水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~   作:黄緑信号

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32. レイン先生とお風呂で進路相談

 

 

 レイン先生のお風呂は円形のジャグジータイプ。それも明らかに一人用ではなく家族風呂サイズで、四人で同時に浸かってもまだスペースに余裕がある。

 しかし――「折角の混浴だというのに離れる理由などない」というレイン先生の提案により、結局俺を中心とした四人でギチギチに固まって入ることになった。おかげで浴槽の半分以上が空いている。

 いつもなら炎夏さんが文句のひとつでも言うところだが(そしてぶつぶつ言いながら素直に応じてくれるところだが)、今回の彼女は違っていた。

 

「「……」」(ぼ~~~~っ)

 

「おい、そこの二人、いい加減にせんか」

 

 後輩男子のあられもない場面を見てしまった炎夏さんと、見られてしまった俺。お互い視線をそらし、会話もない。ただただ自分の赤い顔が映る水面を見つめるのみだ。

 

 ――うぅっ、立ち直れない。好きな人の目の前で生き恥をさらした……。

 プライドというか尊厳というか、なんかもういろいろなものがズタズタである。軽く死にたい。

 

「……し、仕方ないわよ。律季くんは悪くないわ」

 

「……なにがですか?」

 

「やめてって言ってるのにやめてあげなかった私たちもよくなかったし……あと、このところ忙しかったから、た……たまっちゃってた、のよね? だからあんなことに……」

 

「ぐぶぇッ」

 

「やめて差し上げろ」

 

 オーバーキル! 危うく血を吐きそうになった。皆さんも入っているお湯を汚すわけにいかないから耐えたけども。

 優しさが人を傷つけるってのはこういうことなんだな……。にしたって斜め上の配慮だよ。

 

「……よりによって好きな相手から、そんな気の遣われ方をされる男子の気持ちを考えろ。

 律季に恨みがないわけじゃねぇが、いくらなんでもそれは無体だ」

 

「大丈夫か? 螢視のお尻揉むか?」

 

「揉みます……」

 

「なんでそこでおれ達なんですか?」

 

「どれ――どっちみち落ち込んでエロい気分になれないなら、少しマジメな話をしてもよいかの?」

 

「こいつホントに落ち込んでるんですか? 顔は確かに暗いけど、手は絶えずおれ達のケツを揉んでるんですが――っく♡」

 

「まぁそれはもういいけど……マジメな話ってなんです? ――んふっ!? ちょっと……パンツの中に手を入れるのはダメでしょっ♡」

 

「一つ目は、おぬしら三人の今後についての話じゃ」

 

 予想以上に重いテーマに、俺と秋月先輩の表情が引き締まる。

 炎夏さんは喘いでいてちょっと意味を飲み込めなかったようだ。入浴のために黒髪ロングを結ったおかげで露出した眩しいうなじに、お尻を揉みながらペロペロとしゃぶりつく。逃げようとする炎夏さんと抱き着く俺のせめぎあいでお湯がじゃぶじゃぶと波打った。

 

「ねっ、ちょっと、一旦落ち着こう? 先生の話が終わった後ならセクハラしていいから♡」

 

「おれの体も触っていいから、炎夏(ホノー)を放してやれ」

 

「ほんとですか?」

 

「ほんとほんとっ」

 

「まぁ、しらばっくれてもわしが証人になるし」

 

 言質をとった俺はおとなしく炎夏さんを放し、代わりに両腕で炎夏さんと秋月先輩の肩を抱いてふんぞり返った。地上三十階の景色を眺めながらこんなことをしているとまるで世界のVIPになった気分である。いやほんと、このたった数週間でずいぶん偉くなったよな俺。

 

「す~~~~~っ、くんくん」

 

「……っ、ド変態が……」

 

 秋月先輩のクリーム色の髪に鼻を近づけて、わざと音を出して匂いをかぐ。レイン先生のに似た匂いがした。さっき同じシャンプーとリンスを使ったから当然だけど。ギロリと睨んでくる秋月先輩の瞳に目を合わせる。

 あー……美少女が睨んでくれるこの幸せ。髪がしっとり濡れた姿だと印象ががらりと変わるというか、男だった面影が完全に消えて、本当にただの女の子にしか見えないな。

 

「まず現状の整理じゃが……おぬしらは図らずも、悪の爪(マーレブランケ)の一角であるロイとマルスを撃破してしまった。ただでさえ特殊能力の持ち主として教国に目をつけられておったところに、これだけの大事件を起こしたとなれば、もう後戻りはできん。以後は重要ターゲットとして、悪の爪(マーレブランケ)全員からつけ狙われることになるじゃろうな」

 

 正面ではレイン先生が教師の顔をして、真剣そうに腕を組んでいた。――水面にぷかぷかと浮くニップレス爆乳の下で。

 もちろん炎夏さんと秋月先輩の二人のもぷかぷか浮いている。なんというか、ゆず湯を彷彿とさせる光景だ。

 

「大事件……ですか? あいつらがこの街で起こしたテロより?」

 

「あぁ。間違いなく明日中には魔法使いすべてに知れ渡るニュースになる。今の段階でも各国首脳に知れ渡っておるじゃろう。――おぬしら三人の武名が、いまやホワイトハウスやバッキンガム宮殿にまで届いたわけじゃ。

 悪の爪(マーレブランケ)は世界最大の魔法使い組織たるイルミナ強国のトップ。正式登録(・・・・)もしていないおぬしらが奴らを討ったというのは、本当にものすごい事じゃからの」

 

 俺から耳たぶに息を吹きかけられたりおっぱいを突っつかれたりして快感で顔を赤くした炎夏さんが、レイン先生の言葉に眉をひそめる。

 

「その悪の爪(マーレブランケ)の強さってのがいまだにあんまり実感ないんですけど、あいつら本当にそんなすごい魔法使いだったんですか? ロリコンの変態と、その腰巾着って印象しかないですよ」

 

「毒舌だな炎夏(ホノー)

 

「当然でしょ。私だけじゃなくけーちゃんまであんな目に遭わせた奴らよ」

 

「あぁ。奴らとて本来ならおぬしらの遥か上を行く力の持ち主じゃった。それを沈めることができた理由は、半分はおぬしらの予想以上の成長によるもの。残り半分は、奴ら自身の自滅というところじゃ」

 

「自滅?」

 

「特にロイは慢心しすぎた。そのせいで判断をことごとく誤った」

 

 そこまで言って、レイン先生が突然立ち上がる。

 紫ビキニをはいたお尻をこちらに向けて、俺の膝の上に腰を下ろした。水中であってもごまかしきれないズッシリ♡ とした重みがのしかかる。俺の腹筋にフリフリとお尻をこすりつけながら、先生は続けた。

 

「お、おぉ……♥ 極楽……♥」

 

「ロイのマスター・オブ・パペッツは、おぬしらにとって、一般人を素材として傀儡(パペット)という怪物を作り出す能力、という印象しかなかろうが――あの能力の本質は、『どんな魔法使いが相手でも支配下に置ける』という所にあるのじゃ。それも指の数だけ、最大十人操れる。これが敵味方入り乱れる乱戦の中で使われたらどれだけ厄介なことになるかは、想像に安かろう。逆に言えば、タイマンで真価を発揮する能力ではないということじゃ」

 

「……たしかに。才能を自覚してなかったけーちゃんを操ってもあんなに強かったんだから、別の魔法使いがあそこにいたら……」

 

「というか他人を操らずとも、単にもっと部下を連れてきておれば結果は変わっておったはずなのじゃが……奴め、写真で見た炎夏の爆乳によほど目が眩んだと見えるな」

 

「ひゃぁっ♡!?」

 

 炎夏さんに詰め寄ったレイン先生は、じゃぶじゃぶと音を立てて水面に浮かぶ彼女のおっぱいを揉む。一緒になって俺も揉んだ。

 

「そう聞いちゃうと、あいつの気持ちもわかる気がしますよ……そりゃこんなの見せられたら、正常な判断なんか無理だよなぁ」

 

「しみじみ言うなー!」

 

「あやつは、コレが一刻も早く欲しいと焦るあまり、ろくに周囲に話もつけず飛び出してきてしまったのじゃろうな。他の悪の爪(マーレブランケ)に相談するなり、しっかり作戦計画を立てるなりすれば、まず負けなかったじゃろう。マルスは結構頑張っておったようじゃが、主人があれだけ失策を重ねておっては、その努力もむなしい。

 ロイは元々慢心があった上に、性欲に支配されて頭がろくに回っておらんかったんじゃな。このおっぱいのせいで破滅させられたようなもんじゃ」

 

「さすが炎夏(ホノー)。やはり魔性の女よ……」

 

「けーちゃんまでひどい!?」

 

 炎夏さんの今までの苦労が少しわかった気がした。

 魅力に溢れすぎているばっかりに、この調子で変な男を寄せ集めちゃっていたんだろうなぁ……セクハラ魔の俺も含めて。もっとも今回はきわめつきだろうが。

 

「結局あやつも、うちの学校で炎夏にフラれた連中と同じ、凡百の男に過ぎなかったということじゃな。――ったく、炎夏をモノにできるのは律季だけだっちゅーの♡ これで炎夏の乳も尻も、晴れて律季のもの♡ ついでにわしらのカラダも総取り♡ 勝ち組勝ち組勝ち組~♡」

 

「――まぁ、あいつに捕まるよりは確かにマシですけど……律季くんのものにもなってませんってば。――んっ!? ちゅっ……んむぅっ♡」

 

「とはいえ、ここで奴を落とせたことは我々にとって本当に大きい収穫で――教国にとっては、予想外の大打撃に違いない。今後はますます躍起になっておぬしらを狙ってくるじゃろうな」

 

 お決まりの炎夏さんの抗議を、ついにはガン無視するレイン先生。

 俺は不意打ちでキスしてみたが、炎夏さんは軽く肩をタップしてくるだけであんまり抵抗してこない。……やっぱただの誘い受けじゃないのか?

 わずか数秒間の粘膜接触で、炎夏さんは強気そうな吊り目の瞳をトロンと蕩かせている。「私は君のものじゃない」とたった今主張したその舌を、自らくるくると絡ませてきた。あーかわいいなもう。絶対彼女にしてやる。

 

「れるれる……♡ ちゅっ♡ ……はぷっ♡」

 

「……拒んでもいいんですよ?」

 

「そんなこと言っても……いざ離れようとしたら、泣いて悲しむくせに……♡ んっ……♡」

 

「……ったく」

 

「――螢視。おぬしにとっても、それがもはや他人事ではなくなったことは承知しておるな?」

 

「ええ。分かっています。おれの顔もとっくに割れてますからね」

 

 秋月先輩の返答する口調がぶっきらぼうになったのは、俺と炎夏さんのキスシーンを見て不機嫌になったせいだろう。本当は文句を言いたいが、炎夏さんもまんざらでもないので何も言えなかった、という感じだ。

 

「なんなら堂々とテレビカメラに向けて、『かかってこい』みたいなこと言っちゃいましたし」

 

「え? そんなことしてたの!?」

 

「……あー、やってましたね。俺はレイン先生の車のテレビで見てました。かっこよかったですよ」

 

「でも、そんなことしたらやばいでしょ! ヘタしたら、次からはけーちゃんも……」

 

「俺たちの仲間になる、ってことでしょ?」

 

「!」

 

「先輩はとっくにそのつもりでしょうし――レイン先生も、その展開を考えていたんでしょ?」

 

「あぁ。というよりも、ほかに選択肢はない。

 もともと炎夏にとっての親友である螢視は、教国から狙われやすい立場じゃった。無理やり戦いから遠ざけようとしても向こうがそれを許してくれんことは今回の一件で立証済みじゃ。

 ――それが悪の爪(マーレブランケ)討伐に関わった上に、貴重な回復術師だと知れてしまったのじゃ。下手をすれば律季を飛び越えて最優先の捕獲対象にされる恐れまである。

 螢視は自分自身の身を守る術を身に着けねばならぬ。むろん強要はできんが――そのためには、律季と一緒に実戦を経験するのが一番の早道」

 

「うぅ……ま、まじかぁ……」

 

 一番守りたかった親友が後戻りできない状況に立たされている――そう認識して震える炎夏さんを、俺は静かに肩を撫でてなだめた。

 一方、秋月先輩本人は涼しい顔だ。まるで最初から分かっていたことだといわんばかりに。

 

「自分の現状は把握しているつもりです。ですから、異論はありませんよ。おれも律季の仲間になろうと思います」

 

「けーちゃん!?」

 

「おれもお前も、悪の爪(マーレブランケ)とやらに目をつけられたんだろ? おれ一人じゃ自分の身を守れそうにないし、お前らだってこの先より危険な戦いになる。回復要員がいた方がいいはずだ。この選択が一番、お互いにとって有益だろ。

 ――それに、せっかく念願の魔法使いになれたんだ。お前の力になれないんじゃ甲斐がない。一緒に戦いたいんだ」

 

 めっちゃ真剣な会話である。

 全裸ニップレスでお湯にぷかぷかおっぱいを浮かべながら話す内容ではない。シュールすぎるぞこの状況。

 

「ただでさえ回復役は、集団戦闘において真っ先に狙われる立場じゃ。基本的に魔法使いの戦闘はツーマンセルが常道。律季と炎夏におぬしが加われば、三人パーティーということになり、その分多少は守りやすくなるじゃろうが――危険なことに変わりはない。覚悟はあるか?」

 

「できる限りの努力をしますよ。炎夏(ホノー)の足手まといになるのは、のけ者にされるより辛いですからね」

 

「あと、律季と一緒にパーティーを組むということは訓練でも戦闘中でもおっぱい揉まれまくることになるわけじゃが……その点は承知しとるのか?」

 

「……うっ! それは……まぁ……はい」

 

「経験者として言っとくけど大変よ? めっちゃくちゃ恥ずかしいわよ」

 

「……い、いいよ。こちとら後輩に搾乳までされたんだ、もう怖いものはねぇよ。炎夏(ホノー)一人をそんな目に遭わせるのもかわいそうだしな。それに、おれがついてれば、律季も炎夏(ホノー)に好き放題できないだろ」

 

 ――あ、やっぱり秋月先輩はそのスタンスなのか。あくまで俺が炎夏さんを攻略するのを邪魔する気だ。

 もっとも秋月先輩も炎夏さんと同じぐらい激チョロだし、単に二人で仲良くあんあん言うだけになる気がするけど。今から夢が膨らむな。

 

「律季と炎夏も、それでよいのか?」

 

「はい。というか俺は、もうとっくに先輩も仲間のつもりでいましたよ」

 

「……正直納得いきませんけど、大切なのはけーちゃんの意思ですから」

 

「では三人パーティーを組むということで決定じゃな。

 ――よし、ではここからが本題じゃ。前置きがずいぶん長くなったがの」

 

「なんです?」

 

「――イルミナ教国の刺客に対抗するため、本格的に我らの戦力になってほしい」

 

 レイン先生が乳首の前でダブルピースを作って、閉じたり開いたりしながらそう言う。

 ――ジェスチャーが言葉と一致してないんだけど。どういう意味だ?

 

「剣が交わるイメージだったのじゃが」

 

「あぁ、なるほど」

 

「なぜ納得する? ――で……『本格的に』って、どういうことなんですか?」

 

「私たちもうロイとマルスをシバいちゃいましたし、すでにイルミナ教国と戦ってることになると思うんですけど」

 

「そうじゃのう……一言で言い表すなら、バイトから正社員になってほしい、みたいな話じゃ。

 今までおぬしらは、あくまで教国の連中から一方的に攻撃を受けたゆえに、一個人として自己防衛を行ったにすぎんかった。――しかし、これからはフリーメイガスの中のとある部隊に所属し、教国の世界侵略を阻む戦士となってもらいたい」

 

「……やっぱ、そういう話ですか」

 

 秋月先輩がため息をついた。レイン先生も表情を硬くする。

 なにが通じ合っているのかわからず、俺と炎夏さんは首をかしげる。

 

「ロイの能力の説明をしているときに『敵味方入り乱れる乱戦』っていう言葉が出て来た時から、きな臭い予感がしてたんだ――それはつまりこの世界のどこかで、魔法使い対魔法使いの戦争が行われているってことになる。

 戦っている勢力の片方はイルミナ教国。そしてもう片方は――あなたたちフリーメイガスだ。要するにこの話は、あなたたちの戦争(・・・・・・・・)に参加しろってことでしょう?」

 

「……そのとおりじゃ。無論わしも本意ではない。しかし事がこうなってしまった以上は……」

 

「……私も怖いけど、成り行き上仕方ないわよ。もとはといえば向こうから仕掛けてきたケンカじゃない。先生を責めたって仕方ないわ」

 

「違うぞ炎夏(ホノー)。おれが言いたいのは、この人たちは最初っからこうなる事を見越して、お前に狩人の仕事をさせたんじゃないかってことだ」

 

「……狩人?」

 

 ずいぶん古い話を持ち出してきたな、と思ったが――そうではない。本来はそれこそが炎夏さんにとっての仕事だったのだ。夢の中の魔物を倒し、現世への侵入を防ぐと同時に、夢界に迷い込んだ人を救助するという役目が。

 俺は魔法使いになった当初から人間の魔法使いを相手にしてばかりだが、炎夏さんは魔物を倒していた経験の方が圧倒的に長いはずだ。同時に、秋月先輩が追っていた炎夏さんの姿も、狩人としてのものだったはず。

 

「律季。お前と炎夏(ホノー)が最初に戦った教国の兵隊ってのは誰だ? ユウマ達か?」

 

「いえ。たしか、夢の中で襲ってきた『狩人狩り』とかいう人たちです。ユウマさんはその人たちからの情報で、俺の能力のことを知ったって……」

 

「その狩人狩りってのが炎夏(ホノー)を襲ったのはなぜだ? 偶然出会ったわけじゃないだろ? おそらく呼び名からして、最初から狩人である炎夏(ホノー)を狙ってきたんじゃないか?」

 

「……え、えぇ。確かそうよ。それがきっかけになって、律季くんに特別な能力があるってバレちゃったの」

 

「――じゃあそいつらが炎夏(ホノー)を狙ってきたのは、なぜだと思う?」

 

「――!」

 

「えっ? な、なんでだったっけ……覚えてる律季くん?」

 

「え、えーっと……俺もあの時の記憶は曖昧なんですけど」

 

 確か『炎夏さんを倒すと手柄になる』とかなんとか言ってたような気がするが、それだけだ。

 確かに、なぜ夢の中で魔物を倒しているだけの狩人が教国の魔法使いに狙われるのだろう。当時の炎夏さんは教国に敵対していたわけでもないし、強くはあっても俺と違って、貴重なファクターを持っているとみなされたわけでもない。

 いろいろありすぎてそこまで考えていなかったが――妙だ。なぜ教国は『狩人狩り』なんてものを放っているんだ? 

 

 ……いやその前に、いったい秋月先輩は何が言いたい?

 話に追いつけない俺と炎夏さんを尻目に、レイン先生は何かを察したように息をのんだ。

 

「おそらく狩人とは、フリーメイガスにとって、その『教国攻撃部隊』とやらの隊員を育てる養成機関、あるいは予備隊の機能を持っているんだ。

 百歩譲ってフリーメイガスがそう思ってなくても、少なくとも教国はそう認識してる。だからフリーメイガス軍にとっての有望株であり、教国軍にとっての脅威の芽である狩人を始末するために、『狩人狩り』を放っているんだ。

 つまり――炎夏(ホノー)が教国との戦争に参加せざるを得なくなったのは、偶然なんかじゃない。中学の時に狩人になった、もうその段階で、教国にとっての危険人物リストに入っちまってたって話だ」

 

「!」

 

「で、ここからが問題なんだが――もしおれの推論が当たってるとして、フリーメイガスの人間がそういう事情を把握してないはずがない。にもかかわらず炎夏(ホノー)に狩人の仕事を続けさせたのはなぜだ?

 おれの疑いはそこにある。フリーメイガスは最初っからこうなることを見越して、炎夏(ホノー)を戦力として組み込む絵を描いていた――という疑いだ」

 

「ど、どういうこと?」

 

「狩人として活躍すれば教国に目を付けられて刺客を送られる。しかもその刺客を退けても安全になるわけじゃない。むしろますます警戒対象にされちまって危険が増える一方だ。ついには後戻りできなくなり、攻撃部隊に入らざるをえなくなる。

 ――これはつまり、狩人になった時点で、最終的にはフリーメイガスの戦争に参加せざるを得ないシステムが出来上がってるってことだ。マルチ商法の取り込みみたいにな。『自分を守る力を身に着けるために実戦を踏む』、なんていう論理も、そういう目で見りゃ限りなく胡散臭い。

 

 ――これが単なる邪推なら構わない。だがそうじゃないなら、おれの親友は他人の役に立ちたい気持ちを利用されたあげく、自覚なしで戦争に引きずりこまれたことになる。

 どうなんですか、レイン先生。おれの目を見て、はっきり違うと言えますか?」

 

 俺は、風呂に浸かっている最中だというのに鳥肌が立っていた。

 わずかな情報から秋月先輩が導き出した仮説の、恐ろしい説得力。そして彼の口調の中に感じられる、冷静ながらも激しい怒りに。

 

「今までずっと不思議だったんだ。フリーメイガスが魔法使いのための組織なら、なんでまだ学生の炎夏(ホノー)にあんな危険な仕事をやらせるんだ? ってな。

 炎夏(ホノー)は昔から強かったけど、それでも何度も魔物に殺されかけたって言ってた。じゃあ炎夏(ホノー)より強い他の狩人はどうなんだ? 死人だって出てるんじゃないか?

 教国がろくなもんじゃないことはもう知ってる。でも、フリーメイガスがまともな組織だってことも、誰かが保証してくれたわけじゃない。炎夏(ホノー)の安全も保証してくれなかった」

 

「……最初からこうなることを見越して、という点だけは誤解じゃ。それはわかってほしい。何度も言うが、わしらは一般人を危険にさらすことなど望んではおらんのだ。ましてや戦争に参加させるなどはな……」

 

 答えるレイン先生の言いようは、フリーメイガスが悪しき意図を持っていたわけではない、という一点だけを弁護していた。

 つまり――それ以外の点は誤解ではない。魔法使い対魔法使いの戦争が行われていることも、狩人狩りの存在意義も、秋月先輩の考えが当たっているということになる。

 

「しかし……これは、誰かがやらねばならない仕事なのだ。狩人も、攻撃部隊もな。

 教国は魔物の脅威など歯牙にもかけず、自分たちの軍備を強化することしか考えておらん。そして夢界にて戦力を蓄える奴らを叩くのは、同じく夢界に入れる魔法使いにしか不可能な仕事だ。国家の正規軍でさえ奴らには手出しできぬ。

 結局、わしらフリーメイガスが、夢の魔物と教国という二つの脅威から人々を守るしかなかったのじゃ。そしてそれには、民間の魔法使いから協力者を募る以外に方法がなかった。――結果として、炎夏のような純粋な想いから協力してくれている者たちに、負担を強いているのが現状じゃ。

 そしてひとたび教国に目を付けられた者に、安全を提供する手段をわしらは持っておらん。たとえ生活を捨てるのも覚悟で炎夏たちを逃がしても、情報力は向こうが上手じゃからの……どこまで逃げても、時間の問題で見つかってしまう。

 ……ロイを倒す前なら、まだしもやりようはあったのじゃが……今となってはもう……」

 

「……フリーメイガスはどうか知らないけどね、レイン先生は悪い人じゃないわよ、けーちゃん。ロイと戦いに行く私たちに、逃げろって言ったもん。代わりにけーちゃんを助けに行く魔法使いも呼んでくれてたみたいだし。

 こうなったのは、先生の指示に背いて戦いに行った私たちの責任でもある。覚悟はしてるわ」

 

「それじゃただの現状追認と変わらん! いいか、お前がずっと戦ってきたのは、おれや律季やみんなを守るためだ! 自分から戦いを望んだことが今まで一度でもあったのか!? 何が責任だよ、そんなもんあるわけねぇだろ!

 少なくともお前が狩人になった当時は、こんな事態まで覚悟してたわけじゃないだろ!? 一国の政府から狙われて、戦争に参加させられるなんて……!」

 

「そうよ。私たちの敵は、一国の政府なの。

 ――必ずしも最善の道を選べるわけじゃない。それはいつだって同じこと。ましてこんな時にはなおさら、選択の余地なんかない。私たちもレイン先生も、できることをやるしかないの。……そうするしかなかったのよ。みんな」

 

 ――なるほど。みんな、とはフリーメイガスも含めてか。彼らがダーティーな手段に訴えていたとしても、それは余儀なき選択だったに違いないと……。

 炎夏さんらしいな。性善説の考え方だ。自分がハメられたかもしれないと聞かされてもそのスタンスを崩さないとは。

 

「……言い訳にもならんじゃろうが、ひとつだけ朗報がある。それは、攻撃部隊の戦場は狩人と同じ――夢界であるという事じゃ。階層(・・)はひとつ違うがの」

 

「それがどうしていいことなんですか」

 

「これまでは現実世界での戦いであったゆえに、学校を戦場にされたり生徒を人質にされる懸念があった。

 しかし炎夏と律季が夢界の戦争に参加したとなれば、奴らもそういう卑怯な作戦は使わなくなるじゃろう。小細工を弄さずとも戦場で倒せば済むわけじゃからな。

 さらなる強敵に狙われるのと引き換えではあるが――おぬしらが『ヴィト』に入れば、一般人を巻き込むという最悪の事態だけは回避できるわけじゃ」

 

「……なるほど、それはいい」

 

 炎夏さんが今まで実力を出しきれなかったのは、二回立て続けで学校で襲われたからだ。そのせいでほかの生徒を巻き込まないように配慮する必要があり、得意の広範囲攻撃を十分に使えなかった。

 なにせ戦場が無人の市街になったとたん、ロイをボコボコにしてたからな。実際戦ってる場面は見てないけど、現場の破壊痕がマジギレ炎夏さんのおっかなさを物語っていた。

 夢界の中なら、炎夏さんが実力をフルに出せる。たとえ悪の爪(マーレブランケ)が相手でもそう簡単にはやられないはずだ。

 

「……ところで、今言った『ヴィト』っていうのがその部隊の名前なんですか?」

 

「あぁ。魔術(Wizardry)迎撃(Interceptor)チーム(Team)――略してヴィト(WIT)。わしらはそう呼んでいる」

 

「……ぐ……ちょっとかっこいいじゃないか」

 

「ネーミングを気に入って心揺れてるじゃないですか。……というか秋月先輩、いろいろ言ってますけど、結局降りる気はないんでしょ?」

 

「あったりまえだ。せっかく魔法使いになれたんだぞ。今まで戦えなかった分、これからはなにがなんでも炎夏(ホノー)についていく。頼まれたって降りやしない」

 

「……だったらもう、選択肢は一つじゃないですか。

 あとはもう出たとこ勝負しかないですよ。今から何言っても憶測にしかなりません。できる努力をするしかないです」

 

「――ぐ……」

 

「俺も負ける気はありませんしね。――だってまだ、炎夏さんと付き合えてないんだから」

 

 俺は炎夏さんのように、人々を守ろうなんて高尚な理由では戦えない。

 それが俺の努力する理由のすべてだ。勉強も部活もすべて炎夏さんに認めてもらうためにがんばってきた。

 

 俺の恋路を阻む者は、悪の爪(マーレブランケ)だろうが教国だろうがこの手で殴り飛ばす。俺には『生本能の拳(リビドーナックル)』がついている。

 敵が来るなら勝つだけだ。勝ち続ければいいだけだ。

 

「……ところでレイン先生、さっき一つ目の話って言いましたよね。まだ大事な事があるんですか?」

 

「あぁ、そうじゃったの。律季にとっては、もしかするとこっちの方が重い話やもしれぬ」

 

「戦争より重いんですか!? ――な、なんですかいったい……」

 

「実はの――律季には今日から、ここで暮らしてほしいのじゃ」

 

「……えっ?」

 

 

 

 

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