水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~ 作:黄緑信号
予定よりも長くなったので前後編に分割しました。後編は一時間後に投稿します。
書き溜めのストックが尽きたのでここからは不定期更新になります。
「――よし、これにて同盟成立だね」
「してなーい!! ちゃんとした説明を求めます!!」
「……相変わらず賑やかなやつめ。この向かい風でもはっきり聞こえるじゃないか」
「そういう所もかわいいですよね」
「二人してバカにしてんの!?」
とはいえ、炎夏さんの困惑はもっともだ。
ついさっきまで戦っていた相手から、唐突すぎる提案。俺はもともとユウマさんとレンさんを仲間に引き入れるつもりで行動していたから考えが一致するが、炎夏さんはそうではない。まして今は時間的にも戦力的にも余裕は一切ないのだ。
「……あのね、私たちに味方するっていうのはつまり、ロイとマルスを倒すってことよ? いったいどういう風の吹き回しでそんなことになったの?
悪いけど、今の所だまし討ちの作戦としか思えないわ。あなたたちには裏切る理由がないじゃない」
「理由は単純だ。律季の言った通り、ロイ・ストリンガーの部下をやるのに耐えられなくなった。そしてただ逃げるよりは、キミたちとチームになっちゃう方が安全だし、勝ち目もある。
だからボクとしては、四人で協力して逃げるのが一番いいんだが……キミらの性格なら、どう考えても
「――少なくともこうやって話しかけてる時点で、オレ達に敵意が無いことは了解してくれないか?
戦う気ならとっくに不意打ちなりなんなりしてるはずだ。後ろをとってたしな」
「……それも私たちを油断させるためにやってる、という疑いはぬぐえないわ。
あなたたちがもうこちらに敵対しないって証拠は、何かある? なければ信用できない」
「証拠か。……あるぜ」
「あるの?」
「ああ。口で言って駄目なら、行動で示してやるよ。――それっ!」
「――うぉぉっ!?」
ユウマさんが刀剣のごとく腰に下げた杖を取り出し、こちらに向けて光らせた。
俺の体がふわりと浮き、炎夏さんのホウキを離れる。
「ひぇぇぇっ!? た、高い……!」
「なにするのよ!?」
「あーもう、いちいちあわてるなって――おーいレン! 寄せて!」
5メートル下の高速道路を走っていたバイクが、返事するようにウィンカーを点滅させ、ギリギリまでこちら側に寄せた。フルフェイスメットを被ったレンさんが、右手でアクセルを握りしめ、左手の杖をゆっくりと動かして、念力で俺を制御する。おっかないがすでに空中なので身を任せるしかない。
浮いたまま俺の姿勢が垂直になり、スッとレンさんの後ろにおさまった。立派な大型バイクなのでタンデムでも余裕がある。
「律季は確実にホウキ初体験だろ? 炎夏も人を載せたことなんてないはずだ」
「は、はい」
「ホウキってのは慣れがないと、乗ってるだけでも結構キツイ乗り物なんだ。通常は使わない筋肉を使うからな。――今はただの移動で体力消耗してる場合じゃない。そこでちょっとでも休んでおくんだ」
「……それはまあ、ありがたいけど……でもこれがどうして証拠になるの?」
「あそこに律季を載せることが、ボクからの友好の証だ。――レンの後ろは、ボクの特等席だからな。できれば誰にも貸したくないぐらいには、ボクにとって大事な場所」
「???」
「……ま、わからんわな」
俺も炎夏さんは首をかしげるしかない。
運転手であるレンさんが、高速道路の上で大胆にもノーヘルの俺に声をかけてきた。
「そうだな……じゃあお前の立場で考えてみろよ」
「俺の立場で?」
「仮にお前らがオレらを騙そうとしているとしてだ、さっきお前がやってたみたいに、オレを炎夏のホウキの後ろに乗せるか? 敵だと思っている相手にそれを許せるか?」
「え、絶対イヤですけど。たとえ味方でもイヤです」
「そういうことだろう。オレにもよくわからんのだが、ユウマにとってこれは大きな譲歩のようだ。くんでやってくれないか」
俺以外の男が炎夏さんに抱き着くなんて、絶対に許せない。
しかし、そういう個人的な感情を抜きにしても、確かにこの位置はやろうと思えば無防備な背中を突けるわけで、信用できない相手には座らせられない場所だ。ましてユウマさんが不意打ちなんかしようものなら、俺の仕返しを確実にくらう。
ユウマさんは自分の特等席とやらを、レンさんは自分自身の身の安全を、それぞれこちらに譲って友好を示したわけだ。信用してもよさそうな気がするが……
「……いいえ、それじゃまだ足りないわ」
「そうですね」
「――なんだと?」
「律季くんが私の後ろを他の人に譲りたくないのは、律季くんが私のことを大好きで、嫉妬しちゃうからよ。『好きな相手の後ろ』だからこそ、誰かに譲ることに意味がある。譲歩として成立する」
「キミ、自分で言ってて恥ずかしくない? ――っておい、まさかキミ……」
「ええ。つまり私が言いたいのは――神瀬さんが朝霧くんに好意を抱いているとわからなければ、これは信用する材料にならないということ。」
「なので、この場でレンさんに告ってください。ユウマさんがレンさんのことを好きだと証明してくれるなら、俺たちはお二人を信用できます」
「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」
……まあ、ぶっちゃけて言えばそんなことは証明してもらうまでもない。
それが異性への好意か友情かはともかく、レンさんがユウマさんにとって重要な相手であることはとっくに承知している。
だから、本当に大事なのは
「な、なんでそんなこと、キミらに知られなくちゃいけないんだよ!?」
「……つ、つーかこんな時にする話じゃないだろ。すでにめちゃくちゃ動揺してんだが……」
「ダメ。言って。じゃなきゃ味方にはできない」
「く……うぅぅぅ……足元見やがってぇ……」
――『ユウマさんに、恥ずかしさを押し切って告白する覚悟があるか』だ。
もしここでユウマさんが本心を打ち明けてくれれば、俺たちはユウマさんを信じることができる。逆にごまかしたり打算的に振る舞うようなら、俺たちに味方する覚悟もできていないと判断するしかない。
「でも……もーちょいなんか……さあ、空気とかあるじゃん……今まで一度も言った事ないのに、こんなところで言えっての? ――つーかこれ、もうほぼ言ってるようなもんじゃん。勘弁してくれよぉ……」
「告白すること自体の意味なんか考えなくていいですよ。大事なのは相手に思いをちゃんと伝える事なんです。俺なんか炎夏さんに毎日五、六回は、好きだって言ってるし」
「「さすがに安売りしすぎだろ!?」」
「……いいえ。そうじゃありません。要するに俺が言いたいのは、最初にどんな風に告ったかなんて気にすることじゃないってことですよ。
もし今告ることに納得がいかなくても、明日もう一回やればいいじゃないですか。二日後でも三日後でも、何度言ってもいいんです。回数で愛の言葉の価値が下がったりはしませんよ。本当にお互いが好きなら……込められた気持ちが本物ならね」
「……まして教国を裏切るなら、あなたたちは明日どうなるか――いいえ、明日があるかどうかさえわからないのよ? 今恥ずかしがって本当にいいの? あとあと後悔することにならないって断言できる?
あなたが本当に朝霧くんのことを好きなら――なおさら今やるべきよ。私はそう思う」
「俺のはまだ片想いですけど、お二人のは両想いっぽいですしね。
――大丈夫、悪い結果にはならないですよ。なんなら保証してもいいです」
「――あ゛ぁぁぁぁもう! わかったよっ! 言やいいんだろ言やッ!!
レンのことが好きだよ! 愛してるっ!! 恋人としてか友達としてかは、今となってはボクにもわからないが……でも……とにかくすごく好きなんだ!!
――さあっ、これで満足だろう!? 仲間になるのを早く認めろ!」
「ええ、歓迎するわ」
完全にヤケで言い切ったユウマさんは、真っ赤な顔を横に向けたまま黙り込んでしまった。
全身から蒸気を出しながらプルプル震えている。ホウキに両手両足でしがみついているせいで、なにかの小動物がうずくまっているように見えた。
「こんな低い所から言うのもなんだが……オレも同じだぞ、ユウマ。愛してる。
オレたちの関係が恋人か友達かなんて、あえて定義する必要もないだろう。もう何年も同棲してるようなもんだし、これからもそうだろうからな。今のまま暮らせればオレはそれでいい。だから、よろしくな」
「~~~~~~!!」
「――さ、心強い仲間が増えたところで……作戦タイムと行きましょうか」
「了解です。ユウマさんも聞いててくださいね」
「いや切り替えられるか!! さっきからキミら、ボクをいじめて憂さ晴らしをしてるだろ!!」
◆
――こちらの勝利条件は三つ。
ロイとマルスを打倒する。
だが
よって真っ先にやるべきは――とにかく、街への攻撃を一刻も早くやめさせることだ。
「――
夕方、快晴。私は空から真序市の全景を見下ろしていた。
五体の
道路はまだまだ人でいっぱいで、襲われている人々はパニック状態だ。
彼等にはホウキで飛んでいる姿を見られてしまうが、ここまで大事になってしまったら魔法の秘匿もなにもない。被害を食い止めるのが優先だ。
「――ハハハ! 早いじゃないか、ホノカ!」
「っ!?」
「はぁっ!!」
右方向から殺気を感じ、私はホウキを急停止させる。
勘で振り抜いた槍の切っ先が、襲い掛かって来た人影をかすめた。
「――予定二十分前に来るとは、礼儀のいいことだ。さすがは優等生」
「……どうせ遅れたら、
ロイ・ストリンガー。
ホウキも持たず、空中に立つようにして浮遊していた。
今のは不意打ちで私に『直触り』を試みたらしい。
反応が一瞬でも遅れていたらまずかった。そのまま支配下にされていた。
(本当に、自分から現れた……!)
律季くんは言っていた――ロイの目的は、最初から私ひとりだけだ。
待ち合わせ場所に公園を指定していたのは、単純に分かりやすい場所を言っただけに過ぎず、お目当ての私が現れればそれがどこであろうと自分から追いかけて来る。
『今までの戦いで俺たちが不利だった理由は、学校という人の多い場所が戦場だったからです。
しかし――俺たちから攻撃をしかけて敵をおびき出す場合、先手をとられるリスクはありますが、こちらが戦場を指定できます』
――ロイをおびき出す場所は、高層ビルの屋上が望ましい。
ここなら人を炎に巻き込んだり、
「リツキはどうした!? まさかお前一人か!?」
「ええ、そうよ!
「賢明だな……ハハハ! どうせ二人でも同じことだ!」
もちろん嘘だ。たとえ突き放しても無理やり危険に首を突っ込んでくるような彼が、自分から逃げるなんてありえない。『あの時』もそうだった。私が独りで戦いに行くなんて、なおさら許すはずがない。
「……下手な嘘だ。リツキ・ミカガミは、どこかに隠れて隙を伺っているな。十分に注意を、ロイ様」
「なに? なぜわかる」
「ユウマ・コウノセとの初戦の記録では、リツキはホノカから逃げるよう勧められていたにもかかわらず、忠告を無視して戦いに参加したのです。その彼が今更逃げるとは考えにくい。
まあその時とは戦力差が違うので、本当に逃げた可能性もなくはないですが……いると考えるにしくはないでしょう」
「!」
「……小賢しいことを。まあいい。ちょっとやそっとの小細工ぐらいどうとでもなる。この俺には最強の盾がある」
入れ知恵したのは、今まで大人しかったマルス・アーヴァインだ。
防御力だけでなく知力の面でも、こいつはロイをカバーしている。相性のいいコンビだ。やはりこいつを引きはがす以外、ロイを倒す手段はない。
――だが、マルスもまた気づいていないようだ。
行方知れずの魔法使いは、律季くん以外にもいる事に。
「そらそらァ! どうした、そうして逃げ回るだけでいいのか!? 小回りのきかないホウキではこの俺からは逃げられんぞ!!」
「く……!」
私はホウキを飛ばしながら胸の谷間から立て続けに『聖炎符』を抜き取り、戦闘機のチャフのごとくばらまいて、ロイの追跡を交わしつづける。ばらまかれたお札は離れた位置で止まり、ロイめがけて突進するが、すべてマルスの手でさばかれる。
だが、これでいい。
目的は当てることではない――『目立つこと』なのだ。
「あなたこそ本当にいいのかしら!? こんなことしてて!」
「何がだ!?」
「あなたたちだって給料取りでしょ! 魔法の存在をこんなに大っぴらにして、なんの罰もないとは思えないけど!?」
「構わんさ! ――どうせ遅かれ早かれ、遠くないうちに全人類へ魔法の存在が知れ渡るのだからな!」
「……なんですって?」
「俺とてメス犬一匹捕えるためにここまで派手な仕掛けは用いん。これはな、『狼煙』なんだよ。フリーメイガス対教国の、開戦の狼煙……! 既存国家を焼き尽くす戦火の、最初の火種がここだ!
我々魔法使いが、この手に地球を掴む――俺たちの名前は、それゆえ『
「……ふうん? 思った以上に壮大な話になったわね。
でもそんな事は後で考えればいい事。少なくとも、今この火を見るのは、この街の人々だけでいい。
――この絶好の位置を、見上げてくれるだけでいい」
「――!?」
「――よくやった炎夏! 『ピカッとするやつ』ッッ!!」
街のちょうど中心部あたりの上空で、神瀬さんの暗示魔法の光が放たれた。太陽がもう一つ現れたような強烈な光だ。
ホウキで飛び回る炎の魔女と、空飛ぶマジシャン姿の男が、ビルの合間を縫って派手な空中戦を繰り広げた。この高度からで視認はできないが、必ず人々は私たちに注目していたはずだ。
そう――今までのは、できるだけ多くの人々の視線をここに集め、暗示の光を見せるための布石。
守るべきは、街より人だ。
「この街に住む、すべての一般人に告ぐ……! 死にたくねーなら持ち物捨てて、並んで街から立ち去れッ!!」
「ユウマ・コウノセ……!? 姿がないと思ったが、まさか!?」
私の頭の中にも神瀬さんの声が聞こえた。
思念波が広がるとともに、街を包んでいた喧騒がぴたりと止まる。人込みがまるでアリの列のように整然と、街の外へ向けて進み始めた。
「昔、避難訓練で習った。火事の時にケガ人が増えるのは、みんなパニック起こして逃げるからだって。列になって一人ずつ逃げるのが、結局一番多く助かるってな」
「きさま、何のマネだ!?」
「あ? 見てのとおりだよ、裏切る。のろしだかうるしだか知らないが、一般人を巻き込む作戦は協力できない。――そこまでするほどの給料もらってないしね」
「……その口のきき方、どうやら冗談ではないらしいな。
何がしたい? 良心が痛むとでもいうのか? 力も使えぬ劣等が何人死のうが知った事ではないだろう。そんな事のためにこの俺を敵に回すとは……お前はどうも、俺が思った以上にバカだったらしい」
「あぁそうさ。ボクはバカだ。だが――自分を曲げて、嫌いな奴に従うって選択も愚かなことには変わりないだろ?
アンタがご執心の炎夏だって、こんな勝ち目のない戦いに挑んでるバカだ。律季も、レンも、そしてボク自身も、みんなそれに乗った。みんな無謀なバカばっかりさ。
――それでも、大人にほめられるバカになるよりはマシだ。
もしそれが賢く生きるってことなら、ボクは一生バカなガキでいい! そう思った……!!」
全力の思念波を広範囲に放ったせいか、神瀬さんの息は荒く、顔色も青い。
しかしほとばしるような気迫がある。私たちの敵だった時より、目が生きているように見えた。
「『アンタに味方してカッコ悪いバカになるか』、『炎夏に味方してカッコいいバカになるか』
――どっちがいいかなんて、考えるまでもねぇだろ?」
「――いい度胸だ!!」
「今だ! レン!」「今よ! 律季くん!」
ロイが最も高いビルの屋上に足を踏ん張って、遠距離の神瀬さんに糸を投じようとする。
号令とともに、両隣のビルの窓ガラスが同時に割れ、こちらの男衆二人がロイめがけて飛び上がってきた。
(!! 今の長セリフは、こいつらを位置につける時間稼ぎか……!?)
「
「〝
「くっ――『グラトニー・スーツ』!」
レンの放った風と律季くんの拳がまとう炎が熱風を生み、ロイの糸をそらす。
そのまま繰り出される二方向からの攻撃を、マルスが両手から半透明のシールドを展開して防いだ。
「ぐうああああ……ッ」(やっぱり破れない……! 硬いやわらかい以前に、手ごたえが全くない! 拳そのものが停止してるのか……!)
「レン・アサギリ……冷静な奴だと思っていたが、お前までこんな集団自殺に加わるのか? 我々を裏切る意味が本当にわかっているのか? バディの無謀な行動を止めるべきだったのに」
「ご心配どうも。でも裏切ったつもりはないっすよ、
第一……自分の生活なんか気にしてたら、そもそもユウマと一緒に教国へも来てません。ユウマの意思がオレの意思です」
「何の話だ?」
「こっちの話です!」
「――二人ともお願い! そのまま止めてて!」
図らずもマルスの動きが止まった。これはロイを撃つ好機!
ノーマークだった私は、斜めに『聖槍』を振り上げ――
「マスター、失礼します」
「――!!」
広告看板の影から現れ、ロイの前に出てかばう、ボンテージ姿の美少女を見た。
それが女体化した螢視だと気づくのに一瞬かかった。そのせいで攻撃の寸止めは間に合わない。やむなく『聖槍』自体をいったん消した。
「卑怯者! またけーちゃんを盾にとって……!」
「フン、お前を怒らせられるのはいいことだが……この俺も守られてばかりではちと興が冷める。もうホノカがケージを殺すのは期待できんしな。
――いいだろう。この俺自らが戦えというのなら、望み通りにしてやる」
「え……?」
「ただし――水入らずで、だ! マルス、やれッ!」
「仰せの通りに」
マルスが懐から結晶を取り出す。神瀬さんとの戦闘で一度見た――『ルームクリスタル』。
対象を選択して異空間に閉じ込める道具だ。あれを使って、私とみんなを引き離すつもりなのか――!
(……信じられない。これも
つい数分前の作戦会議の時、律季くんはこう語った。
――ロイはおそらく全員でのチーム戦にはしない。私と一対一の状況に持ち込もうとするはず。そのためにマルスにルームクリスタルを使わせて他の全員を隔離するだろう、と。
『ロイは俺たちを完全にナメきっていますが、フリーメイガスから増援が来る可能性は恐れているはずです。まず確実に短期決戦で来るでしょう。そうなるとロイの性格からして、自分一人で炎夏さんをいたぶりながら負かしたい、というスケベ心も出すはずです。
マルスには、自分の護衛ではなくルームクリスタルの術者を担当させると思います。絶対防御能力を持つマルスがクリスタルを展開すれば、隔離された俺たちは出る術がありません。ロイからすれば、炎夏さんを捕えるまで誰にも邪魔されない状況が完成することになる。最大火力である炎夏さんを失えば、こちらに希望はありません』
――だが逆に言えば、律季くんは螢視と一緒に異空間へ隔離されることで、螢視をじっくり説得する時間ができる。しかも神瀬さんと朝霧さんがこちらに加わったことで、それを邪魔するのはマルスしかいない事になる。
四人になった今でも、自分たちの力では
『炎夏さんをかなり長い時間独りにすることになるのは不安ですが……しかしもう俺たちには、この展開に持ち込むことしか勝算はありません。
秋月先輩は俺が必ず連れ戻します。炎夏さんはなんとしてでも、それまでの時間を稼いでください!』
「俺の言った事……ちゃんと覚えていてくださいね。どうかお気をつけて」
「ええ。……
言い終わった瞬間、律季くんの姿が消えた。
後に残されたのは私とロイの二人きり。
――律季くんの策はここまでで終わりだ。
あとは純粋に、私の戦いぶり次第。
「
――だからその分期待に応えろ。いっぱい泣き声を聞かせてくれ」
「ええ。ご期待通り――泣き声を挙げさせてやるわ」
人っ子一人いなくなった夕方の街が眼下に広がる。
静寂の中で風が唸っていた。