オーバーレイヴン   作:ざいざる嬢

3 / 3

当作品は思いついた展開を時系列バラバラに更新していくスタイルにしますので、ご了承ください。



ミッションリザルト デケム・ホウガン排除

 

 

 スレイン法国、法都シクルサンテクスには六大神を祀る神殿の他に一つ、とある存在を信仰するための教会がある。六大神を信仰するスレイン法国では信徒こそほぼいないものの、この教会が存在するのには訳がある。

 その教会に一人の青年が入っていき、進んだその先にはステンドグラスに向けて真摯に祈りを捧げている女がいた。

 ステンドグラスの中央には翼を広げて羽ばたく鴉が描かれており、この教会において何を信仰しているかが明白になっている。

 この教会が信仰しているのは──レイヴンと呼ばれている人物。

 五百年前にこの地に降臨し、悍ましき八欲王や真なる竜王たちを滅ぼし、冒険者の先駆けとなる独立傭兵を名乗った伝説的存在。

 

「こんなところにいたのですか」

 

「……あら、態々私を探しに来るなんて一体どうしたの?」

 

「いえ、神官長たちに呼び出されたついでに、貴女にもこの事を話しておこうと思いまして」

 

 祈りを捧げていた女はゆっくりと立ち上がり、近くにあった長椅子へと腰掛ける。 青年も別の長椅子へと腰掛け、互いに話をする姿勢を整える。

 

「で、話って?」

 

「報告書はご覧になりましたか?」

 

「読んでないわ。そういうのは直接話を聞いた方が早いもの。

 でも、貴方たちは破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を支配しに向かったんじゃないの?」

 

「その道中、吸血鬼(ヴァンパイア)らしきアンデッドと遭遇し交戦。セドランとボーマルシェが死亡し、カイレ様も重傷を負い撤退しました」

 

「巨盾万壁と神領縛鎖が、ね……。 その吸血鬼はどうしたの?」

 

「カイレ様がケイ・セケ・コゥクを使用し支配しようとしたまではよかったのですが……支配する前に重傷を負ってしまったので……」

 

「なるほどね、支配は不完全で放置し監視に留めたってわけね。 それで、その吸血鬼と私、どっちが強いかしら?」

 

「貴女ですよ」

 

 これは断言してもいいと隊長は判断した。確かに手強い相手ではあったが、多くの要因から目の前の相手を上回るとは思えない。 だが、番外席次が求めているのはそういった答えではないのを彼は知っている。

 

「そう。じゃあ──レイヴンと私、どっちが強いかしら

 

 何かと決まって番外席次はレイヴンと自身の強さを比較する。 これは彼女の生まれに強く関係しているためでもある。

 番外席次はレイヴンを信仰すると同時に超えるべき壁と考えている。そうしなければ、あの()()()()()()()()()()()()()()()から脱却出来ないと思っているからだ。

 

「それは…………貴女、ではないですか?」

 

「その理由は?」

 

「私はレイヴン……黒い鳥と会ったことはありませんが、伝承は些か誇張され過ぎているのではないですかね? 私からすれば二つ名の元となったあの能力を扱える貴女の方が上だと思いますけどね」

 

 番外席次の二つ名は〈絶死絶命〉。文字通り相手を必ず死に至らしめる切り札を持っている。その能力を扱う本人ですら理解出来ない程の力は確実にレイヴンには無い強みだ。 それに加え、もう一つの切り札もある。それを思えば番外席次を上回る存在など第一席次には思いつかなかった。

 

「レイヴン、()()()()()()()()()()()……」

 

 番外席次の呟きはそのまま空を彷徨い誰の耳に入ることもなく消えていき、話題は結婚相手はいないのかという話へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──約100年前──

 

 

『レイヴン、スレイン法国から依頼が届いています』

 

 

『独立傭兵レイヴン、貴方に依頼がある。

 依頼内容は我が国の誇る特殊部隊、六色聖典が一つ漆黒聖典第一席次ファーインの救出だ。

 彼女は法国の南に広がるエイヴァージャー大森林に存在するエルフ国王城に囚われている。エルフ王デケム・ホウガンによる卑劣な手で彼女は……。

 彼女を救出するため残りの漆黒聖典を派遣したが、全員帰らぬ者となってしまった……。彼らの犠牲を無駄にしないためにも、どうかこの依頼を受けて貰いたい。

 そして、可能であればファーインを攫った張本人であるデケム・ホウガンを亡き者にして欲しい。討伐が成功した暁には、追加報酬を支払う用意が出来ている。

 独立傭兵レイヴン、色良い返事を期待している』

 

 

 

 

『エルフ王、デケム・ホウガン。 調査によるとプレイヤーではない様ですが、油断は禁物です』

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 

 

 

 

 ──エルフ国王城──

 

「アレの様子はどうなっている?」

 

「はい、子は順調に育っている様で近日中に出産すると思われます。

 激しい抵抗が見られるため、手脚を拘束し自傷行為が出来ない様に取り計らっています」

 

 臣下の報告に満足したデケムは果実酒を口へと運び喉を潤す。 アレは自分には及ばないものの、人間にしては中々の腕前だった。だからこそ、アレとの間に出来た子供なら、純血のエルフではないにしろ強者に育つ可能性がある。 手っ取り早く自分のものにするため罠に嵌めて存分に愛してやった。

 そこまで労を生じたというのに、未だに寵愛を受けられたことに咽び泣いて喜ぶわけでもなく、抵抗を続け自傷行為を続けているのかデケムには理解出来なかった──が、きっと照れ隠しに違いないと思った。 偉大なる父の言葉の一つに「嫌よ嫌よも好きのうち」というものがあった。口では嫌がっているが、実は好意が無いわけではないという意味らしい。ならばあの行動にも納得がいく。抵抗するのは照れ隠しであり、自傷行為は構って欲しいが為にする行為なのだろう。それなら納得出来る。むしろそうとしか思えない。

 しかし、幾ら関心を引く為とはいえ子を孕んでいる状態で自傷行為を続けるのはよろしくない。子が流れてしまったらどうするのだ。これは今夜にでも部屋に赴いて存分に愛してやらないといけないかもしれないなと思いながら、今度は別のことに思慮を巡らせる。

 

「なら良い。 ……しかし、あの女を取り戻すためにあれだけの戦力を投入して来るとは。強いエルフを育てるためにはああいう強い奴らとエルフを戦わせるのがいいとは思わんか?」

 

 そう、少し前だが法国の特殊部隊がアレを取り戻すべく強襲を仕掛けてきたことがあった。結果は言わずもがな、全員ベヒーモスの前に地面の一部と化したが。アレらも中々に強かったが、男しかいなかったのが残念だった。女ならばアレと同様母体にすることが出来たのだが。

 

「……私めには少々分かりかねます」

 

「ふん、そうか。 まあ、それよりも今後の話だ。法国はこの大森林に攻め込み始めている様だが、私はこれを良い機会だと考えている」

 

「良い機会、ですか?」

 

「そうだ。命のかかった極限状況で強者と戦うことこそが最も早く強くなれる手段だということを知っているか? つまりだ、法国が多くの兵をこの地に送り込めばあらゆる場所で戦乱が巻き起こる。そう、命がかかった極限状態が容易に生まれるのだ。これほど嬉しいことはない。 この戦いを経てエルフという種族は一つ上のステージへと立てる様になるのだ」

 

「それは……何も知らない他のエルフたちは一体どうすれば」

 

「知らぬ。 攻め込まれれば嫌でも戦いになるだろう。それを乗り超えれば強者となれるのだ、弱者である者たちからすればこんなに良い機会に恵まれたのだから、この状況に感謝するだろう」

 

 そうした戦火を生き抜いたエルフの中には良い母体がいるかもしれない。 そう考えたデケムは定期的に戦場を巡るのもいいかもしれんと考え──

 

 

『相手は油断しています。今ですレイヴン』

 

 

 突如デケムへと雷を纏ったナニカが飛来し、左肩を貫いた。

 

「ぐわああああああああッ!!?」

 

「お、王!?」

 

「な、なんだこれは……! 敵襲か!」

 

 デケムが空を見上げれば、そこには漆黒の全身鎧(フルプレート)を纏い宙に浮かぶ人影があった。

 

(コイツが下手人か……ふざけた真似をしやがって!)

 

 怒りに燃えたデケムは戦闘態勢に入る。 同時に彼が最も信頼する土精霊ベヒーモスを召喚する。ベヒーモスの姿を見た下手人は少し驚いた様子を見せたが、それもそうだろう。ベヒーモスは最高位の精霊だ。少なくとも、自分以外にこれほどの精霊を使役していた人物をデケムは知らない。 かつて因縁をつけてきた竜王もベヒーモスの前には無力だったのだから。そんなベヒーモスを見てあの下手人は驚いたに違いない。

 そして、デケムは先程のような不意打ちによる即死を避けるべく魔法を詠唱する。

 

「〈沙羅双樹の慈悲(マーシー・オブ・ショゴレ・ロブスタ)〉、〈精霊の相(アスペクト・オブ・エレメンタル)〉」

 

 この二つの魔法によってデケムは万全の守りを整える。〈沙羅双樹の慈悲〉は持続的な回復、即死などを防ぎ蘇生効果まで付与される。更に〈精霊の相〉により毒や病気などのバッドステータスを無効化し、致命的な一撃を無効にする効果を得た。

 

「ベヒーモス!あの下手人を排除しろ!この身に傷をつけたことをあの世で後悔させてやれ!」

 

 この身体に傷がついたのはいつ以来だろうか?ベヒーモスを召喚出来るようになってからは一度もなかったように思う。

 デケムは己よりも強い精霊を支配し、命令することが出来る。通常なら自身よりも強いものを召喚し、使役することは出来ないのだが、デケムが修めている職業によって、その理の外側に立つことが出来た。しかしその代価として、戦闘行為を行っている間は己の魔力が徐々に消費されるデメリットがあった。

 だからと言ってデケムは決して弱いわけではない。森祭司(ドルイド)としての実力もあり、魔法も第十位階まで行使出来る。その肉体能力もただ腕を振るう、蹴り飛ばすだけでも脆い人間なら容易く殺せる。しかし、この目の前の相手にそれが通じるかといえば不明瞭。デケム自体近接戦闘に優れているわけではないため、それは最後の手段だ。

 

(ならば前衛をベヒーモスに任せ、自身は後方からの魔法攻撃で敵を仕留める)

 

 デケムは使用出来る魔法を思い出そうとし──目の前に存在していた下手人が姿を消しているのに気がついた。

 

「なっ!?ど、何処へ消えた!?」

 

 辺りを見渡すが、姿は何処にも見当たらない。一体何処へ?

 敵の姿を見失ったが、デケムは城のバルコニーからベヒーモスと共に城外へと飛び降りる。

 これによりベヒーモス──プライマル・アースエレメンタルは本来の能力を十全に発揮出来る様になった。プライマル・アースエレメンタルの能力には敵と自分の双方が土に触れている限り、僅かではあるが全ての能力に対してボーナスがあるというものと、土に潜る能力もある。それ故に城外へと躍り出たのだ。

 しかし、相手は宙に浮いているので両能力共に通用するとは言い難いが、無いよりはマシだろうという判断だ。

 

「おのれ……闇夜に紛れるための黒い鎧だとでもいうのか?」

 

 周囲を警戒するも敵の姿は見えない。ベヒーモスに己の身を守らせながら感知系の魔法で敵の姿を探るが、反応はない。

 

(どういうことだ!?ヤツは私の命を狙いにきたわけではないのか!?)

 

 困惑。ただただデケムは困惑していた。何故態々一度攻撃を与えてから姿を消したのか全く理解出来なかったからだ。普通に考えればそのまま交戦するだろう。しかし敵はそうしなかった。

 

(まさか、私がベヒーモスを召喚したことで敵わないと判断し撤退したか? それともベヒーモスを召喚している間魔力が失われていくことを見抜いて時間差で再び奇襲するつもりか?どちらもあり得なくもないが不愉快なことに変わりはない)

 

 デケムが敵の行動について思考を巡らせ始めた頃、事態は急変を迎えた。

 突如城から火の手が上がった。流石のデケムも「何事か!」と声に出して驚くほどには大きな爆発も起きていた。 そして、その火に紛れて二つの人影が空へと駆けて行った。

 

「ま、まさか!ヤツの目的は……!」

 

 同時にデケムは敵の真意に気づいた。 最初デケムを狙ったのはブラフで本命は──。

 

『目標救出完了。 レイヴン、このまま離脱を──とは行かない様です』

 

(あの女の救出が目的だったのか!)

 

 レイヴンは今回のミッションに関して、真っ先にデケムを討伐する予定だった。 しかし、プライマル・アースエレメンタルを召喚し使役するというレイヴンでも知らなかった未知のスキルを使用したため、念には念を入れて作戦を変更し先に救出を優先することにしたのだった。

 結果として救出は成功したものの──脱出の際に少々派手にやりすぎたことによりデケムに気づかれてしまった。

 

『エルフ王デケム・ホウガン、並びにプライマル・アースエレメンタル、来ます』

 

 レイヴンの両腕は救出対象を抱えているため、牽制射撃が行えない。それに救出対象が身重であるため、前世と転移前の価値観を持ち合わせているレイヴンは妊婦の身体に障る様な反動の大きい攻撃は憚られた。 流石のレイヴンもこの状態でレベル90に近いプライマル・アースエレメンタルとそれを使役する高レベルの森祭司であるデケムを相手にするのは厳しい──ので、レイヴンはとある策を取った。

 

 レイヴンの持つスキルの一つに〈オービット展開〉というものがある。このスキルは一日に三度まで発動でき、一度に6機、最大18機のオービットが展開出来る。これをレイヴンは二度使用し、12機のオービットを展開。 このオービットは対象と一定距離を保ちながら火、雷、光属性のレーザー攻撃を一定時間毎に放出する。更に数を増やすことで出来ることに幅が広がり、10機集まれば電磁シールドとすることも可能。 更に最大展開することでより強力な攻撃も可能という攻守万能のスキルだ。

 ただし、オービットは破壊可能で破壊されれば当然機能は停止する為、ひとつひとつを破壊していけば何ら障害にならないという欠点もあるのだが──この世界に転移してから生じたイレギュラーがそのスキルをより際立たせた。

 

 

 

──オービット制御完了。 レイヴン、足止めは私に任せてください。その間に救出対象の避難を』

 

 

 

 転移してからレイヴンですら驚愕したこと──なんと、レイヴンのスキルで展開したオービット兵装を知性あるアイテム(インテリジェンス・アイテム)と化した首輪型アクセサリーである『エア』が自在に操ることが出来るという事実がその欠点を補完した。

 オービットが巧みにエアによって操られ空中に陣形展開され、デケムたちを襲った。 デケムは自分が狙われていると察し、プライマル・アースエレメンタル──ベヒーモスに自身を守る様に指示を出す。ベヒーモスはそれに従いデケムを守れる様に形を変えてドーム状に姿を変える。

 対してエアはオービットのレーザー攻撃を絶え間なく放射する。プライマル・アースエレメンタルに効果は薄いものの、着々と与えるダメージ量は増えており、デケムとしても看過できるものではない。

 デケムは範囲攻撃魔法である〈陽光爆裂(シャイニング・バースト)〉を発動し、煩わしい羽虫の様なオービットの群れの破壊を目論んだ。オービットとの位置関係的にベヒーモスも多少のダメージを負うことになるが、絶え間なく続く攻撃を払うためと割り切る。

 しかし、エアも元々はそういったモーションへの反応に優れており、即座にオービットを退避させると同時に6機ずつオービットを連結し、巨大なレーザーブレードを二振り形成。〈陽光爆裂〉の発動が終わった時点でプライマル・アースエレメンタルへと突撃し、土塊の身体を焼き斬った。

 

「ば、馬鹿な!? ベヒーモスが……!」

 

 プライマル・アースエレメンタルはレーザーブレードによる二度の攻撃で大ダメージを負ったものの、依然として健在している。しかし、見た目は度重なるオービットによるレーザーの雨とレーザーブレードによる攻撃で見るも無惨な姿になっている。 ここまでボロボロになった姿を見たのはデケムも初めてで思わず動揺が走る。

 ここに来てようやくデケムはベヒーモスへと回復魔法を行使し始めた。自身もベヒーモスも傷を負うことなど無いに等しかったため、中位程度の回復魔法しか使えないがベヒーモスがこのまま倒されるよりはマシだと判断したのだ。

 ベヒーモス──プライマル・アースエレメンタルのHPが回復し、オービットによる攻撃が止み始めた頃、遂に──レイヴンが戦場へと帰還した。

 

『レイヴン、救出対象は──安全な場所に避難出来たようですね。

 ……これで心置きなく、あなたが戦える』

 

『メインシステム、戦闘モード再起動』

 

 

 レイヴンが武装を整えブースターを点火する。対してデケムは忌々しげにレイヴンを睨みつけながらも、警戒を怠らない。

 

「あの女を何処へやった?」

 

「………」

 

「答える気はないか。 ならば仕方ない。お前を殺した後、ゆっくり探すとしよう」

 

 傲慢な態度とは裏腹に、デケムに油断はない。確実にここで仕留めるために王としての矜持すら捨て、数の有利を持って戦おうとしている。

 初めにプライマル・アースエレメンタルが地中へと潜行した。それと同時にデケムは〈大地の大波(アース・サージ)〉を発動。周囲の大地が海の様に波打ち、次第に大きくなり土の津波と化す。それらがレイヴン目掛けて押し寄せる。

 

(この魔法なら攻撃と同時に私の身も守れる。 〈大地の大波〉を防いだとしても地中に潜っているベヒーモスが奇襲をかければいいだけのこと)

 

 デケムはそう考えながら、次なる行動に移ろうと──した矢先、押し寄せる波を突っ切り向かってくる敵を見た。レイヴンである。

 

「なッ……無傷だと!?」

 

 向かってくるレイヴンに一切の傷はなく、代わりに全身を半透明の球体が覆っている。 これはレイヴンのスキルの一つ〈パルスアーマー〉である。効果は簡潔に言えば〈光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉の様なダメージを軽減、無効化するスキルだ。これによりレイヴンは〈大地の大波〉を無効化し、デケムへと急接近した。

 

「べ、ベヒーモス!私を守れッ!」

 

 咄嗟に地中に潜ませていたベヒーモスを呼び出す。伏せ札を無駄にすることになったが、今は己の身の安全を取った。

 これが、デケムの失敗であった。

 

 

 プライマル・アースエレメンタルは地中から姿を現し、レイヴンへと立ちはだかる。そしてその巨腕でレイヴンを叩き潰そうとし──

 

 レイヴンはプライマル・スターエレメンタルへと右腕を向ける。右腕からはポワワという音を立てて円状の波紋が幾重にも生まれ、その波紋はプライマル・アースエレメンタルへと吸い込まれる。

 

 

 ビキビキビキッ!

 

 

 そして、プライマル・アースエレメンタルの全身に罅が入った。今にも崩れそうなほどに。

 

「ば、ばかな……」

 

 召喚者であるデケムには理解出来た。ベヒーモスが虫の息であることを。先程オービットによる攻撃で受けたダメージとは比にならない程のダメージを負ったことを。

 すぐさま回復させようとするも、レイヴンの方が一手早かった。 左腕が変形し緑色の光で出来た剣が形成され──

 

「──〈パルスブレード〉」

 

 一撃、二撃。その剣撃はプライマル・アースエレメンタルの生命力を文字通り消し飛ばし、その身体をただの土塊へと変えた。

 

「あ、ありえない……!ベヒーモスは最強の精霊だぞ。 倒せるのは私の父ぐらい………!!」

 

 有り得ざる現実を見たデケムの脳裏にとある記憶が想起された。 アレはいつだったか、偉大なる父がいなくなる数年前だっただろうか?

 

(いいか?あのクソカラス──じゃ分からないな。 もし『レイヴン』と名乗るヤツが現れたら全力で逃げろ。とてもじゃないが俺でもお前でも敵わない)

 

 ──レイヴン、確かそんな名前だったはずだ。

 

(もしかしたら、コイツはそのレイヴンなのではないか?)

 

 あの偉大な父ですら勝てないと言い切った存在が目の前の敵ならベヒーモスを倒せてもおかしくない。むしろ、ベヒーモスが勝てないのも納得出来る。

 同時にデケムは目の前の相手に自分に勝ち目がないことを理解してしまった。

 

『プライマル・アースエレメンタル撃破。 残るはエルフ王だけです』

 

 ベヒーモスを倒した敵──レイヴンの次の狙いが自身であると理解したデケムは恐怖からか腰を抜かしてしまい動けなくなってしまった。

 それを分かってか、先程のような急接近はせず一歩一歩近づいてくる。

 死神の足音が聞こえる。このままでは殺される。 恐怖に駆られたデケムは辺りを見渡し──城ではなく森へと、王としてのプライドを投げ捨て、震える脚に力を籠め全力疾走し逃げ出そうとした。 しかし、それを見逃すレイヴンではない。

 素早くレイヴンは魔道銃を構え引き金を引いた。レイヴンが好んで使用する魔道銃の一つであるガトリングガンはデケムの脚を、腰を、胸を撃ち抜いた。

 デケムは倒れはしたもののまだ生きていた。〈沙羅双樹の慈悲〉により僅かではあるが徐々に傷は癒えていく。ただこの状況において、デケムが苦しむ時間が長引くという結果になってしまった。

 

(なんで、私がこんな目に……。私が何をしたというのだ……。あの女だって私の子を孕んで喜んでいたというのに……)

 

 死神の足音が聞こえる。逃げても無駄だと嘲笑うかのように一定の間隔で歩を進めている。

 

 死神の足音が聞こえなくなる。代わりに倒れた自分の頭に銃口が向けられているのを理解した。

 

「し……死にたくない……。だ、誰か助けて……」

 

 この場にはデケムとレイヴンの二人しかいない。それでも、誰かに助けを求めて思わず声に出してしまった。

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

「──恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 引き金が再び引かれ、弾幕の雨が降り注ぐ。デケムはその雨の中で二度死んだ。 死体は見るも無残な姿になっていた。

 

 

 

 

『ミッション完了。お疲れ様でした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斯くして、スレイン法国の切り札であったファーインはレイヴンにより救出され、大罪人デケム・ホウガンは死んだ。

 この一件からファーインはレイヴンへと傾倒し、産まれた我が子──アンティリーネにもレイヴンのような強さを求め、虐待レベルの過酷な訓練を強制させた。

 

 そして、数十年後とある一件でレイヴンはスレイン法国から再度依頼を受けることとなり、そこでアンティリーネとレイヴンは出会うこととなる。

 そこで何があったかは──また別の機会に語ろう。

 

 

 





レイヴン
一応、前世の価値観はある。でも依頼だったら仕方ないと割り切る狂人でもある。
ある意味傭兵の鏡?
自身を信仰する教会が出来ていることなんて一切知らない。
世に平穏のあらんことを。
プライマル・アースエレメンタルには驚いたものの、パルス系統のスキルに自己強化でゴリ押しできることを知っていたので難なく対処した。


エア
イレギュラー中のイレギュラー。レイヴン由来の無人機なら操れる。これにはレイヴンもびっくり。
他にも原作同様ハッキング可能。これでこの世界に転移したギルド攻略に一役買っている。
ちなみにエアが操作する際に無人機は赤い光を放つ。


アンティリーネ・ヘラン・フーシェ
この世界線では白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)に存在がバレているため、存在は特別秘匿されていない。漆黒聖典所属は変わらず。
宝物庫を護る任務と、六大神とは異なるレイヴンを信仰する教会の管理を任されている。
レイヴンに対する思いは色々と複雑。


ファーイン
救出対象だった元切り札。この世界線では救出に来た漆黒聖典が全滅し、救出が困難になったためレイヴンに依頼された経緯がある。
救出後はレイヴンこそが真の神だと傾倒(心酔)し、産まれた子(アンティリーネ)のこともレイヴンからの授かりものだと思い込むことで精神の崩壊を保っていた。
レイヴンの教会が出来た原因でもある。


デケム・ホウガン
原作と変わらず。変わっているとすれば、八欲王がレイヴンによって滅ぼされたことぐらい。
この世界にエリュエンティウは存在しない疑惑。

感想、高評価いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。