アカメが斬る―忠義とは何がために―   作:500円

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第1話

『帝都に来い』と一文だけ書かれた親友からの手紙。裏面には『ここらへん』と簡易な地図が描いてある。恐らく代理で誰かが書いたのだろう。字は綺麗だというのに、我ながら絵の意味が分からない。

旅で必要なものを単純に考えるならば、困ったときのための地図。残りは金子、武器。

それらを携え、さぁいざ行かんとまで住処を出たまではよかった。

 

「いかん…野宿かもしれんから防寒具を持ってくるか」

 

1度目に引き返す理由はそれだけだあった。

 

「いかん…1日は大丈夫だが、水と食料も持ってくるか」

 

2度目に引き返す理由も後に思えば、どうでもよいことだったのかもしれない。

帝都に入るまでの主要な道は綺麗に整備されている。整備されている理由は恐らく軍事目的だろう。

とはいえ、その道を流石に3往復すると時間もかかり、回数を重ねるごとに疲労が積もる。そのため、早朝に出たというのに気がつけば太陽が山に隠れつつあるのだ。

ここは、一先ず地図を広げ現在地を確かめる。

 

「これは……大陸地図か?]

 

地図を持ってきたのは正しい。内容は間違っている。何をやっているのかと、彼は頭を抱え唸ってしまう。

この失態は致し方ない。地図の裏はどれも似たようなもので、急いで取ってきたときに中身を確認しなかったのだ。

するとランプを下げた馬車が目の前からやってくる。道の外側に避けると、馬車が停まって御者が会釈してきた。

 

「帝都への道はこれで合っているか?」

「あぁ合ってるがアンタ、これから帝都に行くのかい…?気ぃつけてな」

 

帝都が腐敗しているというのは周知らしい。

といえど、それを知らない田舎のものは帝都で現実を思い知らされる。酷い場合は生きて出てくることもできない。そのことから一度入ってしまうと逃げられない罠と同じくらい質が悪い。

特に夜の帝都は人を食う。馬車を見送り、そう思った。犯罪者や暗殺者といった輩が闊歩しているからだ。

男の名はカール、彼もまた手配書が発行されることをしでかした。

軍部では離反者として扱われている。

とはいえ、ここ最近では離反したものに対して手配書が出なくなった。多すぎるからだ。

そして時が経つにつれ誰もが忘れていくのであろう。

しかし、今の帝都は離反者に脅かされているわけではない。

薄汚れた貴族たちは、ナイトレイドという集団に付け狙われている。彼らの活動が頻繁になったのも大臣が交代して以降だ。

 

「ブラートの奴…元気にしているだろうか」

 

手紙の送り主であるブラートとは、彼と時同じくして軍を退役した者の名だ。

退役といえば聞こえはいいがカール、ブラート両名の場合は脱走に近いだろう。というより上述通り離反だ。

カールはそんなブラートをハンサムと呼んでいた。駆け出しのころに、アニキかハンサムという選択肢を与えられ、後者を選んだだけである。真似する奴がいないだろうと思ってのことだ。

そして、ブラートは現在でもナイトレイドの一味として手配書が発行され続けている。

 

 

帝都に入った後は、案内板を頼りに歩いてまわった。夜だというのに町は光で満たされていた。とはいえど脇の道に入ると一気に暗闇が広がる。

手紙に書かれていた『ここらへん』という場所に着いたのは約束の15分ほど前であった。街灯が一つしかなく、小川に橋が架かった場所で敵が来ても四方に逃げ道がある。我ながら地図の解読には時間がかかった。棒、丸、三角、四角、そして『ここらへん』難しい課題であった。原因は真上からではなく横からの絵であったこと。

だが、解読できたことで少し自分に自信を持てた気がした。軽いな、俺。

 

「にしても臭うな…」

 

小川をのぞき込むと緑っぽく見えた。加えて腐臭がする。考えたくはないが動物の類だろう。戦場で死体を焼いたときと同じ感じだ。

そこへ、ちょうど橋を渡って近づいてくる気配を感じた。

それも酔っぱらいのような生易しい雰囲気ではなく、人と獣とあと数種類が混じったようなのが一緒だ。嗅覚と感覚を混ぜられているようで、思わず気持ちが悪くなった。

その正体は街頭に照らされてようやく分かった。茶髪のポニーテールで胸、肘、膝当て等を装備した女性で、混沌たる原因を後ろに連れていた。

 

「はっ、こんな夜分に。そこで何をしているんですか?」

 

構えを取るところを見ると素人ではなく、何かしら武術をたしなんでいることがわかる。

思わずカールは自身の見てくれが不審者なのかと落ち込むところだった。

 

「いや…人を待っているんです」

「こんなところでですか…?気を付けてください。あっ!なるほど、女性との密会というやつですね!?任せてください、この近辺は私が守ります!」

 

どうしてそうなる。敢えて言うならば貴様が不審者だ。大声で喋る彼女にそう思ったのは仕方ない。おかしな生物を連れているのだ。白いという点以外、何と表現すればよいかわからない。いや、可愛いのか。

装備からして彼女自身が恐らく自治組織の一員なのだろう。自治組織、おかしな生物、何だか…今の自分にはまずい単語ばかりで嫌な予感がする。

そう考え込んでいたためか、気づかぬ内に彼女はこちらの顔をジッと見つめていた。そして、一言発した。

 

「おっかしいなー、どこかで会ったことがありますか?」

「…っ」

 

直感が鋭いというより、無邪気な顔をしてそう言われると背筋が凍る。

こういった場合、どう反応すればよいのかと彼は思う。自分で自分の身体を制御できているか不安になった。特に顔の筋肉のことだ。

下手にいえば立場が危うくなるだろう。喋りすぎても怪しまれる。

自分が手配書に載ったことがあるなら、誰かが覚えていても可笑しくはない。寧ろ自治組織にも過去資料があるはずだ。

考えは一つ。こういう場合、印象を残さないために言葉はできるだけ簡潔に済ませた方が良い。

 

「ははは…恐らく他人の空似だと思いますよ。警邏ご苦労様です」

「そう…ですよね?失礼しました!あ、私、帝都警備隊のセリュー・ユビキタスです。困ったときは遠慮せずに声をかけてください!では、夜警を続けさせていただきます!」

 

何故か去り際に名前と所属を公開していく。しかし、彼からすれば有益な情報だ。一先ず、帝都警備隊にはなるべく目をつけられないようにすることだ。

目線で走っていく彼女の背中を追ったとき、引きずられている生物の口に鋭い牙と血を見た気がした。

 

 

結局、ブラートは30分以上遅刻した。さらに、いきなり誰もいないのに声が飛んでくるというのは、恐怖体験をした後では心臓に悪い。ブラートは透明化してるんだというが、透明化しているのに喋ったら意味がないのではないか。

さらに『帝都に来い』と書いたくせに街中では目立つということで人の出入りが少ない森に場所を移すことになった。何でも危険種が出る森だそうだ。

 

 

『ここまでくれば流石に誰にも見られねぇか』

 

そういうと今まで何も見えなかったところに徐々に色がついていく。帝具インクルシオを纏ったブラートは、本当に透明化ができるらしい。

そして、インクルシオを脱いだ彼とカールの2人は涙ながらに熱い抱擁を交わしたのだ。ブラートが頬を赤らめたように感じたが、気のせいだ。気にしたら何か危ない気がする。

 

「昔と髪型が変わりすぎじゃないか?手配書と全然違うぞ…」

「手配書…見たんだな、これはイメチェンだよ。昔の俺と一線引いて、新しい俺になるためのな。にしてもカール、お前の手配書とかは今じゃ見かけたことねぇぞ?」

 

それもそうだろう。カールの目的はそれだったのだ。2人が離反した日、一緒にいると目立つということからカールは騒動が落ち着くまで帝都から離れた。特に検問を力ずくで突破したのが印象に残っている。

後にブラートがナイトレイドという暗殺部隊に入隊して更に手配書を増やしたころ、カールは誰にも見つからないよう生活していたのだ。今も生活場所は山に作った小屋だ。

だから帝都に行くための奥の手が山越えなのだ。

念のために持ってきていたランプに明かりをを灯し、地面に胡坐をかいてようやく落ち着いた。こうして顔見知りと灯を囲むことを2人は懐かしく感じている。

 

「弱きを助け、強きを挫くっていうのは本の中で出てくる主人公だと思っていたのにな…今じゃブラートが主人公の物語か」

「俺はそんなに立派じゃねぇよ…だがな、帝国の汚れを取っ払うってのは気持ちがいいんだぜ?服、脱いでいいか?」

 

脱ぐな。人を殺す仕事だというのに彼は生き生きとしていた。まるでリヴァ将軍とカールとブラートを含めた皆で、帝都の腐敗を知らず堂々と戦場を駆けていたときのように。

 

「そういや、今回呼んだのは他でもない。これからが正念場なんだ、お前もナイトレイドに入って力を貸してくれないか?」

「俺に…暗殺を手伝えと?……断る、第一お前よりも弱い俺が入ってどうなる」

「ブラート以上の実力をお前に求めるのは酷というものだと、私は思うが?」

 

暗い森の中から聞こえた声には聞き覚えがあった。帝国の中でも女性の将軍というのは珍しい。しかも早い段階で軍から離反したので、前例がないことばかりするという意味合いから『珍獣』だと思っていた彼女のことはよく覚えていた。口に出したら殺されるかもしれない。

 

「ナジェンダ将軍!?」

「よせよせその名で呼ぶな、堅苦しいのは嫌いなんだ」

「そうだぜ、ボスは男に間違えられっごふ」

 

屈強な肉体を持つブラートの腹にナジェンダの拳が刺さる。あのブラートがビクビクと震えている。なるほど、これが上下関係の力か。

 

「それよりカール、私はナイトレイドの長をやっているんだが、お前のことはブラートから聞いている。背負っているのは帝具だろう?帝具はいまだ謎が多い…だからこちらとしても情報が欲しい」

「あまり気は乗りませんが…帝具は隠匿することで強みとなるので、名だけお教えします」

「あぁ、構わん」

 

背負っている革袋の口をほどき、中から大剣を取りだす。

 

「大剣の帝具、カタストロフ」

 

そうか、納得したようにうなずくナジェンダ。

彼女は次の瞬間に拳を飛ばしてきた。カールは腕が飛ぶという現象に心の底から驚いたせいで反応が追いつかず、顔に鉄拳がめり込んだ。恐らくブラートが受けた拳より強烈だ。幸いにも受け身はとれたので、頭がどうにかなることはなかった。

地面の冷たさが痛みに心地よい。

 

「ゆ、油断させてからの……卑怯なり」

「ははは!今のが情報分のお礼だ、帝具があるからといって慢心してはいけないぞ。義腕が飛んでくると思っていなかったお前に非がある。さて、ブラートそろそろ帰れ、明後日も仕事が入っている」

「おぅ!そうだったなボス。んじゃぁなカール、また手紙届けっからな」

 

ブラードは元気だ。さっきの一撃からピンピンしている。カールは地面に仰向けになった状態だが、首だけ動かして二人を交互に見る。この二人は強い。揺るがない芯を持っている。

 

「私もこれから用事があるのでのんびりしてはいられないんだ。あぁそうだ、ナイトレイドはいつでも君のような人材を歓迎するぞ?」

 

この日、タツミがナイトレイドに遭遇する二日前のことであった。

 




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