北側諸国、某所。
人里に近い、山林地帯の浅瀬にて。
ヒンメルとキュゥべえは、『いつもの人助け』で薬草の採取を行っていた。
「──という訳で、だ。もしグラオザームと戦うことになったら、ボクに対処させてほしい」
「分かった。それは構わない。……ただ、どうして僕だけにそれを?」
「『一人だけ何も知らされてなかった』なんてことになったら、すっごい拗ねるからね。フリーレンは」
「……『フリーレンにも話す』って選択肢は、無いんだな」
「今はまだその時じゃないってだけさ。それが彼女の場合、どうしても『全部終わった後』になってしまうのは……ボクとしても、心苦しいと思っているんだよ?」
「…………そうか。なら、話すタイミングはキミに任せるよ。
──ところで話を聞いていて、気になることがあったんだが」
露骨な話題の切り替えに、キュゥべえは『やれやれ』と言いたげに溜め息を吐いた。
「皆に黙っていることの交換条件かい?」
「貸しは作らない主義なんだ」
「……なるほど。そういうことなら、キミの魂に敬意を表し……ボクもそれを遵守しよう。
──三つだ」
「三つ?」
「『フリーレン・アイゼン・ハイター』の三人に対し秘密を守ってもらうワケだからね。その対価として、ボクはキミの『お願い』を三つまで叶えよう。
──さぁ、一つ目だ。キミの『気になること』を言ってみるといい」
それを聞いたヒンメルは、何故かソワソワと焦りだした。
「ちょっ、ちょっと待ってくれないか。これは確認なんだが……」
「ふむ。『ちょっと待つ』のが最初の『お願い』かい? 別に構わないけど……」
「あっ」
「ははっ、冗談だよ。時間制限なんて無いから、ゆっくり考えてくれ。確認のための質問も、『お願い』とは関係なく答えよう」
「……キミ、『お前の冗談は分かりづらい』ってよく言われない?」
「言われるね……やっぱりアレかな、そろそろ『冗談を言うと耳が伸びる魔法』とか開発するべきだろうか」
「…………まぁ、そこまでする必要はないんじゃないか? 正直耳が伸びた状態のキミはちょっと見てみたい気もするけど」
「伸ばすだけなら今すぐできるよ? ほら」
元々地面につきそうなくらい長かった垂れ耳を上に向け、キュゥべえは耳をドンドン伸ばし……四倍くらいに伸びた辺りで停止した。あまりにも長いので、途中から巻物の如くクルクルと回転しながら伸ばしていたが……。
「……今思ったんだけど、その……普段から伸ばせるとなると、傍目には耳が伸びても『冗談』かどうか分からなくないかい?」
「…………」
キュゥべえは、無言で耳を元に戻した。
さっきまで上向きにしていたせいか、垂れた耳が微妙にしょんぼりしている気がしなくもない。
「……それで、確認しておきたいことって?」
「あ、あぁ。じゃあ気を取り直して……。
──キュゥべえ。キミが『フリーレンの姿になれる』というのは、本当かい?」
「……?
はい。見ての通り、なれるよ?」
「早っっ」
ヒンメルが瞬きをした前後で、キュゥべえの姿が切り替わっていた。
「で?」
「…………じゃあ、その……声も再現できたり?」
「『うん。できるよ?』」
「おぉ……。
──じゃあ、『お願い』なんだけど……」
「『…………えっちなのはダメだよ?』」
「ぐはぁッッ!?!?」
「ヒンメル!?」
勇者は血を吐きながら倒れた。しんでしまうとはなさけない*1。
……一応
…………が、ヒンメルは相手がフリーレンなら『ほぼお遊びの投げキッス』でも失神するほどのピュア男子である。
「くッ、許せハイター! 緊急事態だ……!!」
万能に近い手札を有する彼も、僧侶の分野である『女神の魔法』だけはからきしだ。ヒンメルの診察を頼むため、キュゥべえは転移魔法でハイターを強制召喚した。
「あ゛ぁ゛〜〜?」
結果、要介護者が二人に増えた。
『
「チクショウめえええええ!!!!」
キュゥべえは二人と採取した分の薬草を魔法で浮かせ、人里に向かって急ぐのだった。