水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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18. TS闇落ち魔法少女

 

 

 昨日、ボクらが秋月螢視の家に行ったときのこと。

 彼の中にある律季への嫉妬を煽ることで魔法の力を目覚めさせ、こっちの味方になるように誘導する工作――ボクは一瞬、それが成功したと思った。

 

「……いや、やめとくよ。どうもおれには無理そうだ」

 

 だが螢視は、首を横に振った。

 

「律季を嫌いになるのは無理だ。魔法の力に興味はあるけど、そういうことなら遠慮しておく」

 

「――な、なんでだよ。本当に嫌いになるわけじゃなくて、自分に言い聞かせるだけでいいって言っただろ? ボクらにまで善人ぶらなくていいよ」

 

「もともとおれ、嘘つくの苦手なんだよ。おれは律季に何の恨みもない。理由もないのに嫌いになるのは無理だ。たとえば、好きな食べ物を急に嫌いになれって言われても難しいだろ。それと同じで、物理的に不可能って話だ」

 

「恨みならあるだろ。律季は、キミの親友を奪おうとしているんだぞ?」

 

「別にいい。誰と仲良くなるかは炎夏(ホノー)が決めることだ。おれがとやかく言う筋じゃない。

 もし二人が彼氏彼女の関係になるとしても、割り込んだり邪魔しようなんて思わないよ」

 

「――な、なんでだよ? お前、炎夏の事が好きなんじゃないのか?」

 

「うん」

 

 レンの問いに、螢視はすんなり認める。

 ボクは余計わからなくなった。

 

「……あのさ。まさかと思うけど、友達としての好意であって恋愛対象じゃない、とか言うつもりじゃないだろうね? そんなかっこつけ、後で絶対に後悔するよ。

 しばらく炎夏が傍にいなかっただけで、あんなに苦しんでたじゃないか。あれが恋煩いじゃなくて何なんだよ?」

 

「さあな。今となっては、おれにも自分の本心が分からない。もしかしたらおれはあいつのことを、女子として意識していたのかもしれない。

 でも問題はそこじゃないだろ。炎夏(ホノー)の気持ちが肝心なんだ。あいつにとって何が最善なのかがな」

 

「……あぁ、理屈はそうだろうさ! でもな――そこまで意地を張られると、こっちも正直イラッとくるよ!

 いいかげんに認めろよ! キミは、炎夏が欲しいんだろ!」

 

「欲しくない。今の関係でおれは幸せだよ。一日一回会って話すだけで。

 会っちゃダメだって言われたからショックを受けただけさ。なにも今後一生このままってわけでもあるまい」

 

 打てども響かない。いや、そもそも会話がかみ合っていない感じだ。

 いや――それもおかしいが、ボク自身もなんだか変だ。なんでこんなにムキになっているんだ? 自分で自分が不思議だった。

 

「それに――炎夏(ホノー)と律季が付き合うなら、おれはそれでいいと思う」

 

「……え?」

 

炎夏(ホノー)は告白されすぎて、恋愛自体を食わず嫌いしてる節があってさ。恋愛しなきゃ性格歪むとか考えてるわけじゃないけど、あいつの将来が心配になることもたまにあった。変なこじらせ方するんじゃないかってさ。

 上から目線だが、律季なら安心できるんだよ。他の誰よりも信用できる」

 

「――ッ!! 本気で言ってんのかよ……! そんなこと!? 力を手に入れるチャンスを蹴って、好きな女まで他人に譲るっていうのか……!?

 いいか、魔法の力があればそんな風に我慢する必要だってないんだ! 欲しいものが全部手に入るんだぞ……!! 炎夏だってキミと付き合った方が幸せに決まってる!」

 

「そんなもん……やってみなきゃわからねぇだろうが! おれとあいつが付き合って、それでもしうまくいかなかったら、誰があいつを慰めてやれるんだ……!?

 おれはあいつの親友でいてやりたいんだよ! ……いてやらなきゃ、まずいだろ……!!」

 

 ……なるほど。ようやく本音が見えて来た。

 螢視にとって炎夏とは、ボクらが考えていたよりもはるかに大きな存在だ。まんざら恋愛感情がないというわけでもなさそうだが、大切に思う気持ちの方がはるかに上回っていて、手を出すという発想がない。親心じみた感情まで向けている。

 そして律季のことも、それほどに大事な親友を任せられると言うほど高く評価している。――まずいな。これでは略奪愛に走らせるなんて到底無理だ。

 

「本当はおれだってあいつの役に立ちたいよ。魔法が使える律季のことがうらやましい……。

 たとえ魔法が使えなくても、医療の心得があれば、炎夏(ホノー)がケガした時に治してやれるかもしれないって……少しでもあいつの助けになれるかもしれないって思った。だから医者になる道を選んだんだ」

 

「「……は?」」

 

 ……それが、螢視が医学部志望になった動機だと?

 ボクとレンは唖然とするしかない。ちょっと振り向いたところにある螢視の勉強机には、問題集とその回答を記したノートが山と積んであり、引き出しまでパンパンになっている。ペン立てに入ったシャーペンは持つ所だけ塗装が剥がれて真っ黒になっていた。 

 そんな淡い期待だけをモチベーションに、この勉強量……? さらに、毎日寝不足になるまでバイトに励んでいたというのか? 

 

「でも――いざ危ない時になったら、炎夏(ホノー)はおれが首を突っ込むことさえ許してくれなかった。魔法嫌いのあいつのことだ。おれが魔法使いになったとして、ただそれだけでも傷つけちゃうかもしれないだろ。おれが魔法使いになれても、炎夏(ホノー)が一緒に戦うのを許してくれなきゃ意味がないんだよ。

 そもそも、あいつにはもう律季がいる。この状況で、今更おれに何ができる?」

 

((……お、重すぎる……!!))

 

 ボクらは無言だった。反論しようと思えばできたが、引いてしまって言葉が出ない。真面目人間だけあって、落ち込み方が半端ではなかった。

 

「――誘ってくれたのは感謝するが、断る理由はこれで充分だろ?

 さっきも言った通り、おれは炎夏と付き合いたいとは思ってない。毎日会って話せればそれでいい。しばらくしたらまた元通りになるさ」

 

「――うん、わかった。話してくれてありがとう」

 

 そう言って、杖を振った。

 螢視は「え……?」と目を見開き、そのまま意識を失って椅子にもたれかかる。

 

「!? お、おい何してる!?」

 

「あわてるな。寝かせただけだ」

 

「それは分かってるが、寝かせてどうするんだ。説得は?」

 

「諦める。あのまま話を続けても首を縦には振らなかっただろうからね」

 

 多少傷ついた程度なら好都合だと思っていたが、予想以上に闇が根深かった。

 魔法の力より先にカウンセリングが必要ではないのか。ちょっと心配になるほど自己評価が低い。

 

「明日の戦いが終わるまでこのままにして、全部済んだら本国へ連れていく事にするよ。炎夏と一緒にね」

 

「……じゃあ、戦いには参加させないってことか」

 

「うん。利用するつもりだったけど、気が変わったよ。……かわいそうになっちゃった。こいつの事」

 

 ボクらの行く末がどうなるかは別問題として、律季たちが教国に連行されるのは確定事項だ。あいつらが第九席(ナインス)第十席(テンス)に勝てるはずもない。明日限りで炎夏はこの町からいなくなるのだ。しかし、炎夏がいなくなった学校で、螢視がどう過ごすのか想像がつかない。

 

「本人に直接聞いたわけじゃないけどさ……孤独になるよりは、平和を捨ててでも炎夏と一緒にいる方を選ぶんじゃないかと思う」

 

「……だな。少なくとも、オレならそうする」

 

「レンはボクが大好きだからね」

 

「当然だ」

 

「ボクもレンのことは好きだ。――だが、それも螢視には負けるかもしれない。見てみろよこれ」

 

「――うっ!?」

 

 本棚の上で異様な存在感を発していたスクラップブックを開いて、見せた。

 ――中身はすべて炎夏の記録だ。写真はもちろん、天道神社の祭りの新聞記事や、炎夏の筆跡の年賀状まで張り付けてある。幼少期から現在に至るまで、炎夏にまつわる情報を集められるだけ集めてあるようだ。

 特にここ数年の分は、明らかにスマホで撮ったスナップ写真をわざわざプリントまでして貼っている。カメラロールにデータとして入っているだけでは納得がいかないのだろう。

 

「……おい。集合写真っぽいのまで、ちっちゃく炎夏が写ってる部分だけ切り抜いてあるぞ」

 

「極めつけは、これだ」

 

「――? なんだこの白いの?」

 

 本棚の裏に、『解放厳禁!』と書かれた、室内用の小型冷凍庫が置いてある。

 中には食べ物や飲み物が一切入っておらず、「2012/1/11」「2013/12/20」と、日付の書かれた紙が添えられた雪の塊が八つ並べられている。

 

「炎夏が子供の頃に作った雪だるまだよ」

 

「……えっ? じゅ、13年前の……か? ずっととってあるって事? マジ?」

 

「間違いないよ。ほら、右から二つ目のやつはこの写真に写ってるのと一緒だ。形は崩れてるけど、目の部分に同じ石が入ってる」

 

「……」

 

 絶句したレンが黙って冷凍庫を閉じた。螢視を見下ろし、生唾を飲み込む。

 ――執念を通り越して狂気だ。表面上は全く普通に炎夏の友達として接しているのが余計に怖い。いや、あまりに感情が膨大なせいで、逆に炎夏と一緒にいるだけで満足なのかもしれない。

 

「炎夏と一緒にさらってやる方が、絶対螢視のためだよ」

 

「だな。独りになったら自殺しかねんし……オレ達が炎夏をさらったと知ったら、海を超えて追っかけてきそうだ」

 

「こういうのを敵に回すとおっかないのは、ボクらが一番知ってるからね」

 

 家族や日常や生活より、たった一人の友達の方が大切なことがある。螢視はそういうヤツなのだ。大人たちには分からなくても、ボクにはそれが理解できる。

 他の何を捨てても、離れたくない相手は自分にもいるからだ。そういった存在に出会えた奇跡だけが、ボクの人生で真実だった。

 

 唯一無二の相手に縋らなければ生きていけないという奴がこの世にはいるのであり――螢視がそうであると分かった以上、ボクにはこいつを見捨てることはできない。

 もとはといえば新しい刺客を作り出すことが目的だったが、教国の任務や立場などはこの際どうでもよかった。自分と同じ生き方をする奴に苦しみを強いることはできない。

 

「ボクはこいつのことを他人に思えない。粛清はされたくないけれど、螢視を利用してまで生きながらえたいかって言われるとそれも微妙だ。螢視は助けるだけにする。

 ――ごめんね。ボクだけの問題じゃないのに、勝手に決めちゃって」

 

「いいよ。オレはお前の味方だ。どっちも厳しい道なら、モヤモヤしない方が正しいはずさ。

 ――二人で律季を倒そうぜ。それで全部チャラだ」

 

「……そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――あれから螢視はボクらの部屋から出してない。成果が上がらなかったから、悪の爪(マーレブランケ)にも報告してなかった)

 

(その螢視が……どうしてここにいる!? つい三十分前まで家にいたのに……)

 

(というかあの姿は何!? 本当にあれが螢視(ケージ)なの!?)

 

(つーかおっぱいでっっっか! 炎夏さんと同じぐらいあるかも……!)

 

「ほう、これは興味深いな……」

 

 ロイとマルス以外の全員が、意味不明な状況に困惑する。

 おっぱいのでかい美少女……もとい秋月先輩?は、十字の刻まれた両目で無表情にこちらを眺めている。髪は銀色で肌は褐色と、本来の先輩をそっくり反転させたようなカラーリングをしていた。背丈も外見の雰囲気も同じなので、先輩が女の子になった姿として不思議な納得感がある。

 おっぱいは炎夏さんよりは少し小さいが、それでもとんでもない爆乳であり、露出度の高いブラックのボンテージからのぞく上乳がまぶしい。

 

 顔立ちは本来の秋月先輩とほぼ同じで、まつげが伸びたぐらいしか変化がないのに、本人の顔が整っているせいで全然違和感がない。ちゃんと美少女として成立している。

 外見だけなら正直めっちゃ好みだ。炎夏さんの前に出会ってたら好きになってた気がする。

 

 

 

「………………律季くん?」

 

「……キミさ、節操なさすぎない?」

 

 ――って違う、そうじゃない!

 女性陣の視線が突き刺さるのを感じ、慌てて意識をシリアスモードに戻した。特に炎夏さんは左目の火が強くなっててとても怖い。

 

「まさか『性転換型』の魔法使いとはな。さすがは我が部下、思わぬところから逸材を発掘してくれたものよ」

 

「……なんですって? 魔法使い……?」

 

 俺たちのノリに全然乗らないロイが、聞き捨てならない言葉を発した。

 秋月先輩は魔法使いではない――それは俺たちにとって大前提だったはず。レイン先生でさえそう結論付けていたのだから、疑いの余地がないと思っていた。

 

「そうさ。お前たちは勘違いしていたようだが、こいつは魔法使いだ。俺たちがなにか手を加えたわけじゃなく、ずっと前からそうだったんだ」

 

「そ、そんなはずないわ! 魔力の気配が全然しなかったし、本人もなれないなれないってずっと……」

 

「違うな。俺の推理だが、おそらくこいつもお前と同じで、物心つく前から魔法の力に目覚めていたんだ。力を自覚しないまま今日まで過ごしてきた……というよりも、『自分は魔法使いになれない』と頭から決めつけていたせいで、すでに覚醒していることに気づかずいたんだろう。

 魔法使いの肉体は、自認に従って形を変える『精神の影』。こいつは無意識に、自分自身の魔法の力を抑えていたんだ。自分は魔法使いではないという認識を曲げず、普通の人間を演じるためにな。

 

 ――俺でも聞いたことのない例。リツキ・ミカガミにも匹敵する『特異体質』だ」

 

 口数の多くなかったマルスが、まるで学者のような口ぶりで解説した。

 魔法使いは自認に従って姿かたちを変えられる……なるほど、つまりそれが源形(アーキタイプ)か。炎夏さんは魔を退ける炎になり、俺は彼女とともに戦える武器を、この拳を得た。各々自分がなりたいと思う姿になっているわけだ。

 

 だが、だとしたら秋月先輩のアレはどういうことだ?

 あの美少女が、先輩のなりたかった姿だと……?

 

「……Vtuberデビューを考えてたんですかね?」

 

「多分違うわよ!? 聞いたことないし!

 ……でもまあ、確かに変よね。なりたい姿になるんだったら、お医者さんとかになりそうなもんだけど……」

 

「ハハハ……! この俺も実に驚いたよ! ちょっと良心を取り払ってやっただけなのに、ここまでの魔力を発揮するとはな! とんでもない才能だ!」

 

 俺たちのこういうノリにロイもマルスも全然乗らない。

 ここがレンさんたちとは違う、敵としての恐ろしさを感じさせる所なのだ。煮ても焼いても食えないというか、同じ時空の住人じゃない。

 

「こんな逸材をこの俺のために発掘してくれるとはな……感謝するぞユウマ・コウノセ! お前では力を引き出せなかったようだが安心しろ! この俺にかかれば、この通りだ!」

 

「――!!」(……そ、そんなつもりじゃ……!!)

 

「これほどの力を与えるのがどんな欲望か分からんが、それはこれから知ればいい事!

 ――さあ、好きに暴れてみろ! ケージ・アキヅキ!!」

 

「……はい。マスター」

 

(えっ嘘、声も違う!?)

 

(カワイイ!! でもヤバイ!!)

 

 TS美少女と化した秋月先輩が、虚ろな表情でロイに返した。

 ちょっとハスキーなところだけ共通しているが、声もれっきとした美少女ボイスになっている。そして彼女?はゆっくりと顔ごとこちらを向いて――

 

「――えっ?」

 

「なっ……」

 

 音もたてず、残像さえも残さずに炎夏さんに肉薄していた。

 両手で炎夏さんの頭を挟み、顔を隠すキツネ面を取る。そして――ニヤリと、口だけで裂けるような不気味な笑みを浮かべた。

 十字の刻まれた異形ながらも可愛らしい瞳で、困惑する炎夏さんの顔を間近に見つめている。

 

(なに!? なんなの!?)

 

(どうすればいい!? 能力が分からないうちに手出しするのは危険だ!

 しかも中身秋月先輩で見た目女の子だから、いろいろとやりにくい……!!)

 

 ――スパンッ!!

 炎夏さんのお面をスカートの中にしまった秋月先輩が、そこから四次元ポケットのごとくホウキを取り出す。そしてムチのごとくそれをしならせて、廊下に備え付けてあった消火器を叩いた。

 

「――オオオオォォォォ!!」

 

「!!」

 

 その消火器が一気に巨大化し、怒り顔のついたモンスターへと変貌する。

 ――魔物生成!? これが先輩の力だというのか……!?

 

「ハハハ、マジか! 能力までこの俺と一緒とはな……!

 いや、非生物も怪物に変えられる分、より使いやすいかもしれん!」

 

「律季くん、私の後ろに!」

 

 いつもなら俺が前に出るところだが咄嗟に下がった。

 その瞬間、消火器が大口を開けて白い霧を噴射する。炎夏さんが『聖槍』で乱突きを繰り出して炎の壁を作り出し、霧を相殺すると共に、消火器の怪物を焼き尽くす。

 

「はぁッ!!」

 

「――ん」

 

 俺は炎を突き破って秋月先輩に襲い掛かり、拳を振りかぶった。

 もちろん狙いは本人の身体ではなく武器の方――だが先輩はその攻撃をホウキの先でなんなくいなし、その流れのままスライドドアにタッチして怪物に変えた。

 倒れ込んで炎夏さんにプレス攻撃を仕掛けるドアの怪物を、俺は両手で受け止める。――重い! 明らかにもともとのドアの重さじゃない。

 

「ぐぅっ……!」

 

「お願い、やめて! 螢視(ケージ)もこんな事したくないでしょ!? あんな奴の洗脳なんかに負けないで!」

 

「ハハハ……違うな! これはこいつ自身が望んでいる事! そして、お前の身から出た錆でもある! お前がこの男を傷つけさえしなければ、こんな事には最初からなっていないのだからな!」

 

「どういう事!?」

 

「『マスター・オブ・パペッツ』が発動するためには、糸をつける対象の心に傷がなくてはならない。その傷口をつかみ、『裏返す』ことで、そいつの裡に潜む悪しき魔力を引き出す。そうやって反転させた存在が傀儡(パペット)だ。

 無論この俺の命令には従順だが、指示を出さない間は自分の欲求のままに動く」

 

 言いながら、ロイはまた別の生徒をつかんで黒い瘴気とともに傀儡(パペット)を生み出す。

 炎夏さんはただちに槍でそれを片付け、俺もドアの怪物を押しのけて殴り倒すが、そうしている間にまた新しい魔物が増える。ジリ貧もいいところだ。ただでさえ人数で不利なのに敵がどんどん増えていく一方。

 

「気付かないのか? さっきからそいつはずっと、リツキを無視してお前だけを狙っていることに!

 この俺はケージを適当にけしかけただけ。つまりホノカを集中攻撃するのはそいつ自身の選択!」

 

「――!」

 

 そういえばそうだ。

 秋月先輩は、俺に視線さえ向けない。攻撃もいなされるだけ。炎夏さんが狙われている、というよりは――俺が相手にされていない感じがある。

 

「これがコイツの素直な気持ちさ! 力づくでもお前が欲しいとな! 身を案じてのことか知らないが、好きな女に拒絶されればこうもなろうよ!」

 

(――!!)

 

「炎夏さん。まともに聞いちゃダメですよ」

 

「――でも。律季くんも、同じ心配を……」

 

「ロイは俺たちを動揺させるために、出まかせを言っているだけです。少なくとも、今はそう決めつけておくべき時。

 あいつの言っている事が正しいかどうかなんて、後で考えればいいじゃないですか」

 

 秋月先輩は炎夏さんのことが好きかもしれない。絶交してショックを与えたらまずいことになる。

 確かに俺は以前そういう事を炎夏さんに言ったし、一見その通りの状況になってしまっている。炎夏さんが自分を責めてしまう気持ちもわからなくはないが――

 

「――万が一炎夏さんがやり方を間違っちゃったせいで、秋月先輩を傷つけてしまったとしても、それは友達同士の問題。関係ない人間にとやかく言われる筋じゃない。

 だいたい、ちょっとのすれ違いがあったぐらいで、人間があそこまで変わるもんですか。今までだって、一度もケンカしなかったわけじゃないでしょ?」

 

「……う、うん。まあ数年に一回ぐらいだけど」

 

「ほら。仲いいじゃないですか」

 

 仮に秋月先輩が傷ついていたのが事実だとしても、他の傀儡(パペット)にされた人たちはどうだ? 全員が全員怪物になるほどの心の傷を持っていたというのか? そこまでこの学校は病んじゃいないはずだ。

 ロイは、心の傷を『拡大する』と言った。おそらくそれは誰にでもあるような、本来ならすぐに塞がるはずの傷なのだ。そういう些細な傷を無理やりこじ開けて攻撃性を引き出しているに過ぎない。

 

 『マスター・オブ・パペッツ』とはそういう能力。

 弱みに付け込んで人を弄ぶ、ロイの性格そのままだ。

 

「秋月先輩と改めて話しましょう。もし本当に傷つけちゃってたなら、仲直りすればいいだけです」

 

「――ええ。そのためには……!」

 

「あいつらを――倒す!!」

 

 そう、ただそれだけの話。

 下衆野郎の戯言に耳を貸す必要などないのだ。

 

「ハハハ、それでいい! 威勢がいいほどに砕きがいがある!!」

 

(とはいえこのままだと体力がなくなる一方だな。まずは、戦力を減らさないと……)

 

 優先して倒すべきは魔物を増やせる秋月先輩と、やはりまだ与しやすいユウマさんたち二人。

 そういえばユウマさんが、なぜか全然手出ししてこない。退路を立つ位置で警戒しているだけ。

 

 ――秋月先輩を操っているロイの能力も、マインドコントロールの一種。

 もしユウマさんのおっぱいを揉んで暗示魔法が手に入るなら、秋月先輩を解放できるかも……。

 

「えぇっ!? そ、それはさすがに……」

 

「いややらせるわけねぇだろ!」

 

「普通にイヤだよ!?」

 

「ですよね! 俺も言ってみただけです! 彼氏のいる女の子に乱暴するのはこっちもキツイんで……!」

 

「「誰が彼氏だぁー!?」」

 

 揉みたくもないおっぱいを揉んでも〝聖痕(スティグマータ)〟は発動しないだろう。いや、別にユウマさんが可愛くないとか言ってるわけじゃないが、嫌がっている相手に無理やりセクハラするのは俺自身が許せない。魔法が精神力の現れである以上、自分の心に反することをしても能力が発動するわけがないのだ。

 

 可能性があるとすれば――秋月先輩に生えて来たおっぱいを揉むことか。

 性転換しているのでどうなるか分からないが、魔物生成能力をコピーできるかもしれない。スキがあればの話だが、試してみる価値はある。

 

「炎夏さん、秋月先輩の動きを止めて! 試しにおっぱい揉んでみます!」

 

「そのアシストをしろって事!? ――うぅぅ……やるけど、なんかすっごい罪悪感」

 

「すみません! 後で謝ります!」

 

「どっちに!?」

 

「両方に!」

 

 傀儡(パペット)と秋月先輩の怪物の両方を一気に倒し、一時的にクリアする。

 その瞬間俺が背後から先輩を羽交い絞めにして、頭で窓ガラスを突き破って外に出た。

 

「――」

 

「だ、大丈夫ですよ! 落ちませんからね!」

 

 一緒に頭から落下しながら、秋月先輩の無表情な顔と至近距離で目が合う。

 髪からはちょっとミルクっぽい良い香りがした。全身やわらかい。しかも肌にピッタリ吸い付くボンテージなせいでプロポーションがはっきりとわかる。マジで女の子の感触で、女の子の骨格だ。

 

 性転換した知り合いでもおっぱいが大きければ興奮できちゃうってのは、正直自分でもどうかと思うが――まぁ、〝聖痕(スティグマータ)〟を発動させるためにはその方が好都合なはずだ。

 よしという事にしよう。してほしい。

 

「――ぐっ!?」

 

「……」

 

 一緒に着地するつもりだったが、その前に肘鉄を腹に喰らわされて俺だけ落ちた。

 俺が救助するまでもなく秋月先輩はふわりと着地し、俺は思いっきり背中からアスファルトに叩きつけられた。

 

「大丈夫!?」

 

「おっぱい揉ませてくれたら回復します……」

 

「うん、わりと余裕そうね!」

 

 

 

「――ふむ、外に出たか」

 

「追わないのですか? 第九席(ナインス)

 

「追わない。お前たちも手出ししたら殺すぞ。

 この俺の目的を達するために、それが一番都合がいい」

 

 

 

 






 ……我ながら重すぎますね。
 エロギャグ作品を書きたかったはずなのになぜこんな事になっているのか?

 ハッピーエンドだけは保証します。
 どうか最後までお付き合いください……。
 できれば評価・感想もお願いします。「こんな展開要らねぇ!」でもかまいません。
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