苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case23:信頼に足るメッセージ

「よろしくおねがいしままままままま」

「少し落ち着け」

 

 桃色髪のエーギルが舌を小刻みに噛み続けている。コードネーム、キララ。民間出身の、それも戦闘経験のない珍しい戦闘オペレーターだ。ロドスに来る前は故郷で学生をやっていたというのだから、民間人と呼んでも差し支えないだろう。

 

「やーごめんねー。この子あがり症だから」

 

 隣でへらへら笑っているのは金髪の……種族は不明にしてたんだったか。同じく学生からオペレーターになったウタゲだ。確か、キララとは元々級友だったらしい。

 

「付き添いか? 仲が良くてよろしいことで」

「まあね。でも一番は、ここってサボって漫画読んでても怒られないって聞いたからさ」

「そんな事実は無いが」

 

 なりかねなかったことはあるが。ドーベルマンが般若の形相になるぞ。

 

「その様子で仕事ってわけにもいかねえし、少し無駄話でもするか」

「お、いいね」

「お前は訓練あるんじゃないのか」

「今日は無いよー」

 

 本当かどうか分からないような笑みを浮かべて、ウタゲは椅子に腰掛けた。その椅子を使ったらキララが座る椅子は無いんだがそれで良いのか。

 とはいえ、ツッコむのも野暮なので、人数分のオレンジジュースをコップに注ぐ。酒を飲ます訳にはいかないし、コーヒーよりもマシだろう。

 

「しかし、キララのプロファイルを見る限り、人事よりエンジニア周りの適性がありそうだが、こっちの補佐を希望したんだな」

「それはその、人事の人が極東出身って話を聞いて、聞きまして。同郷の方が話しやすいかなと思って、思いました」

「……敬語が慣れないならタメでも良いぞ。ロドスって別に礼儀作法に厳しい場所でもないしな。俺に無理に敬語を使うくらいなら、ドクターやCEOに使う方が権限的には正しいし」

「え、良いの? 良いんですか、じゃなくて、うー……」

「どっちにするべきか分からなくなってバグってる。これってパワハラにできるかな」

「そっちはそっちでノリが軽いな。タメで良いとは言ったがからかって良いとは言ってないんだが」

「別に気にしないでしょ」

「キララが見習うべきはその図太さだな」

 

 これは打ち解けるまでに時間が掛かりそうだ。オレンジジュースを飲みながら肩をすくめた。

 

□tips□

 

 三日経った。業務こそ行えるようになったが、キララの挙動不審はそこまで解決していない。俺も自分から積極的に話しかける方じゃないから、執務室は基本的に無音だ。ウタゲが時々様子を見に来ては、顔を引きつらせて帰る。

 

 どうも様子を見ていて思ったが、どうやら話に聞いていた人見知りとは別に、彼女は俺に対して怯えているらしい。自分の容姿がいかついのは自覚しているからそのせいかとも思ったが、どうにも彼女の態度が気に掛かる。しばしば俺に対して何か言おうとしてはやめている。何か聞きたいことがあるのかと問えば小さく悲鳴を上げてなんでもないと答えられた。

 

 そして五日目に事件が起きた。

 

「貴様がカンレイか」

 

 首筋に抜き身の刀が突きつけられる。隣のキララは顔を青くして口を震わせていた。青い髪のエーギルが、鬼よりも鬼の如き視線でこちらを睨みつけている。

 

 ロドスが規模拡大していく以上、いつかはこの事件が発生することは分かっていた。それがこのタイミングだっただけだ。

 

「……そうだ。お前はアカフユ。だったな」

 

 アカフユは極東北部、とある武家の指揮官だ。南朝に見切りをつけ、北朝に降った主君に付き従ってきた武士。そして、ある事件から主君に追放され、ロドスへ武者修行にやってきた。北朝の、武将で、忠義者。()()()()()()()を知っていても、なんらおかしくない身の上だ。だから、彼女の入職が決まった時、できるだけ関わらないようにしようと心に決めていた。

 

 今この場で状況を理解できていないのは、キララだけだ。

 

「その刀を降ろせよ。ロドスの内部で刃傷沙汰を起こすつもりか?」

「私とて騒ぎを起こすのはよしとしない。だが、それで逃れられる程、貴様の罪が甘くないことは自分が一番良く分かっておろう」

「さて、誰かと人違いしているんじゃないかね。ここに居るのはロドスの人事オペレーターであって、それ以上でも以下でも無い」

 

 刀がより肌に食い込む。この程度では斬れないが、彼女が本気で刃を振るえば、鬼の肉すら断ち切るだろう。

 

「貴様が極東の人間で無かったのならば、私もそれで通しただろう。他国の文化風俗に私の尺を当てはめても意味が無い。だが、貴様は極東人だ。たとえ外に逃げようとも罪が罪でなくなることは無い」

「俺が信用ならないか」

「然り。一度主君を裏切った人間は、また裏切る。貴様が私より旧くロドスに居ようとも、どれだけの信任を得ていようとも、私にとっては疑う理由になる」

「まさか、ここで命を賭けてやり合おうってつもりか?」

「私はそれでも構わぬが」

「それじゃ困る人がたくさん居るのよ」

 

 部屋の外から聞こえた声と共に、ドアが爆発する。今絶対壊す必要無かっただろ。誰が修理費用出すと思ってるんだ。

 

「……知らぬリーベリと、ドクター殿か」

「フィアメッタよ。あなたのことは知らないけど、そいつを殺されるのは困るのよ」

「アカフユの疑念はもっともだけど、彼を信用すると決めた私のことは信じてほしいな」

 

 すっと入ってきたドクターがアカフユの前に立つ。鬼の肉体と違って彼の肉体は脆いから、少し刃が当たるだけで血が滲んだ。アカフユがすぐに刀を引いて鞘に収める。本人は納得していない表情だが、ドクターに言われては引き下がるしかない。

 

「……ドクター殿は、極東における彼奴の所業がどれだけの意味を持つか分かっていてそう仰られるのか」

「ロドスに居る人は、何かしら脛に傷を抱えている人も多い。中には、彼よりも恐ろしいことをしてもなおロドスに入った人も居る。クーデターとかね」

 

 ロドスの節操なさについては、ロドスよりもCEOとドクターのお人好しが原因な気がする。

 

()()()()()を掲げる企業だからこそ、その内実は綺麗事だけじゃ居られない。僕たちが彼らを信用する基準は、信用するに足るかだよ」

「……斯波寛零。ドクター殿に免じてこの場は退こう。だが、貴様がその信頼を再び裏切った時、私の刃はその首を刎ねると知れ」

「……言われなくても分かってるよ」

 

 どうなることかと思ったが、なんとか丸く収まったようだ。アカフユは踵を返して執務室から去っていく。先延ばしにしてたツケをとうとう払う時かと覚悟していた。

 

「しかし、助かったがどうして二人が一緒に来たんだ?」

「え、私はキララから緊急メッセージが送られてきたからだけど」

「私もよ。ドクターとはちょうど向かってる途中ではち合わせただけ」

 

 そうか。キララが助けを呼んでくれたからか。それは彼女に感謝しなければならない。いやちょっと待て。

 

「なんでキララからフィアメッタに連絡が飛ぶんだ? ドクターなら分かるが」

「なんでって知り合いだからだけど」

「初耳なんだが。俺より遥かに偏屈なお前がどうやって仲良くなったんだ」

「あなたより偏屈じゃないからよ」

 

 答えにならないと思ってキララの方を見る。

 

「えと、購買で、同じ漫画買おうとしてたんだよね。それで、アカウント交換して」

「意外なところで縁があるもんだな。おい、フィアメッタ。その漫画今度貸してくれよ」

「嫌よ」

「私で、良いなら貸す、けど。でも、あんま好きじゃないかも」

「ん、どういうことだ?」

 

 キララは目を泳がせながら答えた。

 

「だって、少女漫画、だから」




このイベントを消化しないとカンレイとアカフユを絡ませることが不可能だと思いました
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