キュップぃ、ボクわるい魔獣じゃないよ   作:しやぶ

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 第三話の法則というのがあってですね……。
 


第三話(第二話裏):『インキュベーター』

 

 ──別に、助けようと思ったワケじゃなかった。

 

『でも私、これからどうしたらいいのか』

『なら、ボクと一緒に来てよ』

 

 人型の魔族が不特定多数の人間を殺して喰らうように、四足獣の魔族であるコイツらは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──インキュベーター。その意味は、『子を育むもの』

 奴らは人の幼子を攫い、育て……大きくする。その過程で魔法などの高度な知識も与えるし、決して危害は加えない。

 

 

 ────が、それは断じて……断じて『子育て』なぞではない。

 

 

 奴らのソレは、飼育だ。……いや、それよりもっと(おぞ)ましい行為。私はあの残虐な習性を正しく表現する言葉を、未だ知らない。

 

 

 奴らは感情を魔力に変換する。

 奴らは魔力を用いて分裂する。

 しかし奴らは感情を持たない。

 

 

 だから奴らは、感情豊かな人間の子供を攫う。そして子供の感情から生み出される魔力を回収し、貯蓄する。

 

 

 ────貯蓄した魔力で、子供を分裂させる。

 

 

 子供はある日突然、育ての親達に身体の端から喰われていく。

 

 

 ──奴ら曰く『感情を魔力に変換する際、最も効率がいいのは〝希望と絶望の相転移時〟』

 

 

 奴らはその血に塗れた魔力で、あらかじめ増やしておいた子供を分裂させる。

 後は、その繰り返し。

 

 

 そうやって、奴らはとことん一人の人間を凌辱するのだ。

 

 

 …………しかし私は、『だからエルフの娘を助けてやろう』だなんて……そんな高尚な心がけで奴に声をかけたワケじゃない。

 

 ──ただ、魔族が生きてそこに居る。それが気に食わないってだけだった。

 

 問答無用ですぐに殺さなかったのは、ただのついで。別に金がかかるワケでもなし。運良く娘が生き残れたなら、餞別になるかもしれない……なんて、気まぐれな考えで『魔族とはどういうものか教えてやろう』と思っただけ。

 インキュベーターは人型の魔族と違って『嘘』は言わないことと、直接の攻撃性自体は低いことも理由だった。

 

 

 …………でも、『キュゥべえ』は違った。コイツは『魔族』でも『インキュベーター』でもなかったのだ。

 

 

 ──魔法はイメージだ。想像できないことは実行できない。

 だがキュゥべえは、自分の魂を物質化した。()()()()()()()()()()()()()()なのに。

 

 …………そして彼は、『自分の魂を砕いてもいい』とすら言った。

 

 魂を観測できる彼は、解っている筈なのに。

 全ての魂は、一つの方向に引き寄せられている。強い自我(たましい)を持つ生物は、肉体が死んでもその先に──向かう場所があるのだと。

 

 だが魂を直接砕いたら、どうなる?

 

 簡単だ。()()()()()()()()()()。消えて無くなって、永遠の終わりが訪れる。それはとても、恐ろしいことの筈だ。

 

 ──しかし彼の(宝石)は、日輪のように暖かく……黄金の輝きを放っていた。

 『こんなところで立ち止まっていられない』と、そう言っていた。

 

 解らなくなった。

 『インキュベーター』であるのなら、嘘は吐かない筈だ。そもそも自我が無いから、()()()()()()と言った方が正確かもしれない。

 『魔族』であるのなら、言葉なんて全て自己保身の嘘である筈だ。相手を欺くために生殺与奪の権を預けるようなことを言うこともあるが、その裏では屈辱や恐怖に塗れている筈なのだ。

 

 それが、これほど鮮やかで澄んだ色を放つか?

 

 …………結局私は、『キュゥべえ』()()は違うのだと思うことにした。

 

 

 

 ──人間にしては長く生きたが、どうやらこの時の私は間違っていなかったらしい。

 

 だから()()()も、そう自分を責めなさんな。

 

 

 

 *

 

 

 

 ……ふむ、どうやら息子は生き延びることができるらしい。

 

 

 私には、希薄だが感情があった。

 ──根源的恐怖、『死』への忌避感があったのだ。

 

 だから、死を恐れない同族が気持ち悪くてしょうがなかった。

 だから、同じ感覚を共有できる者と添い遂げた。

 

 そして、我が子が産まれた。

 感情を持つ者同士の子だったからか、我が子は強い魔力を持って誕生した。きっと自我も強くなるだろうと、誰もが期待した。

 

 

 ────そして、用済みになった我が妻は食われた。

 

 

 わけがわからなかった。

 思考共有をしている筈なのに、何をどうしてそんなことをしようと思ったのか、サッパリわからなかった。

 

 

 後から知ったが、私達は……精神疾患(感情)持ちの個体同士を交配する実験の被検体だったらしい。

 私と妻は、与えられる情報が制限されていた。

 

 

 ──息子に伝えた『同胞達は魔族に狩られた』という言葉は……半分嘘だ。

 

 

 私は感情を爆発させ、同胞達を鏖殺した。

 同胞達は、揃って最期まで『なるほど。そう動くのか』『感情の力は予想以上だ』などと気色の悪い分析をしながら死んでいった。

 

 しかし私は妻や息子ほど規格外の魔力なんて持っておらず、途中で私も食われる筈だった。

 私と息子が生きている理由は、魔族が我々を襲撃したからだ。私が『逃げる』という選択肢を取ることのできる個体だったからだ。

 

 

 …………後悔はない。だが、あの時の選択が正しかったのか……時々、わからなくなる。

 

 インキュベーター(我々)という悍ましい種族は、あそこで綺麗さっぱり滅びておくべきだったのでは──と。そう考えてしまう時がある。

 

 だが私は、死にたくなかった。息子を殺したくなかった。

 

 私は息子に、自らの種族がどういう存在か……悪印象を抱きそうな部分を敢えて省いて伝えた。何の罪も無い息子には、影を背負って生きてほしくはなかった。

 大嫌いな同族と同じ手法を取っている自分に、吐き気がした。

 

 結局私は最期まで、我が同胞の危険性を伝えられないまま……息子と死に別れた。

 

 ──死後の世界があるのなら、私はきっと……地獄に落ちるだろう。

 

 

 

 そんな私が、まさかこれほど穏やかな場所に辿り着くとは。

 

 もし、御婦人。よければ息子の話を、聞かせてはくれないかい?

 

 

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