水鏡律季と爆乳魔女 ~ハングリー・フォー・バスト~ 作:黄緑信号
――むかむかする。
私、
理由のわからないむかつきが胸の中を支配している。私はこういう時には寝て忘れてしまうことにしているが、今日は目が冴えて寝られない。かれこれ20分以上、お布団を掛け直したり寝返りをうったりして、落ち着かない時間が続いていた。
(ここ数日、どうも変だなぁ。こんなこと今までなかったんだけど……)
――私の調子がこんな風に変になったのは、律季くんがレイン先生と同棲を始めた日からだ。
いや、もっと正確に言えば、彼がレイン先生の車に乗って学校に来たのを見て、本当に一緒に暮らしているんだなぁ、と実感を持った時からだ。
でもそんなのはただの偶然だ。偶然に決まっている。――だってありえないはずだ。律季くんが他の女の人と一緒にいる事実に、機嫌が悪くなってしまうなんて。
そんなのまるで本当の嫉妬じゃないか。私の彼氏でもなんでもない男の子が、何をしようと自由のはずだ。おまけに私は何度も何度も、律季くんの愛の告白を袖にしている身なのだし。
けーちゃんの部屋とつながる糸電話は、ベッドのそばの窓の上においてある。手を伸ばせば届く距離だ。
いつもなら悩みがあるなら、迷わずこれを取るのだが――今回は言い出す気になれなかった。こんなこと話したら、どう誤解されるかわからない。
誤解? なにを誤解されるというんだろう。律季くんが他の女の人と同棲していることで、私が勝手に裏切られたような気分になっているのは事実じゃないか。
けーちゃんは私にとって家族同然だ。誤解されたなら解けばいいだけ。話を切り出すことすらできないのは、自分で自分の本心を認めたくないからではないのか……。
『――プルルルル』
「……ん?」
突然、私のスマホが鳴った。一瞬目覚ましのアラームかと思ったが、設定時刻はまだ先だ。
着信だった。画面に出ている名前は『律季くん』だ。
『もしもし、炎夏さん? 今お時間いいですか?』
「いいけど、どうしたの? なにか問題が起こった?」
『いえ。無性に炎夏さんの声が聴きたくなっただけです』
「……そ、そう。別にいいけどそのセリフって、普通なかなか会えない距離がある時に使うもんじゃない? ついさっき別れたばっかりなのに」
『あはは、まぁそうですけど。――ところで炎夏さん、いま周りに誰もいませんよね?』
「? 部屋に一人だけど……?」
『そうですか、なら――〝
「――んゥっ♡!?」
わずかな熱を帯びた紋章が胸の谷間に現れ、ブラジャーの内側に生々しい掌の感触が滑り込む。
律季くんの見えない手が両方のおっぱいを猛スピードで揉みしだき、ぐにゅんぐにゅんと私の乳房の形を変えた。そんな乱暴な触り方でも、開発された私の体は敏感に悦びを感じてしまう。
『っああああ~~~~~♥ 炎夏さんのおっぱい、やっぱり気持ちいい……。いつもよりほかほかでちょっとしっとりしてますね……ブラしてるままだからかな?』
「ううっ……♡ ちょっと律季くん! さっきは声聞きたいだけって言ってたじゃない! 開始30秒で結局セクハラ!?」
『最初は本当に話すだけのつもりだったんですけど……ちょっと声聞いたら急にムラッときちゃって。どっちみちこうすれば炎夏さんの可愛い反応も聞けるし、このままイチャイチャしちゃいましょう』
「何がイチャイチャよ! 私が一方的にもてあそばれてるだけじゃないっ! しかもこっちからは一切抵抗できないし……っ!!」
『それが狙いです』
「卑怯者ぉー!」
そう――私はこの状況に対し、口で文句を言う以外何もできない。
律季くんは離れた場所から私の胸を好き勝手に触れるが、私から律季くんをどうこうするすべはないし、〝
押しのけることができない分、むしろ直接触られるよりタチが悪かった。完全にされるがままだ。つまりこの快楽地獄が終わるのは、律季くんが満足した時だけ。
「せっかくの
『こんな便利な能力、戦いだけに使うなんて損ですよ。むしろこっちの使い方の方が本懐です。なにせ俺の『心の形』なんですからねっ』
「なにを得意げに言ってんの!」
『あと、この距離でも〝
符丁を決めとけば緊急時の信号を送ったりできるから、使いようがいっぱいあるって』
「知らないわよぉ……! というかエッチなことがしたいなら、それこそレイン先生とすればいいでしょ……!? 一緒に住んでるんだから!」
『――むっ。そういうこと言わないでください。今は炎夏さんとの時間です』
「ッッ!!?? ――ふっ……くぅぅぅぅぅ……っ♡♡」
電話口の律季君がなぜか拗ねたように声色を下げた。間髪入れずに、乳首を指でぎゅぅぅっとつねってくる。痛みギリギリの鋭い快感が背中に走り、私は危うく叫びかけた。
もうこれ以上触らせないように、胸を片腕で覆って守ろうとするが、当然まったく効果はない。むしろ私が何をしているか向こうに見えているかのように、律季くんの指の感触は追いかけるように乳首をいじくりまわしてくる。
私はついにスマホを持っていられなくなり、両手で枕を抱きしめて太ももをこすりあわせ、必死に耐えた。
「も、もうほんとにやめてっ♡ 確かに部屋には誰もいないけど、隣で弟が寝てるの……♡ 聞かれたら困るっ♡ もうなにもわからない年頃じゃないし……♡」
『――ぐ……それは……いくら炎夏さんの弟さんとはいえ、気づかれるのは俺もいやですね』
「で、でしょ? だからもうやめて……」
『ただ……俺はまだいいんですけど、炎夏さんの方が既にだいぶエロい気分になっちゃってるんじゃないですか? ここまでやってイかないままで我慢できます?』
「……………………………発情効果が出てるわけじゃないし、自分で処理ぐらいできるわよ……」
「そ、そんなもったいないことできますか! 大丈夫です、やさしくするので俺に任せて!」
「だぁぁぁぁもう!」
思わず電話をぶちっと切りたくなった。でもそんなことしたら確実に状況はますます悪化する。電話は切れても〝
「炎夏さん好きです。愛してます。彼女になってくださいっ。結婚したいです」
「だ、ダメだってばぁ……♡ 何回言わせるのよ♡」
律季くんの言葉通り、触り方はとてもやさしくなった。責めというよりも愛撫だ。電話から聞こえてくるささやきも相まって、触られているのは胸だけなのに、まるで全身を抱かれているかのような錯覚に陥る。
でもこの甘さに心を許すわけにはいかない。だって、
(ハーレムなんて、絶対認めないもんっ……♡)
律季くんの狙いはそこにある。――私たち三人を彼女にして、セクハラじゃなく合法的におっぱい触り放題のハーレムをつくる計画。
もし私が根負けして律季くんと付き合ってしまったら、レイン先生の『契約』が果たされて、それだけでも両手に花が成立してしまう。そのままなしくずしにけーちゃんまで手籠めにされて、ハーレム完成という事態さえありえる。
けーちゃんは押しに強いタイプではない。レイン先生はいわずもがな。律季くんのよこしまな野望を防ぐためには、この私がふんばるしかないのだ。
「俺のこと好きになってくださいっ!」
「――! イ゛……っ、~~~~~~~~~♡♡♡」
たっぷり十五分ほどかけてじりじりと高められた快楽が、やがて静かな絶頂を迎えた。
派手に声をあげるほど激しくはない。だがその分鈍く長いオーガズムに、私の腰は軽く浮いた。
「……もう一回するかどうか決めません? コイントスで」
「絶対イカサマする気でしょ! ……てゆーかもうダメ! 今日はもうおとなしく宿題でもしてなさい」
「え~~~~~~」
「えーじゃありませんっ。言っとくけど、今度同じことしたら口きいてあげないからっ」
「……怒っててもかわいいなぁ」
「ナメてんのか貴様!?」
◆
「お前なんか、最近呼び出されなくなったよな?」
「――え?」
昼休み、三年生教室。
けーちゃんと机を合わせて弁当箱を開けるのはいつものこと。最近はそこに、ユウマちゃんと朝霧くんの机が加わった。ウサギのような赤い目を向けてくる朝霧くんの言葉の意味が、私はとっさにわからない。
「
「どもって。……でもそう言われてみれば、確かにちょっとずつ減ってるわね。入学シーズンが過ぎて落ち着いてきてるのもあるだろうけど」
「それでも日に三回は下らないがな。毎日毎日、雨後の筍のようにわいてくるが、この建物のどこにあんなに男子がいるんだ?」
「たまに中学からも抜け出して来るやつがいるぞ」
「マジか? 現役中学生と高校三年とじゃ、ほぼ面識もねぇはずだろ」
「噂だけで来るの。というか基本的にみんなそうよ。来る九割以上の人は見ず知らずの人だからね」
「……はぁ? なにそれ? それでなんで好きとか言えるのさ。意味わかんないんだけど」
「
で、家の事情で必ず断られるとわかっている分、逆にあとくされがないから、半ばワンチャン狙い、半ば度胸試し感覚で告白してくる奴が絶えないってわけさ」
「でも見ず知らずの人ならまだいいの。一番きついのは、時々ある、ちょっとだけ仲良くなった男の子が告白してくるときね。
そういう人は告白を断ると二度と話してくれなくなるの。友達に戻るなんてできない、とか言って、こっちから話しかけても無視される。そうなると、その人の所属してる友達グループ全員から変な目で見られることになるわ」
「……うっわぁ……きっついなぁ。
今までボク、モテる奴の苦労話なんてイヤミにしか思えなかったんだけど……キミぐらい突き抜けて魅力的だと、冗談じゃなく大変だねえ。毎日その調子だなんて、自分の事だと思うとぞっとするよ。
でも落ち着いてきてよかったじゃないか。このまま告ってくる奴がいなくなってくれれば気が楽だろ?」
「正直言うとそうなんだけど……そう言ってしまうと、今までの人に申し訳ない気がするわね」
「なんでだ?」
「だって向こうは、曲がりなりにも勇気を出して告白をしてきてる人でしょ。それを面倒だって一言で切り捨ててしまうのは、少し残酷だって言うか……」
「「はぁ~~~~~~~~~~……」」
「――な、なによ?」
ユウマちゃんと朝霧くんが、まったく同じ動きで背もたれに向かって体重をかけて天を仰いだ。心底アホらしいといった反応に、けーちゃんは少しむっとする。
「お前が彼氏を作らないのは、将来的に実家の神社を継ぐから交際相手を慎重に選ばなきゃいけないってのが理由だろ。
今螢視が言ったように、お前に告って来る奴らってのはそれを分かって来ているんだ。お前の迷惑も考えずに、遊び感覚でな。そんなのが好意と呼べるか?」
「賛成だね。断られて『はいそうですか』で終わるのは、はなっから面白半分だからだ。逆恨みしてくる奴なんてのは論外もいいとこ。真面目に取り合うだけ損だよ。だって肝心の向こうがリアルじゃないんだから。
そういう諸々の事情を承知の上で、本気でキミが好きで付き合いたいと思ってる奴なら、一回ぐらい断られたってかまわずアタックしてくるはずだろ? 気にするのは、そういう奴のことだけでいい」
「――!」
含みのある笑みでユウマちゃんがそう言った。誰のことを言っているのか私もけーちゃんもわかった。
「呼ばれた気がします」
「うわっ!?」
「おっ律季。ちょうどよかった。このにんじん食べてくれないかい?」
その張本人である律季くんが、私たちの横にあった机の陰からひょっこりと頭を出した。
私たちは現れ方に驚いただけだが、なぜかその驚きがクラス中にも伝播した。三年生教室に突如として現れた、オレンジ色の頭をした一年生を見て、なにやらざわざわと空気が変わる。
みんなが律季くんを横目に見て、隣の人とひそひそと忍ぶように話している。「――ねぇ、あの子がそうなの……?」「――うん、まちがいないよ……」「――バスケ部の水鏡だ。あのアタマはほかにいない」「――へー、じゃああいつがそうなのか?」
そしてその空気は、教室を出た先の廊下まで続いていた。他のクラスの人がドアの前で立ち止まって律季くんに指をさしている。
「……? みんなどうしたのかしら? なにこの騒ぎは?」
「さぁ? なんか今日は、朝からこんな感じでひそひそされるんですよね。心当たりはたくさんありますけど……」
「――まさかと思うが、
「え……」
「万一そうならボクとレンがどうにかする。あわてるな」
朝霧くんの一言で、私たちの間に一瞬にして緊張感がはりつめた。
ありえないことではない。なにしろこの学校内でさえ二回も戦闘をやらかしたのだ。誰か一人でも記憶処理をし損ねていたら、話は広まる。当の律季くんも口に手をあててこれまでの行動を思い返した。
しかし――次に私たちの耳に飛び込んできた誰かの噂話は、まったく予想と違ったものだった。
「――あれが噂の、
(――はぁっ!!??)
◆
人の色恋沙汰の噂話は学校生活につきものだ。
特に修学旅行など浮かれたノリの時だと、男女がたまたまバスの席が隣同士になったぐらいのことでヒューヒュー冷やかされるものだ。始まりはそれだけだったのが噂が広まって、いつのまにか本当に恋人同士ということにされていることもある。
私はよかれ悪しかれ校内では目立つ存在だ。ヒマをしている人たちの話のネタにはちょうどいい。
「考えてみれば無理もないことじゃの。律季は炎夏と同じバスケ部に属し、年の離れたユウマら三年生のグループとも頻繁につるんでいる。炎夏と特別な仲を勘ぐられない方がむしろおかしいかもしれん」
とりあえず私と螢視であの騒ぎから脱出した。
人目につかず静かになれる場所といえば、この保健室しか思いつかない。
「律季のやつ、前はよく同級生の友達に、炎夏さんとどうやったらお近づきになれるかなーとか相談してたらしいからな。そこから話が広まっちゃったんだろ。
最近はうっかり魔法関係の秘密を話さないようにそういう話をしなくなった、と言ってたが、それも逆に怪しまれたかもな。もう律季は炎夏と付き合えたから、相談する必要がなくなったんじゃないかー、みたいにさ」
「――私に告って来る男子が少なくなった原因は、こういうことか……。うぅぅ、事態はより深刻になった気がする」
このまま『律季くんと私が恋人同士』だと学校中に認知されれば、余計に外堀が埋まってしまうことになる。しかも噂を私から積極的に否定すればなおさら怪しいし、否定するための材料もない。
かといってこんな事でユウマちゃんの手をわずらわせるわけにもいかない。せっかく暗示魔法に頼らず生きていくと決意したのに、それを私が邪魔することはできなかった。やむを得ない事情というほどのことでもない。魔法使い同士の抗争に比べれば、学生の惚れた腫れたの悩みなんて健全もいいところだ。
「――いやぁ、えらいことになってますね。もうすでに学校中で噂が広まってるみたいです。
ここに来る途中で一回、二年生の先輩にマジな顔で詰め寄られましたよ。天道さんと付き合ってるのは本当かって」
「……そのわりにずいぶんうれしそうじゃねぇか、律季」
「そりゃ悪い気はしませんよ。炎夏さんの彼氏に見られるのは。普通の人にどんなに凄まれたって、今じゃ怖くもなんともないし……」
遅れて保健室に入ってきた律季くんは、とても機嫌よさそうだ。
そう――これは律季くんがいつか言っていた通りの展開だ。また俺の予言が当たってしまった、という顔をしている。
「まったく実体の無い話ってわけでもないからの。――そうであろう炎夏?」
「――んぃっ!?」
後ろから忍び寄ってきていたレイン先生が、すっと私のスカートの中に手を入れ、少し冷たい指でお尻を掴んできた。
「ちょ、ちょっと!? 今は相談しに来ただけなんですが」
「なんじゃおぬしら。このわしの部屋に自分から入ってきておいて、エロい目に遭わずに出られると思うてか? 律季はもうすっかりそのつもりのようじゃぞ」
「それはこいつが年中発情期だからでしょ」
「ひどいなぁ。まぁ事実ですけど。――じゃあ炎夏さん、裸になってくれますか?」(ぎゅむっ……♡)
「――きょ、拒否権なんかないんでしょ……? 自分で脱ぐから、手を放して」
今すぐベッドに連れ込んでやろうとばかりに、律季くんは私のおっぱいをぎゅっと掴んでいる。
律季くんの目はまったくまばたきせず、瞳孔が開きっぱなしだ。中途半端に私を彼女にできる未来が実現されたせいで、この嘘を誠にしてやろうと燃え上がっているのだ。
(――律季くんめ、好きに気持ちよくしなさい……っ♡ ま、負けないから♡)
「ほれ、螢視も早く変身せぬか。さもなくばおぬしの親友が、おぬしの分まで律季の欲望を受け止めねばならなくなるぞ?」
「わ、わかりましたよ。そんなテンプレ悪役みたいなセリフを吐かないでください。
――きゅ、
レイン先生に制服越しに乳首を触られたけーちゃんが、先生の妖しい表情に心持ち顔を赤らめながら、数段階に分かれた振り付けで変身のポーズをとった。
本人の話では、変身するごとに絶対にやらなければならない儀式らしい。そこだけ魔法少女というよりもお面ライダーっぽかった。やっぱりけーちゃんも男の子である。
「……ほら、これでい――んむっ!?」
「!?」
けーちゃんの全身から放たれた光の中から、ショートのクリーム色の髪をした美少女が現れる。
その姿を認めるなり、律季くんは抱き着いてその唇を奪った。けーちゃんの後頭部を手で押さえて、頬が触れ合うほどに顔を密着させ、容赦なく舌を口内に侵入させる。
「……はぁ……はぁ……やっぱり秋月先輩もかわいい……! おっぱいでかいっ……!」
「むぅぅっ!?♡♡ むぐっ! むぅぅ~~~っ!」
「絶対っ……俺のにする……!! 三人とも俺のもの……!!」
「――くっ……むっちゅ♡ れろ……♡」
獣欲そのものの独り言を漏らしながら、三日も何も食べていないかのような貪欲さでけーちゃんの唾液を啜っていく律季くん。
けーちゃんはトントンと律季くんの肩をタップしたが、完全に我を忘れていることに気づいたのか、やがて諦めたようにキスを受け入れた。
「「――ぷはっ♡♥」」
同じタイミングで二人が口を放すと、きれいに糸の橋がかかった。
粘膜接触の激しさを示すように、ねっとりと光っている。
「じゃあ、さっそく裸になりましょうか……♥ 秋月先輩、いえ――『螢さん』も」
「この……日増しにどんどん横柄になりやがって♡
つーかほんの一秒前まで男だった相手に、ノータイムでこんだけ発情できるとか……マジでどうかしてるんじゃねぇのか♡」
「お互い様でしょ。後輩の男子にキスされただけですっかり体熱くしてるじゃないですか……♥ 今日もかわいがってあげますね」
「……く……♡」
「おや、律季もいよいよ自信がついてきたのう♡ かわいがってやる、なんて文句を恥ずかしげもなく言えるとは♡ ほんに男らしくてかっこいいのう♡」
――ご存じの通りけーちゃんは、男性と女性のどちらにもなれる体質だ。ユウマちゃんの発案により、女の子になった時は『秋月螢』と呼ぶことにした。
私の呼び名はそのまま『けーちゃん』だが、律季くんはどさくさに紛れてやれと言わんばかりにいつのまにか名前呼びに切り替えていた。けーちゃんも同性だからかあまり気にしていない。
「そら♡ 律季の大好きな、爆乳お布団だぞ……♡」
「一名様ご案内~♡ かゆいところはありませんか~♡」
「き、来なさい……♡ 遠慮なんかしなくていいから♡」
パンツとソックスのみを残してすっぱだかになった私たちは、上半身裸の律季くんを挟んで寝転んだ。
学校の備品のパイプベッドが、本来加えられるはずのない四人分の体重に、「ぎしっ……みしっ……」と悲鳴をあげる。
「う゛ぅ……っあぁぁ~~~~……! ぜ、全身むちむち天国っ……!」
上からはレイン先生とけーちゃん、下が私。
小柄な律季くんは年上美女三人のおっぱい布団に、頭だけ出してすっぽり収まってしまった。
「はぷっ――ちゅうぅっ、じゅるる~~~~~っ……!」
「んぅ゛ぅっ♡ ――こ、こらっ、何の断りもなしでっ――むぅぅぅ♡♡ ふっんん~~♡♡」
律季くんの全身に、二人分の幸せな重みとぬくもりがのしかかる。重力で下に押し込まれた分はさらに私の体で受け止められる満員電車状態。
行き場を失った過剰な快楽を逃がそうとするように、律季くんは私にがむしゃらなキスをせがんできた。両手で私の側頭部を押さえつけ、舌を暴れ回らせて唾液をむさぼる。
(あぁでも――律季くんのつば、おいしい♡ おくちの粘膜、もっと舐めまわして……♡)
(うおっ!? もう炎夏さんから舌絡めてきた! 夢中になって俺の口の中舐めてる……! やっぱりこの、受け入れてくれる瞬間が一番燃えるなぁ……♥)
「おれ達もお前の背中、しっかりマッサージしてやるからな……♡」
「ぱふぱふ♡ ぱふぱふ♡ ――にひひ♡ 一緒にお風呂に入ってから、すっかりコレにはまってしまったのう……♡」
ぐちゃぐちゃとお互いの舌を交わらせている間、顔で感じる律季くんの鼻息は激しさを増す一方だ。キスで呼吸できない上にハーレム責めの興奮が加わっている。
「フーッ……! フーッ……!と、イノシシかなにかのように音を立てて荒く息をする律季くん。そんなになっても酸素より私の唾液の方が欲しいのだろうか。
「れろれろ♡ ちゅるるっ♡ んふっ♡ ふぅぅっ♡」
(――もうちょっとがんばって♡ 私もちょっと息が苦しいけど、まだキスやめたくない……♡)
「ふがっ……!?」
(……ま、まだか!? もうだいぶ肺活量が……で、でもダメだ! せっかく炎夏さんが乗り気になってるのに、ここでキスをやめるわけにはっ!)
「……くそっ、すっかり二人で盛り上がって……」
「くくっ。おぬしも先刻律季にディープキスしてもらったではないか。まだ足りんのか?」
「――いや、嫉妬じゃなくてですね……」
「「――ぷはっ! ……ぜぇ……はぁ……」」
ようやくお互いの口が離れる。舌が疲れているし、軽く酸欠になったようだ。頭がふわふわしている。もっとも律季くんは私より重症で、目の焦点が合っていなかった。
「ねぇ……深呼吸するなら、『ここ』でしない?
――今日わりと暑かったから、律季くんがうれしい感じになってるよ……♡」
「!!! ――がぁぁっ!!」
「きゃぁんっ♡」(……あ、あれ? 私どうしてこんなこと言ってるんだろ……?)
夏も近づいた季節。授業中にかいていた汗に加えて、おしくらまんじゅう状態でさらに汗をかいている。
私はあろうことか女の子にとってすごく恥ずかしい部分である腋を、自分からアピールしてしまった。指をさして、ウインクまでして。
酸欠だったから? 思考能力が落ちていたから? 私は自分の行いに困惑しながら――腋に顔を突っ込んで汗の匂いを酸素代わりに摂取する律季くんの頭を、やさしく撫でていた。
(あぁ……私、本当になにしてるんだろ……? 自分から誘って腋をかがせるなんて。これじゃまるでレイン先生じゃない……♡)
「あぁぁぁ幸せ……♥ 炎夏さんのおかげで毎日最高です……♥」
だけど律季くんは、こんなおかしな行動をとる私にも引かずに素直に喜んでくれる。
――そうだ、律季くんがこんなシチュエーションでうれしくなっちゃう変態なのが悪いんだ。私はかわいそうだから付き合ってあげているだけなんだ。こんなことしてくれる女の子は私以外にいないもん。だから私がちゃんと叶えてあげなきゃ――
いやいやいやそれも違うでしょ。なんだか私の思考がおかしいわ! 正気に戻らないと――
「炎夏さん好きっ! 大好きですっ! やっぱり炎夏さんが彼女じゃなきゃやだ! 結婚してくださいっ……!」
「んぉっ♡ そ、そんなことこんな近くで言わないでっ♡ あとどっちもダメ!」
「え? なんでですか? いつも言ってることじゃないですか」
「……だ、だからそれがよくないの! 告白っていうのは、そうやって軽はずみにすることじゃないんだから……♡」
「? いまさら何を……? あと俺のは軽はずみなんかじゃなくて、一回一回本気ですよ」
「……う、うそよ♡ 私のおっぱいが目当てに決まってるんだから……♡」
もしくはその先にあるハーレムが。律季くんの「好き!」は「エッチしたい!」と同じなのだ。
恋愛感情と性欲の区別もつかない律季くんが、何度も何度もセクハラしながらうわごとみたいに告白を繰り返してくるせいで、好きっていわれると体が「ビクッ♡」としてしまうようになってしまった。
私の中でいつのまにか、乳揉みの快感と愛の言葉がひもづいてしまったのだ。パブロフの犬みたいに。
「わかってくれるまで繰り返しますよ。――炎夏さん好きです、付き合ってください」
「ひぁっ♡ だ、だめ……♡」
「愛してます。彼女になってください」
「んぅぅっ♡ ならない……♡」
「一生幸せにします。結婚してください」
「ふぁぁ……っ♡♡ し、しないぃ……!」
信じられない。律季くんは私の体に手で一切触れていない。
ただ耳元でささやかれているだけなのに、身もだえしてしまうほどの快感がくる。
律季くんが私を逃がすまいと体を少し前にしているので、私の視界は律季くんの胸板で覆われている。以前にもましてたくましくなった筋肉と、牡らしさのある匂い。
実際にはレイン先生やけーちゃんがその後ろにいるのだが、律季くんに五感と脳を支配された私は、すっかり二人きりの気分になっていた。
「むぅ、強情張りさんめ。そんなところもかわいいけど」
「ど、どっちがよぉ……♡ ていうか、そうやって何回も告白して全部断られてるのに、嫌になったりしないの? 普通男の子って、告白されて拒絶されたら相手のことキライになるじゃん……」
「え……? いやいや、そこまで情けなくないでしょ。
――あぁでも、炎夏さんがそう言うってことは、経験上本当にそんな人がいたってことですよね……はぁっ、まったくもう」
「……う、うん。みんなそうじゃないの?」
「そんなわけないでしょ! 少なくとも俺は絶対そんな事思いませんよ。初めて会った時より今の方がずっと好きです!
逆に言うなら炎夏さんは、なんで俺が何回もしつこく告白してもちゃんと付き合ってくれるんですか? ……まぁ実際のとこ、そろそろいやになってるのかもしれませんけどっ。……それでも、少なくとも無視とかはしてないし!」
「……え? いや……だって私、今まで1000人とか2000人ぐらいの見ず知らずの男の子に告白されてきたし。――それよりは、一人で1000回告白してくる律季くんの方が全然楽だもん。だって律季くんの場合はちゃんと心がこもってるでしょ?」
「……!?」
「――うおっ、なんと♡ 律季、今のセリフを聞いたか?
律季くんのかっこよさは1000人の男子にも勝ります♡ みたいな口ぶりではないか……♡」
「……は!? いやっ……なんでそうなるんですか!」
「い……いやでも、今の言葉の感じだと、本当にそんな感じの意味になっちゃわないか……? ぶっちゃけおれもそういう風に聞こえたからかばってやれんぞ」
「……っ!!」
レイン先生め、ささいな言葉尻をつかまえて。
律季くんは絶対に調子に乗っているな――にらみつけてやろうと目をやると、真っ赤になって唇を引き結んだ彼の表情。
律季くんは本気で照れていた。私と目を合わせられず、言葉すら出てこないほどに。
(……あれ? もしかして私、本当にそこまで恥ずかしいことを言ったのかな……?)
確かに私にとって律季くんは他の男の人とは違う。
他の男の人はもともと面白半分やダメもとで告白してきたくせに、それを断ったら逆恨みしてくる。人をなんだと思っているのだろう。私のことを好きだというくせに、実際は人間扱いもしていない。
男の人と話すといつも最後はそうなってしまう。だから恋愛対象としてどうこう以前に、話しかけられること自体に恐怖を感じるようになってしまった。それが当然だと思っていたから、怖いと思っていたことを今まで自覚してもいなかった。
だけど律季くんは違った。何回告白を断っても――それこそ本当に1000回ぐらい断った気がするけど、変わらず接してくれる。そして私やけーちゃんの事を理解しようとしてくれるし、支えようとしてくれる。本気で私のことが好きなのがちゃんと伝わってくる。――何度言ってもセクハラをやめてくれないのは困るけど、それでも恐怖を感じるほどではない。
何度も告白されることが嫌なのではない。私のことを好きだと口では言うくせに、ちゃんと向き合ってもくれない人の不誠実さが嫌なのだ。
逆に言えばちゃんと真剣な気持ちで告白してくれるなら、それ自体は嫌じゃなかった。私がいつも告白を断るのは仕方ない事情があるからであって、個人的に嫌だからではない。
律季くんは真剣だった。私が何度交際を拒んでも、心の醜い部分を見せても、足をひっぱっても、変わらずずっと私を好きでいてくれる。だから律季くんになら何度告白されても別にかまわない。むしろ救われるような気持ちがする。男性への不信感を振り払ってくれる。
私はそう言いたかっただけなのだが、なにかおかしかったのだろうか?
そう伝えると、律季くんはいよいよ照れを通り越して体を小刻みに震えさせはじめた。
「……あの……もしかして、わざとやってます? いや、いいんですけどね。炎夏さんにそこまで言ってもらえるのは光栄なんですけど……」
(……こいつ、自分がどれだけの事言ってるか気づいてないのか? 救われるってお前……)
「……デレが日に日に深刻化していくのう。冗談抜きで交際開始は近そうじゃ」
「っ!? そ、そんなこと――絶対ありえないですっ!」
「わっ! ――んぅっ!?」
なんだかしおらしくなってしまった律季くんを押し倒し、唇を奪った。
驚きに見開かれた彼の瞳が視界を満たす。瞳孔の開閉まではっきり見えた。
「ぷはっ……ど、どうしたんですか……? なんでいきなり積極的に?」
(なんでって……えっ、なんでだろ……?)
「……炎夏さん?」
「……しっ、仕返しよ。そう、仕返し! 昨日の電話じゃ一方的にもてあそばれたから……♡」
「――えっ、電話って……お前まさかアレ、
「……!? けーちゃんも昨日帰ってから律季くんの能力で、おっぱい揉まれたの……?」
「そりゃそうじゃろ。あれは一応能力の実験じゃ。螢にもやらねば意味がない」
レイン先生が付け足した説明に頭では納得する。だが心の中には理屈では止められない黒い煙がぐわっと上がった。
――じゃあ、あのあとすぐけーちゃんにも手を出してたってわけ? 電話じゃあんなに私のこと好き好きって言ってくれてたのに、その舌の根も乾かないうちに? いや、もしかしたら、私より先にけーちゃんに愛をささやいてた可能性も――
(うぅぅぅ、むかつく、むかつく……!)
「――うぁぁッ!?」(やばい、怒ってる……!)
ほぼ無意識で、激情のままに舌を這わせた先は、律季くんの乳首だった。
分厚い胸板に浮かんだ突起を乱暴に吸って責める。すると頭上から情けない声がした。
「……あっ……痛かった?」
「――い、いえ。むしろ……その……」
「……気持ちいいの? 男の子でも?」
「……はい。たぶん、相手が炎夏さんだからです」
(えっ♡ ――って、そうじゃない! なによ、そんなのでごまかせるつもり……!?)
痛くしても仕返しにはならない。むしろ律季くんの場合、喜ぶだけだ。
気持ちよくさせられた分は気持ちよくさせて返す。たっぷり恥ずかしい目にあわせてやらないとこっちの気が済まない。
「れろれろ……♡ んっ♡ こうやって、指も使って……♡」
「ううぅっ……!? ちょ、ちょっと炎夏さん!? なんかうますぎません……!?」
「律季くんにいつもやられてるもん♡ それを真似してるだけ……♡
いっつも一人でセクハラ楽しんでっ♡ たまには女の子の気持ちを知るべきだわ♡」
(い、今の所うれしいだけですよ!?)
「にひひ……♡ 自分から乳首を舐めてご奉仕とは、これぞハーレムメンバーのあるべき姿といったところじゃな♡ さすがは炎夏、感心感心♡」
「……そんなわけないでしょっ。ハーレムなんて絶対に許さないんだから……♡
――律季くんが一番最初に好きになったのは私なのにっ♡ 浮気なんかしなくたって、私一人で十分なはずじゃない……♡ 私の何が不満だっていうのよぉ♡」
「ふ、不満ではないですけどっ! ――ただ――」
「そりゃあ仕方ないことじゃ♡ 律季はもう、おっぱいハーレムの味を知ってしまったものなぁ♡」
「
「違うぞ螢♡ 律季は悪くない♡ すべてはわしらがエロすぎるのが悪いのじゃ♡ だから律季のハーレム欲求もありあまる性欲も、わしらが責任とって叶えてやるべきなのじゃ♡」
「むぅー……! じゃあ――そのありあまってるの全部なくなっちゃうぐらい、死ぬほど乳首ペロペロしてやるわよ♡ 後悔しなさいっ……♡ ――じゅるじゅるじゅるぅぅぅ♡♡♡」
「う゛ぁぁぁぁっ!!??」
「このっ♡ このっ♡ ハーレム諦めるって言いなさい……♡ 言うまで絶対やめないからっ……!」
「諦めません!!」
「極刑~♡」
「ひぁぁぁ~~~~~~~~!!♥♥」
◆
――数分前――
体育教師・小渕は、保健室の隣の教室に隠れ、ビデオカメラを持って震えていた。
現在この学校で流行っている噂は、実はもうひとつある――すなわち、真序高校の二大美女のひとり、三年生の
その噂を確かめるべく小渕は、昼休みが始まってすぐここで待ち構え――ついには、炎夏とレインが揃っている保健室に、律季が遅れて入っていった現場を映像に収めたのだ。
中に四人もいるというのに、まだ誰も出てこない。さらにはかすかに奇妙な音も聞こえる。
――炎夏やレインの弱みを握って、いいなりにする。この中年独身男はそんなシチュエーションを夜な夜な夢見ていた。
もちろんこの映像は決定的証拠にはならない。だが本人たちにこれを見せれば、カマをかける材料にはなる。そこから巧妙に誘導して、不純異性交遊を裏付ける決定的証言を録れば、彼の夢は現実のものとなるのだ。
「――ピカッとするやつ」
「――うっ!?」
喜び勇んでカメラを持ち帰るべく教室を出た彼の前に、すっと姿を現した影がある。
神瀬ユウマは杖を光らせて小渕の意識を奪い、彼の夢が詰まったビデオカメラをひったくった。ポチポチと慣れない手つきでボタンを操作して録音データを消しながら、ユウマはつぶやく。
「こいつは迷惑料にしておくよ。アンタが持ってたってロクな使い方しないだろ。
――ったく。男子生徒に片思いされるのも厄介だと思ったが、これに比べりゃまだかわいげがある。ロイの時といい、美人は本当につらいんだねえ」
「……」
「暗示魔法を封印する約束は破っちゃったけど……今回に関してはノーカンかな。多分こういうのもボクの仕事のうちだろうし、炎夏が盛ってるのが悪いんだし」
「……」
「ま、ボクに感謝してよね。実際のとこ、中で何が起こっているかなんて知らない方が幸せだろ。ボクだって別に知りたくない。
それに――レイン先生を脅迫なんかしたら、アンタたぶん消されてた。それが記憶を失うだけで済んだんだ」