水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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「――レイン様! 一体どういうことです!? 『奴ら』が我々の目と鼻の先に現れたこの好機に、援軍を送るなとは!?」


 ――読んで字のごとくじゃ、リディ。ロイ・ストリンガーとマルス・アーヴァインは律季たちに任せる。それが命令じゃ。


「そんなバカな! 今動ける全戦力を向かわせてでも、奴らを確実に討伐すべきです! このままではチャンスを逃したあげく、我々の同胞を見殺しにすることに……!」


 ――いいや、そんなことは決してありえぬ。……水鏡律季が奴らごときに敗北するなどは、天地がひっくり返っても起こり得ぬことじゃ。


「……は?」


 ――むしろ懸念すべきは、いらぬ横槍を入れて不測の事態を招くことか……逆に律季が『やりすぎてしまう』ことじゃ。律季の真の力は、ここで開示されるべきではない。律季が実力をセーブし、かわりに炎夏が潜在能力を発揮して勝利するのが、最も具合がいい展開。
 下手に助けてはならぬのじゃ。炎夏の成長を助けるためにもな……。


「……その、おっしゃっていることが、理解できません……」


 ――とにかく言う事を聞け、リディ。おぬしの気持ちも分からぬではないが、決定権を持つのはわしじゃ。文句も疑問も、終わった後でまとめて聞いてやる。今は、命令に従う時じゃ…‥。


「……はっ。ではマスコミ各社には、いつも通り報道規制を(・・・・・・・・・・)。警察・消防・自衛隊にも動かぬよう政府を介して厳重に通達いたします(・・・・・・・・・・・・・・・・)


 ――うむ。ごねるようなら改めてわしにつなげ。ではな……。








 電話を切って、机を叩いた。
 『彼女』の判断を疑いたくはない。だが……これは、いくらなんでも。

「……納得できない! レイン様は何を考えている!? ――あの少年が、いったい何だと言うんだ……!!」


24. 白い魔女と赫い天使

「律季を撃て? ……殺せっていうのか!?」

 

「もちろん違う。命令はあくまで研究対象であるそいつの捕獲だから、命がなくては意味がない。戦闘不能になるように、手か足をうまいこと撃ち抜くんだ。死なない程度にな。

 ――これはお前のケジメだ、ユウマ。我々を裏切るなどという一時の気の迷いは、完全に断ち切ってもらわねばならない」

 

「気の迷いなんかじゃねぇ! 仮にそうだとしても一旦裏切った以上、これからはずっと律季につかなきゃ筋が通らないだろ!

 今また教国に寝返り直すんじゃ、なにがなんだかわからないじゃないか!?」

 

「だがそれができなければ、アサギリが死ぬ。お前の唯一の家族だろう?」

 

「う……!」

 

 反発するユウマさんをマルスが黙らせる。

 斬られた腕の痛みに脂汗を流しながらも、今までの寡黙さが嘘のような饒舌さを発揮して。ユウマさんが言い返せなくなったのを察知すると、マルスはにやりと笑い、手の中に鋭い針がついた器具を取り出した。

 

「ふんっ!!」

 

「!?」

 

 ――ドスッ!

 武器かと身構えた俺の目の前で、マルスはその針を自らの腕に勢いよくねじりこむ。すると、俺が与えた傷が一瞬にして閉じてしまった。

 

(回復!? それも、とんでもない即効性の……!)

 

(くそ……見誤った! 奪うべきだった……!!)

 

「『聖別医療班』印の輸血液。悪の爪(マーレブランケ)12人にしか支給されない貴重品だ。銃創を治せる唯一の薬が消えた。これでレンを助けるにはお前が寝返るしかないわけだ。

 ――究極の選択ってわけじゃないだろう? 裏切りは帳消しにするって言ってんだぜ」

 

「……ユウマさんを取り戻して、それで秋月先輩を奪われた埋め合わせにしようって考えか? だったらなぜ黙って見ていた?」

 

「さっきも言ったが、面白かったからさ。傀儡(パペット)化することなく精神汚染だけで服従させると、相手の魔法力を使えるが、説得で意識を取り戻してしまうリスクも生じる……これは、今後有益な情報だ。

 付け加えるならお前たちは、今の段階ではケージを奪回してなどいない。俺と一緒にルームクリスタルの結界に閉じ込められているのだからな。そちらの最大戦力であるホノカがロイ様に勝てない以上、我々の総取りという結果も動かない。埋め合わせも何も無いってわけさ。

 

 ――だがここでユウマを『成長』させる事は、必ず将来意味を持つ」

 

「なんだと?」

 

「ユウマ・コウノセは我々にとり、若手の有望株だった。街一つを思念波ですっぽり覆ったのをお前も見ただろ? 本来ならとっくに聖堂騎士(チャーチナイト)になっていておかしくないし、さらに上も狙える逸材だ。

 そいつがわざわざ格下のSSS(ソーサリー・シークレット・サービス)に甘んじ、源形(アーキタイプ)にも至れなかった――その理由は単純。覚悟が足りないからだ。善人にも悪人にもなりきれない、中途半端な精神が成長を阻んでいる。

 

 この任務につけたのも、もとはといえば成長を期待してのことだった。まあそれは俺が決めたわけではないが――まさか一皮剥けるどころか敵に同情して役目を放棄してしまうとは、ノーツの奴も予想外だったろうな。自分で甘さを切り捨てられないのなら、荒療治しかないだろ」

 

「……させっかよ」

 

 魔法少女姿の秋月先輩が、十字の瞳でマルスを睨みつける。

 そして膝を折ったレンさんに視線を合わせ、不敵に笑った。

 

「大丈夫だ。二人ともおれを助けるために裏切ってくれたんだろ。だったら今度はおれの番だな」

 

「螢視? 何をする気……」

 

「癒せ。天の聖弓(キュアブルーム)

 

「……なにっ!?」

 

 先輩が両手でホウキを捧げ持ち、聖職者のように目を閉じて祈った。その足元から淡い光を放つ円陣が広がり、俺たちを下から照らし出した。

 レンさんの銃創が瞬時に閉じ、出血が止まる。じんわりとした温もりが俺の身体へ登って来るとともに疲労が消え、頭までもが冴えわたっていった。

 これは、まさか――

 

「元気になったか?」

 

「あ、ああ。だがお前、まさか――『白魔力』を?」

 

「そうみたいだな。図らずも、おれの願いは叶ったらしい」

 

「――はっ……はははっ! マジかよっ!? もしかして俺、回復術師が誕生する場面に立ち会ったのか!? くっそぉ、スマホで撮っときゃみんなに自慢できたのに……!」

 

「て……第十席(テンス)?」

 

 策を潰されたというのにマルスが悔しがらない。それどころか狂ったようにテンションを上げて目を爛々とさせている。

 

「なに興奮してんですか、気持ち悪い」

 

「おいおい、これが興奮せずにいられるか!? 白魔力を扱える魔法使いが、どれだけ希少なのか知らないってのかよ!? それもあの重傷を瞬時に直すレベルとなれば、世界中探しても100人いるかどうか……! 

 戦闘中にケガしなかったせいでもあるが、お目にかかるのは俺も初めてだぞ! とんでもない掘り出し物だ!」

 

「えっ? これそんな珍しいのか? 律季」

 

「いや……俺に聞かれても」

 

「――っははは! こいつは運がいいぜ! 考えようによってはリツキ以上に重要な捕獲対象を、俺自身の手で捕らえられるときた! いやが応にも夢が膨らむってもんじゃねーか、おい!」

 

 ……そう。緊急の危機は避けられたが、打開策がないことには変わりない。

 秋月先輩が貴重な存在と知られた以上、遊び半分だった今までとは違い、マルスも躍起になって確保しようとするだろう。

 

 どうする……装甲の上からじゃ攻撃は効かない。舌先三寸でどうこうできる状況でもない。

 早く炎夏さんと合流しなければいけないのに……!

 

「「ちょっと失礼!」」

 

「――え?」

 

 気づけば俺はレンさんに抱えられて、ビルの間を跳んでいた。

 視線を横に向けると、秋月先輩をしょって飛び回るユウマさんの姿も見えた。

 

「な、なにしてるんですか!?」

 

「いったん距離を取る! おとなしくしてろ!」

 

「おい螢視、さっきから乳が背中に当たるぞ! 性転換するだけならこんなにいらねぇだろ! ちょっとでいいからボクにも分けやがれ!」

 

「知るかよ! なんで逃げるか説明しろ!」

 

「――閃いたんだよ。あいつの防御を破る作戦を!」

 

「あぁ。オレも多分、同じことを思いついた。攻撃がダメでも、『回復魔法』ならもしかしたら……ってな!」

 

「……え? えっ? ど、どういうことです?」

 

「「こういうこと――だっ!!」」

 

「ぐぇぇっ!?」

 

 別のビルの屋上に向け、ダンクシュートのごとく勢いよく叩きつけられた。

 秋月先輩と二人で絡み、ゴロゴロと転がる。

 

 ――回転が止まると、俺の手が、秋月先輩の下乳の穴にズッポリと入っていた。

 狭い谷間の中に、手首まで深々と。

 

 

 

「――うわぁぁぁぁっ!?」

 

「ひゃぁぁぁぁっ!!??」

 

 

 

 なんだかデジャヴを感じる。

 元凶のユウマさんは、「おー。うまいこと入ったねぇ」などと他人事だった。

 

「なっなな……なにすんですか二人ともッ!?」(ぐりぐりぐりぐり♡ さわさわさわさわ♡)

 

「そう言いながらなぜ手を動かす!?」

 

「だって先輩がひゃーとかかわいい声出すから!!」

 

「理由になってねぇよ! ――んっ、くぅっ♡」

 

 衣装で締め付けられてみちみちの谷間が手首に吸い付いてくる。しかも中はノーブラだ。

 すでに触れてしまったのをいいことに、俺は生乳に指を這わせまくる。女の子になった先輩は力も弱くなり、馬乗りになった俺を押しのけることができない。

 

(……し……しかし、先輩えらく感度がいいな? 撫でてるだけでこの反応……?)

 

「こ、これのどこが作戦なんだよっ!?」

 

「螢視も見たろ? あいつは『装甲の上から』回復アイテムを使った。防御を解くことなく、そのままだ」

 

「『グラトニー・スーツ』は一切の攻撃を通さない――攻撃じゃない白魔力は、貫通して効果を発揮するってことだ。お前のアレが炎夏以外の魔力も宿せるなら――『生本能の拳(リビドーナックル)』で、螢視の回復力も使うことができるなら、あるいは……!」

 

「――! なるほど、そういうことですか」

 

「何がだよ!? ……っ……♡ おい、いい加減止めてくれ……よっ♡」

 

「すみません、でももうちょっとだけ我慢してください! 俺の能力でおっぱいから魔力を採ります!」

 

「ホントなんだろうなそれは!? ただ乳触りたいだけじゃ――ふぅっ♡♡」

 

「目隠しッ」

 

「とっくに目つぶってるよ……危ないから離せって」

 

「いちゃついてないで助けろぉー!! ……あっ!?♡ うそだろ……『そこ』は……っ♡」

 

 パツパツの乳袋の中に突っ込んだ手を滑らせ、少しずつ衣装をかきわける。

 探り当てた乳首を指で挟んで――「くりっ♡」と、つねりあげた。

 

 

 

「や、やめっ――ふぁぁぁぁぁぁンッ♡♡♡♡」

 

 

 

「!!」(は、早ッ!? もう『つながった』……!)

 

 

 

 絶頂とともに秋月先輩が、喉の奥から絶叫を絞り出す。男だった時の面影など一切ない、いやらしい嬌声だ。

 同時に光の紋章が秋月先輩の胸の谷間に現れ、服越しでもその輝きが見えた。炎夏さんの胸に現れるものとまったく同じ形だ。

 

「う、ぅぅ……お前、ホントにこんなこと、あいつともしてんのかよ……?」

 

「……炎夏さんとはすでに何度も。……こうなった以上は、多分秋月先輩ともこれから……」

 

「……っ♡ ま、まじかよぉ……♡」

 

「――どこへ行こうと言うのだ!? この閉鎖空間の中で!」

 

「うわ来た」

 

「……って……おい、なんだこの状況は?」

 

「いまだ律季! 『アレ』を発動しろ! 第十席(テンス)を倒すにはそれしかねぇ!」

 

 荒い息を吐いて放心する秋月先輩に俺が馬乗りになり、ユウマさんがレンさんを目隠ししている。

 意味不明な光景に困惑するマルスに、俺が間髪入れずに駆け寄った。顔を手で覆われたままのレンさんの声が、俺を後押しした。

 

「なんだ……? まだわからないのか? 俺に攻撃は通用しない!」

 

「それはどうかな――〝聖痕(スティグマータ)〟!」

 

 俺の拳が紋章の光を宿し、白い霧状の魔力を帯びた。

 そう、攻撃は通用しない。だが人を傷つけるのは物理的な衝撃や悪意だけではない。優しさも、回復力も、強すぎれば命を蝕む毒となりうるのだ。炎夏さんのことを想うあまり、自らを破滅思考に陥らせてしまった秋月先輩はその実例。

 

「砕けろ、ハリボテ!」

 

「――!? ぐはぁっ!?」

 

 過剰に集中した白魔力が、『グラトニー・スーツ』を侵食する。

 拳の触れた腹から鎧が砕け散り、マルスは力なく膝を折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣き声を上げさせてやる? この俺にか? ――ハハハッ、威勢がよくて実に結構だ。しかしな……今はそんな啖呵をきっている場合じゃないだろう?」

 

「なにがよ?」

 

 愉悦が腹の奥から溢れて来る。

 疵一つないヤマト撫子の美貌が、斜に構えてこちらを睨みつけて来る。ツヤツヤの黒髪は強風にあおられながらも乱れることなく、清水のようにさらさらと流れていた。

 

 ――この女が今から俺のモノになる。炎上する街を見下ろす、この舞台で。

 悪の爪(マーレブランケ)になった甲斐があった。これこそが強者の特権だ。

 

「大方、あの裏切り者ふたりを頼りにしてここへ来たんだろ? 2たす2で4人だから、俺とマルスより有利という単純な計算でな。だが今この場にいるのは俺とお前の二人だけだ」

 

「私はひとりでも来るつもりだった」

 

「どうだか……な。つまり俺が言いたいのは、この状況でお前がわざわざ交戦を選ぶはずがないってことさ。お前が今からやることは、ただただ無様に逃げ回って時間を稼ぐこと。それだけだ。他の選択肢はない」

 

「えぇ、きっと、律季くんならそうするでしょうね。でも私は彼じゃない。

 ――彼のように、賢くなれない」

 

「ならば死に急げッ!!」

 

 ホノカが炎の槍を構えるより速く、俺の糸が振り抜かれた。

 反応できていない。当たる。

 

 ――顔や体に傷はつけない。これからすぐにでも楽しむのだ。

 手始めにあの薄布斬り裂いて、裸にひん剥いて辱めてやる――!!

 

「……そう。私が精一杯賢く振舞おうとしても、裏目になるだけ」

 

「――な……!?」

 

 俺は、己の目を疑った。

 すっと前に出たホノカの身体を、糸がすりぬけたのだ。物体に触れた手ごたえさえ伝わってこなかった。まるで幻を切ったかのように。

 

「律季くんを守ろうと思って自分一人で戦った時は、逆に律季くんに助けられた。本人のためになると信じてけーちゃんを戦いから遠ざけたら、逆にけーちゃんを酷い目に遭わせた。

 ……律季くんは私に反対した。けーちゃんにしっかり事情を説明するべきだと言った。傷つけちゃうかもしれないって。それで結局、彼が正しかった。私が意見を押し通したりしなければ、こんな事にはならなかった。

 

 ……なにが先輩。なにが親友。私は何もわかっていなかった。全部律季くんに助けられた! 魔法のことも、戦いのことも、けーちゃんのことさえも……!

 ――だけど、そんな私でも、彼に力を貸す事はできる。ならば私はもう何も考えない。――私は、ただの力でいい」

 

(……い、いったいなんだ? この圧力は……!?)

 

 マルスに五本指の分の糸を貸している。空いた片手で杖を握り、防御姿勢をとった。

 体中から汗がにじむ。ホノカから発せられるこのプレッシャーは、ただの錯覚なのか? 相手の気迫が強すぎるせいで……

 それとも……この俺が、目の前の女を、脅威と感じ取っている……!?

 

 

 

「そう……私は、ただの炎でいい。炎が向かうべき先は律季くんが知っている。

 ――これが私の見出した、自分の本当の姿――源形(アーキタイプ)、『神化(ルベド)』」

 

 

 

「――ぐぁぁっ!?」

 

 

 

 ホノカの左目の炎がはじけた。気づけば俺は吹き飛ばされ、地面に転がっていた。

 目を開けた先にあったのは――業火。ビル街を包み込むほどに巨大な、上空の夕焼け雲の姿をゆらめかせるほどに巨大な、ひとつの炎が出現していた。

 

 

 

「オオオオオオオオオオォォォォォ――――――!!!!!!!」

 

 

 

 その炎の中に、包み込まれるようにして浮かび上がるのは――『竜』のシルエット。

 天高く突き上げた首が産声のごとく咆哮を轟かせ、大地を震わせる。

 

 俺はどうしようもなく直感した。

 ――地獄の蓋を開けてしまった、と。

 

 

 

 

 

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