苦難の陳述者?ふざけた名前だな! 作:人事プロファイル
Case1:赤鳥とのファーストコンタクト
「だからフィアメッタで良いって言ってるでしょ」
「お前や他の人間はそれで良くても、人事課の方はそうもいかないんだよ」
真っ赤な髪のリーベリとのファーストコンタクトは頗る悪いものだった。正直ほとんど八つ当たりだったが、お互い気の短い性格もあり、売り言葉に買い言葉でヒートアップしていった。
「プロファイルに載せられない事項ってのは多々ある。誰かさんの種族だとか、出身地だとか。例えばお前がラテラーノでどんな仕事を受けているだとか。そういうもんはお偉いさんの許可がないと知ることも記すこともできない。これがどういう意味かわかるか? それ以外のことは全部、一字一句残らず記録しなきゃならねえんだよ。それが何? こんなふざけたコードネームが毎日更新されるって? もういっそ殺してくれ」
「毎日じゃなくて毎月よ。全てを記録するって言うなら、単純なミスをしないでほしいわね。それとも一々覚えていられないからメモ用紙にせっせと書き加えているのかしら」
「自分の頭の出来はさして良いものでもないと理解しているんでね。リーベリ程じゃないにしろ、鬼というのは事務作業がそれ程得意じゃないんだ。リーベリ程じゃないにしろ」
「リーべリの多くは優秀で堅実な仕事人よ。もしかして他種族に関する理解すら無いのかしら。ロドスの教育プログラムの質もたいしたことないようね」
「おっと失礼、目の前の小鳥を一般的なリーベリだと勘違いしてしまったようだ。そうだよな、種族単位でそんなに愚かだったらサルカズなんかよりよっぽど早く滅んでるわ」
「よし。私がロドスに来て最初の仕事がたった今決まったわ。無能な事務員にお仕置きすることね」
「やれるもんならやってみろクソアマ」
「※ラテラーノスラング※」
「※極東スラング※」
チンケな二人の喧嘩は、騒ぎを聞きつけたエリートオペレーターのロスモンティスとブレイズ。さらにドクターやアーミヤCEOまで巻き込んで人事課オフィスの七割を廃墟に変える大騒動になり、俺とフィアメッタがケルシー先生の長い長いお説教と反省文の提出を命じられることで幕を閉じた。
そんな最悪な第一印象だった二人は、現在どうなっているのかというと。
「カンレイ、この漫画の続きは無いの?」
「それならそっちの棚に移しといた筈だ」
案外、悪くない関係を築いていた。
□tips□
「それにしてもあなた、いつ来ても仕事してるわね」
俺の机に積み上げられた書類の山をフィアメッタが興味なさそうにつまむ。一応は機密書類なんだが、そもそもロドスのオペレーターは秘書なりで関わることもあるし、やらかさなければ黙認というのが了解だ。
「人事課に人を増やす予定は無いの? あなた一人のキャパシティを超えているでしょうに」
「増やそうとはしてるんだけどな。ロドスのオペレーターの増員数に対して間に合ってないのが実情だ。何より、専任で仕事できる奴は各地の事務所の方に優先して配置されちまうからどうしても兼業が多くなっちまう」
「じゃあ今居る人から引き抜いてきたら?」
もちろん入ってきたオペレーターが全員事務仕事できないというわけではない。
「例えば、サリアを後方支援課に転任させてみろ。この書類が半分になる代わりに、追加の書類が三倍になるぜ。しかもその多くは任務中オペレーターの負傷や事故に関するものになるだろうさ」
彼女は黙々と仕事をこなしてくれるだろうが、結果的には負担が増えるばかりだろう。
「キャパオーバー、なんて話をしたらロドス自体がわりとそうなんだ。だから無理するしか無いわけだ」
「ふーん、大変そうね」
「専業じゃなくとも手伝ってくれたって良いけどな」
「私は既に仕事を二つも掛け持ちしているの。悪いけどそんな余裕は無いわ」
「あっそう。漫画を読むのは大層重大な仕事のようで」
こっちも本気で手伝ってもらおうと思っているわけではないが。手元にある資料だって殆どは後判を捺すだけで完成する楽なものだが、人事課の責任者として目を通さないわけにはいかない。
「そういやモスティマの監視は良いのか?」
「あいつならレミュエルのとこでパーティ中よ。たらふくアップルパイを食べているところでしょうね」
「レミュエル……エクシアのとこか」
ペンギン急便のトリガーハッピーなサンクタの顔を思い浮かべる。年がら年中パーティをやっているイメージしかねえ。なんなら一人でもやっているらしい。虚しくならねえのか不思議だ。
「パーティ代を経費で落とそうとしてくるって経理課が泣きついてたぜ」
「本人に言ってちょうだいよ」
「俺殆ど会話したことねえもん」
「引き篭もりだものね」
「勤勉と言ってくれ。それに、サンクタってのはどうも苦手なんだよ。思い付きで動いてとんでもないことやらかすくせに、前準備と後始末だけはしっかりしてやがる。捉えどころが無くて気持ち悪いったらありゃしない。どういう精神構造しているのかワルファリンに解剖してもらいたいね」
「その点に関してはまったく同意だわ。補足しておくと、レミュエルはそのサンクタでも問題児扱いされていたレベルよ」
「そりゃ最悪だ。データベースに追記しておこう」
軽口を叩きながら、目線は書類から離さない。駄弁っていて仕事が終わりませんでした、なんて馬鹿げているからな。しばらくの間、ページをめくる音と判を捺す音だけがオフィスに響く。
山がようやく終わりを見せ始めた頃、定時を告げるチャイムが鳴る。この調子ならあとちょっとの残業で今日の分は終わらせることが出来るだろう。追加がやってきても今日はもうやらん。ドクターやケルシー先生みたいなワーカホリックとは違うんだ。ノルマをこなしたらさっさと休みたい。
「仕事終わりに飯でも食いに行くか」
「奢り?」
「お前俺より給料貰ってるだろうが。むしろ俺の方が奢ってもらいたいくらいだわ」
「女の子にタカるの? 最低ね」
「女の子って歳じゃ……オーケー俺が悪かった。だからそのクロスボウを降ろせ。またオフィスが半壊したら今度こそクビになる」
「あとどのくらいで終わるのよ」
「一時間掛からないくらいかね」
「まだ結構あるじゃない。てっきり定時上がりだと思ったのに」
「期待させて悪いね。漫画でも読んでて待っててくれ。待ち切れないなら先行ってても良いぞ」
「そうね。これの続きはどこ?」
「……それが最新刊だよ。先月出たばっかの」
「それじゃあ、どうやって時間を潰せって言うのよ」
「お前ここにある漫画全部読み終わったの? マジで?」
俺の趣味に限った奴とはいえ、数年掛けて買い揃えたから結構な量があった筈なんだが。こいつどんだけここに入り浸ってんだ。
「次来る時は新しいの仕入れといてよ」
「ここは漫画喫茶じゃないんだが。極東の漫画をロドスで仕入れるのって簡単じゃねえんだぞ。あんまり無理言うとCEOに怒られるからな」
「でも上手いことねじ込んでるんでしょ?」
「……厳しいのはCEOと先生。それに対してこっちは俺とドクターにクロージャとワルファリン。二対四だ」
「全員正座させられてるのが目に浮かぶわね」
「待ち時間に先生の長話を追加されたくなかったらおとなしく待ってろ」
「はいはい」
フィアメッタは椅子の背もたれに顎を乗せてこっちをじっと見てくる。早くしろという圧を受けて、俺のペンはより速く走るのだった。