がっこうぐらし! 難易度ナイトメアで真・全員生存RTA   作:ランディー55

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あけおめ!(激遅挨拶)


よげんめ! にちじょう!

 体が反射的に跳び跳ね目が覚める。

 内容はよく覚えてないが、酷い悪夢を見た。

 悪夢のせいか寝汗で身体中びちょびちょで気持ち悪い。

 

 ふと時計を見ると朝の5時だった。

 当然と言うか、皆寝ている。

 …一人を除いて。

 

 …シャワー浴びようか…

 

 寝汗でびちょびちょなのは嫌なので、取り敢えず汗を流す為シャワー室へと向かった。

 部屋に着くやいなや服を脱ぎ捨て纏めて洗濯機に突っ込み、頭が重くてだるい中シャワーを浴びる。

 浴び終わるとタオルで体の水を拭いて服を着替え、タオルを洗濯機に放り込んだ。

 

 服はそのまま放置する訳にもいかないので、洗濯機を動かして洗う。

 終わったら屋上に干しに行こう、昨日の洗濯物はもう乾いているはずだ。

 

 しかし終わるまで暇だ、どうしようか。

 二度寝するような気分でもない。

 …そういえば昨日購買部から持ってきたインスタントのスープがあったな、それでも飲んで待とう。

 

 そう思い生徒会室まで行くと、部屋の電気がついていた。

 先客がいたようだ。

 …まあ、目星は付いている。

 

「…葛城さん?」

 

 扉を開けると低い声で自分の名前が呼ばれた。

 声がした方向を見ると、パッと見女の子にしか見えない“男”の赤い瞳が俺を見つめていた。

 その顔からこの声、一見俺が間違ってるのかと思う。

 しかも服を服を脱げば全身無駄のない引き締まった体をしてるんだ、この顔で。

 

 部屋の中にいたのは鳳条典雅だった。

 今は黒い自作の服を着ており、まるでカラスのような風貌だ。

 

 そんな彼は今、机で昨日鞄から取り出した銃を分解している。

 恐らく整備や動作の確認をしているのだろう。

 

「まだ早いですよ?」

 

「いやちょっと目が覚めてな…、寝る気にもなれないんだ

 そう言うお前こそ、まだ寝ててもいいんじゃないのか?」

 

「私は三時間も寝れば快眠ですので大丈夫です」

 

「ショートスリーパーか…、凄いな…」

 

「別に大した事ありません、睡眠時間は人それぞれです」

 

 当たり障りのない会話をしながら、俺は棚を開けてスープを探す。

 目当てのスープは分かりやすい所にあったが、それ以上に棚がおかしな事になっているのが気になった。

 

 棚の中には、昨日はなかったはずの日用品が綺麗に整理整頓されて収まっていた。

 ティッシュに歯ブラシ、歯磨き粉に石鹸、テープから置き薬まで。

 他にも地味だが必要な物が揃っている。

 

 鳳条によると、三階にあった防災バッグの中身を整理整頓して並べただけだそうだ。

 基本的な所は整えて損はないし、夜中特にする事もなかったからだそう。

 

「まあ助かるよ、ありがとう。

 ただ…無理はするなよ?」

 

「…それは私の台詞です、葛城さんこそ無理はしないでください」

 

「分かってるよ」

 

 金属音が響く中、インスタントスープの箱から一袋取り出し、粉をコップに入れる。

 ケトルにも水を入れて湯を沸かそうとしたが、もう既に鳳条が使ったのか余り物がある。

 本人曰く好きにしていいとの事だったので、お言葉に甘えてコップに注ぎ箸で中身をかき混ぜて口をつけた。

 

「あちっ…」

 

 …少し水を入れよう。

 

「ん~………はぁ……」

 

 丁度いい温度になった。

 

 机にコップを置き、椅子を引いて鳳条の前に座る。

 そして部屋に入った瞬間から思っていた疑問をぶつけた。

 

「“それ”…どうしたんだ?」

 

 と言うのも、机の端には何故か大きめの銃が置いてある。

 俺も詳しい訳ではないが、これ所謂バチバチに軍用の「アサルトライフル」なのでは…?

 しかもだ、壁の空きスペースに棚が増設されており銃を飾れるであろうスペースの隣には日本刀まで置いてある。

 

「銃は職員室に、太刀は校長室に飾ってあった物です」

 

「こんな物が? どう見ても偽物のそれじゃないぞ…?」

 

「ええ、銃は本物です。

 ですがこれは加工によって銃としての機能を殺した物で、法律では銃に分類されないんです」

 

「つまり…ただの鉄塊って事か?」

 

「はい」

 

「……その言い方だと刀も偽物なんだろ? 何で持ってきた?」

 

「触って見たかったんですよ、転校して来た日からずっと気になってたんです」

 

「そ、そうか…」

 

 思慮深い機械みたいな人間だなと思ってたが、浅慮な面もあるんだな…

 普段の彼はこんな感じなのかもしれない。

 

 その後、スープを飲み終えた俺はコップを洗って本の場所に戻し、鳳条に洗濯物を屋上に干して来ると伝え部屋を出ようとした。

 …が、呼び止められ、俺の洗濯物を干すついでにラジオ体操でもしないかと誘われた。

 鳳条は毎日やってる日課らしい。

 

 俺も俺で特に断る理由もないので誘いに乗った。

 鍛えるのもそうだが、適度な運動は健康維持に大切な存在だしな。

 …まさかきっちり第三までやるとは思わなかったが…

 

 でもまあ当然か、これぐらい日常的にしなければあんな体になれはしない。

 実際他にもトレーニングはやってるらしいが、現状では食料も限られるから最低限に押さえてるそう。

 この顔で普段どんだけハードな事やってるんだ…?

 

 下に戻って来ると皆起きていた。

 朝飯を食べるにも昨日のように一から作るのは時間が掛かるとの事で、非常食のインスタント品で各々好きなものを食べて済ました。

 

 そして……そして?

 

「で…、私達は何しましょう、先輩」

 

「何する…いや何をしようか?」

 

 俺達は何をすればいいんだ…?

 屋上での仕事は若狭が中心になり柚村、南、蓮見が手伝い必要十分、るーちゃんは鳳条が面倒を見てて…、先生は丈槍と二人で何やら三階を探索している。

 

 日用品は…鳳条が纏めてくれたな、他必要な物も特にない。

 部屋の掃除は…昨日やって、廊下の完全な掃除は鳳条が夜中にやってくれた。

 強いて言うなら三階全ての部屋の掃除が出来てる訳ではないが、わざわざその部屋を掃除してまで使う必要なはいからな…窓も割れてるから寒いし。

 そして無理して下の階に行くような用事もない…と。

 

「つまり…暇?」

 

「まあ…そうだな。この状況で暇なのはいいことだが…」

 

「うーん…、とりあえずめぐねえと由紀の所にでも――って…」

 

「噂をすれば…か」

 

「丁度よかったよめぐねえ、私達は何しようか悩んでてさ」

 

「もう…めぐねえじゃなくて――「それよりさ! 出来たよ、学園生活部!」」

 

「「…学園…生活部?」」

 

「そうだよ。めぐねえが顧問になってさ、ここが部室!」

 

「昨日言ってたのって本気だったのか…」

 

「くるみちゃんひどいなぁ~、最初から本気だよ」

 

「でも部活ってったって何するんだ?」

 

「ふっふー、いい質問だね、葛城くん。では解説しよう!

 学園生活部とは、学園での合宿生活によって授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しむとともに、自主独立の精神を育み皆の模範となる。…為の部活なのだ!」

 

「…ええと、つまり?」

 

「そのまんまの意味だよ。もちろんくるみちゃんも入ってるからね!」

 

「いや私陸上部なんだけど…」

 

「…それもしかて俺も入ってる?」

 

「当たり前だよ! 皆ここで生活するんだからさ!」

 

「…それより…それより…」

 

 へこんでいる先生を尻目に話を進める丈槍。

 詳しくは昼に話すと言って、そのまま先生を引っ張って現在寝室と化している隣の部屋に行った。

 

 何を企んでるのか分からないが、昼には話すらしいし…まあ今追及しなくてもいいか。

 楽しそうな所を邪魔する訳にもいかない。

 

「…行った…な…」

 

「……トランプでもして…遊ぶか?」

 

「まあ…先輩がいいなら――「おお二人とも、丁度良い所に」…貴依?」

 

「お前ら暇か? いや暇だな? 少し手伝ってくれ、屋上が今凄いんだ」

 

 俺も胡桃も特に用事もないどころか、逆に探していたぐらいなので了承。

 柚村に連れられて屋上に行くと…そこにはモップを振り回して一匹のカラスを追い回している南と蓮見の姿があった。

 

「くそぉ逃げたか!」

 

「あれは無理だよ照子ぉ~…」

 

「……何してるんだ? あの二人」

 

「見ての通り、あのカラスにトマト食われまいと必死に畑を防衛してるんだよ。

 幸いあいつはトマト以外に興味はないらしいんだけど、かといって放っておく訳にもいかなくてさ…」

 

「それで貴依もモップ持ってたのか」

 

「あ、来たな」

 

 体育館の天井にいたカラスは猛スピードで畑に向かって飛んできたかと思えば、急に方向を変え南を踏んで蹴飛ばして帰っていった。

 完全に遊ばれてるな…

 

「畜生めが! こっちに来いクッソタレがぁ! その羽もいで焼き鳥にしてやらぁ!」

 

「確かに鳥だから畜生だけど…」

 

「そういう意味じゃねえ!

 あぁ~クッソ、何か遠距離武器があれば…! んぐぐぐ…」

 

「思い当たる物はあるけど、鳳条君も一緒に呼ばないとね…」

 

「…で、俺達は何をすれば?」

 

「胡桃はあれと遊んでるあいつらに変わって畑の雑草を抜いてくれ。

 パイセンは悠里と土やら肥料を頼む、一人じゃ重くて厳しいらしくてな。

 私は鳳条呼んで来るよ、最悪あいつに銃であのカラスを打ち落としてもらう」

 

 そう言って柚村は胡桃に軍手やスコップを渡し、下に降りていった。

 後ろでカラスと格闘する二人を尻目に俺達は言われた通りに仕事をしたが、先に三人が進めていたおかげかかなり早く片付いた。

 

「カラスがどうこうって話でしたよね?」

 

 若狭が昼飯を作る為に三階に下りるのと入れ違えるタイミングで、るーちゃんを肩車した鳳条が階段から出てきた。

 

「ああ…アイツなら…もうとっくにどっかに行ったよ…

 巴旗、下で飯食って休もうぜ…」

 

「う…うん…」

 

 息を切らした二人はとぼとぼと校舎に入って行った。

 まあ小一時間も暴れてれば疲れるよな。

 

「…じゃ、俺達も戻ろうか」

 

 先に胡桃も戻ったし、今屋上にいるのは俺と鳳条とるーちゃんだけだ。

 昼食の待ち時間に景色を眺めようにも、見えるのはたった一夜でボロボロになった町並みと校庭にいる“かれら”ぐらい。

 そんなの見てても気が滅入るだけだし、特に…今の校舎の真下は絶対に見たくない。

 …文字通り、死屍累々だろうから。

 

 ……ん? でもカラスと格闘していたあの二人は真下も見てたけど何も反応してなかったよな?

 

「…そういえば」

 

「どうした?」

 

「いや…“かれら”は死臭とかしないんですね」

 

「…そういやそうだな。でもまあ…死臭とか嗅ぎたくないし、別にいいんじゃないか?」

 

「……そうですね」

 

 鳳条に先に帰るように言い、俺は校舎の真下を屋上から見える範囲で見渡す。

 ……おかしい、何もない。

 まさか“かれら”が喰ったのか…?

 

「…降りるか…」

 

 疑問は絶えないが、今俺が考えてもどうしようもないので下に降りた。

 一応鳳条にも話しておこうか。

 

「と言う事で! 学園生活部について説明するよ!」

 

 昼飯を食べ終えると「学園生活部」なる物について、ホワイトボードをバックに丈槍が話し始めた。

 丈槍によると学園生活部とは、顧問は先生、部員はここにいる全員でなる部活で、目的はその名の通り学校で生活する事。

 これからは各仕事を当番で担当、各々部員を大事にし、学校行事に参加するように。

 …だそうだ。

 俺含めて大多数が着いていけてないが、特に反対意見も出なかったのでそのまま学園生活部は正式? に設立した。

 

 そして気づけば夜。

 シャワーを浴び、布団のような形をした寝袋に入った。

 

 こうして今日1日が終わった。

 学校で“かれら”相手に救助を待ちながら籠城生活をしているとは思えない1日だった。

 明日からは授業も始まる。

 

 ……本当にこれでいいのか?

 言ってしまえばこんな物、自分たちは学校に閉じ込められているのではなく、学校の部活動としてここで生活していると言い訳して現実逃避しているだけに過ぎない。

 

 当番で各仕事を分担するのはいい、だがこんな事をしていても現状は何も変わらない。

 “かれら”に怯えながら逃げ回って救助を待つ生活するよりは遥かにいいだろうが…

 

 それに鳳条が持っていた銃もある。

 あんな物を小学校の校長室に隠してたなんて、絶対に何かが――……いや、やめておこう。

 

 あれこれ考えた所で何か出来る訳でもないし、下手に考えすぎると思考の沼にはまって抜け出せなくなる。

 誰かが言ってたな、思考停止して身を投げるのも一つの手だって。

 

 今俺達は救助を待てばいい。

 

 それで…いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜中に鳳条さんの女性恐怖症の克服を目的としたカウンセリングを初めてもう二週間以上は経った。

 途中経過は良好な物で、学校での生活も合間って大分慣れてきたそうだ。

 今日も“いつも通り”にカウンセリングをする。

 …いつも通り…に。

 

「…先生? どうかされました?」

 

「いっいえ…なんでも…。少しぼーっとしてて…えへへ…」

 

 いつからだろうか、この生活が“いつも通り”になったのは。

 

 昼は部活動と称した授業をし、夜は鳳条さんのカウンセリング。

 他にもテストを作って採点したり、生徒達の悩みも聞いたり家事もする。

 家事当番は毎日変わるので全て私がやっている訳ではないが、それでも責任者としての立場の仕事がある。

 昼も夜もやる事が多く、睡眠時間を削っているせいなのか最近頭が痛い。

 目も回る…ほど忙しい訳ではないが、それでも忙しいし疲れるのは事実だ。

 

 でも…この忙しい日常は私にとって、逆に有難かった。

 余計な事を考えなくて済むから。

 …考え出すと…不安が止まらないから。

 

 事実、もう二週間は経っているのに救助は来ず、一歩外に出れば“かれら”が跋扈している地獄が広がっている。

 

 1日1日経過するごとに考え、焦りが増す。

 もしかしたら救助なんて来ないかもしれない。

 とっくの昔に見捨てられたのかもしれない。

 

 そう考えると…怖くて…不安で…

 

 ……しかし、いつか現実は見なければいけない。

 

「もう…しっかりして下さいよ?」

 

「と…当然です!」

 

 その通りだ、私が弱い所を見せてどうするんだ。

 私は大人だ、教師だ。

 そう何度も自分に言い聞かせ、実行してきた。

 当然これからもだ、これからも頼れる大人でなくてはならない。

 

 だから、これからの対応も考えなくては……

 

「……先生、無理してません?」

 

「え!? そっそんな訳…」

 

 そんな事ない、皆頑張ってくれているから。

 鳳条さんだって、これからの事を私と真剣に考えたり、夜に危険な一階に探索したりしてくれている。

 

「………少し待ってて下さい」

 

 鳳条さんはそう言うと立ち上がり、職員室を出ていった。

 五分ぐらいだろうか? それぐらい経つと、片手には巨大なワインボトルと水と炭酸のペットボトル、もう片方にはお盆の上にコップと栓抜き、チーズとサラミらしき物を乗せたお皿を持って戻って来た。

 

「それって…?」

 

「この前私が校長室で見つけた赤ワインです、チーズとサラミもありました」

 

「こ、校長室に!?」

 

「えぇ、何故学校に隠してたのかは分かりませんがね。

 先生に報告したらすぐに飲みきりそうだし、置き場もないので元の場所に戻して隠しておいたんですが…結果論、報告しておけばよかったですね」

 

「え…えぇと?」

 

「つまりですね――先生、こう言う物お好きでしょう? 今日ぐらい、いいんじゃないんですか?」

 

「そっそんな…お酒だなんて…」

 

「目がボトルから離せてませんよ」

 

「はう…」

 

 彼は手に持っている物を机に置き、ワインボトルにT字型の栓抜きを突き刺した。

 ポンッといい音が鳴りコルクが抜け、透明なグラスに綺麗なマルーンの液体が1/3ほど注がれる。

 

「嗜む程度ですよ。こんな高級品、中々お目にかかる事もないんです」

 

 私は…そのグラスを――

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇへへ~…、ほうじょぉさぁん…」

 

「…ちゃんと割るべきやったな…」

 

「これぇおいしいよぉ…? はい…あげるぅ…」

 

「…確かに割ってもないのに飲みやすい、スラスラ飲める。

 しかもそれでいて度数も高い…と。

 あのタヌキ親父…鉄砲と言いまたけったいなモンを隠しおってからに…」

 

「んぁ…」

 

「…ここで寝たら風邪引きますよ」

 

「だっこしてぇ…」

 

「…はぁ…、言い出したのは私ですけど…」

 

「ん…おにぃちゃん……」

 

「先生は私の妹ではないでしょう?」

 

「いやぁ…おにぃちゃんなの…」

 

「厄介な妹はもう間に合ってるっての…

 …元気してるかね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――う…?」

 

 気が付くと、私は赤いソファーの上で毛布を被って寝ていた。

 何故こうなったのか思い出せない。

 

 確か…鳳条さんが…ワインを持ってきて…

 

「よく眠れましたか?」

 

 私の視界の上から鳳条さんの顔が出てきた。

 彼の長い髪の毛がソファーまで垂れ下がっている。

 

「鳳…条さ――ぁ」

 

 そして彼を見た瞬間思い出した、夜に私がやった出来事を。

 鳳条さんを「おにぃちゃん」って呼んで運んでもらったんだ。

 今思い返すだけでも恥ずかしい…

 

「あっあの…! 昨日のは違…くて……」

 

「別に、言い出したのは私ですからそんな事気にしなくて構いません。

 酔った先生の言動も言いふらす気もありません」

 

「あれは…その…」

 

「覚えてるんですね」

 

「はう…」

 

 何故だか分からないが、あの時は本当に鳳条さんが実の兄のように思えた。

 私は一人っ子なのに…何故かそう思ったんだ。

 

 起き上がって体勢を変え椅子に座ると、鳳条さんが水をくれた。

 礼を言い水を飲んでいるとある疑問が涌き出てきた。

 

「何で…いきなりあんな物を?」

 

「即答の勢いでグラスを持った人が言う台詞とは思えませんね」

 

「うぅ…」

 

 確かに大して考えもせずにグラスを取ってしまった私が悪い。

 しかしこうなる事が予想出来ていたのなら、最初からやらなければよかったはず。

 

「まあ…ストレス解消って所です」

 

「ストレス…?」

 

「もう一度言いますが、無理はしないで下さい。

 と言うか、先生は気張りすぎなんですよ」

 

「…?」

 

「無駄な所にも力を入れてるから疲れるんです。

 必要な時に必要な力だけを入れる、そうすればいいんですよ。

 だから少なくとも夜はちゃんと寝て、適切な睡眠時間を取って下さい」

 

「……分かったわ…」

 

 …確かに…私は少し気を張り過ぎていたのかもしれない…

 思い返して見れば別に無理してやる必要のない事も多々あった、ルーティーンを見直してこれからはちゃんと寝よう。

 やっぱり睡眠時間はそう簡単に変えられる物ではないようだ。

 

「てんくーん、めぐねえ起きたぁ?」

 

 唐突に部屋の扉が開く、扉を見ると丈槍さんが顔を覗かせていた。

 

「ん…見ての通りや」

 

「もー…めぐねえが起きない分てんくんと私が当番したんだからね?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「でもめぐねえが寝坊なんて珍しいね? さては…夜更かしでもした?

 ――まさか! 夜な夜な一人で購買部から…プリンを…!?」

 

「猿も木から落ちる、弘法にも筆の誤り。

 ま、先生にもたまにはあるやろ、こんぐらい。

 後…プリンは消費期限が近いから昨日全部食ぅたやろ、特にお前が」

 

「いいじゃぁーん、だって美味しいんだもーん」

 

「太陽の塔みたいな顔すなや」

 

 談笑を交わす丈槍さんと、何も着飾らず力の抜けた素の鳳条さん。

 この鳳条さんが見られるのは丈槍さんの前ぐらいだ。

 

「…そういえば、二人はどうやって出会ったの?」

 

「なにぃ? めぐねえは私達の熱ぅい友情に興味があるの?」

 

「言うほど厚いか?」

 

「いや熱いよ! あっちっちだよ!」

 

「熱の方か」

 

「厚さも分厚いでしょ?」

 

「そんな加工中の鉄板みたいな。

 …で、知り合った経緯は…」

 

「え? それはね…えーと…、…なんだっけ?」

 

「……二人とも覚えてないの?」

 

「いやそれが…、気づいたら知り合ってたとしか言えないんですよ。

 たまたま会って、それからも…って感じです」

 

「あ、そうそう。気づいたら知り合ってたよね。

 それで春休みにてんくんがバイク旅行に誘ってくれたんだよねー」

 

「本当は親の知り合いと行こうって話だったんですけど、その人に急用が入って行けなくなったんです。

 一応ホテルも予約してたし、止めても他にやる事もないんで由紀を誘ってみたって所です」

 

「なるほど…」

 

「あ! 由紀~ちょっと手伝ってくれ~!

 照子がまたカラスに遊ばれてる~!」

 

「わかったー!

 …それじゃあ、私行ってくるね」

 

「行ってら」

 

 柚村さんに呼ばれ、丈槍さんは去っていった。

 

「ったく…閉めてけっての…」

 

 開けっ放しの扉を閉める為、鳳条さんは扉まで近寄る。

 そして顔を出して何かを確認すると扉を閉め、口を開いた。

 

「……あいつ…父親の葬式でかなり落ち込んでたんです」

 

「…それは…」

 

 聞いた事ある、本人も言っていた。

 …事故だって。

 

「結果的に気分転換にはなったのでよかったですね。

 …死んだ人間の事を引きずっていても、ただただ時間を無駄にするだけですから」

 

「…………」

 

「…昼ご飯の用意をして来ます」

 

 そう言って鳳条さんは部屋を出ていった。

 

「…時間の無駄…か…」

 

 鳳条さんの言葉が頭の中で反芻する。

 

 彼は異常なまでに思い切りがいい、すぐに決断出来る人だ。

 それでいて頭もいいから一瞬で合理的な答えを導きだす。

 だから彼にとって、死人を気にかけるのは無駄としか思えないんだろう。

 

 …“かれら”もそうなのだろうか…

 

 鳳条さんはまるで今まで戦場にでもいたかのように“かれら”と戦い、情け容赦なく瞬殺する。

 その姿は何処か美しさを感じる反面、恐怖を覚える。

 正しいか正しくないかで言えば、それは間違いなく“正しい”のだが、…そんな彼を見る度にある疑問が浮かび上がる。

 

 …本当に彼は普通の人間なのだろうか?

 

 今まで鳳条さんの事は殆どが謎だった。

 実際世界が()()()()前、私の彼の印象は「家の都合でいきなり転校してきたとても背の高い礼儀正しい美人」でしかなかった。

 他の特徴と言えば、頭がいいのにこれ以上目立ちたくないと言う理由でテストの点数を平均まで下げている事ぐらい。

 丈槍さんや柚村さん等の数少ない友達も同様だ、目立ちたくないし迷惑も掛けたくないから一切話題に出さない。

 

 しかし女性恐怖症のカウンセリングを通してだんだん彼の事が分かってきた。

 そして察した、鳳条さんは普通の人間ではない…と。

 

 本人曰く「自分は何処にでもいる普通の人間です」との事だが…

 基本的な体力は勿論、体術も習得しており銃や刀の使い方も熟知している人間が何処にでもいる一般人な訳がない。

 まるでプロの軍人だ。

 彼によるとグアムで親の知り合いに色々と教わったらしいが、あれは教わったと言うよりずっと昔から訓練してきたかのような印象を受ける。

 

 一回、夜中に鳳条さんと一緒に一階のシェルター入り口近辺を探索した事があったが、その時の鳳条さんはそれはもう凄まじかった。

 音も立てずに“かれら”に接近しハンマーを振り下ろし、位置がバレると言う理由で銃のレーザーを付けず、月明かりしかないのに確実に“かれら”の頭に銃弾を叩き込んで行った。

 どれも一撃で確実に、だ。

 

 しかも服まで作れる裁縫能力もある。

 これは趣味の一つらしいが…いくらなんでもレベルが高すぎる。

 置いてあった彼のサイズに合わない制服をつなぎ合わせて自分が着れるサイズまで拡大し、余った布は小物入れ等にリファインするのはもうプロがやる事だ。

 

 他にもまだ出来る事はいくらでもあるだろう、裁縫だって彼の趣味の一つにすぎないんだから。

 本当、ここまで来ると恐怖すら覚える、多趣味も極めればこうなるのかと。

 

 もしかしたら彼はとんでもない隠し事をしていて、普段は普通の高校生としてドラマツルギーを演じているだけなのかもしれない。

 そう妄想するぐらいには彼は凄い存在だ。

 

「――ねえ? めぐねえ?」

 

「……ん? 丈槍さん…?」

 

「んじゃないよ、お昼ごはんできたよ?」

 

「ごめんなさい、少し考え事をしてて…」

 

「時間はあるし後ででいいじゃぁーん、今はごはんだよ」

 

「…えぇ」

 

 …何だろう、私の下らない妄想のはずなのに…嫌な予感がするのは…

 ……いや、気のせいだ。そうに決まってる。

 

 思考を入れ替え、私は部屋を出た。

 

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