苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case3:菫鬼の極上スイーツ

 スイーツ、と聞けば多くの人はラテラーノを思い浮かべるのではないだろうか。ラテラーノと言えばスイーツ、スイーツと言えばラテラーノというのは、観光トランスポーターにとってはあり触れた宣伝文句であり、しかし間違いなく人を引き付ける殺し文句である。もちろんもっとも有名なのは美味しさで気絶した人間が出たなんて逸話もあるジェラートだが、マカロンやクッキー、カップケーキに至るまで、他の全ての国家はラテラーノの後追いをしているといっても過言ではない。

 この甘い香りに誘われてやってくるのは大多数が女性だ。それはビジネスに成功したクルビアのキャリアウーマンだったり、生まれながらに欲しいものを得ているウルサスやヴィクトリアの貴族達。見栄えとマウンティングを趣味とする極東の大和撫子だったりする。重要なのは、彼女たちの須らくは自身が着飾ることによって生まれる強さを理解しており、またその強さがラテラーノにおいては大きな武器になることを自覚している。

 つまり、ラテラーノの観光街は自ずと女性に溢れた華やかな空間となり、隣に座っている男性はその恋人や執事、保護者か被保護者になるわけで。

 

「うだうだ長いわね。何が言いたいの?」

「居心地が悪い」

 

 きらびやかな空間に慣れていない自分はどうもむず痒さを感じてしまうのである。

 

 フィアメッタの目が可哀想なものを見るような色になっている。ラテラーノ人にとっては理解し難い感覚かもしれないが、男のオペレーターなら共感してくれる奴は居ると思う。

 

「俺の故郷じゃ甘味は女子供の食うもので、男が食うのは恥って言われてた。実際隠れて食ってた奴も居るし俺もその一人ではある。だからってこんなスイーツだらけの場所に頭一つでかい鬼が引きずり出されてみろ。恥ずかしくて蹲りたくなる」

「男性がスイーツを食べるのなんてラテラーノじゃ普通のことよ。むしろスイーツを苦手な男が居たら病気を心配されるくらいだわ。だいたいでかいって言っても、フェデリコ(イグゼキュター)より少し大きいくらいでしょ」

「イグゼキュターよりでかいサンクタがどれだけ居るってんだ? 少なくとも今俺の視界に映る限りではイグゼキュターどころかエンフォーサーよりでかい奴もろくに居ないぜ」

「……肝っ玉の小さいやつ。奢られる立場なんだからおとなしく従いなさい」

「奢りなのはこの前の貸しだろうが」

 

 この間悪さをしたモスティマを捕まえるのに協力した際何か奢ってくれるとは言っていたが、ロドスの食堂にある定食か酒でも奢ってもらうつもりだった。まさかスイーツの本場ラテラーノのジェラートが出て来るとは思いもしなかった。

 

 居心地が悪いのは事実だが、ラテラーノのスイーツが気になるのも事実だ。いや、ぶっちゃけ俺も甘いものは好きなんだよ。きなこをたっぷりとかけたくず餅なんか大好物だ。極東の甘味と言えば饅頭や団子がメジャーだが、最近はラテラーノ帰りのパティシエが開いた甘味店も出て来ていて、一番多種類の甘味が食べられる国なんて言われることもある。だから、これがラテラーノ名産のチョコレートクッキーの詰め合わせをプレゼントしてくれるって言うんなら両手を挙げて歓迎したさ。

 

「せっかくロドスがラテラーノの近くに来たんだもの。普段ジャンクフードかロドスの栄養バランスが考えられた食事ばかり取っているあなたでも分かる味を紹介してあげるわよ」

「スイーツの摂り過ぎで味覚が馬鹿になってないことを祈るぜ」

 

 軽口は叩くものの、こいつの味覚はわりと信頼している。この信頼しているというのは、原生生物のような何かを作り出しかねない破滅的感性の持ち主ではないという意味だが。まっとうで良いんだよまっとうで。俺はもうどういう原理か勝手に動き出す七面鳥を前に大立ち回りを演じるのはごめんなんだ。

 

 堂々と進んでいくフィアメッタの後ろをびくびくしながらついていく。余計に悪目立ちしているような気もするんだが、わざとハッタリを効かせられる程俺は強くない。奇異の視線が痛い。たぶんそれは、場違いな成人男性じゃなくて、極東以外ではめったに見られないキャプリニーともエラフィアとも違う真っ直ぐに伸びた角に注がれているんだろう。

 

「着いたわよ」

 

 フィアメッタが立ち止まったのは、大通りの派手やかな店とは違い、一つ裏に入った路地の慎ましやかな店だ。知る人ぞ知る名店って感じで、閑古鳥は鳴いてないものの、窓からはまばらに空席も見える。

 

 扉を開けると備え付けのベルが鳴った。二度鳴らさないよう俺がそっと続くと、ベルの音を聞いたリーベリの店員が歩いてくる。

 

「いらっしゃいませー……ってあれ、フィアメッタじゃない久しぶりね。そちらの人は……もしかして彼氏!?」

「違うわよ」

「違います」

 

 同時に言葉が出る。しかしこの店員、フィアメッタの知り合いみたいだが、俺がこの赤鳥と恋仲だなんてなんと恐ろしいことを。

 

「仕事先の同僚よ。ラテラーノのスイーツを舐めてるみたいだから思い知らせてやって」

「ほほう。まあまあこちらの席へどうぞ。フィアメッタはいつもので良い? あ、彼氏さんこちらがメニュー表です」

「同僚です」

「えーほんとに違うの? 背が高いし、ちょっとコワモテだけどイケメンだし優良物件じゃない」

「これが優良物件だと本当に思ってるんだったら認識改めた方が良いわよ。口は悪いし思いやりも無い奴だもの」

「お前の暇潰しに漫画やら貸してやってるのが誰だと思ってんだ。この前貸した映画のディスクまだ返してもらってねえぞ」

「あーなるほどなるほど、そういう感じなんですね」

 

 なおも邪推する店員の視線を躱しつつ、メニューに視線を落とす。チョコレート、レモンソルベ、ラムレーズン。クッキーアンドクリームに葡萄まである。正直、全部美味しそうに見えて選び切れない。何度も通えるなら順番に食べるんだが、数日の後にロドスはまた移動を始めるからな。そうしたら今度ってのがいつになるか分からなくなってしまう。そもそも、一人でこの空間を歩こうなんて試みた日には光に焼き尽くされて真っ白な灰になっていることだろう。

 

「……フィアメッタの()()()()ってなんだ?」

「あなたに教える必要無いでしょ」

「アマレナとヨーグルトのハーフアンドハーフのカップですね」

「ちょっと」

「アマレナ?」

「チェリーベースのフレーバーですね。ヨーグルトの酸味と合うってお気に入りなんですよ。多い時なんか一週間毎日頼みに来てたくらいなんですから」

「ねえ」

「なるほどね。じゃあ俺もそれで」

「かしこまりましたー」

 

 店内を駆けていく店員の後ろ姿を怨めしそうに見つめている。別に良いだろ同じの頼むくらい。メニュー表じゃハーフアンドハーフなんて選択肢があること分からなかったんだし。こう、言えば応えてくれそうだけどメニュー表に載ってない奴ってほんとの裏メニュー感あるよな。不特定多数のレビューに書いてあるものよりよっぽど常連感が出る。

 

「そうカッカすんなよ。とりあえず座ろうぜ」

「なんで同じの頼むのよ。別に幾らでも味はあったでしょ。まさか全部お気に召さないなんて偏食家じゃあるまいし」

 

 促すと渋々席に着く。店員と長話していたせいで、何人かのサンクタがこちらを見ていたが、しばらくすると興味をなくして手元のジェラートを食べ始めた。

 

「お前が言ったんだろ。俺でも分かる味を紹介してくれるって。正直どれ選んだら良いか決められなかったからな。お前のチョイスなら間違いはないだろ」

「……否定したら自分で味覚音痴って言ってるみたいじゃない。まあいいわ。美味しさに腰を抜かして転ばないことね。あなたも一人で背中を曲げながらロドスに帰りたくはないでしょ」

「それはジェラートに自信を持っているのか、俺を馬鹿にしているのかのどっちだ」

「決まってるじゃない。両方よ」

「お待たせしましたー」

 

 同じ色のジェラートが容器に入って運ばれてくる。半分はフィアメッタみたいな明るい赤色。もう半分はヨーグルトの白。金属製の小さなスプーンをつまみあげる。

 

「それぞれ一口ずつ食べてから、ちょっとずつ混ぜて食べなさい」

「通の食べ方って奴か」

 

 言われた通り、先ずは赤いアマレナの方から食べてみる。甘い。さくらんぼをそのまま凍らせて削ったような濃厚な甘みが口の中に広がる。既にため息が出る程美味いのだが、感想は告げず、今度はヨーグルトを一口。味付けは控えめで、ヨーグルト特有の酸味が強い。両方とも間違いなく絶品なのだが、丸々一杯分食べるとなると、人によっては少し胸焼けするかもしれない。

 そして、双方の表面をスプーンで削って混ぜてみる。

 

「……うま」

「でしょう?」

 

 思わず言葉が漏れた。フィアメッタが勝ち誇った笑みを見せる。皮肉の一つでも返してやろうかと考えるが、いまいち思いつかない。だって文句のつけようもないくらいに美味いのだから。完全敗北と言う他ない。

 

「ラテラーノのスイーツは美味しいのよ」

「申し訳ありませんでした。俺の想像が足りてなかったです」

「ふふ、ごちそうさまでした」

 

 何故か、食べているわけでもない店員が手を合わせていた。




時系列は深く考えてません
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