苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case21:頑張り屋へのカインドネス

「行動予備隊A4隊長のメランサです。本日から一週間よろしくお願いします」

「ん、よろしく。そんなガチガチに畏まらなくて良いぞ」

 

 俺よりも少し黒っぽい、紫色の髪をしたフェリーンの少女は緊張した面持ちで頭を下げた。

 前衛オペレーター、メランサ。元はヴィクトリアの香料貿易商社の令嬢だ。鉱石病への罹患が発覚した後、治療の為に両親の手によってロドスに送られてきたらしい。だが、両親との仲は良好で、今もアロマキャンドルを送られたりしているそうだ。実際、彼女の周りには特徴的な甘い匂いが漂っている。

 

「俺のことは聞いてるか? 一応自己紹介しとくか。人事課責任者のカンレイだ」

「あ、はい。エリートオペレーターでもあったと聞いています」

「誰から聞いたそれ」

「ブレイズさんから……」

 

 あの自殺猫、人のプロフィールをぺらぺら喋りやがって。それと一応現役のエリートオペレーターだ。俺も最近知ったけど。

 

「今は裏方だ。そこはそんな気にしなくて良い」

「わ、分かりました。補佐は私が最初とのことでしたので、至らぬところ多々あるとは思いますが……」

「気にすんな。職業体験みたいなものだと思えば良い」

 

 ドクター考案の当番制度。とりあえずは一週間でローテーションしてみて、そこからまたフィードバックを取るつもりらしい。個人的には最初はサリアだと一番安心感が強かったのだが、彼女は本職の方で今忙しいらしく予定を作れなかった。サリアだったら仕事が半分で終わるどころか、後続の為にマニュアルまで作ってくれただろうに残念だ。

 そして、同じく心得があるフィアメッタは、俺の勝手な都合でスケジュールを決めさせてもらった。そうして残った初心者三人組のうち、一番ハードルが低いのが彼女だろうということで、メランサがトップバッターになったのだ。

 

「ブリーフィング資料を確認してもらってるなら分かると思うが、人事課の仕事は簡単に言えば、後方支援部業務のうち、金が関わらないもの全般だ。オペレーターの休暇申請の受理、研修への参加希望の受理といった受付業務から、研修そのものの立案と運営、後意外なとこでは会議室の管理なんかも人事部の用件だな」

「はい。私も何度か申請書の作成を手伝ってもらったことがあります」

「で、ここの仕事は何かって言うと、そうやって申請された書類を承認すること。ざっくり言えば判子を押す仕事だ。だからやってもらいたいことは、書類を読んで、判子を押すだけ。この時点で質問は?」

「ええと……」

 

 気になるところはあるのだろうが、言葉を選んでいるのか中々続きが出て来ない。大方、どんな疑問かは予想がついている。俺は書類の山のうち、上から十枚ほど取り上げて、メランサに渡す。

 

「ま、習うより慣れろってことで。先ずはこの書類を読んで、三つに分類してみろ」

「三つ、ですか?」

「問題ない書類、内容に不備がある書類。そして、()()()()()()()()()()()()()()だ。判は捺すなよ」

「は、はい。分かりました」

 

 用意した机に向かい、メランサは書類とにらめっこし始める。元来真面目な気質なのだろう、穴が開くほど真剣な目で文字を追っている。

 自分の仕事をしながら横目に様子を窺っていると、予想より十五分程オーバーしたところでおずおずと手を上げた。

 

「あの、分類が終わったので確認していただけると」

「お、もう出来たか」

「はい。ただ、承認するしないの基準が分からなかったので」

 

 承認十枚、非承認が一枚、不備が二枚か。非承認と不備は気にする必要は無い。むしろ非承認が出ると思っていなかったので少し驚いた。判断基準の無い彼女ですら突っぱねるとはどんな要求だったのか。

 

「んじゃ、承認の奴から見ていこうか。先ずは……これは通さなくて良い」

 

 一番上に置いてあった申請書を非承認のところに移す。

 

「普通の会議室利用申請に見えますけど」

「まあ変なことを書く奴は基本居ないからな。見るべきは名前だ」

「名前?」

 

 申請者氏名の欄を指でなぞる。

 

「行動隊A4のドゥリン。面識は?」

「あまり……」

「なら覚えておくと良い。こいつが施設利用を申請するのは、決まって仕事をサボって昼寝する為だ」

「そうなんですか」

「前科持ちだ。先ず隊長じゃない奴が会議室を借りに来た時点で怪しいと思え」

 

 あれは忌々しい事件だった。そもそも、面倒臭がりのドゥリンが自分で書類を提出することなど無いのだ。A4で必要ならヤトウがやる。百歩譲ってレンジャーだ。

 

「そんで、これも駄目」

「ソーンズさんの、研修企画書ですね」

「人事部以外の研修企画書も地雷だ。九割切って良い。例外は、ドーベルマンみたいな教官の企画書くらいだな」

「なるほど……ところでこれはどうして駄目なんでしょう」

「ソーンズの場合、だいたいこれは実験の被験体探しだ。ワルファリンも同じことやらかしてる。そうそう、ワルファリンとクロージャからの申請書は見る必要が無い。あいつらは申請書本来必要無いからな。提出なんかするのはいざという時言い訳にする為だ」

「その……非承認にしたの。クロージャさんからのです」

「そいつは慧眼だな」

 

 どうせあいつのことだから、他の人事オペレーターを経由せず、直接書類に潜り込ませたんだろう。まともに書類を書かない筆頭だからな。戦闘オペレーターへの転属願なんて未だに悪い例として語り継がれる程だ。

 

「だいたいどういう仕事かは分かっただろ」

「はい。あの、カンレイさんはオペレーター全員を把握していらっしゃるんですか?」

「まさか。ドクターじゃあるまいし、(ここ)に入ってるのは基本プロファイルだけだ。こうやって弾いてるのは経験だよ。今言った奴、一度は通してしまって痛い目見てるからな。だからまあ、多少ミスったってロドスが爆発したりするくらいだ」

「十分問題だと思います……」

「ま、気負わずやってくれ。とりあえず次の書類を」

 

 言いかけたところでバン、と勢いよくドアが開く。

 

「メランサー! 様子に見に来たよ!」

「メイリィ!?」

「ちょっと、仕事の邪魔しちゃ駄目だってば!」

 

 飛び込んできたのはペッローの少女。それを追い掛けるようにしてヴァルポの青年が入ってくる。

 

「言っただろ? 人事部の人は怒らせたら怖いんだって」

「怖くて悪かったな、スチュワード」

「えっすいません、そういう意味じゃなくてその」

「冗談だよ。予備隊A4全員で見学か?」

「はい。オレも少し興味があったので、メランサちゃんの様子を見るついでに」

 

 カーディ、スチュワード。その後ろからアンセルとアドナキエルも入ってくる。見事に勢揃いだ。

 

「メランサさんが迷惑をかけていたりしませんか? それとカンレイさん。ワルファリンさんが、定期検診から逃げないでほしいと怒ってましたよ」

「余裕が出来たら行くってワルファリンに伝えておいてくれ。それとメランサの方は飲み込みが早くて助かるよ。優秀だな」

「私達のリーダーですから」

 

 どうやらメランサは隊員と良い関係を築けているらしい。わちゃわちゃしている様子は微笑ましいものだ。予備隊だから可能性は低いとは思うが、彼女たちの関係が引き裂かれることがないようにと祈ってしまう。

 

「すごい、漫画がいっぱいある!」

「読みたいなら読んでも良いぞ。破くなよ」

「やったぁ!」

 

 とはいえ、先程までの静かな空間に比べたら騒がしいのには違いなく。メランサの仕事に支障が出ては本末転倒だ。

 

「騒がしくて気が散るか?」

 

 そう尋ねると、フェリーンの少女は慣れているのでと嬉しそうに笑った。

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