キュップぃ、ボクわるい魔獣じゃないよ   作:しやぶ

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交換条件(『勇者』の記憶5)

 

 北側諸国、某所。

 人里に近い、山林地帯の浅瀬にて。

 

 ヒンメルとキュゥべえは、『いつもの人助け』で薬草の採取を行っていた。

 

 

「──という訳で、だ。もしグラオザームと戦うことになったら、ボクに対処させてほしい」

「分かった。それは構わない。……ただ、どうして僕だけにそれを?」

「『一人だけ何も知らされてなかった』なんてことになったら、すっごい拗ねるからね。フリーレンは」

 

「……『フリーレンにも話す』って選択肢は、無いんだな」

「今はまだその時じゃないってだけさ。それが彼女の場合、どうしても『全部終わった後』になってしまうのは……ボクとしても、心苦しいと思っているんだよ?」

 

「…………そうか。なら、話すタイミングはキミに任せるよ。

 ──ところで話を聞いていて、気になることがあったんだが」

 

 露骨な話題の切り替えに、キュゥべえは『やれやれ』と言いたげに溜め息を吐いた。

 

「皆に黙っていることの交換条件かい?」

「貸しは作らない主義なんだ」

「……なるほど。そういうことなら、キミの魂に敬意を表し……ボクもそれを遵守しよう。

 ──三つだ」

 

「三つ?」

 

「『フリーレン・アイゼン・ハイター』の三人に対し秘密を守ってもらうワケだからね。その対価として、ボクはキミの『お願い』を三つまで叶えよう。

 ──さぁ、一つ目だ。キミの『気になること』を言ってみるといい」

 

 それを聞いたヒンメルは、何故かソワソワと焦りだした。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれないか。これは確認なんだが……」

「ふむ。『ちょっと待つ』のが最初の『お願い』かい? 別に構わないけど……」

「あっ」

 

「ははっ、冗談だよ。時間制限なんて無いから、ゆっくり考えてくれ。確認のための質問も、『お願い』とは関係なく答えよう」

 

「……キミ、『お前の冗談は分かりづらい』ってよく言われない?」

 

「言われるね……やっぱりアレかな、そろそろ『冗談を言うと耳が伸びる魔法』とか開発するべきだろうか」

 

「…………まぁ、そこまでする必要はないんじゃないか? 正直耳が伸びた状態のキミはちょっと見てみたい気もするけど」

「伸ばすだけなら今すぐできるよ? ほら」

 

 元々地面につきそうなくらい長かった垂れ耳を上に向け、キュゥべえは耳をドンドン伸ばし……四倍くらいに伸びた辺りで停止した。あまりにも長いので、途中から巻物の如くクルクルと回転しながら伸ばしていたが……。

 

「……今思ったんだけど、その……普段から伸ばせるとなると、傍目には耳が伸びても『冗談』かどうか分からなくないかい?」

「…………」

 

 キュゥべえは、無言で耳を元に戻した。

 さっきまで上向きにしていたせいか、垂れた耳が微妙にしょんぼりしている気がしなくもない。

 

「……それで、確認しておきたいことって?」

「あ、あぁ。じゃあ気を取り直して……。

 ──キュゥべえ。キミが『フリーレンの姿になれる』というのは、本当かい?」

 

「……?

 はい。見ての通り、なれるよ?」

 

「早っっ」

 

 ヒンメルが瞬きをした前後で、キュゥべえの姿が切り替わっていた。

 

「で?」

「…………じゃあ、その……声も再現できたり?」

「『うん。できるよ?』」

 

「おぉ……。

 ──じゃあ、『お願い』なんだけど……」

 

「『…………えっちなのはダメだよ?』」

 

「ぐはぁッッ!?!?」

 

「ヒンメル!?」

 

 勇者は血を吐きながら倒れた。しんでしまうとはなさけない*1

 

 ……一応ヒンメル()の名誉のために明記しておくと、彼に『そういう類』の要求をするつもりは一切なかった。

 …………が、ヒンメルは相手がフリーレンなら『ほぼお遊びの投げキッス』でも失神するほどのピュア男子である。

 フリーレン(好きな人)と同じ容姿・同じ声を持った相手が『ちゃんと感情を込めて』そんな『逆に誘っている』ようなコトを言えば……()もありなん。

 

「くッ、許せハイター! 緊急事態だ……!!」

 

 万能に近い手札を有する彼も、僧侶の分野である『女神の魔法』だけはからきしだ。ヒンメルの診察を頼むため、キュゥべえは転移魔法でハイターを強制召喚した。

 

「あ゛ぁ゛〜〜?」

 

 結果、要介護者が二人に増えた。

 『泥酔(いつもの)』である。

 

「チクショウめえええええ!!!!」

 

 キュゥべえは二人と採取した分の薬草を魔法で浮かせ、人里に向かって急ぐのだった。

 

*1
死んでない

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