勇者ヒンメルの死──その約千年前。
中央諸国、某所。山林地帯。
「『フ』『ラ』『ン』『メェェ!!!』」
「「「「今日という今日はその脳天ぶち抜いてやらァァァ!!!」」」」
「ははは、四体か! 順調に魔力量を伸ばせているらしいな、キュゥべえ!」
三体の『赤いキュゥべえ』と一体の『白いキュゥべえ』が、フランメに向かって四方八方から魔力の弾丸を撃ち込んでいく。
──『
本来『インキュベーター』が持つという『個にして群』の特性を再現するべく、彼が編み出した──分裂魔法の
ただし実体を維持する時間と引き換えに消費魔力を削減している分、『戦闘用』として見た際のコストパフォーマンスは大幅に増加している。
……が、それでも及ばない。フランメは笑うことで余裕を見せながら、キュゥべえが放つ弾丸を全て相殺している。
────故に。
「
突如白いキュゥべえが突進し、
赤いキュゥべえが全て塵と化す。魔族が絶命する時特有の消え方。
「嘘だろっ!?」
フランメは爆風そのものは防いだが、動揺から魔力探知が疎かになり──その隙を突いて、フリーレンが死角から狙撃を行った。
「なぁぁんてな。読み通りだ」
「キ゛ュ゛ッ !?」
狙撃そのものに加え、フリーレンの魔力を隠れ蓑にした『本物のキュゥべえ』の接近も見破られ……狙撃は相殺。キュゥべえは杖で殴られ吹っ飛んだ。
「──はい、今日はここまで。狙いは悪くなかったぞ」
半ば無理矢理フリーレンを起床させ、早朝にキュゥべえが何をしていたのか──その答えがコレである。
普段は魔力量を増やす基礎訓練と、恒久的な魔力隠蔽を行い……折を見て、実戦経験を積ませる。それがフランメの
戦闘相手は大抵魔獣だが、時折こうしてフランメとの模擬戦も含まれている。
……と言っても、魔獣であるキュゥべえは恒久的な魔力隠蔽は行っていない。どうしても生理的に受け付けないからだ。
今回はそれを逆に利用して、二重の囮に隠れて不意討ちを行うつもりだったようだが……結果は見ての通り、失敗であった。
「痛ッッたいなぁもう!! 殺す気かいフランメ!? というかボクじゃなきゃ死んでるよ!!」
「テメェだって私の脳髄をぶち撒けようとしてただろう? キュゥべえ」
「ボクはちゃんと、キミが死なないって解った上でやってるからね!?」
「お前だって死んでないだろ」
「
「ハイハイすまんすまん」
「そろそろ本気で寝首を掻いてやろうか!?」
「そういやお前、初めて会った時に私を『噛む』とか『ひっかく』とか言ってたが……私お前の牙と爪見たことないんだよな」
「よーーしいいだろうそこに直れフランメ。そんなに見たいなら見せてやろうじゃないか。お代は命で構わないね?」
「──はいそこまで。今日の模擬戦は終わりでしょ?」
「……フン。命拾いしたねフランメ」
「ハッ、どっちがだか」
「
──フランメは、人間である。
──キュゥべえは、魔獣である。
──フリーレンは、エルフである。
三人は同じ『魔法使い』だが、種族が違うために──
フランメは、『人類の魔法』の開祖である。
『魔族の魔法』は使用難度を抜きにしても、門外不出の固有魔法である。
──フリーレンは、それらを伝授された最初のエルフである。
彼女は史上初にして唯一の、『三刀流』を扱う魔法使いとなっていた。
その実力は既に、『
「そろそろ、『
「スマン頼む殺さないでくれ」
「……えっと、
「よし。キュゥべえ、『服の汚れを綺麗さっぱり落とす魔法』を頼む」
「……はい」
「…………オイ、色まで落とせとは言ってないぞ」
「ごめんごめん。『意趣返し』ってヤツをやってみたくてさ。いま戻すよ」
「────。それ、意味解って言ってんだよな?」
「……? 勿論。『復讐』や『報復』と違って悪意一色ではなく、『遊び』を含んでいる……凝った仕様の特殊な『仕返し』だろう?
インキュベーターは嘘を吐かないけれど……人間と一緒に暮らすなら、『冗談』も学ばなきゃと思ってね」
「──そうか。やっぱお前は
魔族はそもそも、『悪意』を理解できないのだから。
「……キュゥべえは今のままで良いと思うけどな」
「お前はもう少し人間を理解する努力をしろ。いずれ後悔するぞ?」
「…………理解できても、悲しいことが増えるだけでしょ。みんな私より先に死んじゃうんだから」
「フリーレン……」
「私はキュゥべえが居れば、それでいいよ」
「…………予言してやる」
──〝それでもお前は、いずれ人を知りたくなる時が来る〟
*
「……あれから五十年か。結局一度もキミには勝てなかったね、フランメ」
「ハッ、当たり前だろう?
「何を言ってるんだ、ボクの方が柔らかいに決まっているだろう? 撫でてみたらどうだい?」
「
「……でも撫でるんだね」
「撫で心地良いからな、お前は」
「……うん、知ってる」
「なぁ、キュゥべえ」
「なんだい、フランメ」
「あの石頭を頼んだ」
「言われなくとも」
*
──最期に習った魔法で、辺り一面を花で埋める。
ただの石柱の前で、無意味と知っていながら『これでいいよね』と呟いてみる。
返答はない。…………彼女の声は、もう二度と聞くことができない。
「……ねぇ、キュゥべえ」
「なんだい、フリーレン」
「キュゥべえは、ずっと一緒に居てくれるよね……?」
「当たり前じゃないか」
──五百年後、彼は私の前から姿を消した。