苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case5:酒飲みのフェスティバル

 ロドスアイランドには参加してはいけない催しが幾つかある。

 

 有名なものでは"エクシアのパーティ"があげられるだろう。

 ペンギン急便の面子がメインメンバーで毎日のように行われるパーティ。一度参加すれば踊り疲れて気を失うまで付き合わされる。彼女と関わりの薄い人間程、押しの強さに流されてどんどん逃げられなくなってトラウマになること請け合いだ。エクシアのノリについていける稀有な人間でも、毎度振る舞われるアップルパイで健康面に多大なるダメージを受けるらしい。唯一の救いといえばそのアップルパイが美味だという点か。以前大量に持ち帰らされたフィアメッタから一つ分けてもらったが確かに美味だった。仕事が忙しくなくて、月イチくらいなら参加しても良いんだけどな。

 

 後は"ワルファリンの献血会"というものもある。吸血鬼(ブラッドブルード)への協力を名目にして不定期に開かれるのだが、時折無事に帰ってこない人がいる。一度捕まったが最後手術台に磔にされ一生を実験素材にされてしまうのだ。これも真実でワルファリンは何度か人を攫った前科がある。特殊な性質を持つ人が特に被害にあっているらしい。たいていは先生か俺が乱入してワルファリンを縛り上げて終わりになるが、危険度で言えばかなり高い方だろう。

 

 他にも"毒の調合会"だの"感染生物愛好会"だの"爆破を愛する集い"だの噂にしては実害出まくりの催しの中に、"鬼の酒盛り"というものがある。夜な夜な行われる鬼たちの飲み会では、参加者に毎回アルコール中毒で死者が出るとか瓶に詰められて酒にされるとかこれも散々な風評が流れている。

 参加者の自分から言わせてもらえば、当たらずとも遠からず、と言ったところだろう。

 

□tips□

 

「よう、今度の休み前暇か?」

 

 仕事場にやってきたのは行動隊A4に所属する重装オペレーターのノイルホーンだ。同じ極東出身の鬼ということもあり、ロドスでは比較的仲の良い部類に入るだろう。

 

「飲み会か?」

「おう。最近忙しくなってたけど久々に時間が取れそうだからな。とりあえずヤトウとホシグマは参加確認できたからお前はどうだ」

「あー……次の休み前は空いてるな。オーケー、いい酒は仕入れてるか?」

「任務で炎国行った時にな。つまみはいつも通り各自持ち寄りで」

「酒もな。俺もこの間ラテラーノで買ったワインがあるから持っていくわ」

 

 炎国酒とワインじゃテイストが違うが、誰も彼もチャンポン好きの呑兵衛だから大丈夫だろう。細かい段取りを決めて解散、というところでまたドアが開かれる。

 

「カンレイ、この漫画の続き……って、先客が居たのね」

「ああ、アンタはカンレイと時々一緒に居る……えーと」

「フィアメッタよ。あなたの名前は覚えていないわね。教えてもらっても良い?」

「行動隊A4のノイルホーンだ」

 

 名乗り合っているのを聞いてそういえば面識が無かったのかと気付く。三百人以上を抱える規模で、そのオペレーターの殆どが任務で出払っているのだから、むしろ全員を把握している方が珍しいといえばそうなのだが。ドクターだって、別々の国の事務所に駐在しているオペレーターの名前までは把握していないだろう。まあ先生とCEOと、人事課の一部くらいか。

 

「ノイルホーンね。何の話してたの?」

「ん、こいつを飲み会に誘ってたんだよ。ほら、こいつロドスの飲み会とかあんまり参加しないだろ。だけど酒飲むのは好きだから、仲良いので集まって飲んでんだよ」

「だってロドスの飲み会に行ったら無礼講じゃ済まない大物か、関わるだけ損ばかりの厄介者に絡まれるじゃねえか。ブレイズに散々酒飲まされて、挙句の果てに潰れた奴の面倒見させられるんだぞ。しかも酔っ払ったクロージャに変な装置つけられるわ、ワルファリンに変な薬刺されそうになるわ」

「流石に今はだいぶ落ち着いてる……と思いたいな」

 

 疑問形の時点でアウトだと思う。

 

「ふぅん……飲み会、ね。それって私が参加しても良い?」

「は?」

 

 いきなり何を言い出すのかこの馬鹿は。とうのフィアメッタは興味があるのか無いのか分からない顔で俺を指差す。

 

「確かに言われてみればこいつが酔ってるとこ見たことないのよ。そもそもお酒飲んでるのも見ないし。こいつの潰れた姿を見られる機会は珍しいわ」

「性格悪いなお前……別に悪いってわけじゃねえけど、やめといた方が良いぞ」

「へえ? あなたが私に()()するなんて珍しいわね」

「忠告だと理解してくれて俺は嬉しいよ。で、分かるんだったら聞いてくれるとより嬉しいな。酔い潰れた奴の面倒見たくない」

「別に自分のペースくらい自分で管理できるわよ。ラテラーノ人だから自制が効かないと思っているの? 悪いけどそれで自分を忘れるのはサンクタだけよ」

「別にお前がパーティ狂いのサンクタだろうと、礼儀にうるさいクランタだろうと同じ忠告をするだろうさ。人が死地に向かうと分かっていて見過ごすような冷血漢がロドスに居ると思うか?」

「ムカつくわねその言い草。人を死に急ぎみたいに思うのはやめてちょうだい」

「死に急ぎだから言ってるんだよ」

「そう、じゃあどっちが本当の死に急ぎなのか今から確かめてあげるわ」

「眼の前で喧嘩するのはやめろよお前ら……」

 

 ノイルホーンが仮面を抱えている。いや、困ってないでお前も一緒になって止めろよ。ロドス内部で死人を出したいのか。

 

「俺はホシグマから逃げられる可能性が高まるから人が増えるのは歓迎だぞ」

「鬼か」

「参加者全員鬼だろうが」

 

 いやそうだけど。俺とノイルホーンとヤトウとグマさん、マトイマルだもんな。あと一人増えたくらいじゃグマさん止まらないだろ。毎回俺以外全員潰してけらけら笑って帰っていくんだから。あの人が潰れてんの見たことないぞ。

 

「で、いつなの?」

「マジでお前の面倒はお前で見ろよ……」

「過剰に心配するのはやめて」

「んじゃ、結局来るってことで良いんだな。他に呼びたい奴いるか?」

「待て待て、会議室の広さじゃそんなに人は入らねえだろ。百歩譲ってこいつは諦めるにしても他が混ざるのは御免だ。お前らはすっかり出来上がって眠りこけてるから良いかもしれないけどな。後始末するのは俺の仕事なんだぜ」

 

 楽観視ばかりのノイルホーンに詰め寄る。何が悲しくて不特定多数の吐瀉物を処理しなきゃならんのだ。

 

「分かった分かったって。つーか、他の参加はそんな勢いで拒絶するのに、フィアメッタには()()なんだな」

「あ?」

「睨むなって……」

「こいつは言えば言う程強情になるから下手に出てやっただけだよ」

「ふーん、ま、別に良いけどよ。じゃ、俺はこの後任務があるから。酒と肴忘れるなよ」

「おい」

 

 制止も虚しくノイルホーンが部屋を出ていく。まったくなんで都合の悪い時に誘いに来やがったんだあいつは。逆か、フィアメッタの奴、なんでこのタイミングで入ってきたと謗るべきか。

 

「持ち寄りなの?」

「まあお前が用意する必要はねえよ。それより、どうしても来るってんなら幾つか言っとくぞ」

 

 もう追い出すわけにもいかないから、せめて被害が小さく収まってほしい。

 

「酒はできるだけゆっくり飲め。間違ってもグラスを空にするな。グマさんからは常に離れた席を陣取れ。あとゲロ袋は忘れんなよ。会議室を汚したら多方面から怒られるからな」

「ねえ、ほんとに心配し過ぎじゃないの」

「本番の日にお前が同じことが言えるのを俺も願ってるよ」

 

 間違いなくあり得ないだろうが。俺はゆっくりと天を仰いだ。




【個人履歴】
ロドスの後方支援部にある重大な課の一つ、人事課を統括する責任者。多くのオペレーターの人事に関わる役職であり、彼自身は職員のプロファイルをほぼ全て記憶している。任務におけるオペレーターの派遣も担当しており、各地方に置かれたロドス事務所の連携も支援している。
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