苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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極東編開始


極東夜行
Casa12:極東へのロングウェイ


 極東の移動経路は大きく分けて三つある。徒歩、駄獣(ウマ)、鉄道だ。クルビアや龍門のように道路が整備されていない場所も多いため、自動車を使うことは滅多にない。南部の首都付近でやっとと言った所だろう。特に今回は極東北部、光厳側の地域だ。荒れた道も多く、徒歩は慣れた人間でないと大きく体力を奪われてしまう。駄獣は論外だ。極東北部の男子は皆、成人するまでに駄獣の乗り方を覚えるものだが、他の国ではカジミエーシュくらいでしか聞いたことがない。当然、フィアメッタも乗ったことなど無いと答えたので残されたのは鉄道だけだった。

 

「何度か訪れたことがあるけど、極東って面白いよねー。地域によってびっくりするくらい雰囲気が違うんだもの」

 

 鉄道のホームでモスティマが呟いた。幸運なことにトランクに詰め込まれてはいない。二つ返事で了承したらしいが、彼女が何も考えていないだけなのか、フィアメッタからのプレッシャーを感じ取ったのか。普段の様子を見るに前者だな、と当たりをつける。フィアメッタが怖いならあんないたずらなどしない。

 

「極東の鉄道に乗るのは初めてね。基本的な仕組みはヴィクトリアと変わらないらしいけれど」

「ヴィクトリアの技術を輸入して建設されたものだからな。あんまりきょろきょろしてるとお上りさんだってバレるぞ」

 

 フィアメッタは鉄道を眺めていた体を翻して俺の鼻先を突く。

 

「別にきょろきょろしてないわよ。それよりもカ……ヒューマ。そのセンスの無いサングラスは何?」

 

 おいお前今カンレイって言いかけただろ。少なくとも目的地に辿り着くまでは隠しておきたいんだからもっと徹底してくれ。ヒューマは今回適当に作った偽名だ。Humanist(ヒューマニスト)から取ってヒューマ。我ながら捻りも何もないが、凝ったところで使うのはたかだか数日だ。

 

「センスが無いってなんだよ。そんな悪くないだろ」

「いや……シラクーザマフィアみたいになってるよ。さっきから人が避けて通ってるもん」

「カタギに見えないのは生まれつきだ」

 

 変装は苦手だ。背はバカ高いし、角は目立つ。紫髪はまあ、どうでも良いが。ノイルホーンみたいにフェイスマスクを被ることも考えたが、嫌いなんだよなあれ。映画に出てくる悪役みたいだし。

 

「どのくらい乗るんだっけ」

「乗り換えはないから、一度乗ったらそのまま十時間。そこから徒歩で一時間ってとこだな」

「うわあ、長旅だ」

「寝台列車で二部屋取ってるから、そこはあんま気にならないだろうさ」

「二部屋も取ったのね」

「二人部屋までしか無いんだよ。三人でまともに寝ようとしたらそうするしか無い。立って寝るって言うなら話は別だが、今更キャンセルしても金は返ってこないから無駄だな」

 

 寝台列車は二人部屋と一人部屋がある。一人部屋は車両が違うから、二人部屋を二つ並んだところの切符を取った。

 

「なるほど、フィアメッタはどっちの部屋にするの?」

「どういう質問よ」

「いや、そっちは護衛対象だし、私は監視対象だからどっちの部屋で寝るのかなって」

「お前ら二人で一部屋使え。俺は広い方が良い」

 

 それと男一人女二人で男女が同室になることないだろ。

 

「そうね、そっちに荷物は置かせてもらおうかしら」

「お前ら随分な大荷物だからな」

「そう? フィアメッタはともかく私は普通だと思うけど。君が荷物持ってなさ過ぎなんじゃないかな。バックパック一つって」

 

 バックパックの中には必要時の着替えと携帯食料、あと少々の必需品しかない。

 

「いざという時身軽な方が動きやすいだろ」

「何よ当てつけ?」

「当てつけだって思うならその引っ越しするのかってくらい大仰な荷物をなんとかしろ。ここに来るまで俺に運ばせやがって」

「必要なものしか入ってないわ。デスクワークばかりなんだから、良い運動になったでしょ」

 

 モスティマは大きめのジムバッグとショルダーバッグ。フィアメッタに至ってはそれに加えて金属製のケースやらが二つ三つ追加で生えている。おそらくはあのクソでかい武器を収納しているだろうが、よく持って歩けるもんだ。

 

「列車の時間まではまだあるわね。暇を潰す場所は無いの?」

「知るか。俺だって詳しいわけじゃないんだ。売店でも見て回ってれば良いんじゃねえか。そうだ、新聞を買っておかないとな」

「新聞?」

「こういう駅じゃ新聞がよく置いてあるんだよ」

 

 単純に読み物として暇潰しになるのもあるが、最近の社会情勢を確認するのなら何処だって新聞が一番手っ取り早い。

 

 駅に小物売りに硬貨を数枚渡して名に覚えのある新聞を買う。立って広げると、フィアメッタが腕に手を伸ばした。

 

「あなたの高さじゃ見えないじゃない」

「めんどくさいな」

 

 腕を下げて二人も覗き込めるようにする。最初に人目を引いたのは、とある工場が爆破されたという記事だった。テロリスト集団の活動が活発になっていて、警備を厳戒にしているらしい。そういう事件があると、ボディチェックが厳重になって嫌なんだがな。他所の犯罪者に自制を求めたところで意味がない。

 それから、近く祭りが行われることも書いてあった。俺が居たときにはなかった気がする。新しく作られたのか。それにしては歴史深いような書かれ方をしている。今年で百回目の節目なんて祭りを忘れるだろうか。もしかしたら、隣の領地の祭りを移したのかもしれない。そういえばここはもうかつての名前じゃなかったのだと思い出した。

 

「あ、見てこれ美味しそうじゃない」

 

 モスティマが指さしたのは広告欄のあんみつだ。情勢に興味のない彼女は最初から広告欄をずっと眺めていたらしい。

 

「後で食べに行こうよ。あ、君は甘いもの大丈夫だっけ?」

「こいつは平気よ。でも、そんなの食べに行く余裕あるか分からないわね」

「あれ、なんでフィアメッタが答えたんだろう」

「スイーツのことになると、こいつうだうだと長いもの」

「へえへえ。その節は悪うござんした」

「なんかあったの?」

「こいつをあの店に連れてったら生まれたての子鹿みたいにぷるぷる震えてたのよ」

「あの店ってジェラートの? フィアメッタが、あそこに連れて行ったの?」

 

 モスティマが驚いた声を上げた。横からずっと別の話をされていると新聞を読むのに集中できない。ため息を吐いて顔をあげる。あとどのくらいか、時計を探すために辺りを見渡した。その時、不自然な視線の動きに気付く。

 

「おい」

「何……やっと気が付いたの?」

「新聞読むのに夢中だったものでね」

 

 人数は一人。練度はそこそこって感じか。教育はちゃんと受けているけど、経験が足りてないな。

 会話を聞かれないためか、フィアメッタが小声になる。

 

「駅に到着して少ししてからね。敵か味方か分からないけれど、何処かに連絡している素振りはないわ」

「心配性なあちらさんが護衛役を寄越してくれたってんなら嬉しいんだけどな」

「それだったら、別に身を隠す必要も無いと思うけどね。どうする、捕まえて絞め上げる? 案外あっさり教えてくれるかもよ」

「ペンギン急便っていつもそんな仕事ぶりなのか?」

「だって地道に調査するより簡単だからね」

 

 ペンギン急便がトラブルをいつも引っ提げてくる理由がなんとなく分かった。

 

「……監視だけなら対応する必要もないだろ。列車の時間も近い。ここで面倒を起こして切符の取り直しって方が俺は嫌だね。経理課と喧嘩すると疲れるんだ」

「あはは、エクシアもよくそんな文句言ってる」

「あれは自業自得だろ」

 

 呆れて新聞を閉じる。遠くで警笛の音がした。

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