苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

4 / 32
Case4:指揮官のディストリビュート

「ロドスに居る女の子って、かわいいよね……」

 

 フードを被った小柄な成人男性、いや成人しているかどうかは知らないのだが、飲酒することもあるし成人として扱ったほうが都合が良い。彼から溢れた言葉は、思春期の学生みたいな内容に似つかわしくない憂いを帯びていた。このお方こそ我らがロドスが誇る知識人であり指揮官のドクターな訳だが。

 

「まあ間違ってはないんじゃないですか?」

 

 少なくともドクターがよく関わるオペレーターは顔が良いと言って差し支えない。つまりは先生やCEO、クロージャ、ワルファリン辺りのことだ。付き合うにはちょっと御免被りたい性格ばかりなので恋仲になろうとは思わないが、遠くから眺めている分には眼福である。

 

「それで、そのかわいい子達を差し置いて激務に勤しんでいる俺を秘書に任命したのは何の理由があるんですかね。ドクターの補助なら他によっぽと適任者が居ると思いますが」

「ああうん、それは別に理由があるんだけど」

 

 今の話は本題に入る前の雑談だったらしい。話の種がそれで良いのか。そういう話をするのはミッドナイトだけで十分だっていうのに。

 

「いやぁ、顔の良い異性に囲まれると結構心が落ち着かないからさ。カンレイはそういうのって感じない?」

「そもそも俺は普段から戦闘オペレーターと関わってるわけじゃないですからね。腐れ縁の奴ら(クロージャやワルファリン)を除けばサリアとグマさんとヤトウ。後はフィアメッタぐらいのものですよ」

 

 人事課の責任者という立場ではあるものの、俺自身はそれ程交友関係が広いわけではない。面接官はすることもあるが、それ以降は基本的に書類の上での仕事だからな。実際に戦闘オペレーターとコミュニケーションを取ってフィードバックするのは部下の仕事だ。

 

「意外だな。君は顔が広いと思ってた」

「広いとは思いますよ。ただ浅いだけです」

「ふうん……ホシグマとヤトウは種族繋がりでなんとなく分かるんだけど、サリアとも仲良いんだ」

「まあ頼まれ事を色々されてたんで」

 

 何を頼まれていたかというと、だいたい研修制度についてだな。実戦からサバイバル訓練、地理に薬学、重機の操作に至るまで、サリアはなんでもやりたがった。当時、一年で受けられる研修には限りがあったんだが、それを超えて受講したいと直談判してきたのが始まりだ。最初は俺だって当然渋ったものの、僅か三ヶ月で上限を叩かれては認めざるを得ない。それから、イフリータに役立つ講習が無いかしきりに訊ねられたこともある。

 

「フィアメッタは? 君は最初あった時凄い剣幕だったよね。仲が良いのを見てると結構不思議だなあって思うんだけど」

「ドクター、用事ってのは俺の人付き合いに関して根掘り葉掘り聞くことだったんですか?」

「ごめんごめん。そろそろ本題に入ろうか」

「あるなら早くしてもらえると有り難いです。こっちは仕事の為に何徹も出来るほど頑丈じゃないんで」

「ウッソだぁ。えーと、これを見てほしい」

 

 ドクターが渡してきたのは、ある医療オペレーターのプロファイルだった。最近も同じデータを目にしたから覚えている。

 

「この子、後方支援部への転属願いを出していた子ですよね。民間出身の戦闘オペレーターの異動は一年以内なら無条件で認可される筈ですけど」

「そうなんだけどね……だからこの転属願いを受理する前に、少しお話をしてくれないかな」

「引き留めろってことですか? そいつはちょっと、道理に合わないんじゃないですかね。ロドスは大志を強制する場所じゃない。感染者を取り巻く現実に心折れそうになった時、いつでも心身を休められるようにって意味合いもあって異動の認可は制定されているはずです。だからもちろん、後方支援から前線への復帰も認められている」

「そう、だからロドスの規約では彼女を止めることはできない」

「二つ、理由を聞かせてください。一つ目は何故彼女だけ特別扱いをするのか。二つ目は何故俺に頼んだのか」

「その答えはどちらも一つ。それが最善だと思ったからだ。彼女は前線から片時も離れるべきでないと思ったし、きっとその気持ちを君ならば共有できると思った」

 

 フードの奥から覗く目が俺を見ていた。この目だ。多くのオペレーターを引き付ける目。ほんの僅かな時間でロドスの中心になったその理由。普段は手回しと謀略に勤しんでいるというのに、物を頼む時は無条件の信頼と善意だけを見せてくる。信念とでも呼ぶべき力。

 

「お願いできないかな」

 

 ずるい奴だ。

 

□tips□

 

「……なんか、いつもより疲れてない?」

「なんで分かるんだよキッショ」

 

 部屋に来るなりフィアメッタが眉をひそめる。疲れているのは昨日徹夜で仕事したせいだ。頭が少しぼーっとする。もう若くないって思い知らされるようで嫌になるね本当に。

 

「残業嫌いじゃなかったの?」

「先延ばしにできないタスクが入ったんだよ。無茶な上司を持つと苦労する。たまには定時上がりしたいもんだ」

 

 ドクターの依頼を結局受けてしまい、午後の仕事は全部止まったまま件の医療オペレーターのもとに向かわなければならなかった。

 

「なあフィアメッタ」

「何よ」

「一つ理想を叶える為に進むとして、障害は無限に立ちはだかるものだ。目の前に聳える壁に立ち向かうことは、多くの人に許されている」

「全ての人に、よ。困難の無い道なんて存在しないわただ高低の差があるだけ」

「もちろん。壁は越える為にある。だけど、地面の礫に足を取られて転んだとき、人は立ち上がれるだろうか。或いは、横を歩いていた筈の友人に突き飛ばされた時、その背を追い掛けることは出来るだろうか」

「そうあるべきだと私は思うわ」

 

 フィアメッタは詰まることなく言い切った。

 

「前を見ているのなら、前に進みなさい。他のことで目を背けるのは、困難に屈したことと変わりないわ」

「……どいつもこいつもスパルタで涙が出てくるね」

「ねえ、何の話なのよそれ。はぐらかすのはやめて。私、迂遠な言葉で煙に巻かれるのが一番嫌いなの」

「はぐらかすつもりは無いけど、守秘義務で言えないことはある。簡単に言えば、そうやって諦めかけた奴にどう言葉をかけるのが正解だったか。って話だ」

「あなたらしくない話ね」

 

 ああ、本当に俺らしくない話だ。結局彼女は医療オペレーターとして残る道を選んだ。ケアの為に彼女と同郷のオペレーター達に気に掛けてもらうよう頼んだが、その効果は雀の涙だろう。そして、その結果に俺自身が後悔と反省が止まらない。

 

「何よりあなたらしくないのは、あなた自身逃げるように仕事してることよ。誤魔化してないでさっさと頭痛くなるまで考えて寝なさい」

「無茶なこと言うな」

「強情ね。その椅子どきなさい」

「うおっ!?」

 

 半ば強引に椅子から引きずり降ろされる。空いた椅子にはそのままフィアメッタが座って俺の代わりにペンを握った。

 

「私が仕事変わってあげるから今すぐ休むことね。抵抗できなかった時点で、限界なのは自分でも分かってるでしょ。安心しなさい、ラテラーノ人は書類仕事には慣れてるの。不意に爆破したくなった時、書くのに時間を掛けたくないから」

「好き勝手なこと言いやがる」

「ここで言い合っても、仕事が終わる時間が後ろ倒しになっていくだけよ」

 

 理不尽な物言いだが、こいつなりに気を使ってくれていることは分かった。いくらなんでも不器用過ぎるだろ。だけど、それをはねつけられる程余裕が残ってないことは、自分で一番分かっていた。

 

「……仮眠取ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 仮眠室に向かう足取りは重い。

 

 ああ、俺ってこんなに追い詰められてたんだな。気が付かなかった。




【コードネーム】カンレイ
【性別】男

【種族】鬼

【出身】極東

【戦闘経験】8年

【誕生日】4月3日

【身長】189cm

【鉱石病】
造影検査の結果、臓器の輪郭は不明瞭で異常陰影も認められる。循環器系源石顆粒検査の結果においても、同じく鉱石病の兆候が認められる。以上の結果から、鉱石病感染者と判定。

【源石融合率】7%
体表に鉱石病の症状は見られない。

【血液中源石密度】0.18μ/L
血液中源石密度は比較的低い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。