつかれる。俺が上階に行くためには、まずこの人を黙らせなくてはならない。

 

「どいてもらいますよ!」

 

(! ――あえて食らいついてくるか……!)

 

 長い棍と、杖にまとわせた魔力の短剣の二刀流が、俺の硬化した拳を捌き続ける。

 

「……く……!」(まだ速くなるのか……!?)

 

「ぐうううっ……!」(崩せない……!)

 

 追いすがる俺に合わせ、ギザギザにバックステップを繰り返しながら二つの武器を組み合わせることで、レンさんは勢いをいなしていた。

 ――速度を上げろ、水鏡律季! こんな所で足踏みしているわけにはいかない!

 

「かぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」

 

「うおおおおおおおおおお……ッ!!」(速……ッ!! まずい、もたないぞ……!!)

 

(――今だ!)

 

「……!!」

 

 細かい連撃で防御を削り続け、武器を持つ力が限界にきた瞬間を見計らい、思い切り棍を横に殴りつけた。

 

(防御姿勢ッ!!)

 

(! ――ダメか……!)

 

 だが――体勢は崩せなかった。避けられたわけではない。ガードをこじ開けるには力が足りず、腕の力で耐えきられてしまったのだ。レンさんは全力で後ろに飛び、杖を一振りして光の刃を投じてきた。苦し紛れの攻撃であり、狙いはそれて頬をかすめただけ。だがそれでも俺の追撃を止めるには十分だった。

 レンさんは離れた位置で、ビリビリ震える右腕を抑えている。俺も連撃を繰り出し続けた疲労で素早い動きができない。お互いにらみ合いながら膠着した。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

「フウッ……フウッ……」(冗談じゃねぇ……! このオレが、ついていくだけでやっとだと……!?)

 

 攻撃と防御が同時に限界点に達した。格闘戦だけでいうならまったく互角だ。

 だが息の上がり方が違う。疲労で荒く肩で息をするしかない俺に対し、レンさんは口をすぼめて一定間隔で息を吐き、こちらに呼吸を悟らせないようにしている。その差は余力の差であり、戦闘経験の差だった。

 

「あきれるよお前には……この短期間でよくもここまで。本気で勝ちにきてんだな……」

 

「負けるために努力はしません」

 

「勝てないから言っているんだ。無駄なあがきをご苦労なことだと」

 

「なぜそう言い切れるんですか?」

 

 息を少しでも戻すために、一言一言を早口で言い切る。ほぼ生返事だ。

 本当はしゃべっている時間さえ惜しいが、今の状態で殴りかかっても押し負けるだけだろう。

 

「技術はよし。だが決め手が足りねぇ。炎夏の魔力なしでは、所詮オレを追いつめるのが限界だ。オレにトドメをさせないようじゃ、『あの人たち』には及ばねぇし、炎夏と合流することもできない。

 ――このまま足止めさせてもらうぞ。合流さえさせなきゃこっちの勝ちだ……!」

 

(……『あの人たち』?)

 

 その言葉が指すのは、彼らと一緒にここへ来ている教国の刺客だろう。

 だが個人名で言わないことが引っかかった。本人がいない場所でも、無意識に畏敬するほどの存在ということか?

 

 やはり今回の敵は強大――出し惜しみをして(・・・・・・・・)勝てる状況ではない。

 今は一刻も早くレンさんを抜くことだ。合流さえさせなければ勝ち、という彼の発言を裏返せば、俺と炎夏さんを合流させてしまえば負ける可能性が出て来る、とレンさんは判断していることになる……。

 

 

 

 

「見せるしかないかな。できれば『本番』にとっておきたかったけど……」

 

 

 

「――なに?」

 

 

 

 ……そう。

 今、諦める理由はない。

 

 

 

「『生本能の拳(リビドーナックル)』 〝遠距離恋愛(インヴィジブル・タッチ)〟」

 

 

 

「――!?」

 

 

 

 俺の手の甲に紋章が灯る。

 両拳を握った瞬間、鮮やかに燃え上がる二つの炎に、銀髪の敵手は赤い目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽柱の構え(サンピラースタンス)!」

 

 

 

 校舎4階・廊下――

 私はお面で顔を隠して烈日の聖槍(ゾーネンランゼ・ヒンメルヴェーク)を展開し、天井に頭がつきそうな巨体をした三体の怪物を迎え撃っていた。

 今の一撃で三体とも胸を貫いたが、まだ動く。

 

(これは周囲に人がいる状況で火力を出せる数少ない技……これでも倒せないの?

 というかそもそもこいつらは何? 魔法使いが来ると思っていたのに……)

 

 怪物たちは目にボタンを縫い付けたボロボロのテディベアの姿をしている。夢の中の魔物と似ているが、気配がどこか違っていた。

 事前に決めていた通り、すぐに律季くんと合流しなければならない。こいつらに時間をとられるぐらいなら迂回した方が――

 

「!?」

 

「……ほう、これがな……妙な面で顔は隠れてるが、写真で見るよりもずいぶん」

 

 振り返った先、もう片方の通路にも道をふさぐ者があった。

 ――誰だ? 怪物よりは小さいが、それでも二メートルに届きそうな長身の、外国人男性だった。茶髪に髭面、両目の下に小さな十字のタトゥーを入れている。黒いシルクのスーツにマント、ハットをかぶった伊達男風の――というより、マジシャンっぽい身なりだった。マント姿のシルエットだけ見れば、魔装(ペルソナ)を展開した律季くんにちょっとだけ似ていなくもない。

 そして、その背後に硬い表情で立っているのは……

 

「神瀬さん……」(てことは、この男の人は……!?)

 

「いいよ別に、律季のところへ行っても。でもその場合、ここに残されたコイツらが、キミのお友達に何するかは分からないね」

 

「……卑怯者。あいかわらず無関係の人を巻き込んで……!」

 

「いいだろ別に。今日はおあつらえ向きに螢視も休んでるんだ。あいつ以外のその他大勢がどうなろうが、キミも正直そんなに気にならないだろ?

 で、聞かないのかい? 螢視の居所とか、ボクらは何人かとかさ」

 

「そんなのは――あなたたちをぶっちめれば分かる!!」

 

「来るぞ。コウノセ」

 

「――おまかせを」

 

 マジシャン風の男がユウマさんに軽く目配せをした。それだけで彼女は杖をたずさえて前に出た。

 

「!?」(ユウマさんが直接戦闘を!?)

 

(ああ、ボクだって不本意だよ。でも後がないからね……!)「――『嵐の刃(ストームブレード)』!!」

 

「『聖槍(ゾーネンランゼ)』!」

 

 つむじ風の突き技と槍の切っ先が交差する。すれ違いざまに一撃だけ入れて、ユウマさんは怪物の中に割り込む。彼女が杖を一振りすると、けしかけられるようにテディベアが一斉に襲い掛かって来た。

 太い腕には風がまとわりついている。かまいたちの刃ではなく、パンチを加速させるための気流だ。当たれば骨折はまぬがれない。

 

 だが――相手が人間でさえないなら、こちらも思い切りいけるのだ。

 

「くぅっ――はぁぁぁっ!!」

 

「ちっ……!」

 

 追い風を受けたコンビネーション攻撃を体ごと反ってギリギリでかわし、片手で一閃した。無理な体勢を身体強化(スフォルツァート)でゴリ押して斬撃を繰り出したのだ。

 炎の残像が通り抜け、三つのテディベアの首が飛ぶ。

 

「……ほう、なるほど。なかなかの手際だ。

 ――そして、運も持っている……」

 

 その時、なぜか男の右手から血がほとばしった。

 空中でなにかが白く光る。――あれは、糸か? 男が手をかばうとその光もつられて動いた。どうやら透明な糸が彼の指につながれているようだ。

 その糸の先にあったのは、私が斬った三体のテディベア。その巨体が静かに消え去り――

 

「!?」

 

 中から失神した人間が現れた。学級が違うだけで三人ともうちの制服を着ている。

 ……これって、まさか……!?

 

「切り落としたのが頭でよかったなあ。あと10センチ下だったら、『中身』を殺していた」

 

 悪い予想が当たったことに戦慄する。

 あのテディベアの姿はいわば着ぐるみ……中身は無関係の人間。それを怪物化させて手駒として扱っているんだ。

 

「……あなたがやったの?」

 

「ああ、そうだとも。他の何に見える!?」

 

「――なっ!?」

 

 男の左目が、禍々しい緑色の光を放つ――それは源形(アーキタイプ)発現の予兆。間髪入れずにパッと教室の中へ手を振り、指についた糸を投げつけると、その中にいた三人の生徒がたぐりよせられた。三年教室なので、当然全員顔なじみだ。

 男は三人の頭をわしづかみにして、指の糸を黒く変色させ――闇色の瘴気をほとばしらせて、玩具の姿をした怪物に変える。

 

「人間を疑似的に魔物化し、従順な操り人形として戦わせる『マスター・オブ・パペッツ』。

 使い手の名はロイ・ストリンガー。悪の爪(マーレブランケ)第九席を預かる男だ」

 

 新たに作り出した怪物――今度は、くるみ割り人形の姿をしている――を壁のように並べ、その向こう側から下衆な笑みを浮かべている。

 マーレブランケ? 第九席? いったいなんのことかわからない……わかっているのは。

 

「こういうこと、なのね……私たちをあの空間に閉じ込めてないのは。……人質としてだけじゃなく、怪物化させる頭数としてもみんなを利用するつもり……」

 

「うすうすわかっていただろう? この展開になることは。人がいない所ならお面なんかつける必要はない」

 

「……あなたたち、本当にどんな神経をしているの? 自分たちがしていることに、なんの疑問もないの? 今だってヘタしたら死人が出ていたのよ……?」

 

「疑問? ないね。これも仕事だ。死人が出るとしたらキミらが抵抗する時だろう。

 それに――ここにいる奴らは、どいつもこいつもなんの苦労もせずバカみたいに暮らしてる、平和ボケどもばかりだろ。与えられてるだけの幸せ、ただ生きてるだけの命、そんなもん壊れたって誰が構うか。

 ボクはボクの好きな奴しか人間扱いしない。みんなを守ろうなんて余裕は、恵まれてる奴の傲慢だと知れ」

 

 据わり切った目で冷たく語る。その奥に広がる嫉妬の深さにゾッとして、私は怒ることもできなかった。

 罪の意識から逃げるために言っているのではない……彼女は、本気でそう思っているんだ。完全に憎しみで頭がいっぱいになった顔をしている。

 何にそこまで怒っているのか分からない。それがとにかく怖かった。ユウマさんの悪意は、明らかに私個人に向けたものではなかったのだ。

 

「誰も不幸にしたくないんだったら、負けてくれ。ボクもキミらの犠牲になるのは嫌だ」

 

「……!!」(こんなの、まともに聞く方が間違ってる!!)

 

 どこまで本心か分からない言葉に心を動かされかける、そんな自分が嫌になる。

 この勝負の結果誰が不幸になるかは分からない。だが少なくとも、今他人を踏みつけにしているのは相手の方だ――迷いを振り切るために槍を構えた。

 

(とはいえ、怪物の中にも生徒がいる以上注意は必要――次はどこを斬ればいい? どうすれば助けられる……?)

 

「フン、前だけを見ていていいのか? ――まだ七本、指は残っているぞ」

 

「え――がはっ!?」

 

 背中に衝撃を叩きつけられる。受け身を取って後ろを見た時、愕然とした。さらに二体のくるみ割り人形がいつのまにか現れていた。

 目の前にいたのに、いつ糸をつけたのか分からなかった。――人を怪物化させるのを阻止できれば、と思ったが、これでは……。

 

 やはり本体を叩くしかない。

 ……たぶんこの戦い、長引けば誰かが死ぬ……。ちょっとのミスで無関係の人を手にかける事態になりかねない。この男を――ロイを急いで倒さなくては。

 

「……それでも、まだ片手だけじゃないですか。第九席(ナインス)、もしかして手加減してらっしゃいますか?」

 

「ああ。すぐに終わってしまったんじゃ損だからな。まずはじっくりと心を折って遊ぶことにしている」

 

 ――ぞわっ。

 ロイの視線を受けて感じたそれは、私にとって覚えのある不快感。だが――これほど強烈に、それを感じたことはない。

 

「写真を一目見た時から、この俺のモノにすると決めていたぞ。ホノカ・テンドウ。

 その肉体、日本人などにくれてやるのはもったいない。この俺が取ってやろう。――そのためにわざわざ日本(ジャパン)くんだりまで、この俺が来てやったのだからなあ」

 

「!?」

 

 こいつは、私のカラダを狙っている。

 視線が向いているのは胸だけ。それも隠すわけでもなく、顎を撫でながらしげしげと品定めしていた。そんなロイのことを、ユウマさんでさえ思わず驚愕して見上げる。

 

「――っ……『聖炎符』!!」

 

「おおっと!」

 

 苦し紛れに投げつけたお札が、ロイの指に掴みとられた。燃え盛る火の熱も感じていないようだ。

 

「さあ、もっと撃って来いよ……力の差を知りに! 無駄なあがきを尽くしてみろッ! お前の流す絶望の涙を、この舌で掬わせてくれッ!!」

 

(悪趣味な台詞を……!! ――んッ!?♡)

 

 ロイの威嚇は確かに効果があった。男の暴力に対する本能的な恐怖。足がすくみ、心が寒くなりかける。

 だがその時、冷えかけた胸に快楽が走った。熱とともに紋章が灯る。それは反撃の合図。

 

(早く来て律季くん……君がいないと、私は勝てない……!!)

 

 

 




 ・イルミナの光剣

 イルミナ教国の魔法使いが用いる術
 杖に魔力をまとわせて刃を形成し、近接武器として扱う

 中世時代に迫害を受けた魔法使いが護身のために編み出した術であり
 最も古い歴史をもつ魔法のひとつ
 展開中の魔力消費が大きいため、現在ではあまり使われない

 しかし工夫した魔法戦士は、搦め手としてこの術を採用することがある
 肉弾戦の最中に奇襲で出すことで、高い殺傷力を発揮するのだ


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