苦難の陳述者?ふざけた名前だな! 作:人事プロファイル
極東北部には大名行列という行事がある。毎年選ばれた大名が光厳の元まで行列を率いて謁見するのだ。一般市民にとっては華やかなパレードを見ることが出来るお祭りみたいなものだが、為政者にとっては違う。
離れた地域の領主は他の領地を幾つも通ることとなるが、大名行列だからといってはいそうですかと簡単に通してもらえるわけではない。仮に通れず、辿り着けなかったとして、その責任は通せんぼをした領主ではなく、辿り着くための努力を怠った大名にある。いわば通る側と通られる側の政治的交渉の場である。
「その大名行列が、三日後に可室を通る。廃山が動くとしたら間違いなくそこだろう」
イエミツから得られた情報を二人に共有する。実際の作戦時には俺たち三人は可室兵の指揮系統には従わず動くことが決まっている。これは協約にある
これはけして珍しいことではない。感染者に関わりたくないというのが非感染者のよくある思考だ。為政者としても、金はともかく人を使うのは汚れ仕事という認識だろう。積極的に感染者に関わろうとする政府など見たことがないとさえ言える。
作戦会議に使っているのは俺に与えられた個室だ。三人が集まって狭いとは感じず、むしろまだ広さを覚える。床の間に三人座って、街で買った軽食をつまみながらの会話はまるで緊迫感が無い。二人は女の子座りだし、俺はあぐらだからホームパーティでもしてるような雰囲気だ。
「椅子が無いのは不便よね。街には結構あるのに」
「床が木製なことが多いから椅子を置くと床が痛みやすいんだ。ラテラーノは石造りだからこんなことしてたらケツ痛めちまうけどな」
「木って脆そうで怖いけど。案外丈夫なんだねえ」
「雨風が通りやすいからキツイけどな」
三色団子の長男を噛み千切って逸れた話を元に戻す。
「んで、大名行列を奴らは襲撃するだろう。闇討ちするより、白昼堂々になるだろうな」
「警戒は厳しくなるけれど、事が起こせればここだけの問題じゃなくなるってことね」
「ああ。警戒は厳しいと言っても、奴らにとってはそう変わるもんじゃない。むしろ楽になっただろうな」
「楽?」
「単に客人を護衛するのとは訳が違うからな」
極東特有の文化だから、得心がいかない気持ちもわかる。
「大名行列ってのは、通る側にとっては示威行為の一種なんだ。俺たちはこれだけの兵士を連れているぞ。これだけ豪華な装飾を施しているぞ、っていう。だから、そこの領地の人間に警備全てを任せることはしない。そんなことをすれば、"私達は自分の身も守れません"って喧伝しているようなものだからな」
「つまり、地理に疎い人間が警護してる、ってことね」
「そうだ」
「じゃあ襲われても自己責任なんじゃないの?」
「そうだが、そもそも賊をのさばらせているってことだからな。ま、両方評判が底に堕ちるだろうさ」
テロリストからすればこの上ない戦果だ。別に完遂は出来なくとも良い。騒ぎが起きて、他の地方に知れ渡ってさえくれれば、他の領地でくすぶっていた感染者に呼びかけるとこともできるようになるだろう。そうなればもはや可室だけの問題ではない。極東の、光厳全ての問題だ。その先に待っているのは感染者への圧倒的な殲滅。かつてウルサスすらも弾き返した極東の暴力が、民上がりの人々に惜しみなく注がれれば地獄よりずっと酷い有様になる。
「というわけで、民衆に気取られることなく制圧したいとのことだ」
「無理ね」
フィアメッタによる一刀両断だった。俺も無理だと思うが、せめて考慮くらいしてくれてもいいんじゃないか。こっちだって仕事だから、出来ませんじゃ終わらせられない。
「気持ちはわかるけど、こっちから相手に対しての情報が少なすぎるわ。敵がどれくらいの兵力で、何処を狙っているのか分からないと対処しようがない。極論、大名行列を守っていたら一般市民が襲われる可能性だってあるもの」
「列車の件もあるしな。民間人を巻き込むことに躊躇が無い」
どれだけ警備を厳重にしようとも、野次馬までは守れない。守られる意識のある人間がどれだけありがたいことか。自分が安全だと思い込んでいる者は何処までも危険な沼に歩を進めてしまう。
「だから、逆に考えるしか無いわね。たとえ騒ぎが起こっても、こちらの手のひらの上でした、って顔すれば押し切れるものよ」
「……あー、と言ってることがよく分からないんだが」
「襲撃箇所が分からないなら、襲撃場所を決めてやればいいの。真正面から軍隊に突っ込む程奴らも馬鹿じゃないでしょう。だったら、その隙をこっちで作ってあげれば誘導は出来るかもしれない」
「警備にわざと穴を空けるってことか? そんなことしたら、警戒されるんじゃねえか」
「相手に勘付かれたらそうでしょうね。やるならバレないように緻密に穴を作る必要があるでしょう」
「ドクターじゃないんだ。そんな緻密な配置なんて出来ないだろうよ。それともお前なら出来るのか?」
「確証はないけど、それ以外の選択があると思えないわ」
「取れない選択肢はあるとは言わないんだよ」
「んー、思ったんだけどさ」
俺とフィアメッタの言い争いにモスティマが口を挟む。いや口に挟んでいるのは大福だが。
「カンレイって餌なんだよね? だったら、君で釣れるんじゃないの」
「……なるほど?」
可能性の域は出ない。だが、高度な罠を蜘蛛の巣のように張り巡らせるよりは、シンプルで効果的な手段に思えた。俺たちだけで守っている箇所は、他の箇所に比べれば手薄と言える。外様が三人で居るだけだからな。フィアメッタの言う
もちろん民間人をターゲットにされたら守りきれるものではない。相手が深読みをこじらせて他の場所を狙うかもしれない。だが、一つの懸念を除けば最善策かもしれない。
「その作戦だと、あなた一人でキタバとやらを抑えることになりそうだけど。そこは大丈夫なの?」
敵の総数が分からない以上、大人数を見られるフィアメッタとモスティマをキタバの対処に当てるわけにはいかない。そして、キタバには誰かが専門で対応しないと、そこから突き崩されるだろう。必然、俺が対処することになる。
「ま、それが最善ならそうするしかないだろ。何、列車では酷い目に遭わされたからな。熨斗つけて返そうと思っていたところだ」
「気をつけてね。君が死んだらフィアメッタが大泣きするかもしれないし」
「泣かないわよ」
「死なねえよ」
死にたくない理由は今、数え切れないほどあるからな。