キュップぃ、ボクわるい魔獣じゃないよ   作:しやぶ

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第一話:一緒に来てよ

 

 

 ──燃えていた。

 ボクが辿り着いた時には、エルフの集落は燃やされていた。

 

 放火。

 資源を奪うことが目的でないのなら、これほど効率的な虐殺方法はそうそう無い。機能美に溢れた、吐き気を催す下衆の所業。

 

 ……悲鳴は聞こえてこない。

 半分諦めながらも、確認のために魔力探知を行う。──すると予想を裏切って、生存者が見つかった。

 

「──何をしているんだい?」

 

 見つかったのは、エルフの女の子。波長からして魔族でないことは分かっていたけれど、偽装ではなかったようで一安心。

 

「……何をしてるように見える?」

「何もしていないように見えるね」

 

「そうだよ。私は何もしていない。……何も、できなかったんだよ。私が一番強かったのに」

 

 ……ここへ辿り着くまでに、大勢の遺体を見た。老若男女問わず、皆殺しだった。

 …………視界の端に映った、『食べかけの料理が入った食器』が……脳裏にこびりついている。

 

 彼らは当然、『今日が最悪の日になる』なんて……思ってもみなかったに違いない。

 

 だけど彼女は、仮にそんな『最悪の日』なんてものが訪れるのだとして……頭のどこかで、『自分が居れば大丈夫』と思っていたのだろう。自分には大切なものを守る力があると、無意識に信じていたのだろう。

 ──彼女には、そんな傲慢が許されるだけの魔力がある。彼女は、いままでボクが見てきたどんな魔族よりも強い。

 

 でもダメだった。全てが失われて、我が身一つだけが残った。何も守れやしなかった。

 

 ────それは、どれほど……どれほどまでに、()()()だろうか。

 

「でも、そんなところで座り込んでいたって……何も良いことは起こらないんじゃないかい?」

 

「構わないよ。もう何もかも、どうでもいいんだ」

 

「じゃあキミは、そこでそのまま野垂れ死ぬ気でいるんだね?」

 

「そうだよ。放っておいてくれ」

 

「でも、()()はそれを望んでいないように見える」

 

「…………彼ら?」

 

「じゃあ、キミにも見えるようにしてあげようか」

 

 

  ──〝魂を物質化する魔法(ソウルジェム)

 

 

 彼女に寄り添っていたエルフの霊達を、宝石に変えた。

 突然目の前に現れ、浮遊している二つの宝石を見て……彼女は目を丸くしている。そしてそれを、優しく包み込む形で手に取り──呟いた。

 

 

「お父さんと、お母さんの魔力だ……」

「二人はずっとキミの側に居て、キミを心配そうに見ていたよ?」

「…………嘘だ。怒ってるに決まってる。だって私、誰も守れなかったのに」

「怒ってなんかいないよ」

「そんなこと、どうして分かるの?」

「その宝石は、剥き出しになった魂そのものだ。感情を隠すことはできない。色に現れてしまうからね。

 ──怒りは『赤』だ。でもその石は、『黄色』だろう? それは警戒・心配の色だ。キミの行末を案じているんだよ」

 

「…………でも私、これからどうしたらいいのか……分かんないよ。どこに向かって、何をすればいいのか」

 

「──なら、ボクと一緒に来てよ。キミがやりたいことを見つけて、行きたい場所ができるまで」

 

「………………」

 

 彼女は目を閉じて、二つの宝石を、胸に当てて。

 長い長い、沈黙を挟んで……。それからコクリと、首肯した。

 

 

 ──と、これで終われば話は楽だったのだが。

 

 

「オイオイ、なんだか面白そうな話をしてるじゃねえか。私も混ぜてくれよ」

 

「──ッ!?」

「……? あなたは?」

 

「私は()()()()。大魔法使い、フランメ様だ」

 

 ────巧妙に隠した魔力の奥側に、『ドス黒い』殺意を感じる。

 

 

 ボクはこの日、少女とバケモノに出会った。

 

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