苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case22:寂しがりなチルタイム

「知らなかったわ。いつの間にかここは託児所になっていたのね」

 

 顔を見せに来たフィアメッタが肩をすくめた。

 俺と補佐のメランサは通常業務をしている。その横で漫画を読んでいるのが二人。

 

「えーと……初めまして!」

「ここって漫画がたくさんあって良いですよね」

 

 当番四日目だが、カーディとアドナキエルの二人は毎日入り浸っていた。目的は俺が集めている漫画だ。訓練をサボって読みに来ることまであり、その時はドーベルマンが恨みがましい顔をしながら連れ戻しに来た。確かに許可を出した覚えはあるが、サボりはこいつらの自己責任なんだから俺に当たられても困るんだよな。

 

「仕事の邪魔だって蹴り出せば良いのに」

「誰かさんのせいで俺は慣れてるからな。メランサのパフォーマンスが落ちてるんなら考慮に入るが、当人が気にしてないならわざわざ締め出す理由も無い」

 

 実際それ程騒がしくしているわけではない。時々無視できないレベルになりそうな時は、メランサが一言カーディの名前を呼べば静かになる。それに、もうしばらくすればアンセルとスチュワードが引っ捕まえにやってくる。その仕事を肩代わりしてやる程暇人ではない。

 

「初めまして……ですよね?」

 

 メランサが不安そうに尋ねる。記憶に無いが、面識ある相手だったら失礼になってしまうと危惧しているのだろう。

 

「そうね。狙撃オペレーターのフィアメッタよ。あなたは?」

「行動予備隊A4隊長の、メランサです」

「予備隊、ってことは訓練中?」

「あ、はい。ドーベルマン教官の指揮で、幾つか作戦に参加させてもらったこともありますが」

 

 訓練中と言っても、経験は下手なオペレーターよりも豊富だ。予備隊はエリート候補生で、虎の子として大事に育てられている。間違いなくロドスの将来を担うオペレーター達だ。本人達にその自覚はまだ無いかもしれないが。

 

「それで? 漫画の新刊は増えてねえけど、何か用か」

「補佐の子に差し入れを持ってきてあげたのよ。あなたにこき使われてかわいそうだから労ってあげようと思って。メランサだっけ? こいつ虐められたらすぐに言いなさい。私がこいつの角をへし折ってあげるから」

「人をパワハラ上司みたいに言うな」

「こいつは鬼だからね」

「それは種族だ、ってどうしたお前ら」

 

 言い争いを聞いていた三人がきょとんとした顔で俺とフィアメッタを見ていた。メランサがくすくす笑う。

 

「いえ、お二人は仲が良いんだなあと」

「付き合いが長いのは認めるけど。親しき仲にも礼儀ありって言葉を覚えてもらいたいものだわ」

「その言葉そのままそっくり返すっての。差し入れを持ってきたって言うんならさっさと渡してやれ。鳥頭が忘れる前に」

「あなたに言われなくたって忘れないわよ」

 

 フィアメッタは唇を尖らせながら、手に持っていた紙袋の封を開ける。

 

「ちょうど三個持ってきていて良かったわ。そこのひよっこ三人で分けてちょうだい」

「なになにー?」

 

 漫画を棚に戻したカーディが紙袋の中を覗き込む。

 

「プリンだー!」

「良いんですか? オレ達たまたま居ただけなのに」

「そこのメランサにあげるつもりだったから、聞くのなら私じゃなくてそっちね」

 

 二人が期待に満ちた目で隊長を見る。メランサは、手に持っていた書類を戻した。

 

「……アンセルさんとスチュワードさんには内緒ですよ」

「やったぁ!」

 

 二人が喜んでいるのは別に良いが、生真面目にやってるアンセルとスチュワードが損をするのもかわいそうだ。あの二人には後で俺からなんか持っていってやるか。

 

 補佐がブレイクタイムに入ってしまったので、定時に仕事が終わるようペースを早めた。

 

□tips□

 

 定時を少し過ぎ仕事を終わらせ、一息ついた頃。メランサ達は定時で上がらせて、迎えに来た残りのメンバーと一緒に食堂に行った。

 

 部屋に戻ってまだ見ていない映画を見ようか、それとも仮眠室に籠もって漫画で読み耽ろうか。暇の潰し方には困らない。飯は仮眠室の冷蔵庫にレトルトが幾つか残っていた筈だ。ああ、でもなんか食うような気分じゃないな。

 騒がしさに慣れると、この執務室が孤独に思えてしまう。寂しがり屋ではないつもりだったんだが。

 

「何辛気臭い顔してんのよ」

 

 もはや我が物顔で入ってくるフィアメッタに苦笑いを浮かべる。来るような気はしていた。

 

「……今日はもう閉店の時間だぜ」

「知ってるわよ。さっき食堂であの子達を見かけたもの」

「なんだ。飯をたかりに来たんじゃなかったのか」

「人を乞食かなにかだと思ってるの?」

「それ以外に来る理由が思いつかなかったもんでね」

 

 言葉ではしらばっくれつつ、仮眠室への扉に向かう。彼女の手にある包みが答えで良い。

 

「飲むんだろ? 甘いのに合わせるならこっちにある酒の方が良い」

「なんだ、分かってるんじゃない」

 

 冷蔵庫の中はレトルトばかりだが、外には幾つか酒も置いてある。私室にあるのはロックや水割りで飲むようなシンプルな奴だが、こっちにあるのはカクテル用のリキュールだ。ホワイト・キュラソーとオレンジキュラソー。それとベースになるラムやジン。あとは適当にドリンクが幾つか。

 

「バーテンダーなんて出来るの?」

「素人仕事だ。出来は期待するなよ。昔、ブレイズに勧められてたまにやってるんだ」

 

 まだ酒があまり好きじゃなかった頃、旨い酒が見つかれば楽しくもなるだろうとごっそり送られたのがきっかけだ。それで色々試してみて、意外と悪くなかったからそれ以降も仮眠室で飲む時はやっている。

 

「ま、趣味だから今まで人に飲ませたことはないけどな」

「じゃ、気兼ねなくボロクソに言えるわね」

「お手柔らかに頼むよ。で、なんか希望はあるか? ここにあるもので作れるならやるよ」

「そう、ねえ。ロングランドアイスティーは?」

「また面倒くさいのを……」

 

 ロングランドアイスティー。ジン、ラム、ウォッカ、テキーラの四酒を混ぜてさらにコークとレモンジュースで割る。ああいや、ホワイトキュラソーも確か入れてたな。シェイカーに注いで混ぜる。

 

「……別にフレアバーテンはやらねえぞ」

「ああ、あれフレアバーテンって言うのね」

 

 若干の期待に満ちた目線を感じたので釘を刺しておく。フレアバーテンディングというのは、ショー向けに発展した曲芸のようなシェイクのことだ。イメージするバーテンダーがやっているものが、だいたいそれだと思って良い。もちろん趣味でカクテルを作る程度の俺に出来るわけがなく。本当のことを言うと挑戦したことはあるのだが、二週間で諦めた。あれは俺には無理だ。

 

 シェイカーから氷の入ったグラスに注ぐ。安物だが見た目は悪くないからと、幾つか買ったグラスだ。

 

「で、肴はなんなんだ?」

「だいたい予想ついてるでしょ」

 

 フィアメッタが取り出したのは、カスタードプディングだ。ただし、メランサ達に渡したようないわゆる()()()のじゃない。むしろ家庭用の容器に入った手作り感の強いものだ。

 

「誰が作ったんだ?」

「文句ある?」

「いや、何も」

 

 どうやら、あのプリンが食べられなかったことが余程悔しかったらしい。まさか自分で作るとは。ラテラーノ人は須くパティシエだなんてのはジョークとして良く使われるが、あながち間違いでもないのかもしれない。

 

「手製と手製でなんとも庶民的な晩酌だな」

「良いんじゃない。特別でもない日に特別なものは要らないわよ」

「それもそうだ。んじゃ、乾杯」

「ん」

 

 カラン、とグラスに入った氷が鳴った。

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