中央諸国。某所。農家にて。
耕された広大な畑の中で、『フリーレンの姿を借りたキュゥべえ』と『角だけ透明にしたマハト』は、雑草抜きの依頼を受けていた。
「……キュゥべえ、
「『ナヅナ』だね。別名『ペンペン花』」
「いや、そうではなく」
「どうして
「それは解った。確かにコレは魔法で短縮したくもなる。
しかしそもそも、何故雑草なんぞを引き抜く必要がある?」
「土の中にある水分や栄養は限られているからね。雑草の成長に使われちゃうと、目的の作物にそれが行き渡らないんだ」
「なるほど。……しかしこの気配だと、またすぐに生えてくるんじゃないか?」
「うん、生えてくるね。だから最低でも年に二回、こうやって大規模な草むしりをするんだよ。……まぁ本当にむしり取っちゃうと根が残るから、あんまり良くないんだけどね」
「そうか。……依頼があれだけあるワケだ」
それから二人は、再び黙々と雑草を引き抜く作業に戻った。
(…………これが、人の『食事』か)
『──さて。〝友〟になったはいいが……これからどうする?』
『互いを知るんだろう? ならまずお話の続きだ。マハトは普段何をしてるの? 魔王軍としての活動以外で』
『……魔法の研究と人間観察は、魔王軍の活動に入ると思うか?』
『…………じゃあボク流の魔法研究と人間観察を知って貰って、それから判断しようか』
『──というワケで来ました。こちらが最寄りの魔導書店となっております』
『ふむ』
『こちらの袋が予算となっております』
『……これは、人間が好んで収集する〝貨幣〟〝カネ〟とやらか』
『そうだね。彼ら彼女らにとっては、ソレをどれだけ持っているか──つまり〝財産〟が、
『らしいな。時折、命よりもソレを優先する者さえ見る。俺には理解できないが……』
『そうだね。そこはボクも同意だ。
──まぁそれはともかく、今日はコレで魔導書を買います』
『そうか。なら俺は
『いやいや、キミもキミが読みたいものを選んで買うんだよ』
『…………ここから研究題材を選べ、と』
『そうだけど、そこまで重く考えなくていいよ? 研究題材は多い方が良い。それがボク流なんだ。
だからコレは、この先何度も繰り返す歩み。その一歩目に過ぎない』
『──で、キミは何を選んだのかな……?
…………〝雑草だけを根っこから綺麗に引き抜く魔法〟か……さてはキミ、店にある魔法の中で一番難しいヤツを店員さんに聞いて選んだな?』
『何か問題が?』
『いや? むしろ想定以上にイイものを選んでくれた。
『ほぅ? 所詮人間用の術式と侮っていたが、それほどか』
『いや、技術的な問題じゃなくてさ。
──キミ、〝雑草〟が何か解ってないだろ』
そうして(気候や獣害の脅威度の関係で)北側諸国より農業が
「……割に合わないな。コレを一瞬で台無しにする方法なら、いくらでも思いつくが……」
「全てを育て切る方法は思い付かない、かい?」
「あぁ」
「実際無理だよ。少なくとも、今ある技術ではね」
「…………〝畑〟か。暇潰しの研究としては、存外に面白そうだ」
「……やっぱりね」
「何がだ?」
「キミは自然と奪うことを考えながら──同時に守ることも考えている。そっちの方が性に合っているんだ」
「……単に難しい方が退屈しないと思っているだけだが」
「──ディーアゴルゼ。キミの固有魔法」
「……それがどうした?」
「キミの黄金は、不滅だ。あらゆる暴力が無力と化し、経年劣化すらしない」
「……何が言いたい?」
「作物ってのは豊作過ぎてもいけなくてね。腐る前に廃棄しないといけない場合もままある。
──キミの魔法があれば、その問題は解決されるんだ。しかも乱雑に保管していたって、害獣が寄ってくることすらない」
「害獣の俺が害獣から作物を守るか……皮肉だな」
「キミの魔法は〝不殺〟の力だ。害獣にしておくには、優し過ぎる」
「…………守るために同族を殺すのは、優しいことか?」
「罪悪感が湧いたかい?」
「いや。きっと俺は、無感動に
「でも『例外』を作るために、こうしてボクと此処に居るんだろう?
──五百年後が楽しみだね。憂鬱でもあるけど」
「…………お前は不思議だな。人間より合理的で解りやすいかと思えば、突然明らかに矛盾したことも言う。
──そしてその『矛盾』が、何故か心を揺さぶるんだ」
「…………キュッップぃ……このクソ真面目め。この調子だと
「……? あぁ」
「ナヅナは雑草だけど、食用にもなる。そして──」
キュゥべえは、自分の頭を指差した。
──するとマハトは、己の頭上に『何か』が乗せられたことに気付いた。
「一面に咲かせると、結構綺麗なんだよね……その花。だから花冠にしても、そこそこ映える。
──『自分は何者か』 答えは一つじゃない。皆、持ち得る選択肢の中から……好きなものを選び取って生きているんだ。
キミはまだ『悪』を知らない。同じように『善』も知らない。
それを知った時、過去を振り返るのはやめておくことをオススメするよ。キミは、
「…………わかった。覚えておこう。
……しかし、困ったな」
「どうしたんだい?」
「魔法はイメージの世界だ。
────どうやら俺は、この花を『雑草』とは思えなくなってしまったらしい」
「…………困ったな。本当に」