彼のことが大大大大大好きな100人の彼女達とその彼氏を隣で見てる普通の友人 作:ヘルメットのお兄さん
楠莉先輩が恋太郎の彼女になった。
「え、もう!?」
「あ、ゆーじろうなのだ!」
「楠莉先輩、友次郎の事知っていたんですか?」
「友次郎は楠莉の実験を手伝ってくれてたのだ、これいつものなのだ」
「お、ありがとう。やっぱこれがねぇと…………な……?」
「禁断症状が」
「しかし、やっぱり楠莉先輩も恋太郎に堕とされたか」
「堕とされたってなんだよ」
「別に? それより恋太郎、どうやって告白したんだよ、オラ吐けおむぐーっ!?」
俺は恋太郎をつついていると突然楠莉先輩に薬をぶち込まれた。思わず飲み込んでしまうと身体が熱くなっていく。
「い、一体俺に何を……!?」
「ちょっと実験なのだ、他のみんなにはもう薬を試したからあとは恋太郎と友次郎だけなのだ!」
「あぁ……だから羽香里はジャージだし静ちゃんはうさ耳が生えてんのね……」
俺は楠莉先輩から何か起きる前に打ち消しの薬を取ろうと足を踏み出すと──
「あべべべべ」
そのまま顔から倒れた。
「友次郎!?」
「友次郎に飲ませたのは『筋力が衰える薬』なのだ! 全身の筋力が落ちて一般人と同等になる筈なのだ!」
「マッチョ専用拷問」
「か……身体が動かない……!? それどころか段々体が冷たくないって行く……!!」
「体温低下の効果は無いはず……、あ……もしかして心臓も筋肉だから心臓まで衰えてるのだ……?」
「あぁ……なるほ────」
◇
「し……死ぬかと思った……」
心臓一回止まった、絶対止まってた。
打ち消しの薬が無かったら先に迎えが来ていたかもしれない。
「ご、ごめんなのだゆーじろう」
「いや……喉を堰き止めなかった俺も悪い」
「普通は堰き止められねーよ」
「……あ! そうだ! お茶を持ってきたから皆でお茶にするのだ!」
楠莉先輩は気を取り直そうとお茶を取り出すとぶるりと身体を震わせた。
「……と思ったらしっこしたくなったのだ。────ま いっかオムツしてるし」
「ちゃんとトイレでしてください!!」
「んもー」
「こっちのセリフですよ!」
「……俺は水飲んでくる、身体を動かしておきたい」
俺は立ち上がると水道に向かう、途中楠莉先輩が何か言っていた気がするがなんか一時的に難聴気味になっているのか聞き取れなかった。
◇
「あー……治ってきた、次からは先に効能を聞いておこう……」
流石に壁を登る体力は無く素直に階段で屋上に向かい、扉を開けると唐音によって楠莉先輩がこちらへ投げ飛ばされてきた。
「どひゃー」
「何事ォっ!?」
慌ててキャッチし、投げ飛ばした唐音の様子を見ると……いや、恋太郎と楠莉先輩以外が明らかにおかしくなっていた。
「ちゅ……」
「ちゅちゅ……」
「み……皆……!?」
そこには語彙力が死んだ4人が恋太郎に迫っていく姿だった。
「ちゅちゅーっ!!」
「逃げるのだ恋太郎ーッ!」
飛び上がった羽香里が恋太郎に向かって行くのを、反射的に恋太郎を引っ張る事で避ける。
その直後、着地した羽香里から重い衝撃と共に地面にひびが入った。
「
「俺の事こんな風にするつもりだったんですか!!? 」
「違う、あれは女子が飲んではいけない薬だったのだ!」
楠莉先輩の説明によると、俺が居ない間に飲んだ薬のせいで本能のリミッターが外れ、ひたすらキスを欲する”キスゾンビ”になってしまったようだ。
「それに……一時間以内に皆を戻さないと一生このままになるのだ……っ」
「……いや、どういう事だうぉッッ!?」
唐音が恋太郎に突撃してきたのを受け止めるとそのまま押し返し────―
「っ!?」
それどころか逆に押し込まれ始めている……っ
「楠莉先輩っ!! 『打ち消しの薬』を早く……っ」
「それが……四人分ものの『打ち消しの薬』は化学室に辿り着かないと作れないのだ……っ」
「化学室に行けば良いんですね……っ友次郎!」
「おうよ……っすまん唐音ッ!!」
「ちゅっ!?」
全身全霊で唐音を投げ飛ばすと少しの間だが隙が出来た、その隙に俺達は化学室へ向かうのだった。
◇
「もう追いかけて来やがった……!」
「何か四人を足止めする方法は……!!」
「いい薬があるのだ!」
走りながら楠莉先輩が取り出したのは明らかにヤバイ色をした薬。
「『ぶっかけると皮膚が爛れて滅茶苦茶痛てー薬』なのだ!!」
「「使わせねーよ!!? 」」
「と言うかなんでそんな薬作ってんだ────―」
「廊下を走ったなあああ!!!」
この悪魔の様な声は────―
「ぐへへ
「ゲェッ!!? 教頭!!?」
最悪だ、挟み撃ちになってしまった!
このまま教頭を倒す事も出来るが相手は仮にも教師、後で何があるかわかったものじゃない。
どうしようかと思案していると余りにも見た目が化け物だったのか楠莉先輩は反射的に薬をぶっかけていた。
「ぎゃーおっかねーのだ──ーッッッ!!! 」
「あっ」
「ぐぎゃああああああああああ!!!! 」
「あ……!! ご、ごめんなさいビビッてついぶっかけちゃったのだ……! 」
酸で溶けるような音と共に教頭の苦しむ声が聞こえてくる。
「教頭先生!!」
「三時間もかけて塗った土壁のようなファンデーションが溶けていくゥウウウ!!! このままでは人間共に正体が見られてしまゥウ!!! 」
「効いてないなこれ」
「楠莉の薬が……ファンデーション如きに防がれた……だと……ッ」
「言ってる場合か、追って来たぞ!!」
俺はショックを受けている楠莉先輩を抱え恋太郎と共に走りだす、時間をかけられたせいですぐ近くまで迫っていた。
「ちゅちゅちゅ……!! ちゅ! ちゅ!」
「「────ちゅ!!」」
「!! ……「挟み撃ちにするのが効率的」って言ってた気がする……!」
「よくわかるな……ならこっちも別れよう、楠莉先輩は任せたぞ!」
俺は楠莉先輩を恋太郎に託すと右に逸れる、さあ来るなら来い……!
────―。
────────―……
──────────────…………来ない。
いや、まあ何となくわかっていた。そもそも彼女達は恋太郎とキスをしたいという本能が強化されたゾンビなのだからそりゃ恋太郎以外に向かう訳がない。ないのだが……
「……って、いやいや! だったら俺が化学室へ向かえばいいじゃねぇか! 急ごう……っ!」
◇
幸いキスゾンビたちはまだ居ないようで、化学室へたどり着くことが出来た。
「よし、後は『打ち消しの薬』を作れば……作れば……」
────―打ち消しの薬の作り方??
「しまった……っ!? 楠莉先輩をそのまま持ってくれば良かった……!」
「ちゅちゅっ!!」
────―不味い、凪乃が来た! 慌てて隠れたからバレていないが、俺達の目的が化学室だと察したのか?
「ちゅ……ちゅちゅ……」
「……くっ、化学室の扉を防いでいる……完全に目的に気づいてるな……」
このまま楠莉先輩が来てしまえば凪乃に捕まってしまう、なんとかして引き離せれば……
ガタンッ
「────ガタン?」
今、凪乃の傍にある用具入れが動いた様な……
俺は凪乃に気づかれない様にゆっくりと用具入れに近づく、そのまま用具入れの中を覗くと……
「……っ!」
え、誰?
恋太郎か楠莉先輩のどちらかと思ったら恋太郎と色々はみ出てる眼鏡美女が入ってた、こいつこの一瞬で彼女増やしたの???
俺は困惑していると突然眼鏡美女が用具入れから出てきて凪乃に近づいていった。
「ちゅ……ッ!」
「────―」
「────―
凪乃は意味が無いと彼女を無視した、凪乃が背を向けた瞬間眼鏡美女がビニール紐を手にそっと近づいている。
「ちゅ?」
「……いや────―楠莉はただの通りすがりの人なのだよ」
楠莉先輩はあっさり捕まってしまった、何故バレたとか言ってるけど一人称が悪いよ。
俺は絶望が見え始めた時、用具入れの中の恋太郎と目が合った。
その時、天啓が降りた。恋太郎も同じ発想になったのか互いに目配せすると恋太郎が用具入れから飛び出し化学室から離れる様に走っていった。
「ちゅちゅッ!」
それを見逃す凪乃では無く、恋太郎を陸上選手もかくやという速度で追いかけていった。
それを見送ると俺は楠莉先輩の縄を引き千切る為に化学室から出る。
「楠莉先輩っ」
「友次郎! 助かったのだよ……ッ」
「その姿とか色々聞きたい事はあるけど……フンッ!!」
自由の身となった楠莉先輩を立ち上がらせると化学室へ連れていく。
「まずは凪乃達を元に戻しましょう」
「任せるのだよ……ッ!」
◇
恋太郎は追い詰められていた、倉庫室に逃げ込んだ恋太郎は他に逃げ場も無く唯一の出口は凪乃に塞がれた。
息も切れ、起き上がる体力も無い。
倒れ込んだ恋太郎に凪乃は跨ると呼吸を繰り返す唇をそっと塞ぎ────
「凪乃」
背後からかけられた声に反応した凪乃は顔を上げ後ろを向くと
「!!!」
口の中に流し込まれた薬が凪乃の身体に巡り、凪乃を支配していた本能を打ち消していく。
そのまま意識を失った凪乃を恋太郎は抱き抱え、扉の方を見るとそこには元に戻った楠莉と友次郎がそこに居た。
「これで……目が覚めたら正気に戻っているのだ……っ!」
「良かった……間に合ったんですね……楠莉先輩……っ!」
「今……友次郎が皆に薬を飲ませに行っているのだ、直に皆も戻るはずなのだ」
◇
「まずは静ちゃんだ……っ!」
俺は凪乃の治療を楠莉先輩に任せ、残りの三人を戻しに向かった。
静ちゃんは保健室でハンガーに掛けられており身動きが取れなくなっていた。
『ちゅ。ちゅ』
「わぁ、展示物みたい」
簡単に飲ませる事が出来たので意識を失った後は保健室のベッドに寝かせておいた。
後は羽香里と唐音だったが……
「……めっちゃキスしてる……」
二人で濃厚なキスをしていた。それはもう描写をしようものなら全年齢向けなこの小説のタグにR-15を付けないといけなくなるくらいには。
「あ! 恋太郎がこっちから走ってきた!」
「「ちゅ!?」」
「そおいっ!!!」
───二人は目が覚めた後凄く顔が赤かった。
◇
「はぁ……昨日は大変だったな」
「友次郎、お疲れ様」
翌日の放課後、俺は恋太郎と二人でファミレスに居た。
「楠莉先輩も結局お前とキスしてたし……あれで損してるのって俺だけじゃね?」
恋太郎も大変だっただろうけどこいつはキスが出来て物凄く顔がツヤツヤしてるから苦労人にはカウントしない。
「はぁ〜、なんか俺も彼女欲しくなってきた……」
「きっと見つかるよ、神様は目を逸らしてたけど別に0人とは言ってなかっただろ?」
「……そうかな」
「そうそう!」
……恋太郎は5人の彼女が出来ても俺に優越感を得たりしない、それどころか純粋に俺を応援しようとしている。
「……もう恋太郎が彼女でもいいかな……」
「良くねぇよ!?」
女装とかしねぇかなー、恋太郎なら恋太郎の彼女じゃないから雑に扱っても大丈夫だし気兼ねなく触れる……
────なんか思考がおかしくなってきたな。
「やめやめ、もう諦めるわ俺は。大人しくお前の100人の恋路を見守る事にするよ」
次はどんな彼女を作るのだろうか、今の所全員高校生だし……大学生とか中学生とか? 大人相手でも全力なんだろうなこいつは……
俺は空になったグラスを弄びながらそんなことを考えるのだった。