彼のことが大大大大大好きな100人の彼女達とその彼氏を隣で見てる普通の友人 作:ヘルメットのお兄さん
それは、ある日の放課後だった。
どういう訳か恋太郎達が通う学校の理事長として羽々里が就任してから少し、屋上にて集まった恋太郎ファミリーにチケットを手渡した。
「『豪太郎フィットネスジム体験チケット』……?」
「株式優待券で十枚ほど貰ったのだけど、使用期限が迫っていたのよね。皆で行ってみない?」
「なんか主張のつえージムなのだ」
『騎士として鍛錬を怠る事は出来ません』
「運動……(恋太郎君の汗水たらした姿……汗水……体操服……)良いですね! 行きましょう恋太郎君! ……恋太郎君?」
羽香里が涎を垂らしながら提案するが、当の本人は難しい顔をしていた。
「あ、ああ! そうだね、それじゃあ次の日曜日に皆で行ってみようか!」
「隣野友次郎も誘うべき、肉体労働のアドバイスは隣野友次郎が最も効率的」
「フィットネスっつってんだろ」
「じゃあ楠莉が連絡しておくのだ!」
「それじゃあ日曜日に予約しておくわね?」
◇
三日後、恋太郎ファミリーは目的の『豪太郎フィットネスジム』に来たのだが……
『ここが……魔王城』
「あれ……友次郎は?」
「なんか今日は用事があるとか言って来れないみたいなのだ」
ふと、唐音が恋太郎を見ると異様な程冷や汗をかいていた。
「ちょ!? あんた凄い汗よ!?」
「え!? ああ大丈夫! ただの武者震いだよ」
「なんでジムで武者震いするのよ」
「あれ……恋太郎ファミリーの皆さん、どうしたんですか?」
突然彼女達の後ろから声がし、振り返るとそこには覗見がドラム缶を抱えながら立っていた。
「覗見ちゃん? どうしたんですかこんな所で」
「皆さんこそどうしてうちのジムに?」
「うちの……」
「ジム?」
「はい、豪太郎は私の父の名です。……あ、そのチケット」
「ええ……優待券としてもらったのだけど……」
「そういう事ですか、三日前7人団体が参加すると聞いたのは貴方達でしたか……一応聞きたいのですが、コースはどうするのですか?」
「コース?」
「はい、ジムの体験には三つのコースがあって……本当に運動が苦手な人向けの『のぞみコース』、スポーツはやっていないけど運動は出来る『ゆうじろうコース』、上限なしの有名人やプロまで参加している『ごうたろうコース』があるんです」
「やっぱ主張つえーのだ」
「はい……お恥ずかしい限りで……ホントに……」
顔を赤らめた覗見は本気で拳を震わせていた。
「あぁ……それと『ごうたろうコース』をクリア出来たら賞品がもらえます、ですが……正直おすすめはしません」
それだけ言うと覗見はジムへ入って行った。
『『お疲れ様です!! 姉御!!』』
『それ止めなさいって言ってるでしょう!!! お客様来たから丁重にもてなしなさい!!!!』
「「「「「…………」」」」」
彼女達は不安がよぎり、恋太郎は冷や汗で水たまりが出来ていた。
◇
「良く来たなお前らッッッ」
運動着に着替えた恋太郎ファミリーはハゲの軍人みたいなサングラスをかけたスタッフに迎えられた。
「ここは『豪太郎フィットネスジム』!!! 姉御……じゃない、覗見さんから聞いているだろうが三つのコースから選んでもらうッッッ!!!」
言葉の強さとは裏腹に丁寧にメニュー表を渡してくれた。
それぞれ流し読みすると『のぞみコース』は軽い運動、コースを修了するとスポーツドリンクが貰え、『ゆうじろうコース』はスポーツも交えたかなり体力の必要そうな運動、スポーツドリンクに加えエナジーバーも貰えるようだ。
そして『ごうたろうコース』……格闘技を交えたガチの運動、そしてなぜかこれだけ賞品が隠されており、同時に怪我などに対して一切責任を負わない……と言う所謂同意書が描かれていた。
「スタッフのおすすめは『ゆうじろうコース』だッッッそれとそっちの嬢ちゃん達は『のぞみコース』しか選べねぇッッッ」
「むっ、なんでなのだ!」
ハゲのスタッフは静と楠莉を指して言うと楠莉は抗議を始めた
「ウチの道具の身長制限にひっかかってるッッッ!!! 『ゆうじろうコース』からはスポーツも交えるから防具が合わない奴は制限させて貰っている!!」
「それなら打ち消しの薬を飲めば……あ、白衣に置いてきちゃったのだ……」
『同士よ、共に突き進もう』
楠莉は打ち消しの薬を取り出そうとするが断念する。
「それじゃあ私は『ゆうじろうコース』にしようかしら」
「うーん……(私も『ゆうじろうコース』の方がいいんでしょうけど……恋太郎と一緒にしたい……)恋太郎君はどうしま────―」
「おっとそうだ……愛城恋太郎」
「はいッ!?」
「お前は豪太郎様からの指名により『ごうたろうコース』確定だッッッ!!!」
その時、唐音は恋太郎の冷や汗の原因を理解した。恋太郎は既にこの展開を予想していたのだ。
「はぁ!? ちょっと勝手に────―」
「悪いな唐音、でもこれは確定なんだ」
唐音の言葉を遮るように、タンクトップにヘアバンドを巻き、まさにスポーツマン然とした友次郎が現れた。
「友次郎……ッ」
「そんな顔すんなよ、俺だって反対したんだからな? ただまぁ……親父には勝てねぇんだ、俺も参加するから諦めてくれ恋太郎」
「さあ!!! 残りのお前らもコースを決めてもらうッッ!!!」
後ろから圧をかけてくるスタッフもあって、彼女達の選択も迫られていく
「────―私も選ぶわよ、『ごうたろうコース』……ッ」
「唐音……!?」
「いいのか嬢ちゃん?」
「恋太郎一人にさせないわよ……豪太郎だか何だか知らないけどやってやろうじゃないッッッ!!!」
「……唐音!」
────―俺も参加するんだけどなぁ
友次郎は言わなかった。
「私も『ごうたろうコース』を選択する」
「凪乃!」
「このコースが最も効率的に運動できると思っただけ」
「それじゃあ決まったな……? ではそれぞれ移動して貰うッッッ!!!」
◇
『のぞみコース』、参加者は静、楠莉。
「────―それでは皆さん、よろしくお願いします」
「お? 覗見がコーチなのだ?」
「そういう訳では無いんですが……まあ、今日は特別です」
「それならよろしく頼むのだ!」
『よろしく申す』
「えっと、それじゃあまずは────―」
◇
『ゆうじろうコース』、参加者は羽香里、羽々里。
「結局『ゆうじろうコース』を選んじゃいましたけど……」
移動してから五分ほど経つが未だにコーチが現れない。
「何かあったのかしら……?」
「────あー、どうも……『ゆうじろうコース』のお二人っすよねー……話は聞いてるっす……」
現れたのは友次郎によく似た男、しかし背筋は丸く、髪は長くぼさぼさ。なんというか……うだつが上がらないという言葉が似合う男だった。
「俺は
「は、はぁ……友次郎さんの従兄弟……」
顔付きはかなり似ているが性格はまるで似ていない……と思った羽香里だったが羽々里は驚いた様な表情をしていた。
「遠句野 樽芽……って野球選手のダルメッシュ選手ですか?」
「あー……その愛称で呼ばれるっすね……」
ダルメッシュという名前は羽香里も知っていた、一時期何度もスポーツニュースの一面を飾った名前だった。しかしそこまでスポーツに詳しくない羽香里はそれ以上は知らなかったが……
「おじさん……隣野豪太郎から暇だろうから来いって要請が来たんで軽いバイトっすね……俺教えるのは苦手っすけどー……」
「プロ野球選手をバイト扱い……?」
「まあおじさんヤバいんで……それじゃーお二人とも準備運動から始めましょうか……」
◇
『ごうたろうコース』、参加者は恋太郎、唐音、凪乃、そして友次郎。
恋太郎は既に膝を震わせ、友次郎は汗を垂らしながら深呼吸していた。
「ちょっと……どんだけヤバいのよあんたのお父さん……」
「総合格闘技の世界チャンピオンで人が鍛えてるのを見るのが好きな変態、これでわかるか?」
「ゆゆゆ友次郎……やっぱりやめられないか……?」
「恋太郎は幼少期親父に気に入られたせいで良く俺の筋トレに巻き込まれてた、だから親父が軽いトラウマになってんだよ」
「本能で拒絶してない!?」
その時、空気が変わった。
最も早く察知した恋太郎と友次郎はその方向を向くと一人の男が立っていた。
「やあ、恋太郎」
「お……おじさん……どうも……」
そこにいたのは彫りの深い男、日本人とは思えない鍛え抜かれた体付きをして、伊達メガネを着けオールバックにした髪が若々しさを漂わせてくる。
「親父……言っとくけど今日は────―ッ!?」
言い終わる前に友次郎は豪太郎に腕を掴まれると有無を言わさず腕にリストバンドのような物を着けられる。
その瞬間友次郎は腕を地面に落とした。
「重っ……!?」
「最近また鍛えたみたいだね、今日は重り6つずつ行ってみようか」
「えっと……」
「君達が恋太郎の彼女かい? 友次郎から話は聞いているよ、恋太郎は家族以外で唯一私のトレーニングについてこれた子だから家族の様に思っている。そんな彼が彼女を作ったなんて……しかも6人も……うん」
豪太郎は笑顔で恋太郎の肩を叩くと少し離れた位置まで歩く。
「話は変わるけど、恋太郎はここしばらく私の所に来なかったからね、今一度思い出す為に“あれ”をやってもらうよ、君達にも、友次郎にもね」
そう言いながら豪太郎は床にあるへこみに手を掛けると、そのまま放り投げる様な勢いで引き上げる。
「な……」
「……」
唐音も、凪乃も驚いた表情で突然現れた
「さて……君達にやってもらうのは────―
◇
『のぞみコース』────―参加者、好本静、薬膳楠莉。
「………………」
「あの……大丈夫ですか?」
「駄目みたいなのだ……」
静はバテていた。
覗見は簡単なダンスを交えた運動を始め、思いのほか楽しくこれなら自分でも出来そうと思っていた静だったが全然激しかった。
『ははっ……面目ねぇ……どうやら俺はここまでのようだ……』
「……少し休憩しましょうか、──―ドリンクを」
「はッッッ」
スッとスタッフがドリンクを持って現れると三人に手渡してくれる。
「ふぃ~……生き返るのだ……」
「あの……お二人はどうやって恋太郎さんと恋人になったんですか?」
「ん? 楠莉はな~、大好きな薬を開発してたら恋太郎とビビーンってなったのだ!」
『運命』
「そうですか……私、夢があるんです」
「夢なのだ?」
「はい、いつか白馬に乗った王子様が迎えに来るような……そんなロマンチックな恋に憧れてるんです」
『わかるぜ嬢ちゃん』
「でも……周りの子達はあんまり……その、かっこよくないし……大人はお父さんや兄ぃが止めてくるので……」
「そういえば覗見ってどんな男が良いのだ?」
「へっ?」
不意を突かれた様な声を上げた覗見は、真剣に考え始める。
「えっと……優しくて……かっこよくて……力があって……頭が良くて背が高くてお金持ちで相手を優先できるような人……?」
「エベレストみたいなハードル」
「ええっ!?」
「ええじゃねーだろ、そんなの早々いる訳ないのだ」
「じゃ、じゃあ兄ぃぐらいの人で……」
「いや友次郎もかなりハードルとしては高いのだ」
「(やさしくてかっこよくて力があって
静は覗見の理想が最も近い人間で構成されていた事に気づいた。
◇
『ゆうじろうコース』、参加者、羽香里、羽々里。
二人は現在────―
「よし……そこでシュートー……」
「はい……ッ」
バスケをしていた。
────―少しして、休憩。
「あの……樽芽先生……?」
「はい……? なんでしょーか……」
「その……てっきり私は野球でもするのかと……」
「あ──────……実は俺……プライベートで野球するの禁止されてて……」
「き、禁止?」
「俺ー……野球すると気が昂っちゃって……特に人に教える時は手加減できなくなるんでなるべく試合近い日以外は制限してるんすよね……あ、あと敬語無くていいっす……俺貴方より年下なんで……」
「いや……そういう訳には……」
「それにしても二人とも、良い体してるっすね……」
「へっ!?」
「ひゃいっ!?」
「ちゃんと鍛えればいい体力つくっすよ……まあお二人を見てる感じあまり体は動かさないタイプみたいっすけど……」
「あ、ああ……」
やっぱり
◇
『ごうたろうコース』、参加者、友次郎、恋太郎、唐音、凪乃。
明らかにこの四人だけ理不尽な難易度だった。
「ふぎぎぎぎ……ッ!!!」
「院田唐音、無駄に声を出しながら登るのは非効率……ッ」
「出したくて出してるわけじゃないんだから……ッ……ね……ッ!!!」
「二人とも……! 無理したら……」
「恋太郎……お前も無理しない方が良いぞ」
そう言う友次郎は、背中にも重りを足され足に油を塗られ踏ん張りがきかない状態にされていた。
「忍者でもやらない特訓」
「俺は……腕が動く以上まだ何とかなる……ッ親父ぃ!! 手加減ってもん知らねぇのか!!」
「十分手加減してるよ? 恋太郎の彼女には命綱を着けているし、恋太郎も腕の重り一つずつ、友次郎だって手に油は塗ってないでしょ?」
「……ぐぬぬ……ッ!!」
「いやぐぬぬじゃねえだろ」
思わず唐音が突っ込むがそのせいで指の力が緩んだ。
「────―あっ」
「唐音ッ!!」
「院田唐音……ッ!」
咄嗟に凪乃が唐音の手を掴むが、片手を両足だけで不安定なホールドの上にいるのは限界があった。
「は……離しなさいよ……あんたまで落ちるわよ……ッ」
「……離さない」
「別に命綱もあるんだし……ッここで私を落として一人で登った方が効率的なんじゃないの……ッ」
「──―確かにそちらの方が効率的」
「なら……ッ」
「でも」
凪乃はあらん限りの力で唐音を引き上げる。
「二人で登りきる事の方が……大切……ッ」
唐音はホールドを掴みなおし、また登る事が出来る。
「凪乃……ッ」
「ふぐぅぅぅぅぅ……ッ!! 二人とも……友情だなぁ……ッ!!」
「恋太郎、同意はするが俺らもさっさと登るぞ……俺もキツくなってきた」
◇
その後、四人はついにボルダリングを登りきることが出来た。
「おめでとう、皆。特に二人は初めてのボルダリングだっただろうに良く登りきれたね」
そう言い豪太郎は下に飛び降りると壁の側面に合ったスイッチを押すとボルダリングが下に収納されていく。
「それじゃあ豪華景品と行こうか、きっと皆も終わってるだろうからロビーに行こう」
ロビーでは、皆がそれぞれの方法でくつろいでいた。
「あっ恋太郎君!」
「恋太郎お帰りなのだ!」
「恋太郎ちゃん頑張ったわね!」
『よくぞ戻ってきた勇者よ』
「皆、ただいま!」
「あれ……樽芽兄さんいたんだ……?」
「結構傷つくなあ……それ……」
「はいはい、それじゃあ皆集まったね?」
豪太郎が手を叩き注目を集める。
「皆がそれぞれのコースを修了出来たみたいだし、コースに応じてご褒美をあげないとね」
「待ってたのだ!!」
「まずは『のぞみコース』の二人、スポーツドリンクの進呈だ」
「あ! ペン太郎のキャップボトル付きなのだ!」
『Thanks』
「次に『ゆうじろうコース』、ドリンクにプラスで特性エナジーバーだ、一本で半日分の栄養が入ってるよ」
「わあ、ありがとうございます────(ダイエット効果に最適……?)ありがとうございます!」
「恋太郎ちゃんも一緒に食べない?」
「い、いえ俺は……」
「そして……『ごうたろうコース』をクリアした三人は────この『本気グループ商品券三万円分』をプレゼントしよう!」
「え、普通に良さそうな奴……」
「なんだ唐音、親父の顔したフィギュアでも渡されるかと思ったか?」
「いや思ってないけど……」
「頑張ったのにそんなもの渡したら可哀想だしね、あ、でも私のサインが欲しいならあげるよ?」
「必要ない」
「あ……そう……?」
「……親父がへこむの初めて見た……」
────―こうして、恋太郎達は『豪太郎フィットネスジム』を乗り越え、豪華景品を獲得したのだった。
しかし。
「恋太郎パスッ!!」
「うん! ……羽香里ッ!」
「羽香里シュートよ!」
「うおおお!! これが楠莉のミスディレクションなのだ!!」
ほんの少しだけ、恋太郎ファミリー内でバスケが流行った。