思いついた設定から書きたい欲求が抑えきれず、思うままに書き上げてしまいました。
良ければお楽しみください。
西暦2106年のとある日、1人の男がこの世界に産声を上げた。
彼は所謂前世の記憶を持った転生者である。
転生と言っても、この世界は彼が思っていたようなファンタジーな世界ではなく現代社会の方が近い──否、遥か未来を行っていた。
科学や技術は彼が知っている知識より遥かに進歩しており、自我を得た頃から前世とのギャップに驚くことばかりであった。
しかし、彼の人生はよくある転生系の娯楽小説のようにはいかなかった。
彼が10歳の頃──父が死んだ。 そして、母も後を追うように亡くなった。2人とも過労死だったそうだ。
両親が他界したことにより、学費を払えず彼は小学校を中退することになった。 前世で義務教育を受けていた身としては小学校で中退というのはとても信じられないことだったが、受け入れる他なかった。
この世界では政府ではなく企業が国を支配している。
大気は汚染され防毒マスク無しでは外を歩くことは出来ない。食事は味気ないただ栄養が取れるレーションのようなものだけ。日々の暮らしのために日夜身を削りながら働く人間が大多数なディストピアな世界だった。
彼は絶望した。これから先の人生に希望を見出せずに。
ふと、前世で好んでいたゲームも企業たちが世界を支配していたりしたなと現実逃避する様に思いながらも、そんな世界に実際に転生などしたくなかったと涙を流した。
しかし、彼はこの世界に生まれてしまったのだ。新たに得た生を──それこそ両親が過労死してまで育んでくれたこの命を無為に捨て去ることなど到底出来るはずがなかった。
幸いなことに前世の記憶があったお陰か、はたまた企業の政策としてあまり知識を与えないような教育レベルの低下によってかは定かではないが、彼はこの世界に適応した。
小学校で習った以上の知識を僅か10歳の年齢から遺憾無く発揮し、順当に出世を重ね遂にはアーコロジーに住むことが出来るレベルの生活水準を得た。この間約15年、決して楽ではなかったが彼は一つの目標を果たしたと言ってもいいだろう。
生活も安定し、独り身ではあるが満足な暮らしを得ることが出来た彼は、遂に娯楽を求めた。
この世界においての娯楽はアーコロジー内での運動や食事が主とされている。これらはアーコロジー外で暮らす貧民層には体験し難い娯楽だ。
しかし、彼はそのどちらにも興味を示さず貧民層でも数少ない楽しめる娯楽であるゲームにそれを求めた。
前世では彼は多くのゲームをプレイしていたが、中でもロボットのゲームを好んでプレイしていた。
最後にプレイした記憶がある『
この世界ではDMMO-RPG(Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game)という前世では無いタイプのゲームがあり、ゲーマーとしての性か心を踊らせた。
そうして幾つものゲームをプレイしてきたが──残念なことに彼がハマるゲームには出会えなかった。 確かにロボットゲームはあったが、それは彼の求めるものではなく、予め用意された機体を使う格闘ゲームやシューティングゲームに過ぎなかったのだ。
他のゲームも似たり寄ったりで程々に遊ぶことで気を紛らわせるぐらいの娯楽でしかなかった。
──そして、彼はとある動画を目にすることになった。
今までプレイすることのなかったファンタジー系のゲームで名前を
その動画では、世界観にそぐわない機体が空を駆け、多種多様なパーツを組み合わせることが出来るという謳い文句で特集が組まれていた。
彼はこの機体──パワードスーツに心を奪われた。世界観こそ彼が求める様なものではなかったが、それは十分に妥協出来た。
彼はすぐさまそのゲームをコンソールにインストールし、YGGDRASILの世界へと飛び込んだ。
丁度大型アップデートが導入されたばかりらしく、多くの新要素が実装されていた。その中にはプレイヤーの種族──人間種か異形種かを選択する──もあり、その際に実装された
YGGDRASILでは人間種と異形種での種族の変更は出来ない──世界級アイテムを使用すれば可能だが──ため、彼は大いに悩んだ。
パワードスーツもこの自動人形も実装されてから日も経っていないためまだ情報が少なく──公式発表ではない個人経営サイトのものなので信用は薄いが──どういったスタイルでこのゲームをプレイするかで取れる戦略も大きく変わる。 結果──彼は自動人形という異形種でこのゲームを始めるに至った。理由は明白、万が一パワードスーツが入手出来なかった場合、自身がロボットであれば自分を改造しながらプレイ出来るのではないかという発想故だった。なお、実際その様なことは出来なかったのだが。
こうしてYGGDRASILの世界に一人、新たなプレイヤーが生まれた。
彼の名はレイヴン。前世でプレイしていたARMORED CORE Ⅵの主人公の名を拝命した彼は、この世界で自由に飛ぶための翼を求めて冒険へと向かった。
西暦2136年、某日。ムスプルヘイムにて──。
「おい!どこ行ったあの野郎!?」
「分かんねーよ!無駄に速いから見失っちまった!」
「索敵の魔法を使っても反応が……えっ?何かが高速で近づいて──」
瞬間──突如飛来したソレによる一撃で
「デオン!?」
「一撃だと!?ふざけんじゃねえこのクソカラスが!」
同じパーティメンバーであった重戦士は敵討ちと言わんばかりに大斧を振り下ろす──が、当たらない。そもそも、目の前の相手は高い機動力を有していて、一発当てるのも至難の業だ。それを重戦士も理解していたはずだが、冷静さを欠いている為にがむしゃらな攻撃は決して当たることはない。
ソレを見逃す敵ではなく、右手に持つ魔導銃でもう1人を牽制しつつ後方へと下がりながら右肩部にある魔法武装を起動させる。
炎の塊が重戦士目掛けて投射され、爆炎となりその身を焦がした。放たれたのは〈
「グウッ……クソが……!」
「おい!避け──」
もう一人の忠告も空しく、重戦士は追撃による──先程魔法詠唱者を葬り去った一撃でその身体をポリゴン片へと変えることとなった。
「ハハッ……おかしいだろ。 なんでたった一人を
話は少し巻き戻る。
この日、とあるプレイヤーたちは二つのパーティを組み、一人のプレイヤーを討伐しようと計画していた。
標的は異形種、PKしてもペナルティがつくことはなく倒せれば敵が保有しているという
集まったプレイヤーは全員がレベル100。そのうち数名のプレイヤーの頭上には『敗北者の烙印』という表示がされていた。
これはギルド武器を破壊されギルドが崩壊した際に所属していたギルドメンバー全員の頭上に表示される者であり、特にバッドステータス的なものをもたらすものではないが屈辱的なことに変わりはない。 これを解除するには再びギルドに所属していたメンバーでギルドを立ち上げることだが……悲しいことに、彼らのメンバーの幾人かはこの事でショックを受けて引退してしまい、この表示が消えることがなくなってしまったために、この原因を作った標的への恨みは深かった。
標的の名はレイヴン。異形種の
ムスプルヘイムを主に活動しており、大型アップデートで追加されたエリアに拠点を持っているという噂があり、先日裏取りがされたため襲撃に至ったわけだった。
そして、その拠点へと向かえば──その裏取りが正しかったことが証明され、同時に真っ黒なパワードスーツを身に纏ったレイヴンが待ち構えていた。
『メインシステム、戦闘モード起動』
どこか機械的な女性の声がレイヴンから発せられた。
討伐隊のメンバーはレイヴンが女性プレイヤーなのかと訝しんだが、倒すことに変わりはないため思考から切り離した。
恨みが募った『敗北者の烙印』を背負ったプレイヤーを先頭に突撃すると同時に、後衛を務めるメンバーで味方を強化し魔法を放つ。
最初はレイヴンはあらゆるスキルや魔法を回避することに専念していた。途中、魔導銃による反撃もあったがそれは大したこともなく全員が『勝てる』と確信した頃、惨劇が繰り広げられた。
スキルを連発したことでクールタイムに入った前衛を左肩部の魔法武装から〈
「他の奴はどうしたんだよ?俺たち以外にもいただろ?」
「………」
「なんとか言えよイキリクソカラスが」
「………」
「チッ、ダンマリかよ」
レイヴンは左手にレーザーブレードのような武器を握り、ジリジリと最後に残ったプレイヤーへと近寄って行った。
(来い…!そのまま近寄って来い!)
だがこれは最後に残ったプレイヤー──暗殺者である彼の必殺の間合いでもあった。
彼はとある特殊な
一歩、また一歩とレイヴンは近寄ってくる。威圧感に押しつぶされそうになりながらも彼はチャンスを伺い、口汚く罵ることで──実際レイヴンは一部のプレイヤーから激しく嫌われているが──怒らせ短絡的な行動に持ち込ませようとする。
「このくそぼっち野郎が!お前なんかゲームしか取り柄の無い寂しい奴なんだろ!? じゃなきゃ、こんな辺鄙なところに拠点なんて構えねえもんな!」
子供が罵る様な低俗な罵倒だが、これでいいと自分を納得させた暗殺者はスキル発動の用意をする。
これが決まれば世界級アイテムが──もしくはレイヴンが所有する最高レアのアイテムが手に入ると内心ほくそ笑みながら構える。
そして、その時は来る。
『ターゲットロックオン』
またも機械的な女性の声がレイヴンから発せられる。レーザーブレードを腰に構え自分目掛けて一文字に斬り払う──のを暗殺者は幻視し、慌てて飛び上がり勢いでレイヴンへと接近し──
「スキル〈
〈消失する生命〉──三日に一度、短剣系統の武器を使用している時限定で耐性を無視して相手を即死させることが出来るスキル。ただし、当たらなかった場合、使用者が死ぬというペナルティがあるためあまり使用されないスキルでもある。しかし、こうして一対一で手の届く範囲であれば十分に使用出来るスキルでもある。
(やった!当たった!)
そして、見事狙い通り短剣はレイヴンの胸部を捉えた。後はレイヴンが即死し、身体がポリゴンになるのを待つだけ──のはずだった。
5秒、10秒経過しようと目の前のレイヴンが死ぬ気配はない。何かされたのを理解しているレイヴンはジッと暗殺者を見据えている。
「な、なんで死なない!?〈消失する生命〉は確実に決まったはずだ!」
隠せぬ動揺が暗殺者を襲う。何が起きているのか理解出来ない。如何に即死に対する耐性を持っていたとしても、このスキルはソレを無視する。だというのに何故かレイヴンは死ななかった。
レイヴンは何事もなかったかの様にコンソールを操作しレーザーブレードから短剣に持ち替える。そしてそのまま暗殺者の胸を刺し──
「なっ!?嘘だろ!?これは俺のスキ……」
最後まで言葉を言い切れず暗殺者は事切れ身体をポリゴンへと変えた。
後に残ったのは彼らのドロップした最高レア度のアイテムが合計十二個。即ち、レイヴン討伐隊は全滅した。
何故〈消失する生命〉を受けてレイヴンが即死しなかったのか。それは彼が身につけている黒いパワードスーツに秘密がある。
これこそが彼らが求めたレイヴンの持つ世界級アイテム『
『神王の渡鴉』には二つの能力がある。
一つは受けたスキル、魔法などを無効化して吸収し、それを行使出来るようになる能力。 もう一つは使用パーツに登録してある魔法、及び装備者のスキルのクールタイムを半減するというものだった。
この能力によって〈消失する生命〉を無効化し吸収。逆にそれをやり返したというのが真実だった。
『戦闘終了、お疲れ様でしたレイヴン』
再び機械的な女性の声がレイヴンから発せられる。 当然レイヴンの声ではない。 これはレイヴンがロールプレイをするにあたってナビゲーターが必要だと判断しAIで作成した合成音声だ。それをアクセサリーに組み込むことで状況に応じた声が出る作りになっている。なお、アクセサリーは
戦利品をインベントリに放り込み、自らの
好きなように生きて、好きなように死ぬ。
とある『ARMORED CORE』作品の名台詞のひとつ。 現実世界においてレイヴン──彼はある意味で自由のない生活を送っている。だからこそ、このYGGDRASILではこの言葉を胸に抱き思い思いに過ごしていた。
西暦2138年某日。
この日、圧倒的人気を誇った『YGGDRASIL』は遂にサービス終了日を迎えることとなった。
多くのプレイヤーは最後の日だからとかつての仲間に最後の挨拶をしに、または最後の瞬間を迎える為にログインしていた。 レイヴンもその中の一人だ。
拠点の自室に座り込み、この世界での生活に想いを馳せていた。
多くの出来事があった。YGGDRASILを初めてから多くの人間種プレイヤーに
──楽しかったこの世界ともさよならか。
感慨に浸り『ARMORED CORE』のパーツに見立てて作ったパワードスーツの数々を視界に収め、ひとつひとつを眺める。 苦心して作った装備だ。サービス終了のため、もう二度とこの眼で見ることは叶わない。 だからこそ、この眼に焼き付けようとしていた。
そうして時間は過ぎていき、いよいよ終わりの時が訪れた。
23:59:59
00:00:00
──この日、この時を以てYGGDRASILは終わった。
00:00:01
──しかし、それは終わりと同時にもう一つの始まりでもあった。
レイヴンは時間が過ぎてもサーバーダウンが起きないことに疑問を抱いた。
一体何をやっているのか。 それともサービス終了日を勘違いしたか、などと考えながら何気なくコンソールを操作しようとして片手を振るが──コンソールが出ない。
二度、三度と同じことを繰り返すが何も起きない。 これは一体……?と疑問を抱いたその時だった。
『どうしましたか、レイヴン?』
突如として聞きなれた声がどこからともなく聞こえてきた。アクセサリーである
『今日のところは依頼は入っていません。 ですがACの腕前を落とすわけにはいきません。なのでシミュレーターでの訓練など如何でしょうか?』
そんな考えを嘲笑うように首輪は明確にレイヴンに話しかけてきている。空耳などでは断じてない。
多くの異変に襲われる中、突如として外からドオォォォン!という騒音が聞こえた。
『これは──レイヴン。本拠地外に敵性反応があります。 恐らく、ドラゴンと思われます。迎撃に向かいましょう』
再び首輪──エアからの応答。それも、何をどうしたのか索敵能力まで手に入れているらしい。 原作と同じ有能さに乾いた笑いが出るが、そうも言ってられない。
本拠地のあるここはムスプルヘイム。出現するドラゴンとすれば恐らくフレイム・エインシャント・ドラゴンだろう。それなりの強敵だ。
とはいえ、レイヴンだけでも倒すには十分だろう。神王の渡鴉を装備したレイヴンは本拠地の外へと向かい──目の前に見えたのは見慣れぬ景色。
本拠地のある場所は溶岩に囲まれ、廃材がそこかしらに散らばっている工場跡地の様な場所だった。 しかし、今その光景はない。あるのは地平線の彼方まで広がる荒野地帯だった。
『レイヴンこれは一体……? 私たちが拠点としていたのはムスプルヘイムでは?』
それはこっちが聞きたいと思いながらも、何かしらの異常事態が発生したとエアに伝えれば納得した。 どうやら声だけでなく完全な自意識も得たらしいエアはソロプレイをしていたレイヴンにとって心強い味方になったのは違いない。
『……! レイヴン、敵性反応──ドラゴンがこちらに迫ってきています』
レイヴンが空を見上げれば──そこには見たこともない竜がいた。
「見慣れぬ物が現れたと思ったから見に来てみれば……よもや竜帝の汚物が我が領土に現れるとはな」
真紅に輝く鱗にその巨体に見合った大きな翼、爪、牙が存在感と共に威圧感を放っていた。YGGDRASILにもドラゴンは多くいたが、これは記憶にないドラゴンだった。
「世界を汚す醜悪な者よ。せめてもの情けに我が引導を渡してやろう。
我が名は
『敵性生物、真紅の竜王来ます!』
襲い来る真紅の竜王を名乗るドラゴンの登場にレイヴンは何を思ったかというと──心が震えていた。恐怖ではない感情で。
終わったと思った世界が続く喜び。 転生して、まさかこんな異世界転移まで体験するとは思わなかったが、不思議と胸は高鳴った。
そして、どういうわけか頼れる相棒も出来た。 エアがいるというだけで不思議と『レイヴン』そのものに成れた気がした。
ならば後はどうするか?目の前には敵性生物。明確にレイヴンを殺そうとその爪を振るおうとしている。だったら、取るべき行動はひとつ。
『メインシステム、戦闘モード起動。 いきましょう、レイヴン──』
ああ──共に行こう、エア。
借り物の翼で、何処まで飛べるかを。
五百年後──この世界では多くの伝承が遺された。
六大神、八欲王、口だけの賢者、十三英雄など多くの英雄、神、大罪人、竜帝の汚物と呼ばれる者たちがいた。
しかし、その全てを上回る圧倒的知名度を誇る生きた伝説があった。
敵対する神や竜王たちを悉く全て滅ぼした存在──人は、生き残った竜王はそれをこう呼んだ。
──黒い鳥、レイヴン。
何もかもを殺し尽くす、死を告げる鳥。
それは今もなお生き続け、この世界で自由に羽ばたいている。
プレイヤーネーム レイヴン
異形種 総25Lv
ターミネーター5Lv
職業 総75Lv
ガンナー
ウェポンマスター
バーサーカー
パイロット
メカニック
ギルドクラッシャー
など
現代世界の記憶を持ってオーバーロードの現実世界に転生。オーバーロード自体の知識は無い。
前世で社会人だったため、最低限の(前世比較)知識教養を得ていたため社会に適応し、アーコロジーで生活出来るまでの生活基盤を手に入れた。転移時で独身32歳。
対人戦では無類の強さを誇る。レイヴンの名に恥じない強さを求めた結果、廃課金することにした。
世界級アイテム無しでも神器級アイテムのパワードスーツがあるため、相当に強い。
割と他のプレイヤーからは嫌われていて、蔑称でイキリカラスやクソカラスなどと呼ばれている。
本拠地には彼力作のパワードスーツが多数飾られている。
エア
転移してから自意識を持った首輪型アクセサリー。
NPCでもないのに自意識を獲得したのは、装備にレイヴンが設定を書き込みまくったのが遠因で、決定的なのはAIを仕込んでいたから。
設定のせいか、索敵能力や他の能力まで手に入れている。
ただし、原作の様なAC……もとい、パワードスーツを操る様なことまでは出来ない。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
好評だったら続きを書くかもしれません。
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