■■翼の幼馴染み 作:語り部
しばらくは、この形式を続けようと思います。
それでは本編をどうぞ。
つばさラバーズ 005
005
あの後、お互いに落ち着いてから、俺も出掛ける用意を済ませて、家に鍵をかけ、件の複合施設へと電車を乗り継ぎ向かって、取り敢えずは息抜きからと言うことで映画を観ることにした。え? さっきの延々と続けてればそっちの方が効果的な息抜きになるだろうって?
いいかね、正論は時に人を殺すのだ。主に両者の精神力と取り返しがつかない何かを失いかねないのでアレはほどほどにするくらいが丁度いいのだ。そうに違いない。違いないったら違いない。
ところで、俺は土日には学校内の同学年や他学年の友人たちとこの複合施設内のアミューズメントで遊び呆けたり、地元のカラオケ店や喫茶店や定食屋なんかの梯子したり、俺のアパートに集ってパーティーゲームやボードゲームを楽しんだり、通信対戦式の育成ゲームや格闘アクションの対戦ゲーム、カードゲームでスイス式のトーナメント*1の身内大会なんかもしている遊び方面のプロフェッショナルこと遊び人マスター(自称)なのだ。
故に競い合うタイプの娯楽ではなく、最初に映画で物語を楽しみ仲良く感想戦というのは、とても平和で心穏やかに享受できる。競い合うタイプの娯楽についても、正直なところ、互いに楽しむのが一番良いとは思う。思いはするのだが、遊び人マスターとしてのプライドが邪魔をする。遊びのひよっこにそう簡単に負けるなどあってはならない事なのだと騒ぎ立つ。まあ、何事も本気と全力でやるのが楽しむコツなのだから、この程度の反骨精神は許容して欲しい。
さて、何故そんな話をしたのかというと、ことこの映画館に関しても、この遊び人マスターは常連中の常連。大抵その月に出た新作は良作駄作関係なく全部観終えているし、観た後はどんなもんだったかを一緒に観られなかった友人たちに伝えて、学校内の流行りだったり、話題の映画が決まっているらしい。別に映画評論家気取っている訳では無いのだが、結果的にそうなってしまったという感じである。翼が観ようと誘ってきた映画も、他の友人たちにも誘われて、既に三回くらい観た普通に良作の恋愛映画であった。
「この映画、学校内でも噂になってて、面白いらしいのよね」
「へぇ、そうなんだ。いやぁ、しらなかったなあ」
適度にとぼけて、何度も観たことを悟られないようにする。こういうのは、もう何度も観たとか白けるようなコトを言う奴は、二度とそういう場所に誘われることはなくなるのだ。人間関係では適度に惚けて、適度に知らない振りをして、バカみたいに振る舞った方が楽しく過ごせるのだから。
そんな俺の策略に気付いているだろうに、によによとした笑みを浮かべながら、翼はこう告げてきた。
「ふふ、勉強不足だねえ。努力が足りないぞぉ?」
「ははは、全くだな。ところで、俺としては、その恋愛映画の広告の隣に広告を出している来月に公開予定の三流感漂う海外ホラーサスペンス映画も気になっているんだが、お前はどう思う? 」
「私を誘うのはやめてね、お一人でご自由にご覧ください」
ふふ、こういう香ばしいのをわーい行く行くと集ってこない所がまだまだ青いというのだ。俺の調べによると、その映画は海外でも酷い出来だと話題のクソ映画なので、翼の娯楽に対する良いものとつまらないものに対する嗅覚は鋭くなってきているのは間違いなかろう。
あ、でもレンタルDVD屋で借りてきた過去のクソ映画は一緒に観てたりしてたから、劇場で見たくないとかか?
「あ、カップル割と学生割の同時適用が出来るから、節約できるとこはしとこうなー」
「うん、そうだね」
うん、やっぱりいつもの日和見癖や潔癖症を何かしらの理由で克服しているっぽいな。いつもならカップルだの、恋人だののサービスを受けようと提案すれば『怒るよ。別にそんな関係じゃないんだから、お店に対して詐欺行為になっちゃうじゃないの』とかお真面目振りを見せるのに。まあ、見せるだけで、こっちが勝手に受ける方針で進めた後にゴタゴタ言う程ではないが。代わりに呆れてものも言えないという圧のある視線をいただくだけである。
違和感が確信に変わった。理由は不明だけれど、翼は今、
いつもツーカーで言外の意図を把握し合えている仲であるからこそ、いつもとは違う意図であるという明言をしてくるのは、本当に珍しい。
とはいえ、とは言えである。別にそれを指摘する必要も、それを暴く必要も、
「ほらほら、ポップコーンを買いにいきましょ」
「ん、ああ。ポップコーンは良いけど、また水を注文するとか言う不粋なのはなしな」
「初めて映画館に来たときの事をここぞとばかりに擦らないの」
良い点なら暗黙にせず、指摘してご機嫌を取るべきではあることなのだが、良いのか悪いのか判断が付かないものはスルーに限る。取り敢えずはまあ、四度目の映画を鑑賞するとしよう。
映画の内容は普通の恋愛もの。そう、変わった点があるとするなら、
仮にヒーローをAとBに分けるとAは人助けを日課としている好青年で、ヒロインについても困っているところに手を差し伸べるような関係から始まった相手。そしてBは気安い仲であり、いつも居て当然のような身近であり、ずっと前から続いている相手。
Aに対してヒロインは、Bにはしないような善意を善意で返し合う健全で平和な、お互いを尊重し合って強い信頼関係を築いていると言えるような仲。
Bに対してヒロインは、Aには見せないような愚痴や日頃の疲れを言い合い、お互いにリラックスして接しており若干の依存を感じるような仲。
その二人から好意を寄せられて、両方から求愛を受けたヒロインの選択は如何に! というような、ありきたりな話だ。
話のオチは割愛する。この後も何度か見ている映画の
さて、そんな映画を見終えた後は、取り留めのない感想戦をしながらのコーヒーブレイクと洒落込もうとした。したが、結果的にこの映画の感想戦のイベントはこのゴールデン・ウィーク中には発生しなかった。
映画館を出るまでは良かっただの、素敵だっただの語彙力に欠けた軽い感想を交わして、ミ◯タードーナツにでも足を運ぶかーなどと言いつつ、感想戦で使う材料を組み立てていた。
そうして、映画館のテナント出口では、
「忍野さん、こんにちは。アロハシャツ以外にも衣服があったんですね」
「
「え? 今日は学習塾跡に寄ってませんけれど……というか、あの町からここまで何のご用事で来たんですか。忍野さんは厭世的というか、こういう場所に来ないものと思っていたので」
「ほほう、そうなのかい。嘘じゃあ、無いようだね。いやあ、僕は
俺を置いてきぼりにして、話は進んでいく。ん、というか今、俺の名前言ってなかったか?
「え、今日は午後からにはなりますが翔と二人で過ごしていましたけど、特段変わったことはありませんでしたよ」
「そうかい、じゃあ────そちらが、天野くん。天野 翔くんで良いのかな。僕のことをさっきからすごい目で見ているけれど」
あ、視線がバレたっぽい。軽い誤魔化しを交えて挨拶をする。
「いきなり自分の知らない人に語り掛ける翼に引いてただけですよ。で、名乗って貰えますかね。俺はお兄さんの事を何も知らないので」
「ああ、ごめんごめん。と言っても阿良々木くんから名前は聞いていると思うけれど」
そう言って、
「
「はあ、そうですか。何やら暦が迷惑をおかけしているようで……なに、どうした翼。面食らったような顔して」
「────え? ああいや、忍野さんがそんな畏まって名刺を渡すとは思ってもみなかったから。びっくりしちゃって」
名刺を受け取って、そこでようやく自分の中で彼の正体が合致する。
「さて、立ち話もなんだ。ミ◯タードーナツでお茶でもしながら、すこーしお話に付き合ってくれないかな」
「え、嫌ですけど」
映画館のテナント出口前で胡散臭いお兄さんのお誘いをバッサリと切り捨て、翼の手を掴んで強引にその場を後にしようとするのだった。
そりゃあそうなのだ、そんな不審人物と聞かされては例え友人が命の恩人と慕っていようとも話をする義理も通りもないのだから。
そもそもが俺は今、翼と息抜きに来ているのだ。息の詰まりそうな話を持ってきた友人の恩人に会ってまで時間を浪費する必要は全く以てない。向こうはなぜかは知らないが、こっちの無事を確認しに来たようだったし別に話すこともないだろう。
なにより、息抜きの途中でよくわからない邪魔が入るのが、一番嫌だった。
話が動き出してきましたね。
自称遊び人の結構多趣味な拙作主人公。謎の来月公開されるクソ映画。羽川翼の明確な変化。
そして、忍野がここに来た理由とは、そしてその理由を華麗にスルーしようとしているこの拙作主人公は逃げおおせるのか。(なお、連れに連行される模様)
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