水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~ 作:黄緑信号
「はー。やっぱりなぁ……ひどいことになっちゃった」
私は、惨事になった周囲を見て憂鬱だった。
私の炎は敵以外焼かないので焦げ跡などはないが、物理的衝撃だけで道路やビルにヒビが入り、停まっていた車が横転したりしているのだ。
「――ん? あれ? ロイがいないわ……うそっ、逃げられちゃった!?」
うっかりした。手を離すべきではなかった。
死んではいないはずだから、爆発で吹き飛んだ拍子にどこかへ身を隠されてしまったのだろう。自分自身でばらまいた爆炎が煙幕になってしまった形だ。
(マジかぁー!? ……うー、我ながら情けない。なんか私って、肝心なとこでツメが甘いんだよなぁ……)
――って、頭を抱えている場合じゃないぞ私。早くロイを探さなければ……!
しかし今から探して見つかるのだろうか? 探知はもともと不得手で、火力が上がってもそこは変わっていないし……。
「あっ、いた! 炎夏さーん!」
「……! 律季くん……」
ビルの影からよく知るオレンジ色の頭が見えた。――よかった、無事だった! 疲労しながらも明るい表情から察するに、けーちゃんも取り返してくれたのだろう。
その安堵とは裏腹に、咄嗟に目をそらしてしまった。この姿は見られたくなかった。できれば元の姿に戻ってから会いたかったのだ。
割れていないビルの窓に私の姿が映っている。紅蓮の髪、異形の瞳を持つ恐ろしい竜人だ。あたりに広がるのは、私がばらまいた暴力と破壊の痕跡。道路は罅割れ、建物は削れ、車がひっくり返っているのだ。
――きっと、あの時のけーちゃんと同じように怖がられてしまう。
律季くんに。いつもニコニコしながら私を慕ってくれる彼に――
「わわっ! 炎夏さん、どうしたんですかその姿!?
――よくわかんないけど、すっごい素敵ですね!! 赤い髪もかっこいいし!!」
「――! ッ~~~~~♡♡!!??」
「? どうしたんです? なんで向こう向いてるんですか?」
「……なんでもないわよ、もう。……本当、ぶれないんだから……♡」
――い、いかん、にやける。ゆるむ口元を隠すため、振り返らないまま顔を手で覆った。
い、いや違う、うれしいわけじゃない。律季くんがあまりに能天気すぎて笑っちゃっただけだ。律季くんに褒められてうれしい……わけがない。
「――うわ! し……しかも、服がビキニになって余計露出度上がってるじゃないすか!? 腰もパレオみたいになって太もも丸見えだし……!!!」(もみもみ♡)
「んぃぃっ!?♡♡」
「ふぉぉぉ、期待通りほっかほか……!! 汗かいてしっとりしてるし……最高かよっ」
「そこはぶれろっ!! 天誅ッ!!」
「
秒でおっぱいを揉み出した律季くんに抱き着いて、全身から炎をほとばしらせた。火だるまになった律季くんは苦しみながらも指を止めず、おっぱいを揉み続けている。
「……予想以上に面白い悲鳴をあげてんじゃないわよ。お仕置きされてるのになんで喜んでんの」
「炎夏さんにハグされて喜ばない男がいますか!!」
「……ふうん……♡ じゃあもっとしたげよっか?」
「ぜひお願いします!!」(ぎゅっ)
「まっすぐな目で言うな。抱き返してきてるし、逃げる気ゼロじゃないの」
「……二人とも、えらく距離が近いんだな」
後ろからかかったその声に聞きなじみはなかった。だがこの口調を私はよく知っている。
驚いて顔を向けると、そこには『白い魔法少女』がいた。螢視と同じ背丈、同じクリーム色の髪をした女の子だ。
「こちら、秋月先輩です。意識が戻りました」
「体は女の子のままなの!? ……もしかして、元に戻らない感じ……?」
「いや……女の身体になったのは、どうやらおれ自身の能力らしい。ロイに何かされたわけじゃなくな」
「……えっ?」
「その辺はまた後で話すよ。それよりお前の話が聞きたいんだが……結局律季とはどういう関係なんだ? なんで胸触られてるのに拒否しなかったんだよ」
「いや拒否はしてたつもりよ!? いつもそれを律季くんが強行突破してくるだけで……」
「いつも? ……いつもって事は、こういうことを日常的にしてるのか。本当に……律季の言ってた通り、『セクハラ三昧の日々』を……?」
「どこまで話したのよ律季くんッ!?」
「……まあその、やむを得ない事情がありまして」
まあいずれバレることではあるし、もともとけーちゃんが戻ってきたら全て話す気だった。隠し事をしたところで良い結果にならないのは既に学習済みだ。――ただ、打ち明けるのならできれば私の許可をとってからにしてほしかったというだけで。
「それでな
「……え? なにを?」
「おれにも火をつけてくれ。律季だけ焼いてもらうなんてずるい」
「何言ってんのけーちゃん!? いやマジで何言ってんの!?」
袖をつかむ感じで私の羽の端っこをちょこんと握り、恥ずかしそうにしながらけーちゃんが申し出て来た。意味がわからない。
焼かれてチリチリアフロになった律季くんがアホ毛を揺らしながらうんうんうなずいている。――いやなんなのよさっきから。二人の間でどんな話し合いがあったの?
「なあ……いいだろ? そんな綺麗な姿見せられたら辛抱できない。燃やしてくれ。お願いだ」
「やっ……やめてよけーちゃん!? なんでさめざめと泣いてんの!?」
「感動の涙だよ。こんなに近くでお前の姿が見られるなんてな」
「生きてるっていいもんでしょ?」
「……ああ、まったくだな」
「……ま、まあ、けーちゃんが嬉しいなら別にいいんだけどさ。よしよし」
「くーん……」
やはり私は親友のことを何もわかっていなかったようだ。
つーっと涙を流し続けるけーちゃんのことを、私はわけもわからず撫でる。さらさらの髪だ。ヘアスタイルは一緒なのに、明らかにキメが細かくなっている。
「――炎夏! 無事か!?」
「あ、神瀬さん。うん、私は大丈夫だけど……」
「!? ――えーっと、炎夏でいいんだよね? なにその格好? 髪の色まで変わってんじゃん」
「あっ……えっと、どうやら
そりゃまずそこを気にする。律季くんもけーちゃんもなんで当然のようにこの姿を受け入れたのかわからない。ユウマさんに聞かれるまで外見が変わってるのを忘れかけていた。
「よくわからない?」
「うん。レイン先生なら詳細を知ってるかもしれないけど」
「……え? それって、保健室の雹冬先生のことか? なんで……」
「いや、そんな事よりロイはどうした? まさか一人で倒しちまったのか?」
「あ! すっかり忘れてた……!! ごめん、多分倒せてない! 逃げられたかもしれないけど、まだどこかに隠れてると思う!」
「――レン、解析!」
「いいやもう見えてる! ――上だッ!!」
瞬間、空に影が現れた。
既に日は沈みかけ、紫色の帳が頭上を包んでいる――その中央を、大きく遮るモノがあった。
「
「いや、中身はロイ本人だ。糸を自分自身にくっつけて自ら魔物化したらしい」
「そんなことまで出来るのか!」
ロイが変化した最後の姿は、デコボコだらけの巨大な隕石だった。
表面には憎しみの形相を浮かべる顔が現れ、私たちのいる地上を睨みつけている。大きすぎて距離感が狂うが、そんなに高さはなさそうだ。
隕石の顔は動かないまま、一帯にロイの声が響いた。
「がああああああああ―――――ッ」
「っ!! 耳が……」
「ホノカァァ! おとなしく、この俺のモノになっておけばよかったものを――! お前はもういい! お前なんぞもう惜しくない! その顔を見るだけで、今日の屈辱を思い出してしまいそうだッ!!
お前の存在自体が、俺の心の平穏を乱す――全員まとめてブッ潰れろ!!」
「! 反応が肥大化する――残りの魔力を全て破壊につぎ込むつもりか!」
「まずい! あんなのが落ちてきたら、街ごと吹き飛ぶぞ……!!」
「――律季!!」
朝霧さん、神瀬さん、けーちゃん、そして私。全員の視線が無意識に律季くんへ集中する。
それは彼がみんなの心の支えになっている証。みんなが彼をリーダーと認めた証拠。
「……いや。俺はもう戦えません。もう拳が使い物にならないし、そもそもあんなところまで攻撃が届かない」
「え……っ? なにそれ、ひどいケガじゃない……! ――普段通り過ぎて気づかなかった! そんな手でセクハラして痛くなかったの!?」
(痛くないんだろうな……律季だし)
「俺にできることはもうありません。――後はお二人に任せます。炎夏さんと、秋月先輩に」
「え……?」
「……やってくれますか?」
「そ、そりゃ私はやるけど……どうしてけーちゃんも」
「
言い終わる前に、けーちゃんが私の言葉を遮った。
顔つきも声も美少女のそれだ。だが瞳に宿るのは、男らしい譲らない意思。小さくも熱い手が私の手を取った。
「もう遠慮するのはやめだ。お前が嫌だと言っても、おれはお前と一緒に戦うぞ。
――今からおれの言う通りにしてくれ。悪い怪人をぶっとばすんだ!」
「!? わ、わかったわ……!?」(怪人って何……!?)
「
けーちゃんがホウキ型の
同時にけーちゃんの背中に、いくつもの光の矢が収められた矢筒が現れる。それはよく見ると、ホウキから取り外された掃く部分なのだ。
ホウキの棒が弓に、毛が矢になった。――
「さ、
「ど、どうするの?」
「お前の槍を、おれの弓につがえる。二人で一つの弓矢になるってわけさ」
「そんなことできるの!?」
「……『合体技』はずっと憧れてきたシチュエーションだからな。今のおれにならできるだろう」
「理屈になってないけど!」
だが理屈ではわからずとも、心で理解できる――これがけーちゃんのやりたいことなのだと。魔法使いが心からやりたいことは、『できて当然』のことなのだ。
『横』に構えた巨大な弓。左利きのけーちゃんが右に、右利きの私が左に入った。
巨大な槍を二人手を重ねて引き絞る――エネルギーの蓄積と共に、黄金の炎が二人の
「「
気付けば、二人同時に叫んでいた。
放たれた槍は、黄金の尾を引く紅蓮の弓矢と化して、ロイの変化した隕石を吹き飛ばし――彼方の雲さえも貫通して、空に大穴を開けて行った。
◆
「――が……はッ……!!」
貫かれ、射ち堕とされる。
残存の魔力をありったけ振り絞って作り出した魔物の身体が、崩壊する。
吹き飛ばされて太陽を仰ぐ俺の眼前に――現れる者があった。
「ひゅー。すごい技だったなあ。ふたりは魔法少女って感じだ」
「……リツ……キ」
単独でホウキに乗ってここまで飛んできた、リツキ・ミカガミだった。
落ちていく俺の襟首をつかみ、間近に虹色の瞳を近づけてくる。
「炎夏さんが載せてくれたおかげで、ホウキの乗り方もなんとなくつかめた。
ぶっつけ本番は恐かったが、あんたを逃すわけにはいかないからな」
「さ……さっき、手が使い物にならないって……言ったくせに」
「忘れた!」
――ゴシャアッ!!
容赦ない肘鉄を鼻に喰らわされた。熱い感触が噴き出て、目の前が真っ暗になり、さらに落下が加速する。
そのまま下にあった林に突っ込んだ。重なる枝が鞭となって、強烈に俺の肉体を打ち据える。
「――が……は……!!」
……痛い。熱い。……悔しい。
――だが、生きている。死んでいない。魔力は尽きたが、体はまだ動く。うつぶせに打ち付けられた体を引きずり、震える手で泥を掻いた。
「ま……まだだ……なんとか、逃げ……ッ」
「――いいや。おぬしは、ここで終わりじゃよ」
「……なっ!!??」
俺は、自らの知覚を疑った。
顔を上げた先にいたのは、何年も会っていない旧知の相手だ。そして俺にとって――
「レイン、様……?」
「さすがはわしの律季じゃのう。
じゃが……炎夏の成長にとって、おぬしはよき踏み台となってくれた。想像以上に良い結果じゃ。感謝してやるぞロイ」
「あ、あなた様が……いや! 貴様が……なぜここにいる?
――
「――なんじゃ、母様はわしをまだ除籍させておらんのか? その名前も、その肩書も、わしはとっくに捨てたというのに。
今のわしは一般人で、高校の養護教諭で……律季のオンナの、
「……は?」
歴然たる美女に成長した『皇女』は、前に見た時から一段と――否、ニ段飛ばしで育った爆乳をぶるんと揺らしてウィンクする。
……高校の教師? ……リツキの、女だと? 何を言っているのかわからない。
「しっかし、派手にやってくれたものじゃのう。わしも今後の処理を考えて今から頭が痛いわ。
……わしの住む街を壊した罪。わしの律季を侮辱した罪。わしのかわいい
「くぅっ……!」
「フン」
抵抗しようとして、動く前に止められた。満身創痍とはいえ全身の力を込めているのに、指一本さえ動かせない。
――特殊能力ではない。純粋なサイコキネシスの出力が異常なのだ。レインは杖さえ持たず、視線だけでこの俺の全肉体を抑え込んでいる。
「……あほか、おぬしは。万全の状態でも炎夏に負けるおぬしが、このわしを相手に何かできると思ったのか?
炎夏にボコられて文字通りヒートアップしたか――ならば、少しばかり頭を冷やすがいい」
「……!? ま、まさか」
「――それっ♪」
レインが手を軽く振ると、どこからともなく水滴がぽつぽつと小雨のように降り注ぐ。
その冷たさに俺は青ざめた――間違いない。これはあの『聖女様』と同じ力の前兆――!!
「貧弱、貧弱ぅ~っ♪」
「……う、うわああああっ!!?」
レインがあざとい動作で投げキッスをしてくる。昔より一層美しくなった彼女に、俺は敵であることを忘れて思わず見とれてしまった。
だから一瞬気づかなかった――俺の首から下が、一瞬にして氷漬けになったことに。
「おや、間違えて頭以外を冷やしてしまった様じゃのう」
「そういう問題!?」
「汗をかくと涼しくなるように、水分は蒸発すると冷却効果を発揮する。この術はその応用じゃ。
――さて、どうしよっかな~♪ わしとしてはこのまま蹴りを入れて、粉々にしてやっても構わんのじゃが……」
「……ひっ」
凍った俺の背中にコツコツとかかとを打ち付けて、嗜虐的な笑みをレインは浮かべる。
……恐ろしい。これがホノカの言った『いたぶられる側の気分』なのか。
「それをすると、炎夏の優しさを不意にすることになる。あやつ、あれだけブチギレておったのに、結局おぬしの命を取らんかったからの……まったく、筋金入りの甘ちゃんじゃ。
おぬしを殺さないことが炎夏の選択ならば、わしもそれを尊重する。このまま凍らせて護送するとしよう」
「あ……ああっ」
「くくくっ――可哀想じゃのうロイ♪ おぬしはわしも炎夏も、好きになった女をひとりも手に入れられないんじゃ……♡ これからおぬしが牢屋に入っている間、律季はご褒美にわしらの乳を揉み放題の生活を過ごすんじゃぞ♡ おぬしは地獄で、律季は天国じゃ♡ 因果応報じゃな♡
――氷の中でいっぱい悔しがれよっ♡ ぶぁ~~~~~か♡」
これだけ侮辱されているのに、口が凍らされて何も言い返せない。
――昔あれほど焦がれた乳が手の届く場所にあるのに、手が届かない。
ホノカも、レインも、俺はこんなにも欲しいのに……なぜ、手に入らない?
(ちく……しょう…………なぜだ!! ――俺も、欲しいのにッ…………!!!!)
沸騰するような屈辱の中で、俺の視界は氷に閉ざされていった。
「……はぁ、まったく。女の趣味以外も律季に似ておれば、違う道があったろうにのう。
哀れな男じゃ。手に入らぬ女にばかり