──燃えていた。
ボクが辿り着いた時には、エルフの集落は燃やされていた。
放火。
資源を奪うことが目的でないのなら、これほど効率的な虐殺方法はそうそう無い。機能美に溢れた、吐き気を催す下衆の所業。
……悲鳴は聞こえてこない。
半分諦めながらも、確認のために魔力探知を行う。──すると予想を裏切って、生存者が見つかった。
「──何をしているんだい?」
見つかったのは、エルフの女の子。波長からして魔族でないことは分かっていたけれど、偽装ではなかったようで一安心。
「……何をしてるように見える?」
「何もしていないように見えるね」
「そうだよ。私は何もしていない。……何も、できなかったんだよ。私が一番強かったのに」
……ここへ辿り着くまでに、大勢の遺体を見た。老若男女問わず、皆殺しだった。
…………視界の端に映った、『食べかけの料理が入った食器』が……脳裏にこびりついている。
彼らは当然、『今日が最悪の日になる』なんて……思ってもみなかったに違いない。
だけど彼女は、仮にそんな『最悪の日』なんてものが訪れるのだとして……頭のどこかで、『自分が居れば大丈夫』と思っていたのだろう。自分には大切なものを守る力があると、無意識に信じていたのだろう。
──彼女には、そんな傲慢が許されるだけの魔力がある。彼女は、いままでボクが見てきたどんな魔族よりも強い。
でもダメだった。全てが失われて、我が身一つだけが残った。何も守れやしなかった。
────それは、どれほど……どれほどまでに、
「でも、そんなところで座り込んでいたって……何も良いことは起こらないんじゃないかい?」
「構わないよ。もう何もかも、どうでもいいんだ」
「じゃあキミは、そこでそのまま野垂れ死ぬ気でいるんだね?」
「そうだよ。放っておいてくれ」
「でも、
「…………彼ら?」
「じゃあ、キミにも見えるようにしてあげようか」
──〝
彼女に寄り添っていたエルフの霊達を、宝石に変えた。
突然目の前に現れ、浮遊している二つの宝石を見て……彼女は目を丸くしている。そしてそれを、優しく包み込む形で手に取り──呟いた。
「お父さんと、お母さんの魔力だ……」
「二人はずっとキミの側に居て、キミを心配そうに見ていたよ?」
「…………嘘だ。怒ってるに決まってる。だって私、誰も守れなかったのに」
「怒ってなんかいないよ」
「そんなこと、どうして分かるの?」
「その宝石は、剥き出しになった魂そのものだ。感情を隠すことはできない。色に現れてしまうからね。
──怒りは『赤』だ。でもその石は、『黄色』だろう? それは警戒・心配の色だ。キミの行末を案じているんだよ」
「…………でも私、これからどうしたらいいのか……分かんないよ。どこに向かって、何をすればいいのか」
「──なら、ボクと一緒に来てよ。キミがやりたいことを見つけて、行きたい場所ができるまで」
「………………」
彼女は目を閉じて、二つの宝石を、胸に当てて。
長い長い、沈黙を挟んで……。それからコクリと、首肯した。
──と、これで終われば話は楽だったのだが。
「オイオイ、なんだか面白そうな話をしてるじゃねえか。私も混ぜてくれよ」
「──ッ!?」
「……? あなたは?」
「私は
────巧妙に隠した魔力の奥側に、『ドス黒い』殺意を感じる。
ボクはこの日、少女とバケモノに出会った。