勇者ヒンメルの死──その約六十年前。
ヒンメル・ハイター・アイゼンの三人は、エルフの魔法使いフリーレンと激闘を繰り広げ、その果てに互いの実力を認め合い……共に冒険をする
その過程で幾度となく彼らは助け合い、絆を深めていったワケだが……。
「なぁハイター、フリーレンの『親友』について……どう思う?」
「…………『どう』とだけ言われましてもね。具体的には?」
「
「……珍しいですね。貴方が他者を疑うとは……」
時刻は正午過ぎ。宿屋の一室にて。
ようやっと起き出して食事を済ませ、魔導書を漁りに外へ出たフリーレンを見送り──その隙にヒンメルは、ハイターと密談を行っていた。
「らしくないのは解ってる。だが、
「……そうですね。正直、私も常々『怪しい』とは思っていましたが……
「…………やっぱりお前も、そう思うか」
「えぇ。おそらく、彼女の『親友』は──」
「──『男』、なのか……ッ!」
「そうオト、え?」
「え??」
「ス──……ヒンメル? アナタ一体何の話をしているんですか?」
「決まっているだろう。フリーレンと彼女の『親友』が恋仲だったのかどうか──」
「本人に聞いてきてください」
そして溜め息と共に『時間を無駄にしました』と吐き捨て、ハイターは席を立った。
「まぁ待てハイター。お前が言いかけたことも、分かっている。
──
「……分かっていたなら、茶化さないでください」
ハイターは表情を引き締め、再び着席する。
「私の『魔法使い』としての知識は『素人に毛が生えた程度』ではありますが……それでも分かる。彼女の扱う魔法には、明らかに魔族の技術が取り入れられています」
「──で?」
「『で?』ってアナタ……」
「どうでもいいだろう、そんなこと。ハイターだって、『フリーレンがいつか裏切るかもしれない』──なんて考えてるワケじゃないんだろう?」
「それは、そうですが……」
「それにこれは『疑惑』だ。確たる証拠があるワケじゃない」
「……人は空を飛べません。常識です」
この世の空は、魔族と魔獣の独壇場だ。
──しかしフリーレンは、飛行魔法を使うことができる。
彼女はそれを『親友に習った』と言うのだ。
「だとしても、あれだけ魔族という種族そのものを嫌っている彼女が……本当に魔族を『親友』と呼ぶか?」
「…………そこ、なんですよねぇ……」
勇者一行は、以前魔族の襲撃から村を救ったことがある。
その際最後に生き残った魔族は──少女だった。
ヒンメルは、少女を殺せなかった。村長は、少女を受け入れた。
だがフリーレンは、徹頭徹尾『今すぐ殺すべきだ』と主張し続けた。
──ある日、村長の家で火事が起こった。
村長は、少女の手で殺されたのだ。遺体には明らかに、他殺の傷跡があった。その上で確実に葬るために、家まで焼いたのだ。
しかし村長の娘は、無事だった。それは何故か?
少女は言った。
『自分が食べてしまった娘の代わりを用意しました』と。
『親子』というものをまるで理解していない彼女の言動で、勇者一行と村人達は、ようやっと『魔族』という種族が『どういう存在』か理解した。
──不幸中の幸いと言うべきは、そこにフリーレンが居合わせたこと。
フリーレンは分身を用いて魔族の少女を常時監視。卓越した魔力隠蔽により、気付かれず潜伏。
その時ヒンメル達は、村長が生きていたことに安堵しつつも──フリーレンの周到さに、魔族への根深い憎悪を垣間見て……身震いした。
「『魔族は
「──『インキュベーターに心が芽生えたと言われた方が、余程信じられる』
「なら、彼女の親友は魔族じゃない。ただ『ちょっと特殊な魔法を沢山使えるだけのエルフ』だ」
「…………そうですね。そう思っておきましょう」
「──さて。じゃあハイターも納得してくれたところで、本題に戻ろうか」
「待ってください本気でそっちが本題だったんですか?
「そう言うと思って──。
用意しておいたぞ」
「……安酒じゃないですか」
「昼から飲みに付き合ってやるんだ。大目に見ろ」
「割に合いませんね……」
*
「──しかし実際、どっちなんですかねぇ? 捜索のために『どういう方か』と聞いた際の答えが、『小さくて可愛い』だったワケですが」
「だが『それを本人に言うと怒る』って話だろう? 僕も小さい頃はよく『可愛い』と言われて怒っていたものさ」
「他に分かっていることは、『口煩いけどその分賑やかで面倒見がいい』『昔はさておき、まだ生きているなら
……性格面はさておき、正直『
「ハイター。それは単に『
「…………クヴァールとの戦いで、我々は彼女の足手纏いでした。それが何を意味するか、解っているでしょう?」
「フリーレンも言っていただろう。アレは相性の問題だ。必要以上に気負うな」
「……そうですね」
「まぁ僕も、フリーレンが『密かに想いを寄せている男の強さに幻想を抱く乙女』だった場合のことを考えたくないって願望はあるけどね」
「一瞬でもアナタに『リーダーの風格』を覚えた私の感慨を返してくれます?」
「うぅ……自分のイケメンさが憎い……あの頃の可愛さを取り戻したい……」
「はいそこ、贅沢を言わないでください。それに、フリーレンの好みが可愛い系と確定したワケでもないんですから」
「なんだよぉ……『仮に街で擦れ違ったとして、私以外じゃ気付けない』って……」
「別に
「ア゛ァ 〜……」
「ハイハイ、水飲んでくださいねー」
「…………どういう状況コレ」「何があった」
「あぁ、帰ったんですね二人共。
すみません。お酒を片手に、ヒンメルの相談に乗っていたのですが……止められませんでした」
「お前が介抱に回ることを想定して飲むとはな……どんな勢いで呑んでたんだ、ヒンメルは」
「……『相談』って、何の話をしてたの?」
「秘密です。僧侶には守秘義務がありますので」
「生臭坊主でも、そこはしっかり守るんだね」
「ハッハッハ」
……え、『これはシリアスじゃないのか』ですって?
心外ですねぇ。村長救済込みのほのぼのしたヒンフリだったじゃあないですか(震え声)