水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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21. 全てのボクのようなロクデナシの為に

 

 

 これを読んでいる人たちに、少しボクの過去について話そう。

 自分で思い出しても吐き気がするような話だ。読んでいて気持ちいいはずもないから、できるだけ簡潔に書く。

 

 端的に言って、ボクの親はひどい大人だった。

 学歴はあった。収入もそれなりにあった。だがとにかくプライドが異常に高かった。父親は夢だった弁護士になれなかった公務員で、母親は医者になれなかった看護師だった。二人ともそういう自分の境遇に凄く納得がいっていなかったし、同僚を心の中で見下していた。

 弁護士や医者は偉くて公務員や看護師がその下、という考え自体、ろくな人間の思考じゃないが――最大の問題は、その挫折した夢を子供であるボクに押し付けたことだ。ボクが高齢出産だったことで他の子どもが見込めなかったことも大きかったと思う。

 

 ボクは両親の言う通りにした。小学校も中学校も成績はいつもトップだった。

 だが特別頭がよかったり才能があったわけじゃない。部活もできず友達もつくらせてもらえず、朝も晩もひたすら勉強漬けという生活を続けていれば、そりゃ誰でもそうなるだろう。中学時代からは勉強量のノルマをこなさなければ食事も出てこなくなった。

 国立医学部に入って医者になれ、そうすれば将来安泰だ、厳しくするのはお前の未来のためだ。そう言い聞かせられた。本当に子どものことを想っている親は、自分たちが払う学費の額を、何度も何度も強調しないだろう。

 

 学校の他の生徒はみんなボクより青春を楽しんでいた。ボクは、楽しそうに遊ぶそいつらを全員見下していた。――そうでもしなければ羨ましすぎて、頭がおかしくなりそうだったから。

 そんなボクの態度も周囲に伝わり、だんだんいじめられたり無視をされるようになった。まあ不健康な生活なわりにボクは可愛かったし、地毛の茶髪も目立っていたから、嫉妬も多分に含まれていただろう。

 

 それでも学校に通う事自体はそんなに嫌いではなかった。

 なぜなら――

 

 

 

「ようユウマ。今日は何描いてんだ?」

 

 

 

 友達がいた。

 中学一年で同じクラスになった朝霧漣は、ボクと同じくお絵描きが趣味だった。ボクは現実逃避として授業の合間に漫画を描いているだけだったが、それを見つかったのがきっかけで仲良くなったのだ。

 レンもまた、家に居場所がなかった。なんでも生まれつき奇妙な赤い瞳をしていたせいで、父親が母の浮気を疑われて離婚の原因になったのだという。物心ついた時には母子家庭で、しかも母親からは恋人に逃げられた原因になったと恨まれていたそうだ。

 孤独から逃げるようにレンは体を鍛えた。だから初めて会った頃から、中学生とは思えないほどムキムキだった。ただでさえ強面で無口なので誰も寄り付かず、そんなレンとつるむようになってからボクがいじめられることはなくなった。

 

 レンは、いつでもボクの味方をしてくれた。

 一度無理解な生徒指導の教師につかまって、地毛の茶髪を染めていると決めつけられたことがある。すると翌日には、レンが自分の『黒髪』を銀色に染めて学校にやってきた。

 

 「これで校則違反の変な頭同士だ」

 そう言って笑ったあいつの顔を、ボクは一生忘れないだろう。

 

 

 

 ボクには兄弟はいない。親は……いないも同然だ。

 だけどレンという家族がいる。だからこの先も生きていける。――そう思っていた。

 

 

 

 

「――勇真さん、あなた何を考えているの!? 受験前の大事な時期に、こんなものを描いているなんて!」

 

 

 

 そんなボクの人生が一変したのは、中二の夏だった。

 きっかけは、レンと一緒に密かに描いていた漫画を両親に見つかったことだ。ボクがキャラとその設定を担当し、レンがストーリーを考え背景を描く合作だ。

 レンはそれを出版社へ持ち込んでいつかデビューしようと本気で考えていたようだが、ボクはそこまで考えておらず、一緒に描くこと自体が楽しかった。描いた内容にも思い入れはあるが、二人で描いた思い出の方が大切だった。

 

 その、思い出の詰まった原稿が――ヒステリーを起こした母親に、目の前で破り捨てられた。

 ボクの視界が赤くはじけ、『力』が発現した。絶叫とともに暴発した感情は凶悪な精神汚染に変換され、杖を介さず放たれたせいで拡散した。

 

 至近距離の両親は直撃をくらった。廃人に変わったそいつらをパッと避けて、ボクは必死で原稿の破片を集めた。大事なのはそれだけだ。最初から親なんかではなかった奴らが、本当のガラクタに変わったに過ぎない。

 だがボクの魔力はマンション中に飛び散り、住人の大半が昏倒して大騒ぎになった。町中の救急車が集まる混乱を聞きつけてレンもやってきた。玄関口に現れたレンを見て、ボクは青ざめてぐちゃぐちゃの原稿の破片を隠そうとした。

 

 二人で描いた漫画だ。コピーさえとっていなかったのだ。

 ボクのせいで台無しになった。――見られたら嫌われる。さっきまでとは比べ物にならない恐怖の感情が、再び魔力を呼び起こしかけたが――

 

 

 

「大丈夫だユウマ。オレは、お前の味方だ。お前を責めたりしない。

 ――ごめんな。オレがいればこんな事にはしなかった」

 

 

 

 大きな腕に抱きしめられて、それはおさまった。

 ボクは逃げた。レンの自転車の後ろに乗って、救急車とパトカーのサイレンを置き去りにして逃げた。

 ――ボクが、社会からはぐれた日のことだ。

 

 

 

 そのあとは確か親の財布からありったけ抜いたお金で、レンと一緒に数日間ホテルに隠れていた。中学生だけでチェックインできていたことに疑問を持たなかったが、今考えると、ボクが無意識に力を使っていたのだろう。

 ドアをノックする音がした。おそるおそる開けると、そこに立っていたのはホテルの人間でも警察でもなかった。

 

 

 

「――コウノセ・ユウマだな? 自分は悪の爪(マーレブランケ)第十二席(トゥエルフス)、ノーツ・ライトイヤー。君と同じ『魔法の力』を持つ者だ。

 聖女シーラの名のもとに、君をイルミナ教国へ招待する」

 

 

 

 ボクらと同じか、ヘタするともっと年下の小柄な少年――ノーツはそんなことを言った。

 片手にたずさえた白杖と、白濁した無色の目。どうやら盲目のようだったが、こちらを見るまなざしは鋭く、姿勢も杖に体重を預けることなく自分の足でしっかりと立っていた。

 

「フリーメイガスに見つけられる前に発見できたのは幸運だった。自分と共にイルミナ教国へ来てもらう。

 君は、魔法の力を持っている。我々は君の力を、人類の役に立てる術を持っている」

 

「――そんなこと知らないよ。せっかくあの家から解放されたんだ。今のボクは、漫画が描きたいだけだ……」

 

「悪いが君に拒否権はない。どの道このまま逃亡生活を続けて行けるはずもないだろう? 自分は君にとって、天から垂れられた救いの手だ。君が君らしく生きていける世界が、この狭い部屋から出た先に続いている。

 ――だが、どうしても拒否するというのなら――事情を知ってしまった君のお友達も含め、抹殺するしかない」

 

「……っ」

 

「どうか賢明な選択を。共に魔法使いたる同胞よ」

 

 差し伸べられた手を前に、ボクは迷った。

 ボク自身が『力』を体験した以上、ノーツが言っていることは真実だろう。この世には、魔法使いの世界があるということも。そして彼は、その気になれば容易くボクやレンを殺すことができることも。――今思えば記憶処理がある以上「殺すしかない」というのはハッタリなのだが、当時のボクにそんなことが分かるはずもない。

 

 ――行くしかない。ボク自身の結論はすでに定まっていた。

 しかし、レンはどうする? 事情を知ったらダメということは、そばで聞いていたレンもアウトだ。完全に巻き込んでしまった形になる。

 

 

 

「――じゃあ、オレも一緒に連れて行け!」

 

 

 

 だがレンは、ボクが何か言う前にそう啖呵を切り、ボクの手に手を重ねた。

 まるで、ボクの負い目の全てを吹き飛ばすように。

 

 

 

「君は魔法使いではないだろう。いいのか? 君にも日常があるはずだ」

 

「こいつのいる所が、オレのいる所だ。魔法なら今日から覚えてみせる。ユウマにできてオレにできないわけはねえ」

 

「……ふむ、いいだろう。その心意気、資質としては十分だ。

 君達はきっと良きバディとなるだろう。イルミナ教国を代表し、歓迎する」

 

 

 

 これでボクは、二度と奪われる側にはならない。

 すべてのしがらみから解放され、レンと二人で思うままに生きられる――その時は、そう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクとレンは今、住んでいた部屋の荷物をまとめている。

 任務で住む場所を転々とするボクらには慣れっこの作業だ。魔導科学の圧縮収納ボックスのおかげで、二人暮らしの家具ぐらいならポケットに収めて持ち運べる。

 

 

『――それでも、自分の仕事に誇りを持てますか?』

 

 

「……くそっ」

 

 

 ボクはむかついていた。

 さっきからずっと、律季に言われた言葉が頭から離れないのだ。片付けもなかなか手につかない。

 

 ――ボクだって、いつまでもこんな裏稼業を続けるつもりじゃあない。ある程度お金がたまったら抜けて、レンと一緒に漫画を描いて暮らそうと思っていた。その夢があったから過酷な訓練に耐えられた面もある。

 だが、教国に恩を感じているというのも嘘じゃない。なにしろボクは両親を精神崩壊させ、レン以外の全ての人間とのつながりを断ち切り、中学生にして孤児同然の身になった。教国に才能を見出されなければ食っていくこともできなかっただろう。窮地を救ってくれたノーツ・ライトイヤー様には、今でも感謝している。

 

 教国は正義であり、すべての魔法使いの庇護者。フリーメイガスは悪者で、魔法使いの身で教国に楯突くバカ共の集まり。

 ボクは心のどこかで、そんな風に考えていたのだ――悪の爪(マーレブランケ)の一人が、あんな卑劣な男だと知るまでは。

 

「魔法の力があれば叶わないことはないと昔は思った。だがとんだ思い上がりだった。

 あんなゲスな奴にヘコヘコする、今のボクのザマを見ろ。あの家にいた時と何が違うっていうんだ?」

 

「……仕事ってのはこういうものなのかもしれねぇよ。納得がいく時ばかりじゃない。でも毎日ちゃんとこなしてれば、いつか報われるさ」

 

「ああ――これが普通の仕事ならな!

 このままいったら律季の言う通り、第九席(ナインス)が炎夏を無理やり手籠めにするのに加担することになるんだぞ! そんな一線踏み越えたら、もう後戻りできないじゃないか!

 

 ――で、そう言うレンはどうなのさ? 暴行の共犯者になった罪悪感抱えて、この先暮らしてけるの?」

 

「……できない。……あと一時間後自分が何をやらされるか、正直想像もしたくねぇ」

 

「……でしょ? 一番しんどいくせに」

 

 人間が力を持てば私利私欲に用いるのが自然――それは確かにそうなのだ。十人いれば九人はそうだろうし、ボク自身も他人のために魔法の力を使おうとは思わない。

 だがボクは、期待してしまっていたのだろう。自分を救ってくれた悪の爪(マーレブランケ)が、無欲で潔白な魔法使いの守り手たることを。

 

「じゃあどうする? 逃げるのか? 悪の爪(マーレブランケ)から逃げても、絶対に無駄だぞ」

 

「……ああ、わかってる。わかってるからイラつくんだ。どうすることもできないって」

 

 今ここで任務を放棄するということは、敵前逃亡の重罪だ。もう教国には戻れないだろう。

 裏の組織は一度入れば簡単には抜けられない。抜け忍のごとく延々と追手がかかり、逃げ回る人生になる。

 

「――だけど律季は、どうにかできるって思ってるんだろうな。きっと炎夏も」

 

「あいつら、バカだからね。逃げようなんてそれこそ考えてもないだろう」

 

 ――でも、そんなバカが今はうらやましい。

 そう思った瞬間、部屋の片隅で、最後まで片づけず残しておいたパソコンが鳴った。

 

『ようコウノセ。ロイだ。――はじまったぞ』

 

「……は!? え!? ま、まだ十七時ですが――」

 

『ああいや、遅刻を咎めてるわけじゃねえんだ。――ニュースを見てみろ。すでに情報が一般に流れているはずだ』

 

 かさばるから最初からテレビは持っていない。あるのはゲーム用のモニターだけだし既に荷物の中だ。

 しかし――スマホの方の緊急速報に、驚くべき内容が飛び込んだ。「真序市にテロと思われる攻撃。近隣住民は急ぎ避難を」。

 動画サイトでも各テレビ局がこぞってニュース中継を配信していた。映っていたのは、第九席(ナインス)傀儡(パペット)の襲撃を受け、炎上する市街地の光景だ。

 

「い、いったい何を!? 天道炎夏が先制攻撃でもしてきたのですか!?」

 

『んなわけねーだろ。むしろ逆だ。あいつを確実に来させるため、街に火をかけた』

 

 ――そりゃそうだろうな。あの正義感のかたまりは、どんなに余裕がなくても街に流れ弾なんか当てない。ボクらにさえ攻撃を躊躇していた甘ちゃんだ。

 だがそれでも自分の上司がここまでの蛮行をやらかしたとは、ボクは思いたくなかった。それも大した意味もなく。

 

『だがやはり決め手はケージ・アキヅキだ。こいつが我が手にある限り、ホノカは決して逃げるわけにはいかん。かならずこの俺と決着をつけるため――否、負けて玩具になるために来る!

 感謝するぞコウノセ、アサギリ! すべてケージを見出してくれたお前たちのおかげだ! この任務が無事終わったら、この俺の直属で働くがいい。〝聖堂騎士〟への昇進も約束してやる』

 

「……! では、以前の任務の失敗は?」

 

『そんなもん帳消しにしてやる。直接見ていたわけでもないしな。本国にもすでにそう報告してある』

 

 ……手柄をたてて失敗を挽回する。はからずもボクらの目的は達成された。

 さらには悪の爪(マーレブランケ)から取り立てられての昇進。願ってもない幸運だ。これで全てが丸く収まる。

 

 ――本当に? ボクが望んでいたのは、本当にこんな事だったのか?

 ボクは今日、ろくに戦いにも参加していなかったじゃないか。それが、権力者の単なる気分で……

 

『――マスター。お電話を少し……』

 

「!? 女の声……?」

 

『ユウマ、レン、聞こえるか?』

 

「……ああ、聞こえるぞ」

 

「誰だ? もしかして増援?」

 

『おれだ。螢視だよ』

 

「……は? キ、キミ、口がきけたのか!? ――いやその前に、一体何の話を……」

 

 ――決まっている。ボクへの恨み節に違いない。

 魔法使いになったという事は、第九席(ナインス)のマインドコントロールはともかく、ボクがかけた『友達』という暗示はとっくに解けているはずだ。

 他人同士に戻った今、わざわざ電話で話をする理由など一つしかない。――よくも利用してくれたな、と言われるに決まっている。

 

『ああ――お別れを言おうと思って』

 

「……え?」

 

『おれ、もともと友達少なかったからさ。短い間だったけど、お前らと話せて楽しかった。お前らはおれを利用しようとしてたみたいだけど、そのことも恨んでない。――それだけ伝えたかった』

 

「――ふっ……ふざけんなッ!!」

 

 一瞬にして頭が沸騰した。罵られたほうがまだマシだ。

 人の心を操れるお前は、こんな風に都合のいいことを言わせられるだろう――そういうメッセージとしか思えない。

 

「いいか、ボクらの目的は、キミの大好きな炎夏を攫うことだ。そのために君に取り入って情報を盗もうとした! ボクが来たせいで、キミの生まれ育った町まで焼かれてるんだ! 今まさにそれを見てるだろ!  

 ……そんな言い方、後味悪いぞ。ボクのこと恨んでるんだろ? 素直に言え」

 

「別に皮肉じゃねぇよ。本心だ」

 

「そんなわけないだろ!」

 

『……違うって。そりゃ嘘をつかれてたって知った時は、ちょっとは傷ついたけど……お前らも仕事でやってるんだろ。生きていくために必要な事だったんだろ? じゃあ仕方ねぇよ。

 それに――途中で何があったって、最後に勝つのは律季だ。それでオールオッケーだろ』

 

「……なに?」

 

 思いもよらぬ発言だった。

 ……律季が勝つ? 本気でそう信じているのか。第九席(ナインス)第十席(テンス)の能力を、一番近い所で見ていながら……?

 

『勝つさ。おれの幼馴染は最強だ。その炎夏が相棒に選んだなら、律季のこともおれは信じる。誰が相手でも負けやしない』

 

「……ぷっ。どこからくる信頼なんだよ、それは」

 

『じゃあな。おれの友達になってくれてありがとう。機会があったら、お前らの漫画を見せてくれ』

 

「――螢視」

 

 思わず声を詰まらせた。

 しかしその時、電話口の向こう側から、耳障りなあざ笑いが聞こえた。

 

『……ハハハ! とんだお人よしだなお前は! 洗脳までされたのにまだ懲りないのか!? そんなだから欲しい女までかっさらわれちまうんだよ!』

 

「――――――――」

 

 第九席(ナインス)が螢視を侮辱する声を残して、通話は切れた。

 指示を出すでもない。おそらく彼にとって、ボクらの存在はいまやどうでもいいのだろう。

 

 

 

「ぐ……ぐ……ぐぅっ……」

 

 

 

 ボクは憤りのあまり、手の甲に爪を立てていた。

 螢視は、自分を洗脳した相手と知った上でなおボクらのことを友達と呼んでくれた。――その螢視の想いを、ロイ・ストリンガーは全否定したのだ。はらわたが煮えくり返っていた。

 

「……どうする、ユウマ?」

 

「どうするって……行くしか、ないだろう。任務なんだから……」

 

 しばらく黙っていたレンが、ようやく口を開いた。

 ――本心を言えば、もう完全にロイの味方をする気は失せている。このまま逃げ出してしまいたい。いや、ボク一人なら確実にそうしているところだろう。

 

 だが、もしそうすれば犠牲になるのはボク一人ではないのだ。

 任務を放棄して逃げ出せばレンにも追手がかかる。それ以前にボクらは、二人とももうこの裏の世界以外では生きていけない。教国から出れば生活していくことさえできないのだ。

 

 レンをそういう状況に追い込んだのは、彼を一緒に教国に連れてきてしまったボクの責任だ。

 数年間苦労して、ようやく二人で安定して生活していけるようになったのだ。ここまで築き上げてきたものを、ボク一人の感情で壊すわけにはいかない――

 

「オレに気なんか遣わなくていいぞ、ユウマ。本当に行きたい道を選べよ」

 

「……わかるの?」

 

「そりゃ、長い付き合いだからな。考えてることぐらいわかる。お前、不良を気取ってるけど、本当はいつも他人に気を遣ってばかりいるから」

 

「――でも」

 

「生活を気にするぐらいなら、最初からお前についていってねぇよ。

 ――忘れちゃったのか? オレはいつでもお前の味方だって」

 

 その言葉をきいた瞬間、全ての迷いが吹き飛んだ。

 ああ、そうだ、すっかり忘れていたな。ボクは魔法の力を手に入れたのは、嫌いな大人の言う事を聞きたくなかったからだ。

 

 ……そして、もう一つ忘れていた。

 本当につらかった時ボクを救ってくれたのは、力などではなく―― 

 

 

 

「レン。ボクらの友達を助けに行くぞ」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道路は市内から避難する車であふれ、歩道もテロから少しでも遠ざかろうとする人の流れでごった返している。

 すべての人の流れに、俺と炎夏さんのホウキだけが逆行していた。

 

「うぅぅぅ……そろそろきつい! まだ着かないんですか!?」

 

「そんなこと言いながらおっぱいを掴むな!!」

 

 ホウキの速度は自動車並みだ。体感だと時速70キロはある。

 しかも座っているのは頼りない棒一本。慣れない俺は乗っているだけでかなり体力を使っていた。

 

「すみませんわざとじゃないんです! 落ちないようにすると一番おっきい部位に手が行って……!」

 

「しがみつくならお腹でいいでしょ!? あと、揉むのは絶対ダメだからね! 二人で乗ってると私も制御が難しいんだから……!」

 

 不幸中の幸いと言うべきか、下の人々はパニック状態で前しか見ておらず、上空を飛ぶ俺たちのホウキに今のところ気づかれた様子がない。

 ただそれでも、誰にも見られていないわけはない。明日になれば俺たちの写真がネット上で出回ることだろう。しかし、既に命まで懸け、秋月先輩も人質にとられている俺たちにとって、そんなのは些細な事だ。

 

「――! 後ろから、誰か来ます」

 

「誰かって……この空の上で追ってくるのは、何人もいないでしょ。お出ましみたいね」

 

 炎夏さんは前しか見られない。俺も炎夏さんに全身の力でしがみついているので、その体勢から見える範囲は狭い。

 それでも後ろから俺たちを追いかけるホウキには気づいた。そして地上には、ホウキと並行するように同じスピードで爆走するバイクが、通行止めの高速道路の左車線をただ一台突っ走ってくる。

 

「やはりあなたね! 神瀬さん!」

 

「……逃げないとは思ったが、まさかホウキで乗り付けるつもりとはな。戦いに行くのは止められたんだろう?

 

「ええ! でも蹴ったわ!」

 

 現れたユウマさんは、飛ぶホウキを俺たちの真横にくっつけた。

 柄の部分をつかんで体を丸める独特の姿勢で、空気抵抗を減らしている。某有名魔法使い映画そのまんまの乗り方だった。

 

「バカだな。あれだけ手加減されても負けたのに、まだ懲りてないのか? 勝ち目なんか万に一つもありゃしないぜ」

 

「御託はいいから早く来なさい! 当方には迎撃の用意があるわ!」

 

「ちがう。なに勘違いしてるんだ。ケンカを売ってるわけじゃない。

 ――その万に一つの勝ち目を、ボクらが作ってやるって言ってんだ」

 

「――え?」

 

 地上で戦うために降下しかけた炎夏さんをユウマさんが制止する。

 そのまま俺の肩に手をかけ、こう言った。

 

「このままスピードを緩めず聞け! ――ボクらは教国を裏切って、キミ達に加勢する! 

 その承認を得るために接触した! 返答を聞かせろッ!」

 

「突然なにを言い出すのよ!?」

 

「き、急ですね……まぁいいですけど」

 

「まぁよくない!!」

 

 





 To be continued
 次回:「TS光落ち魔法少女」
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