苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case19:あんみつとクリンナップ

「それじゃあなんだ。今回協約締結を祝して?」

「かんぱーい」

 

 乾杯と言っても酒を飲むわけじゃない。キタバを捕らえ、他のテロリストも捕縛したお陰で、この可室でロドスがやるべき仕事は終わった。事後処理だなんだとやらなきゃいけないことは多々あるが、細かいことはここに新たに作る事務所に配置された職員がやってくれるだろう。ドクターが選出したメンバーだと言うから俺の選出よりずっと信頼出来る。それで良いのか人事責任者と怒られそうだが、超人と比べないでほしいと返しておこう。

 

 引き継ぎのオペレーターが到着するまでの数日間。ようやく時間が取れたので、フィアメッタとモスティマを連れて例の餡蜜の店に足を伸ばしていた。

 

「今日はカンレイの奢りって本当?」

「お前はついでだモスティマ。フィアメッタへの借りを返してるだけだからな」

「ただのラッキーってことだね、了解」

 

 俺は白玉、モスティマはフルーツを注文する。フィアメッタがメニューを睨みつけたまま動かないので、仕方なく白玉をもう一つ頼んだ。

 

「勝手に決めないでよ」

「時間掛けてるのが悪い。嫌なら俺が二つ分食うだけさ。もしくはお前が食いたいなら二つ目を頼んでも良いぞ」

「え、ほんと?」

「モスティマは自腹だ。なんでおまけの方に余計に金持ってかれなきゃならないんだ」

「それは残念」

「で、どうするんだ? 白玉は嫌いだったか?」

「……別にそれで良いわよ」

 

 メニュー表をテーブルのスタンドに立て掛けて、彼女はそっぽを向いてしまった。最近なんとなく理解してきたのだが、このくらいだと怒ってる判定にはなっていないようだ。モスティマのいたずらの方がずっと彼女を怒らせている。

 

「フィアメッタの考えていること当ててあげようか」

「やめて」

「自分も白玉が良いと思ったけどカンレイと一緒なのはなんか癪だなー、って考えてたでしょ」

「…………」

「ほら、図星みたいだ」

「そいつはちょうど良かったな」

 

 はあ、とフィアメッタがため息を吐く。ぶん殴りたいのはやまやまだが、龍門でもないこんな往来で騒ぎを起こしたくはないって顔だ。

 

「それより、あの大男の処遇。あれで良かったの?」

 

 話を逸したな。ただ、気に掛けているのは本当のようだ。

 

「ロドスで身柄を預かる、ってテロリストよ?」

「それに関するこっちの主張は三つある。一つ、俺は協約にある通り、()()()の対応をロドス預かりにしただけだ。例外を求めたわけじゃないし、本来あるべき形の筈だぜ。二つ、ロドスにテロリストなんて今更だ。元レユニオンだって珍しくない。協力を得られなければこちらで然るべき法的処置を行う必要はあるが、あの戦力が使えるなら、サルゴンのような危険区域でもロドスはより活動できるようになる」

「三つ目は?」

「あの犬っころの鼻を明かしてやりたかったのさ」

 

 イエミツに上手く使われ続けるのも気に食わなかったからな。奴らはキタバを懐柔するか処刑したかっただろう。それが自分達の結んだ契約によって手の届かないとこに逃された。それどころか、利用するつもりだったロドスが、彼らにとって相手にしたくない戦力を保持することになって、ご機嫌を窺わなくちゃいけなくなったのはかなり屈辱だろう。

 

 奴らはキタバが()()()であることを知らなかった。昔同じ軍に居た俺ですら知らなかったんだから、余程巧妙に隠していたんだろう。金と名誉に執着するあの男がどうして勝者に靡かず、テロリストに身を落としたのか。まさか、感染者を取り立てたシント大名への真の忠義だったとは想像もしていなかった筈だ。

 

 この結末は、自己満足ながら俺からあいつの忠義への贖罪という側面も、ほんの少しだけある。

 

「正解不正解が出るのはもう少し後のことだろうさ。それより俺は身に合わない頭脳労働をして糖分が足りない」

「普段から頭使ってないからよ。事務職なのに」

「部下が優秀だと頭使わなくて済むんだよ。こんな事態でもなけりゃもっと節制できるんだけどな」

「そ、なら今度は優秀な部下を連れて行くのね」

 

 むりやりついてきたのはお前だろ。とツッコミを入れるのも野暮か。フィアメッタなりの、他人に頼れって言い換えかもしれないしな。惚れた弱みか少し好意的に物を考え過ぎてしまう。

 

「こちら白玉餡蜜になります」

「こっちとこっちで」

「フルーツはこっちにお願い」

 

 店員が運んできた餡蜜をそれぞれの前に置く。黒蜜の甘い匂いが鼻をくすぐる。あんことみつ豆に白玉。白黒のグラデーションが美味そうだ。

 

「賑やかな方が私は好きだなあ」

 

 モスティマの頼んだフルーツは名の通りオレンジやパイナップル、キウイなど色鮮やかなフルーツが添えられ、モノクロの白玉と並べるとそのカラフルさがより際立つ。

 

「いただきます」

 

 スプーンで白玉に黒蜜をかけてすくい上げる。そのまま口に運ぶとくどさのない甘みが広がった。広告の店っていうのは当たり半分だと思っていたが今回はかなり当たりらしい。大量生産のコンビニスイーツとは一線を画した味だ。

 

「あ、美味しい」

 

 フィアメッタも無意識に言葉が零れ落ちていた。いつの間にか、俺より倍近いペースで食べ進めている。モスティマはフルーツを一通り楽しんだのか、今度はこちらの白玉が気になるらしい。

 

「白玉どう? 私、あんまり食べたことないんだよね。一口くれない?」

「ん、別に良いぞ」

「あんまりこいつを甘やかさないで。ほら、一口食べるんならそっちも寄越しなさい」

「結局お前はやるのかよ。フルーツの方も食べてみたかっただけじゃねえか?」

 

 分ける必要が無くなったので一度止めていた手を動かす。値段の割に量もしっかりしていて、一つでお腹に溜まってしまった。これ二つ食ってたらしばらく動けなかったかもな。白玉の腹保ち恐るべし。

 

「ふぅ食い終わった。ごっそさんでした」

「結構良かったわね」

「お口にあったようで何よりで。それじゃ屋敷に戻るか」

「何言ってるのよ」

「うん?」

 

 フィアメッタは信じられないと言わんばかりに首を振る。

 

「せっかくここまで降りてきたんだから、お土産屋さんを見て回るに決まってるでしょ」

「あー、土産……」

 

 ラテラーノ人は土産好きと聞いたことはあるが、彼女も例に漏れないようだ。変な龍のキーホルダーとか買い始めなければ良いが。

 

「それ、俺も付き合わなきゃ駄目な奴?」

「監督責任を後で追求されたくないならね」

「何やらかすつもりだよ。そんな脅し文句初めて聞いたわ」

 

 ガシガシ頭を引っ掻く。面倒くさいとは思うものの、次の飲み会に持っていく酒を探しに行くのも悪くないか。俺が嫌っていたこともあって、極東出身の集まりなのに極東酒を飲むことは全然無かったからな。たまには故郷を懐かしむ会にしても良いだろう。

 

「私は屋敷に戻ろうかな。じゃ、後はお二人でごゆっくりー」

「おい一番問題起こしそうな奴が逃げ……もう消えやがった。アーツ使って逃げるのは卑怯だろ」

 

 いつもの何考えてるんだか分からないニヤケ面は、一瞬のうちに姿を消した。何が二人でごゆっくりだ。からかって遊ぶんじゃない。そう叱りつけたくても虚空相手じゃ虚しいだけだ。

 残された二人で顔を見合わせて深いため息を吐く。

 

「あの馬鹿……まあ、荷物持ちはカンレイ一人居れば十分ね」

「はいはい。持ち帰れない程買い込むのはやめてくれよ」

 

 フィアメッタに手を引かれて歩く街の空は、なんとも鮮やかな極東晴れだった。




極東編、完

こんなに長くなると思わなかった
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