苦難の陳述者?ふざけた名前だな!   作:人事プロファイル

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Case7:二日酔いにはスープ

 俺の仕事部屋は仮眠室とそのまま繋がっている。軽食を作るためのキッチンも汗を流す為のシャワー室もある、一つの家と言ってもいいだろう。自分の個室もあるのだが、眠るときにしか帰っていないので、この仮眠室が俺の部屋と言っても良いだろう。クロージャには「カンレイだけ部屋が二つもあってずるい」と言われたものだが。

 

 キッチンでレトルトのスープカップを二つ手に取る。塩で軽く味付けしてあるだけの簡素なものだ。一つにはポットから熱湯を注いで蓋をした。もう一つは、そろそろ起きてくる奴が飲むだろう。

 

 出来上がったスープを飲みながら新聞を読む。微妙な味だ。安いからと試しに買った奴だがどうやら外れだったらしい。次買うことは無いだろうな。レトルトは当たり外れが多くて楽しくもあるが、時々自分で作った方が良い出来になるんじゃないかという気分にもなる。

 新聞には近頃感染者集団の活動が活発になっているという注意喚起が載っていた。レユニオンみたいなことは早々起こらないだろうが、こういうテロリスト紛いが暴れるとより感染者への弾圧は強くなる。上手いこと橋渡しが出来たなら、とCEOは胸を痛めていることだろう。

 

 仮眠室のベッドから物音がする。やっと起きてきた頃か。椅子に腰掛けて、音の主がやってくるのを待つ。

 

「う……ここ、どこ。頭痛い」

「すっかり二日酔いだな寝坊助。自制できるって散々強がっておいてこのザマなんだが反省の言葉は?」

「カンレイ……」

 

 まだ寝起きで開ききっていなかった目がみるみる大きくなっていく。口をぱくぱくと動かして俺を指差した後、声にならない悲鳴をあげる。頭痛が酷くなったのか表情を歪ませてうずくまった。顔が耳まで、自身の髪色みたいに真っ赤になっている。

 

「え、え? カンレイの部屋?」

「仮眠室な。お前が入ったのはこれが初めてだが」

「な、なんで? 確か、飲み会に参加して、お酒が美味しくて……」

「そんで飲み潰れて宴も半ばで眠りこけたんだ。思い出したか?」

 

 うずくまったまま頷いて、上目遣いにこちらを見上げてくる。

 

「変なこと、してないよね」

「それはお前が、か?」

「あなたが、よ! 眠っているのを良いことに部屋に連れ込んで……」

「人をナンパ男みたいに言うんじゃねえよ」

 

 むしろ俺は止めたほうだから。グマさんの酒には付き合うなって忠告したにも関わらず好き勝手飲んだのはこいつの方だ。

 

「仕方ないだろ。お前の部屋に投げ込もうにもパスワード知らないし。言っとくけどベッドに寝かせた以外は何もしてないぞ。お前こそベッドで吐いたりしてないだろうな。クリーニング代経費で落ちないだろうから、その分弁償してもらうからな」

「そんなことしてないわよ……う、頭いた……」

 

 まだアルコール抜けきってないのに騒ぐからだ。ため息を吐いてもう一つのカップを準備する。それと水ももう少し飲ませた方が良いか。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して来客用のグラスに注いだ。

 

「スープは三分な」

「ありがと……んっ」

 

 水を飲むと少しは楽になったのか、向かいの椅子に座る。来客用とは言ったものの、仮眠室に人がやってくることなんて滅多に無いので、埃すら被っていないレベルだ。

 

「うわ、恥ずかしい。もしかして途中で抜けたのって私だけなの」

「潰れたのはもっと居るけどな。お前運んだ後戻ったら、グマさんが制御効かなくなってたし」

「それにしてはカンレイ、あなたは元気そうね」

「あーまあ、別に隠してるわけでもないし言ってもいいか」

 

 広めてほしいわけでもないんだけどな。

 

「俺、酔わないんだよ。そういうアーツなの」

「酔わないアーツって限定的すぎない?」

「いや実際はもう少し範囲広いけど」

 

 簡単に言えば、俺のアーツは解毒(デトックス)だ。体に悪影響のあるものを即座に分解して無毒化することが出来る。鉱石病には無力だし、他人にも使えないけどな。危険な地域での救助活動なんかでは便利なアーツだ。

 

「だから毒は効かないし、一部のアーツも無効化することが出来る。アルコールもその一種なわけだな」

「……最初から言ってくれれば」

「別に広めたい訳じゃないし。どうせ言っても聞かねえだろ」

 

 それに、アーツで酔わないとは言ったが。アーツを使ったとは言ってない。悪いけど、素でもグマさん以外には負ける気がしない。

 

 ピピピと音が鳴る。フィアメッタの分のスープが出来たようだ。タイマーを止めてカップを彼女の前に置く。

 

「火傷するなよ」

「うん」

 

 恐る恐る口をつけて、ゆっくりとすする。半分程飲むと、顔色もだいぶ良くなった。

 

「……微妙ね」

「レトルトだからな。そこは文句言うな」

「あなた、自炊したりしないの?」

「昔はやってたこともあるんだがな。仕事が忙しかったりすると、こういうレトルト食品の方が管理もしやすいし安上がりなんだ。毎回食堂に行くのも手間だしな」

「栄養バランス偏るわよ」

「お前は俺の母親か? 別に体調崩す程にはならねえよ」

「そう……ねえ、もう一つだけ聞いて良い?」

「なんだ?」

「あなた、ロドスに来る前に何かあったの?」

 

 言葉を詰まらせた。突拍子も無い質問だった。どうして、と思い起こす中で、昨日グマさんに言われた言葉を思い出す。

 

──"それとも、自分の過去を顧みて彼女と今以上に深く関わることを嫌がっているのか"

 

 あの時、起きていたのか。すっかり眠っていると思っていたから気が抜けていた。こいつが夢見心地だったのは間違いない。どんな会話の流れだったかなど、きっと覚えてはいないだろう。誤魔化すことだって出来る。だけど

 

──"私、迂遠な言葉で煙に巻かれるのが一番嫌いなの"

 

 そう言われたのはいつだったか。フィアメッタの事情は完全ではないにしろ聞いている。ラテラーノの部隊に居た彼女は、自分が少し離れた間に仲間割れを起こした。一人は姿をくらまし、一人はサンクタとして堕天し、一人は一生残る大怪我を負った。その原因は誰にも分からない。もしくは当人達は分かっているのだろうが。

 

「……あんま、人に話したいことじゃない」

「そう。じゃあ忘れてちょうだい」

「思ったより簡単に引き下がるんだな。俺はこれからどうやって説得するか考えていたんだが」

「煙に巻かれるんだったら怒ったけど。素直にそう言われたら何も言えないわよ。ロドスに居る人の中には、脛に傷持ってる人が居ることだって分かってるもの。それとも追求してほしかったの? だったらそれこそ迂遠過ぎる言い回しね。付き合ってあげる程私も暇じゃないわ」

「……それもそうだな。なんだ二日酔いにしては随分元気じゃないか」

「結構辛いわよ……今日はもう一日中動けないかも。汗かいちゃったしシャワーも浴びたいわ」

「そういうのは自分の部屋でやってくれ。まさか腰が抜けて歩けないなんてことはないだろ。そうだったとしてもむりやり帰ってもらうけど。これから仕事なんだ、手伝いもしない奴の面倒なんて見てられない」

「分かってるわよ。これ飲んだら帰るわ」

 

 残りのスープを流し込む。グラスをつつかれたので代わりの水をいれてやる。こいつ今俺のこと顎で使いやがった。

 

「でも、そうね。一つお願いしても良い? いつか、あなたの覚悟が出来たときで良いから、あなたの過去、教えてちょうだい。解決が必要な事柄なら、手伝うわ」

 

 解決か。俺からすればもう終わったことだ。だけど、いつまでも追いかけてくる、捕まってはいけない過去だ。フィアメッタに出来ることなんて何もない。そう思ったのに、口は勝手に動いていた。

 

「ああ、その時は頼むよ」




【第二資料】
カンレイのアーツは自身の体内にある毒性を排出することが出来る。鬼が種族として持つ強靭な肉体と回復能力が組み合わさることによって、戦場における彼は一騎当千の働きを見せるだろう。また、毒性ガスが充満しているテロ被害地や火災現場での救助活動にも大きな役割を果たしてくれる。
しかし、彼は戦闘オペレーターとして前線に出ることを酷く嫌がる。それは他者と連携を取らなければならない状況が苦痛だからだとカンレイ自身は述べているが、彼が協調性を持ち、集団行動が得意な人員であることは火を見るよりも明らかだ。本当の理由について、彼は黙秘権を行使している。
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