苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

13 / 32
Case13:列車とサプライズ

「意外と悪くない部屋ね」

「まあ一等車両だからな。三等だったら雑魚寝だぞ」

「それは嫌だなあ」

 

 俺一人ならそれでも良かったんだがな。流石に女の子二人を雑魚寝部屋に送り込むわけにいかない。その結果俺も一等部屋になったからラッキーではある。

 二人は部屋の確認だけすると、そのまま俺の部屋の方になだれ込んで来る。

 

「はい、荷物」

「そこらへん置いとけ」

「下のベッドに入れておくわ」

「俺上固定かよ」

「重たいんだからそっちのが楽でしょ」

 

 モスティマは放り投げるように、フィアメッタは丁寧に荷物を俺の部屋の下のベッドに収めていく。荷物置き一つでもやっぱ性格が出るもんだな。それが終わったら備え付けられた椅子に二人で座った。これで俺の座る席が無くなった。

 

「十時間だっけ? 今が午後六時だから、到着するのは明日の朝四時か。起こしてね」

「安心しろ、次の乗客入れる為に乗務員がチェックに入るから嫌でも叩き起こされる。ドアが壊れそうな勢いでノックしてくれるさ。もし壊れても延滞料で客から取るからな」

 

 列車はトラブルも起きやすい。荒事解決の為に乗務員は腕っぷしが強いものも多いのだ。噂では、走っている列車から外に投げ飛ばされた乗客までいると言う。

 

「明日のことより先に食事にしない? 食堂車があるって言ってたわよね」

「別に好きな時間に行ってもらっても構わないんだが」

「あなた、自分が護衛対象なの忘れてないかしら。この部屋に居るならともかく、人が入り交じる場所で一人にするわけないでしょ」

「お、おう」

 

 フィアメッタが肩をすくめる。実を言うとすっかり忘れていた。元々一人で来るつもりだったから、ってのもある。どちらかというと二人を引率するくらいの気分だった。どうにも調子が狂ってしょうがないな。

 

「まあ、確かに飯だな。昼飯もたいして食ってねえし。食堂車は何処だっけ」

「パンフあったでしょ。えーっと」

 

 机の上に広げられたパンフレットを見ると一号車から二号車が一等車両。三から四が二等で、食堂車は五号車。そっから十号まで三等車両だ。この部屋は一号車だから、結構遠いな。

 

「部屋の鍵忘れんなよ。列車泥棒の被害はよくあるからな」

「荷物はあなたの部屋に置いてあるんだから、気を付けるのはあなたでしょ」

「はいはい。分かってるって。モスティマそのアーツユニット持ち歩くのか?」

「あ、これ? うん、ちょっと離すわけにいかないからね」

 

 鍵の戸締まりをして、個室が並んだ車両を通り抜けていく。まだ荷ほどきをしている乗客も居て、会釈しながらすり抜けた。フィアメッタみたいな大荷物だったな。何を持ち込んでいるのやら。

 

 比較的静かだった一等車と比べて食堂車は騒がしい。全ての乗客が唯一集まる場所でもあるから、交流の場にもなっているようだ。既に結構な人が入っていたが、辛うじてテーブル席を獲得することが出来た。ウェイターが注文を聞きに来る。

 

「メニューは」

「極東定食と清酒で」

「ミートスパゲッティとビール」

「……ハムエッグとジンジャーエールで」

「あれ、フィアメッタ飲まないの」

「ちょっと、ね」

 

 バツが悪そうに目を逸らす。

 

「お前、飲み会で潰れたのまだ気にしてんのか」

「その話初耳なんだけど」

「ちょ、カ、バラさないでよ」

 

 お前も俺の名前バラさないでくれよ。ゲシゲシとテーブル越しにスネを蹴られる。痛くないけど心が痛い。

 

「あぶねえ。お前の得物が部屋に置きっぱのままじゃなかったら、このまま撃たれるところだった。翌日の新聞に列車ジャックしたテロリストの名前を見るのは嫌だぜ」

「そうね。その時は犠牲者の欄にあなたも載せてあげるわよ。モスティマと一緒に」

「私も巻き込まれるんだ。それより潰れた話聞きたいんだけど」

「俺から話すとスネが削り落とされるから本人に聞いてくれ。その前にこいつのつま先が擦り切れるか?」

「絶対ヤダ」

「えー」

 

 しばらくして料理が運ばれてくる。極東定食は焼いた鱗獣(サカナ)と白米、野菜の漬物とシンプルながら懐かしい品揃えだ。清酒をお猪口に注ぐと透き通った水面に底が映る。

 

「いただきます」

 

 箸を使うのも久しぶりだ。少し塩が強いが、焼き魚の身をほぐしていると自分が極東人なんだと実感する。

 

「んー冒険しても良かったかなあ」

「微妙だったのか?」

「悪くはないけど、せっかく極東に来たんだから。でも、お箸使えないんだよね」

「あー、極東と炎国以外の人は箸使えないっていうよな。ロドスでも使ってるのは少数派だし」

「使えなくて困るってことも基本的に無いもの。あなたもロドスに居る時使ってるの見たことないわよ」

「まあ使わなくても食える料理が多いって言うか、極東料理じゃないとあんまり使う気にならないんだよな」

「久しぶりにしては器用に食べるわね」

「体に染み付いてるからな」

 

 質は問題ないが、量が少ない定食を食べ終わり、意外と味の良かった清酒も飲み終える。二人はまだ食べているようなので手持ち無沙汰になってしまった。せっかくだしもう一つ何か頼むか。

 

 ウェイターを呼ぼうと顔をあげた時、出入り口から悲鳴が上がった。

 

「動くな!」

 

 クロスボウを構えた集団が両方の入り口から雪崩込み、食堂車の人々を包囲する。顔をスカーフで隠して、未熟ながら統率の取れた動きだ。リーダー格らしき男が一歩前に出る。

 

「いや失礼、皆様を害するつもりはありませんよ。おとなしくしておいてくれれば、ね。あなた達は少しだけ、ここで大人しくしていてくれれば良い」

「刺激的なサプライズイベント、ってわけじゃなさそうだね」

 

 スパゲッティを食べる手を止めて、モスティマが傍らのアーツユニットをひっそり手元に引き寄せる。新聞に載ってたテロリスト集団って奴なのか。どうしてよりにもよって自分が乗っている列車で起きてしまうのか。俺を狙って起こしたものなんだとしたらまだ良いんだが、偶然だったら運勢改善の為に風水でも始めようか。

 

「どうするの?」

「お前、得物持ってきてないだろ。それに目的が分からない以上、いたずらに被害が増えるような動きはしたくない」

「そこ、何をぺらぺらと喋っている!」

 

 会話しているのが癪に触ったらしく。一人が寄ってきて俺の眉間にクロスボウが突きつけられる。ロドスじゃオペレーターの練習用に使われていそうな小型の種類だ。この距離から撃たれても俺だったらあまりたいした傷にはならない。両手をあげて抵抗の意志が無いことを示すも、男の視線は鋭い。

 

「……貴様、そのサングラスを外せ」

 

 言われるがままにサングラスを外すと、表情が驚きに染まった。

 

「貴様、まさか斯波……」

「あ、やべ」

 

 反射的に蹴り上げてしまった。男の体が天井に叩きつけられて落ちてくる。

 

「作戦変更、制圧するぞ!」

「いたずらに動くつもりはなかったんじゃないの?」

「だから作戦変更なんだよ! お前らは前頼んだ!」

 

 叫びながら敵の集団、後方車両から来た側に吶喊する。一度手を出してしまった以上、ためらう方が危険だ。出したのは足だけど。

 

「撃て!」

 

 五人からクロスボウが放たれる。避けてしまったら一般市民に当たるな。仕方ない。そのまま自分の体を盾にして前進する。

 

「クソ、当たってるだろ、効いてないのか!?」

「相手は鬼だ。こんなクロスボウじゃ役に立たねえ! ドローン準備!」

「こんな閉所で素人がドローンなんか使えるかよ」

 

 射出されたドローンを掴んで投げ飛ばす。一人の顔面にぶつかって崩れ落ちた。想定外の反撃に対処が追いついてない残りのテロリストの腹をぶん殴って、一人ずつ沈めていく。練度の低い集団で助かった。向こうはどうなっただろうか。

 

「クロスボウの手入れが雑すぎ、使い捨てるつもりの武器で戦えるわけないでしょ」

「まさか拾った武器で返り討ちに合うとは思ってなかったと思うよ」

「そっちも無事終わったか」

 

 ロドスのオペレーターである以上に、ラテラーノでも腕利きの戦士だ。苦戦することもなく鎮圧してしまったらしい。フィアメッタの手にはテロリストが使っていたクロスボウが握られている。

 さて、暴れちまったし。仕事をするか。

 

「モスティマは前側の車両制圧、俺は後ろ側をやる」

「私は?」

「お前はテロリスト共の拘束と、ここの保持を頼んだ。あのデカブツ持ってきてもここじゃ振り回せないだろ」

「……そうね。こんなところで動くことになるとは思わなかったから」

 

 フィアメッタの嘆きはもっともだ。

 

「……俺だって予想外だよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。