キュップぃ、ボクわるい魔獣じゃないよ   作:しやぶ

18 / 23
消えてくれ(『黄金』の記憶5)

 

 昔々、あるところで──戦争がありました。

 人が死にました。人以外も死にました。沢山沢山死にました。その何倍もの生物が、建物が、いろんなものが傷付きました。

 

 ()()は、それが許せなかったのです。絶対に絶対に、我慢ならなかったのです。

 

 彼女はとても『耳がよかった』ので、大勢の悲鳴が聞こえました。

 彼女はとても『目がよかった』ので、沢山の悲劇が視界に入りました。

 

 彼女はとても『足がはやかった』ので、戦場を駆け回りました。

 彼女はとても『腕がいい』魔法使いなので、誰にも負けませんでした。

 

 その強大な魔力で彼女は、『わるい人』をやっつけました。沢山沢山やっつけました。

 人を癒す魔法は使えなかったけれど、それでも傷つく人を減らしたくて……『誰かを傷つける人間』を、こらしめたのです。沢山沢山、こらしめたのです。

 

 その甲斐あって、戦争は終わりました。

 

 

 ──それから彼女は、『白い悪魔』と呼ばれるようになりました。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──空に、『怪物』が浮かんでいた。

 

 ソレには『ものを見る目が無く』『聞く耳を持たず』 不気味な笑いをこぼす口だけがあった。

 

 ソレには『先へ進むための足が無く』 代わりに巨大な歯車が、無意味に空転するのみだった。

 

 ソレは人間が纏うドレスのような衣装を身につけていたが……明らかに『人』ではなかった。──インキュベーターと同じリングがついている『側頭部の突起』を『耳』として見れば……顔だけは()()()()()()()()()()()()()()が。形状自体は()()()()()()()()()だろうか。

 

 何より異様であるのは、その『大きさ』だろう。

 

 体長約四百メートル*1。紅鏡竜が赤子に見えるほどの巨躯。

 そんなモノが曲がりなりにも『人の形』を取っているという違和感。そして()()

 

「──っ」

(身体が動かない……俺の魔法なら、魔力量の差なぞ大した問題ではないというのに……抵抗しようという気概が、削がれていく。『魔獣』としての本能が、奴に服従しているのか……)

 

「…………」

(シュラハトから、事前に『奴が出たら何もするな』と言われてはいましたが……コレは、言われるまでもありませんね……)

 

 

「──ねぇマハト。キミは昔、『劇は劇だ』と言ったよね。()()()()()()と、ボクは思うよ。

 演劇の中で何があっても、それは現実のことじゃない。悲劇であっても、それは『そういう演目』であるだけで……何も悲しいことはない。

 

 ────なら、()()()()()()()じゃないか。

 

 この世の全生物を宝石(ソウルジェム)に変えて、この身体に取り込んでしまえば……もう誰も死なない。産まれない。歴史はそこで止まって、全てが『過去の物語』になる。

 

 後はもう、全部喜劇でいい。悲劇は忘れて、楽しいことだけ残せばいい。そうすれば、今日も明日も明後日も──永久に、『宴の夜』が明けることはない。

 

 ボクは、ヴァルプルギスナハトは……それを実行するために生まれた魔獣だ。

 

 マハト、キミが望むなら──」

 

 

  破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)

 

 

 続きを遮るように、雷がキュゥべえを襲った。

 ──いや、実際に遮ったのだ。

 

「やめろ……頼むから、もうやめてくれ……()()()。それ以上、その口で妄言を喚き散らすな……。

 そんな世界、俺は望まない。そんな形で生きていたいとは思えない」

 

「じゃあキミは、現状(いまのまま)で幸せなのかい? 生きていて辛いと思ったことは、一度もないのかい?」

 

「お前が何を幸福と捉えるかは、お前の勝手だが……それを俺に押し付けるな」

 

「キミは、自分の固有魔法が何のために存在するか……考えたことはあるかい?

 キミの魔法には、全ての『形あるもの』を保存する力がある。そしてボクは、魂や記憶・技術といった『形のないもの』を保存することができる。

 ──つまりだ。キミとボクが手を組めば、この世の全てを保存することができる。

 わかるだろう? コレは天命だ。キミは、ボクと一緒に来る()()なんだよ」

 

「天命なんぞ知らん……俺の在り方を、勝手に決めるな……」

 

 

『──アハハハハハハ!!!!』

 

 

 彼の答えを受けて、『怪物』は……どこか満足そうに笑った。

 

 

()()()()()!!

 『できること』と『やりたいこと』は別でいいんだ!

 そしてこの世に、『()()()()()()』なんてのは存在しない!!

 

 ──ボクは『舞台装置の魔獣(ヴァルプルギスナハト)』であるより、『マハト(キミ)の友達』である『キュゥべえ』でありたい!

 

 キミはどうだ? これからどうしたい? ボクはボク自身の意志で、キミの意志を全力で尊重すると誓うよ」

 

「…………俺は」

 

 

「──そこまでだ」

 

 

 マハトの声を遮ったのは、シュラハトだった。

 

 

『フフッ』

 

「……いい度胸だね。死にたいのかい?」

「『(いな)』だ。私は死にたいとは思っていない。だが、度胸があるワケでもない。──ただ、()()()()()だけだ」

「何を?」

 

「お前が()()()()()()であるという事実をだ」

 

「ふぅん……? 凄い洞察力だね。さぞかし名のある大魔族なんだろうね──() まさか一撃でも耐えられると思っているのかい? このボクの攻撃に」

 

「いいや、お前は撃てない。お前は私の洞察力を警戒し、『回避不能な程の広範囲に大火力を撃とう』と考えているが……それではグラオザームを巻き込むからな」

 

 ──その直後、グラオザームが『黄金』になった。

 

「……これでいいか? キュゥべえ」

「うん、ありがとう。

 ──さて、これでもう撃てるようになったワケだけど?」

 

「残念だが、()()()()()()()()()()()だ」

 

「「!?」」

 

「ここで私を殺すのは構わないが……その場合、一生マハトの記憶は戻らない」

 

「…………キュゥべえ、」

 

「──それとこれも言っておこう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()未来視の力を持つアレから……お前達は逃げられない」

 

「…………ねぇ、マハト。もしかして、コイツって……」

「……あぁ。『全知』のシュラハト。俺に、インキュベーターを滅ぼすよう命じた奴だ」

 

──ッッ

 

「復讐したいなら、好きにすればいい。お前にはその権利も能力もある」

 

「…………消えてくれ」

 

「マハトは連れて行くが、構わないな?」

 

「…………」

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ。──では失礼する」

 

 

「……チクショウ」

 

 

 誰もいなくなったその場所で、彼はそう吐き捨てるしかなかった。

 

 グラオザームは、もう一度マハトの記憶を消すだろう。律儀に記憶を戻してやる義理がない。

 そしてキュゥべえは、南の勇者を救えない。友を、マハトを見殺しにできない。

 

 彼にできることは、いまから魔力を貯蓄する魔法(グリーフシード)で再び力を溜め直し──先の戦いに備えることだけだ。

 

 時間遡行に、分裂魔法(ドッペル)の使用。その他の消費もバカにならない。

 

「この魔法、消した時に魔力がちょっとでも返ってくるならなぁ……多少は使いものになるんだけど……」

 

 『怪物』が消えた空を眺めて、溜め息を一つ。

 実体のある分身を出す魔法(ロッソ・ファンタズマ)と違い時間や射程の制限が無いことを加味しても、彼の『分裂魔法(ドッペル)』は燃費が最悪だった。

 

「──まぁ、文句を言っても状況が改善するワケじゃなし。切り替えていこうか!!」

 

 

 彼と『黄金』の物語は、こうして一時幕を下ろした。

 

*1
初代ゴジラ及び2023年時点での最新ゴジラ(-1.0)の()()()()。ゴジラ基準でも大柄なシンゴジラと比較しても三倍以上デカい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。