シリアスは今回を終えれば残りは『ゼーリエ絡み』と『ソリテール戦』と『もう一つ』で終了の予定です。
(第九話投稿時点追記:ゼーリエ絡みのシリアスについては本編中ではカットすることになりました)
「──さて、話をしようか」
「……あぁ、構わないよ。だけどその前に」
北側諸国、某所。洋館。
マハトとキュゥべえは、円卓を挟んで向かい合っていた。
「折角用意して貰ったのに悪いんだけど、コレは下げてくれないかな」
「ふむ。理由は?」
「ボクは人を口にしないと決めているんだ。血の一滴だろうと、ね」
「そうか。では下げよう」
二人の前には、茶器が置かれていた。その中身は、『時間の経った鮮血』だった。
「……血液を凝固させない魔法、か。マハト、キミが作ったのかい?」
「あぁ、その通りだ」
「どうしてそんなものを?」
──魔族は保存食を作らない。腹が減ったら狩りをすればいいし、満腹でも、人を見つけたら殺す。そういう野蛮な種族であるからだ。
故に『血液を保存する魔法』なんて、
では何故、彼はそんな魔法を作ったのか。
「感銘を受けたんだ。お前達、インキュベーターの生態に」
「……感銘、ねぇ」
「そうだ。俺はお前達に敬意すら抱いている。種族としては既に絶滅してしまっているのが残念でならない」
「滅ぼしたのはキミ達だけどね」
「不本意だった。俺は今も昔も、可能なら誰とも争いたくないと思っている」
その点『インキュベーター』という種族の食性は、
──ただ一人を丁寧に育て上げ、端から端まで喰らい尽くす。
それを知った時、彼は思った。
〝なんということだ。
食事をする度、余計な争いが生じる。ならば『食事の回数を減らせばいい』のだ、と。
彼はそれから、無益な殺生をしなくなった。
殺した命は、須く糧とするようになった。そのための魔法も作った。
──
「……難儀な奴だね、キミは。度し難い」
「──あぁ、
何故お前は、俺に『憐憫』を向ける? 『それ』は自分より弱い相手に向ける感情の筈だ。俺はお前より強い」
彼はインキュベーターについて調べる過程で、シュラハトにも話を聞いている。
──つまりキュゥべえの不死性を突破する方法も、魔力が突然増えていた理由も、既に把握しているのだ。
「……マハト。どうして人間より遥かに強い筈の魔族が、未だに彼らを滅ぼせていないのか……分かるかい?」
「分からない。その答えが、俺の質問に対する解になるのか?」
「そうだ。
──答えはね、『人間は強い〝共感性〟を持つ生き物だから』だ」
「……? 答えになっているのか? それは」
マハトとて、知識としてそれは知っている。
今の魔王軍が、『魔族』が曲がりなりにも『軍』として纏まっているのは、あくまで『共存』を好む魔王の方針があるからだ。それが無ければ、魔族は本当に『支配』『隷属』による『最低限の群れ』しか構築できなくなる。
──しかし人間は違う。
彼らは無条件で協力することがある。その不可解な『無条件』に当て嵌まるものが『互いを〝同じ〟と認識すること』『即ち〝共感〟』であると、
そして一般的に『数』というものは、存外に侮れないらしいと……彼は知っている。
「あぁ、これが答えだ。
キミはこれから、強い後悔に苛まれて生きることになるだろう。ボクはそれが、自分のことのように辛い」
「解らないな。
俺が後悔する理由も、お前がそれを気に病む
「キミはボクだ。『
「何を言っているのか解らない。俺はお前じゃないし、お前がその魔法を持たずに産まれたとしても、お前が俺になることはない」
「この言葉が理解できるようになった時、キミの後悔は始まる」
「…………確認だ。『相手を理解したいと思う』こと。これは『好意』か?」
「そうだね」
「では、『そんなもの理解したくないと思う』こと──これが『悪意』か?」
「うーん……まぁ、間違いではないかな」
「そうか……これが『悪意』か。初めての感覚だ」
「なんだか勘違いしてそうで怖いから言っておくけれど、それがイコールで『悪意』を全て表現できるワケじゃあないからね?」
「…………やはり、か……。
『殺意』は解る。『怒り』も解る。
だが『憎しみ』になると、何かがズレる。俺は憎しみを実感したことがあるにも関わらず、何故か人間の『憎しみ』とは完全に等しくならない。
そして……『悪意』になると、もう何もわからない。『
「その割に、楽しそうだね」
「足がかりが掴めたからな。探究し、知見を深めるのは楽しい。魔族の
「そっか。
──それで、話はおしまいかい?」
「いや、まだだな。一つ頼みがある」
「……聞くだけ聞いておこうか」
「──俺の『友』になってくれないか?」
「…………断る。ボクはキミを殺して、フリーレンの元へ帰らなきゃいけないからね。
それに──」
「それに?」
「たぶんこれが……度し難いキミに対し、ボクができる……最大限の『救い』だと思うからね」
「なら少し、待ってくれないか? 期限を決めて、待つだけでいい。殺し合いは俺としても望むところだが、折角なら『友』になった後にしたい」
「………………なぜに???」
「『罪悪感』を知りたいんだ。親しい友を殺せば解るかと思ったが、生憎俺には『友』と呼べる者がいなくてな」
「…………そのために、友達を作ろうと?」
「あぁ」
「わけがわからないよ」
「別に、問題無いだろう? 『友』というのは、『時間をかけて互いに分かり合っていくもの』だと聞いているが」
「あーうんそうだね……。
はぁ……もういいや。毒気が抜かれた。
それで? 期限ってのはいつまでなんだい?」
「恥ずかしながら、俺は『どの程度一緒に居れば友と呼べるのか』知らん。お前はどの程度が相場だと思う?」
「いや、人によっては本気で『出会って話せばもう友達』って言うからなぁ……その場合ボク達は既に友達ってことになるけど」
「むぅ……いや、言葉が足りなかったか? 俺が欲しいのは『親しい友』だ。お前はどの程度一緒に居れば、その相手と親しくなったと思える?」
「うーん……どのくらい、ねぇ……? 相手によるとしか……てかボク自身『親しい友』なんてフリーレンしかいないから、こういう『時間感覚』アテにならないんだよね……」
「なら、あのエルフと同じくらいでいい」
「…………それだと五百年になるんだけど」
「構わん」
「えぇ……」
「これからよろしく頼むぞ、キュゥべえ」
「お、おう……。
…………たぶんこれでボクを殺しても、抱く感情は『罪悪感』じゃなくて『
「何か言ったか?」
「……いいや、気にしないでくれ」
「そうか」
「…………フリーレンと波長だけは似てるね、このポンコツは」