苦難の陳述者?ふざけた名前だな! 作:人事プロファイル
「えー今回、ドクターと誠に不本意ながらクロージャには集まってもらって感謝しています」
責任者特権で会議室を貸し切りにしてまで二人を呼んだのだ。その覚悟を察してほしい。クロージャは不本意という言葉にニヤニヤと笑っている。
「あたし苦肉の策みたいな言い方されてない? その方が弱みに出来るから良いけどね」
「オペレーターの相談を受けるのも私の職務の一つだから構わないさ。クロージャも呼んでるってことはだいたい予想がつくけど」
俺の知っている中では二人が一番少人数で最大の効果を発揮できると判断した。クロージャに頭を下げるのは本当にやりたくないことだが、背に腹は変えられない。
「フィアメッタへの誕生日プレゼントを選ぶの手伝ってください……」
椅子があるにも関わらず見事なまでの土下座であった。
□tips□
「カンレイってあたしに誕生日プレゼントとか送ってくれたことあったっけ」
「無いが」
「ふーん?」
「茶化さないでくれよ……俺だってガラじゃないことしようとしてるってのは分かってるんだから」
人の誕生日なんて覚えようとしたことも無かった。プロファイルに書いてあるからいつでも調べられるし、祝うつもりが無いなら知っていたところで雑談の種にもならない。それならまだオリジムシの生態について調べていた方がマシだ。
ただ、フィアメッタに関しては今回思い立つ以前から覚えてはいた。
「とりあえず、あの子の誕生日っていつだっけ?」
「……四月三日」
ドクターの質問に少し間を開けて答える。弄ぶ気のクロージャがしばらく考えてから何かに気がついて声を上げる。
「あれ、カンレイの誕生日って」
「……四月三日だよ」
偶然とはかくも恐ろしきものなのか。それとも、神という存在が居るのならば余程性格が悪いのか。同じ日付に俺とフィアメッタは生まれたらしい。
「なるほど。フィアメッタの補佐当番の日にちを決めたのはそういう訳だったんだ」
「まあそういうことです。あいつが担当の日に四月三日が来る。だから、そのときに渡したいんですよ」
改めて言葉にすると羞恥が腹からせぐりあげてくる。気持ちというか、礼というか。俺からあいつに、何かしら返さないと気が済まない。気にしないふりをするには、あまりに多くのものを貰いすぎた。
「でも何を贈れば良いのか分からないと」
「恥ずかしながら」
プレゼントを、それも異性に贈る物なんて選んだことがない。あいつが好きそうなものと聞かれてすぐに思い浮かぶのはスイーツ、漫画、映画辺りだが、スイーツはともかく後二つをプレゼントは違うだろう。映画館のチケットなんて取っても使えると思えないし。
「スイーツは駄目なのかい?」
「駄目じゃないが……それだと普段と変わらないような気がしますし、あいつ自分で作れるから」
「流れるように惚気が飛んできたんだけど」
「駄目だよドクター、カンレイに自覚無いから」
何か物凄く失礼なことを言われている気がする。
「アクセサリーとかはどう? 今なら購買部で特別価格でお届けするよ?」
「お前の流通ルートをアテにしているのは確かだがそう言われると不安になるな」
「ひど」
「しかしアクセサリーか……重いと思われねえか」
「面倒臭いなこいつ」
酷い言い草だ。ドクターすら苦笑いを浮かべている。
だけどネックレスとか、ブレスレットとか。形に残るものを贈るのはどうにも憚られる。
あいつとの付き合いがどれだけ長く続くか分からない。ただ、恐らく先に離れていくのは俺だろう。死別であろうと無かろうと、自分が死んでも残ってしまうものを渡したいとは言えない。質にでも入れてくれるなら良いんだけどな。
「食べ物も駄目、ジュエリーも駄目。あとはスキンケア用品とか……カンレイから渡されたら気持ち悪いか。絶対縁が無いし」
「全くないな」
「え? そうなんだ。何かやってると思ってた」
「知らなかった? こいつは女の子の敵だよドクター。何もしてないのに肌すべっすべだもん。そのアーツ全人類に配ってよ」
「俺に言われても困るが」
クロージャは持っていたペンで机を叩く。生まれ持ったものだから渡せと言われても渡しようがない。ドクターは興味深そうに頷いている。
「へえ。背も高いし。羨ましいなあ。ほら、私はかなり背が低いからさ」
「顔も目つきさえなんとかすれば悪くないんだけどなあ。眼鏡とかで誤魔化してみる?」
「前にサングラス掛けたらヤクザにしか見えねえって言われたな」
「納得しかないね」
あのサングラスわりと気に入ってるんだけどな。
話が脱線した。こちらはプレゼントを選びたいのだ。
「そうだな。食べ物や出掛けるのはナシ。形に残るものもナシ」
「部屋に置くものも、あいつ部屋にいることが少ないっぽいんで避けたいですね」
「うーん、それならさ」
妙案を思いついたとドクターが手を合わせる。
「香水はどうかな」
「香水?」
「そう。使えば無くなるから、アクセサリー程は重くないでしょ?」
「そういうもの、ですかね」
「それに、メランサやパフューマーからアドバイスも聞けるでしょ。たぶん、私達以外の話も聞いた方が良いと思うよ」
香水。メランサと出会ったとき、花の香りがしたことを思い出す。フィアメッタが香水をつけるのかどうかはよく分からない。ただ、あいつから優しい香りがするのは容易くイメージできた。
「悪くないかもしれませんね」
「じゃあ、詳細は今度パフューマーに聞いてご覧。君、あんまり関わりないと思うから慣れてないかもしれないけど、あの子もいい子だよ」
「話くらいは聞いてますよ。そもそも、あの植物園を認可したのも俺ですし」
「あ、そうだったんだ。ま、時間はまだあるんだし、焦らずに考えてみなよ」
「ありがとうございます」
なんとか一つ指標が出来ただけでも有り難い。礼を言ってこれからのプランを考える。
「それにしても、こんなに悩むほどカンレイが人のこと好きになるとは思ってなかったわ」
話の流れから自分の利益にならなそうだと興味をなくしていたクロージャがパイプ椅子を斜めに浮かして欠伸をする。
「何処かそんなに気に入ったの? 顔? やっぱおっぱい大きいから?」
「質問が俗過ぎるだろお前」
「だって初対面であんな喧嘩引き起こしたら、絶対関わろうとしなくなるでしょ。あたしやブレイズからも逃げてるっていうのに」
「お前らはもう少し逃げられる理由を自覚した方が良い」
ろくでもない提案しかしない奴と酒癖が悪すぎる奴だ。逃げる方が普通だ。
「私はそんなに驚くことは無かったけどね。性質は似ているのにベクトルが真逆だから、磁石みたいにくっつきそうだなって思っていたし」
「ベクトルってなんですか」
「だって君は構われたがりで、フィアメッタは構いたがりだろう。需要と供給の一致って奴さ」
「そんな構ってちゃんに見えますか」
違う違うとドクターが肩をすくめる。
「君は一人の過ごし方にも慣れてるけど、どちらかと言えば人と居るほうが好きなタイプだ。でも、自分から誘うつもりはあんまり無い」
「人をコミュ障みたいに言わないでくださいよ」
「友達付き合いは下手だよね」
「おいこらクロージャ」
まあ友人が少ないのは否定しないが。
「で、実際何処を好きになったのよ。言いふらさないから教えてよ」
「言いふらさないは交換条件じゃなくて前提なんだよ。それに……」
理由は幾つも挙げられるけど、全部合ってるし全部間違ってるような気もする。
「人を好きになるのって理屈じゃないだろ」
「……こりゃ重度の色ボケだね」
クロージャは何処か遠い目をしていた。
色ボケ鬼